10月9日
「ねえ、ちょっと――」
ウチはクラスメイトに話しかけたつもりだったけど、相手は聞こえていなかったのか何事もなかったかのようにスルーされた。
また別の授業中、前から順番に配られてくるプリントは、一番うしろのウチの席まで回ってこなかった。
先生にプリントがないことを伝えると、人数分用意してあるはずだからないはずはないと言う。どこかにプリントが余ってないかという先生の質問に対して誰も何も言わなかった。
先生がプリントを印刷してくると言って教室を出ていくと、ウチの頭に何かがぶつかった。ぶつかったそれは床に落ちた。床に落ちたくしゃくしゃに丸めた紙を拾い上げ広げてみる。
「…………」
それは今みんなに配られていたプリントだった。つまりウチに配られるはずだったもの。それだけじゃない。
プリントには何重にも線を重ねて『お前も死ね』と赤いボールペンで書かれていた。
お前もというのは、玲香に加えてウチもという意味だとハッキリわかった。
顔を上げ辺りを見回しても、みんな机に向かってプリントの問題を解いている。誰が投げてきたかわからない……
いや――誰が投げてきてもおかしくないのだと気づいた。
みんな玲香による恐怖政治に耐えかねていたんだ。玲香という後ろ盾をなくしたウチは、トラの威を失くしたキツネ状態。
――ウチはいま、とっても孤独だった……
孤独に耐えられなかったウチは、四限目の授業が終わった後早退することにした。
だけど、今日はこれでいいとして、明日からはどうすればいいというのか。
きっと――いや絶対、これから毎日孤独の日々が続く。
それだけじゃない。ウチに直接危害が加えられる日も遠くないという確信があった。
玲香以外に友だちをつくってこなかったウチにも責任がるけど、そんなのは今さらだ。だって、こんな形で玲香がいなくなるなんて思ってもいなかったんだから。
…………
日曜日のこともあって、早退して家に帰ったら、またママになにか言われるんじゃないかって思って、ウチはいつもの下校時間帯になるまで上納市の駅周辺をブラブラしていた。
連続殺人事件……
警察が早くこの事件を解決していればこんなことにはならなかったはずだ。
「これだから『田舎の警察は!』って馬鹿にされるんだ……」
「ちょっといいですか?」
「うわぁあっ!!」
急に声を掛けられてウチは思いっきり飛び跳ねた。
話しかけてきた人は20代後半に見えるお兄さんだった。ちょっぴりウチ好みの外見をしている。その彼のほかに、黄土色の年季の入ったコートを着た年配男の人もいた。そっちのおじさんはウチとお兄さんのやり取りを黙ってみている感じだ。
「すいません。驚かせるつもりはなくて、君、上ノ木の生徒だよね?」
――なんでこの人がウチの通っている学校を知っているの!?
相手の正体がわからずどう返せばいいか迷う。だがそれも一瞬で、考えるまでもなく今ウチの着ている制服を見ればどこの学生かなんて一目瞭然なのだ。
つまり誰の目から見てもウチが上ノ木の生徒だと丸わかりだ。
「はい。そうですけど……。えっと、そっちは?」
お兄さんは「あっ」と弾かれたように上着のポケットから手帳を取り出した。
それは、警察手帳だった。
「け、警察!?」
まさかさっきの悪口を聞かれてたとか――
「先日亡くなった、戸浪玲香さんの件で話を聞きたいんだけど」
「はっ――!?」
玲香が殺された事件。
――もしかして警察はウチを疑ってる!?
確かにあの日はウチは玲香が殺される直前まで一緒にいた。
だけど――
自分が疑われているとわかると、途端に冷静な判断ができなくなっていた。
「違う! ウチはやってない!」
「えっ!? それってどういう……というか、えっと、自分は別に君を疑ってるわけじゃなくて――」
「だってウチは日曜日はママとタクシーで家に帰ったから、ウチには無理だから! 交番の人とも話したしウソじゃない!!」
「いやいや、ちょっと落ち着いて!」
警察のお兄さんがウチをなだめようとするところに、おじさんの方が話しかけてきた。
「君、日曜日戸浪さんと一緒にいたの? ってことはもしかして君、茜さん?」
お兄さんに比べてほんのちょっぴり威圧的な感じだ。
「え……な、んで?」
突然ウチの名前を呼ばれ頭が真っ白になる。
――警察がウチの名前を知っている!? さっきウチのことを疑ってないって言ったのに、だったらどうしてウチの名前を……!?
ウチが警戒を強めると、若い方の刑事さんが、どうしてウチの名前を知っているのか説明をしてくれる。
その理由はもの凄く単純。携帯ショップで聞き込みして名前を知ったとのことだった。
警察がウチの名前を知ってることは理解できたけど、ウチのことを疑っていないことは証明されてない。だから、完全に警戒を解くことは無理だった。
「最近身のまわりで変わったことなかった? 特に戸浪玲香さん関係で」
そう言われても、特に変わったことがあった記憶は……
「……あっ!」
そのことを思い出した瞬間思わず声が出ていた。
「ん? なにか思い出したかい?」
ウチが思い出したのは、トラさんから買ったクスリのことだった。けど当然ながらこのことを警察に言えるわけがない。
「やっぱり、なんでもないです」
こんなんでさっきの「あっ!」をごまかしきれたのかどうかはしらないけど、2人はウチに深く追求してくることはなかった。年配の人が次にこんな質問をしてきた。
「それじゃあ、戸波さんはカムライ教に通ってたりしたのかな? あ、カムライ教知ってる?」
「知ってますけど」
玲香がカムライ教に? なんてバカな質問をしてくるんだろうって思った。
「そんなのあるわけないじゃないですか。ウチはほとんどいつも玲香と一緒にいたけど、玲香がカムライ教に行ってるところなんて一度も見たこと……ないで……す……」
言いながら、ウチはあることを思い出した。
――予言のメール――
朝倉が言っていた。『玲香の名前のメールが送られてきて、2日以内に死ぬ』と……
「朝倉だ……」
「朝倉ぁ?」
ウチが自然とつぶやくと耳ざとい年配の刑事さんが片眉を上げる。
「そうです! 朝倉です! ウチのクラスメイトで、あいつは玲香が死ぬことを知ってました! 予言のメールが来たからって、これまで死んだ人の名前も送られてきたって! だから、きっとあいつが犯人です!」
2人の刑事さんは驚いたように顔を見合わせる。
「その朝倉って人今どこにいるかわかる? それからフルネームで教えてもらえる?」
だからウチは朝倉の名前と居場所を警察に教えた。




