10月11日
結局、昨日は丸一日学校をサボった。学校から家に連絡がいった様子はなく、家に帰ってからサボったことを両親から追求されることはなかった。
けど、このままサボり続けてれば、たとえ学校からの連絡がなくてもすぐにバレるだろう。……と、頭ではわかっていながら、もそれでも学校へ行く気分になれず今日も学校をサボった。
適当に街をフラフラして下校時間になったら何食わぬ顔で家に帰る。
「はぁ……」
ため息を付いて、トボトボと家があるマンションに向かい、やがてどり着く。マンションの自動ドアが開くと、俯きならが歩いていたせいで中から出てきた人とぶつかってしまった。
「うわっ! すいません!」
先に相手が謝ってきたけど、下を向いていた自分にも非がある。
「いえ、こっちこそ――」
言いながら顔をあげると――
「「ああああ!!」」
ウチらの声がエントランス内に反響する。
「朝倉! あんたなんでウチの家に!?」
ぶつかった相手は朝倉だった
「なんでって、それは――」
そこで、なぜか朝倉に腕をつかまれた。
「ちょ、手、触んな!」
腕を引っ張られてマンションの外に連れ出され、入り口から少し離れたところまで連れて行かれる。
「ちょっと! 何なのよ!」
「いや、だって、守衛さんが睨んでたからつい」
「あっそ。――ていうかいつまで腕つかんでんの?」
「え? あああ――」
朝倉が慌てて腕を放して、「ごめん」と謝ってきた。顔を背ける朝倉は顔が赤くなっていた。
――こいつウチに気があるのか? って、んなわけないか……
「ってかさ、なんでウチの家にいるの?」
ウチが訊くと、朝倉はウチの沈んだ気持ちに追い打ちをかけるような衝撃的な言葉を口にする。
「そうだった! じつは、またメールが届いて、そこに美守さんの名前が――」
「あ……あぁぁ……」
最後まで聞かなくてもその意味は理解できる。
朝倉のメールで玲香は死んだ。それはつまり……
――ウチが死ぬってことだ――
「それで、警察に事情を説明してあるから保護してもらえば――」
朝倉がウチに何事か話しかけてくるけどぜんぜん耳に入ってこない。
「いやだ……しにたくない。しにたくないしにたくないしにたくない――」
そもそもどうして玲香は死んだの? 玲香だけじゃない鳩場さんだってそうだ。
どうして次がウチなの……?
――偶然? それとも必然?
必然だとしたら、ウチら3人になにか共通点でもあるってわけ?
だいたい、警察は何をやってるんだって話だ。あのときちゃんと説明したはずだ。朝倉が殺したんだって。それなのになんでこいつは警察に逮捕されてないの!?
「えっと、とりあえず落ち着いたほうが」
「やめてよ!! そうやってウチのことも殺すの!? 玲香や鳩場さんみたいにっ!! 朝倉あっ!!」
感情のままに叫ぶ。
圧倒されたのか、朝倉はキョトンとした表情でこっちを見ていた。
「ボケ! カス! お前が死ね!!」
ウチは畳み掛けるように言ってマンションの中に駆け込んだ。
「すいません! ウチ殺されるかもしれなくて! 追い払って!!」
守衛さんに向かって叫び、自動ドアの向こうにいる朝倉を指さすと、守衛さんはすかさず近づいていく。
それを見た朝倉はその場から逃げ出し、追いかけっこが始まったようだ。
ふぅと一息つくが、落ち着いていられる状況ではない。
ウチが……死ぬ?
いつもなら、悪い冗談だと笑い飛ばしているところだけど、言われた相手が朝倉となるとそういうわけにもいかない。それで実際に玲香は死んでるんだし……
顔をあげると、エントランスの掲示板が目に入った。
そこにはマンションの住人たちへのお知らせや、地域のイベントのポスターなどが張り出されている。
現実逃避ってやつだろうか、普段は気にも留めないのに自然とそこに視線が吸い寄せられた……
掲示板に張り出されているお知らせの内の1つに『メンテナンス延期のお知らせ』と書かれているものがあった。
内容は、先日行われるはずだったマンションのセキュリティのメンテナンスが13日と14日に延期され、その日はセキュリティの一部が停止するから用心してくださいというものだった。
「13日と14日……」
週末……土日だ。
「あ、れ……?」
それって、マジでヤバくない?
