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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
第二章 美守茜 編

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10月2日

「転校生ねぇ、面白そうじゃない?」


 お昼の時間。屋上でコンビニで買ってきた昼食を食べながら玲香が言った。


「面白いって、何するの?」


「そんなの決まってるじゃない。シメるのよ。とりあえずわからせとかなきゃでしょ?」


「ああ、なるほどね」


 玲香は最近一昔前に流行った不良が主人公のマンガにドハマリしている。今どきシメるなんて誰もやらないのに、あえてその行動に出ようとするのはその影響だろう。


「今は面倒だから放課後ね。転校生呼び出しといて」


「ええ? ウチが呼びに行くの?」


「文句あるの? アンタはどうせケンカしないんだからそれぐらいやりなよ!」


 玲香の言葉には一理ある。ウチは玲香と違ってケンカはからっきしだ。


「わかったよ」


 玲香といるときは強気でいられるけど、独りになると途端にダメになる。でも、後で玲香にグチグチ言われるよりマシだ。ウチはしぶしぶ玲香の指示に従うことにした。


 …………


 放課後、隣のクラスに入って行く。一部に人垣ができていることから転校生の席は明らかだった。


 人垣の中心にいるのは、ツインテールのちょっと幼く見える女子だった。加えて言うならバカっぽい。


 これならウチひとりでもなんとかなる。


「ちょっと」


 声を掛けると人垣が一斉にこちらを向く。


「玲香が呼んでるからついて来てくんない?」


 転校生に向かって言ったはずなのに、“玲香”という言葉を聞いたクラス連中が、サッと蜘蛛の子を散らすみたいに引いていく。


「れいかー? だれー?」


 転校生がやや間延びした声で言って小首をかしげる。


 先程まで楽しく会話していた生徒たちは、転校生に哀れみの視線を向けていた。


「いいから来てってば!」


「ええー、でも早く帰んないとー」


 転校生がブーたれる


「いいから来いっての!!」


 ウチは転校生の腕を取って強引に屋上まで連れて行くことにした。


 …………


 屋上で転校生と向かい合って立つウチと玲香。


「これが転校生? なんかバカっぽくない?」


 玲香の言いたいことはもの凄くよくわかる。


 転校生は万葉学園出身だって聞いてる。万葉学園――本来ならウチと玲香も入学するはずだった学園。あの学園に入る条件は、かなりのお金持ちであることに加え頭がいいことも条件の1つになっている。

 ただ、初等部のときに入学してしまえば多少頭がよくなくてもエスカレーター式で上まで行けてしまうのだけど、今目の前にいる転校生はそれを加味した上でも相当なバカっぽさを醸し出していた。


「帰ってもいいー?」


 特にこの間延びしたような喋り方がもうバカっぽさ丸出しだった。


「ダメに決まってるでしょ!」


「ええー」


 玲香の機嫌が悪くなっている。


 これ終わったな――ウチは思った。


 転校生は明日からしばらく学校に来られなくなるかもしれない。


「あなた名前は?」


「ん? あたし? あたしは犬塚真理絵いぬづかまりえだよー!」


 ツインテールを揺らし笑顔で自己紹介する。転校生はこの状況をまったく理解できていないようだ。


「犬塚ねぇ。だったら犬ね」


「ううん。あたし犬より猫が好きだよ! だから猫がいいなー」


 ぶちりと玲香の血管が切れる音が聞こえたような気がした。


「マジうざっ! 犬は犬らしく四つ脚で這ってなさいよ!!」


 玲香のパンチが転校生の顔めがけて飛んでいく。


「は?」「え?」


 それはほとんど一瞬の出来事だった。


 玲香の放った拳は転校生には当たらず、なぜか逆に玲香の体が宙を舞う。そして、背中から地面に落ちた。


「殴るのはダメ!!」


 転校生が頬を膨らませていた。怒っているつもりかもしれないけどその顔は全然怖くなかった。


 けど……転校生は今何をやったのか。


「ったぁ……」玲香が背中を擦りながら起き上がって、「ふざっけんな――」もう一度転校生に向かってパンチを繰り出す。


 パンチは確かに相手の顔めがけて伸びたのに、転校生はそれを首を傾けることで簡単に躱してしまう。それから玲香の伸びた腕の手首を片手でつかみ、もう一方の腕を脇の下に入れる。そしてそのまま半円を描くように玲香の体が宙を舞い、背中から地面に叩きつけられていた。


 地面に大の字で仰向けになる玲香はスカートが捲れて下着が露わになっているのを直そうともしない。完全にノックダウン。


 ――うそ……でしょ……?


「――玲香!!」


 慌てて駆け寄り耳元で何度も名前を呼ぶ。


「怒ったから。あたしもう帰るー!」


 転校生はそう言って校内へ入っていった。この際転校生のことはどうでもいい、今は玲香のほうが大事だ。


「――うっ、ゲホっ……」


 玲香が咳き込みながら目を開けた。


「玲香っ!!」


「アイツ、は……?」


「帰ったけど」


「そう……」


 玲香はゆっくりと体を起こした。


「あの女。絶対ブッ殺してやる……」


 その呟きどおり、その瞳に静かな殺意を宿していた。玲香はふらつきながら立ち上がりスマホを取り出した。


「はあっ!? 画面割れてるじゃない!! クソムカつくんですけどあの女!!」


 玲香は怒りをぶつけるように画面の割れたスマホを操作し電話をかける。


「うん、アタシ。そうそう。――今大丈夫です? そうなんです。急に欲しくなっちゃって、こないだ言ってた人紹介してほしいんだけど、いい? そう、そのトラさんって人。――番号教えてくれればこっちで連絡するから。うん、それじゃあ」


 玲香が一度電話を切って、今度は別の誰かに連絡を入れる。今の会話の流れから電話の相手は鳩場さんだ。玲香はいつの間にか彼女と連作先を交換していたみたいだ。


 玲香は教えてもらった番号に電話をかけ直す。


「あ。えっと、トラさんであってます? アタシ知り合いから聞いて――。はい、そうです。え!? そんなにするんですか!? いえ、大丈夫です。……明日の夕方5時に駅前の恐竜のとこですね。了解です」


 電話を切ってスマホをポケットにしまった玲香は、不敵な笑みを浮かべていた。


 一体何を考えてるのかはわからないけど、


 転校生は間違いなく終わったな――って、そう思った。

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