10月5日
9月5日。金曜日。磯山は学校に来なかった。いじめられるとわかっていても、律儀に登校していたあの磯山が学校を休んだ。
昨日は大丈夫だったからといって、今日も無事とは限らない。磯山の体に何かしらの異変が生じたのかもしれない。
これまでオレが見てきた中で一番最悪のケースは死だ――というトラさんの言葉が脳裏をよぎる。なにかおかしな事になって突然死するかもしれない。そうなったら疑われるのはウチと玲香しかいない。
でも、いくらあがいたところでなるようにしかならないと取り敢えず今は、このことを深く考えるのはやめることにした。
…………
昼休みに屋上で玲香と一緒にお昼をしているときに、同じくクラスの朝倉がやってきた。
余程の事でもない限り、ウチら2人に声を掛けてくる生徒はいない。特にこいつはクラスの中でも目立たない生徒で、自分から率先して誰かに声を掛けにいくような生徒ではない。ただ、こいつが割と正義感の強いやつだってことは知っている。今年の夏もその正義感っぷりを発揮して玲香にに痛い目に遭わされてたし。
そして朝倉はしどろもどろになりながらも玲香が死ぬとかわけのわからない事を言いだした。ウチと玲香は顔を見合わせて「ぶっ――」と同時に吹き出して笑った。
「何言ってんのこいつ。脳みそにウジ湧いてんじゃない?」
「アホだアホ」
ウチと玲香が笑っていると、朝倉は至ってマジメな顔でどうして玲香が死ぬとか言い出したのか、理由を話しはじめた。
その内容は、自分の携帯にこれから死ぬ人間の名前が送られてくるのだとかで、メール件名がディビ何とかだとか、実際にこの前ニュースになってた殺人事件の被害者の名前も送られてきてたんだとか、とにかくわけのわからない話だった。まるで朝倉の妄想話を聞かされているような感じ。
「あんたさぁ、それ本気で言ってんなら病院行ったほうがいいよ」
「え……」
「これから死ぬ人間の名前がメールで送られてくるとか完全に予言じゃん。予言者って嘘つきしかいねぇし」
「そうそう、ノストラダムスだっけ? あれも当たらなかったからウチらが生まれてきたわけだし」
「そいやアンタあれだっけ? なんか変な宗教にハマってんだっけ?」
「え?」
「つまりあれか、宗教にのめり込みすぎて頭イカレちゃったんでしょ? マジキモイんですけど」
「う……えっと」
朝倉は言葉に詰まっていた。玲香の核心をついた言葉に何も言い返せないようだ。
「ま、もしさっきの話がホントだったとしたら、アタシを殺しにくるヤツは連続殺人犯ってことになるよね?」
「え? どうして……」
「メールが届いた順番に人が死んでんだからそう考えるでしょ、普通。あんたアホなの? ――で、もし万が一アタシを襲ってくるヤツがいるとして、そいつをアタシが返り討ちにしたらアタシは殺人犯を捕まえる事ができるってことよね? 面白いじゃん」
玲香が拳を握ってニヤリと笑った。
「2日ってことは日曜日だね。……それじゃあ日曜日までにアタシを襲ってくるヤツが現れなかったらアンタがウソ付いてたってことで。ボコるから」
握った拳を朝倉に向かって突き出した。
「う……」
「いいじゃん、経験済みなんだし」
ウチが言うと、朝倉は少しだけ考えるような素振りを見せて、「わかったよ」と覚悟を決めたようだ。そして、ウチらに背を向けて校舎の中に入っていった。
べつに、朝倉の言う予言ってやつを信じてるわけじゃないけど、最後に見せた意を決したような姿にウチは妙な感覚を覚えた。
玲香にボコられるということがどういうことか朝倉が知らないはずはない。それだけのリスクを負ってでもウチらに対して警告をする必要があったってことだ。
――玲香が2日以内に死ぬ? そんな事ほんとにあり得るの……?
ウチはほんの少しだけ不安になった。
「連続殺人犯か、面白そうじゃん」
そんなウチの不安をよそに、玲香はとても楽しそうな笑みを見せていた。