…………
今晩は珍しく家族4人揃っての夕食だった。ウチのパパは大きな会社の社長で普段は家にいることが少ない。こんなチャンスは滅多にないと、ウチは箸を置いた。
「パパ……聞いてほしいことがあるんだけど――」
そう切り出して、朝倉のメールのことやそれで実際に玲香が死んだことを話した。
「馬鹿なこと言ってないで、さっさとご飯食べなさい」
ウチの話が終わるとママがため息をついて言った。
「人の死を冗談に使うのは感心しないな」
パパの言葉はほんの少し怒気を含んでいた。
「姉ちゃんバッカじゃねぇの?」
弟の蒼は本気でウチをバカにしていた。
「なんで!? パパもママはウチがウソついてると思ってるの!?」
ほかの誰にも信じてもらえなくてもいいけど、パパとママにだけは信じてほしかった。
「信じられるわけないでしょう? あなたが2日以内に死ぬかもしれないなんて話」
「茜はからかわれてるんじゃないか? その朝倉くんとかいう生徒に」
「ウチが朝倉にからかわれてる? だったら玲香が死んだことはどう説明するっていうの?」
「それは……」
パパは何も言えないようだった。
「あれじゃね? その朝倉って奴が殺したんなら説明できんじゃね?」
まさか弟の口から自分と同じ考えが出てくるとは思っていなかった。でも、今はその言葉がありがたかった。
「そう! そうなんだよ! だから明日一日だけ学校休ませてよ! その後は家にこもってれば朝倉も手出しできないはずだし!」
週末ここのセキュリティが停止したとしても相手があの朝倉なら絶対ここに入ってこれないはずだ。
「いい加減にしないか! 蒼、お前もだ。その朝倉くんという子がどういう子かは知らないが勝手なことを言うもんじゃない。失礼だろう?」
蒼が「へーい」と適当な返事をした。
「そうよ、それに……これは言わないでおこうと思ったけど。あなた昨日と今日学校に行かなかったでしょ?」
「えっ!?」
学校から連絡があったわよとママが続けた。
どうやら、学校から連絡がないと思ってたのはウチの思い込みだったようだ。
「本当か母さん。どうしてそんな大事なことを黙っていたんだ!」
パパがママに厳しく糾弾する。
「それは、友だちの玲香ちゃんが亡くなって、茜もなにか思うところがあったのかと思ったのよ」
「そ、そうか……」
あわや夫婦喧嘩に発展するかと思われたが、玲香の死というママの言葉でパパの怒りは消えたようだ。
「とにかくだ! 学校にはちゃんと行きなさい。その約束のはずだろう?」
約束――
ウチが本当は万葉学園に通うはずだった話だ。玲香が万葉に通えないってわかって、玲香と離れるのが嫌だったからウチも万葉へ行くのをやめて上ノ木を選んだ。その際、パパはずっと駄目だって言ってウチの言葉を聞いてくれなかった。学校が離れ離れになってもいつでも遊べるだろうと言って。
だけど、それでも無理を通して上ノ木を選んだ。そのときに約束したのが絶対に学校を休まないということだった。
すでにここ何日かサボってその約束は破ってしまったわけだけど……
ママを頼ろうと思ってそっちを見ても、「駄目よ。お父さんの言うことを聞きなさい」と返ってきた。
約束を破ったウチが悪いのはわかるけど、どうして2人はこんなにも頑なにウチの話を信じてくれないのかわからなかった。
そのことにだんだんとイラツイてきて、「もういいよ!!」と叫んでテーブルを叩いて立上った。尚もパパとママが注意してくるけれど、そのことがさらにウチをイラつかせる。
「パパとママはウチが死んでもいいんでしょ!!」
叫んで自室へ駆け込んだ。
「姉ちゃんもう食わねえの? んじゃおかずもーらいっ!」
後ろから弟の脳天気な声が聞こえてきた。
それがますますウチをイラつかせた。
…………
ベッドに入って頭から布団をかぶる。
パパとママはウチの話をまったく信じようとしなかった。
今から病気になったとウソをついても、さっきあんな話をしてしまった後じゃ信じてもらえないだろう。
そうなるとウチは嫌でも学校に行かないといけない。
「どうすれば……」
やっぱり、玲香を殺したのは朝倉なのだろうか……
そしたら、学校にいる間だけ朝倉に近づかないようにすればいいってこと?
明日一日乗り切って、土曜日はずっと家にいる。これで難を逃れられるだろうか。
でも、もし朝倉が犯人じゃないとしたら?
そしたら、明日一日を乗り切って、土曜日はずっと家にこもっているという作戦は使えない。犯人がセキュリティのことを知っていた普通にここまで来る可能性はある。
パパは仕事、蒼は土曜も学校。だけどママは家にいる。ママが居るから安全と考えるより、ママも一緒に殺されるって考えるべきだ。
このタイミングでセキュリティを頼れないなんてほんと最悪だ。
「はぁ……」
――こんなの絶体絶命じゃん……
「だったら、警察?」
それもきっと無意味。だって今まで何人も被害者を出してる警察に助けを求めたって守ってくれるとは到底思えない。朝倉が犯人だって言っても聞いてもらえなかったし……
パパとママも無理で、警察も無理。それ以外で玲香より強くて頼りになって2日間ウチのことを守ってくれそうな人……
「そんな人……都合よくいるわけ……」
その時、頭にある人物が思い浮かんだ。
「――いたっ!! そうだよ、いるんじゃん!!」
思わず布団をめくり上げ体を起こした。しかもそいつはウチの話を簡単に信じてくれそうだし、信じてくれなかったとしても一緒にいてもらえそうな気がする。
転校生――あいつに守ってもらえば……
「ウチは死なない!!」
ウチは天に向かって拳を振り上げた。




