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アセンブル2 ― 14days  作者: 桜木樹
第一章 朝倉勇 編

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10月10日

 朝のニュースでは『連続殺人、5人目の被害者か!?』というデカデカとしたテロップが映し出されていた。被害者となったのは言うまでもなく流尾寛平ながれおかんぺい。結局警察は流尾さんを守ることはできなかったようだ。あるいは、ぼくが取り調べを受けている段階ですでに亡くなっていたか。


「気になるの? ニュース……」


 朝食を食べながら、テレビのニュースを食い入るように見ていたぼくに母さんが心配そうに言う。母さんは今日の早朝に家に帰ってきたみたいで、でも昼からまた仕事だと言っていた。


「そう言えば、クラスメイトの女の子も亡くなったのよね……」


「うん」


「あなたも気をつけなきゃ駄目よ。学校が終わったらすぐに帰ってきなさい。いいわね?」


「うん……」


 連続殺人事件のニュースが終わると、話題が台風情報に切り替わる。その予測進路上にはこの町がすっぽりと収まっていた。


「じゃあ、そろそろ行くよ」


 朝食を食べ終えたぼくはカバンを手に玄関へ向かう。靴を履いて外に出ようと扉を開け少し外に出たところで、


「待ちなさい」


 と母さんに呼び止められる。


「だらしないから、寝癖ちゃんとしなさい」


 寝癖直しを手に玄関の外までやって来て、母さんはそれを手につけぼくの頭を撫でる。


「い、いいよ。自分でやるから」


 マンションの通路の外側に面した部分は手摺壁になっていて外の様子が丸わかりだ。逆を言えば外からでもこっちの様子が丸わかりなわけで……


 こんなところを誰かに見られたら恥ずかしくてたまらない。


「何言ってるの。自分でできるならもうすでにやってなくちゃ駄目でしょ?」


 言い返せない自分がいた。


 結局、母さんにされるがままになった。


 ……うん?


 気のせいだろうか、ぼくの寝癖を直す母さんはチラチラとマンションの外を気にしているように見えた。


 ぼくもチラッとそっちに目を向けてみる。道路脇に一台の車が止まっているのが見えるだけで、誰かが道を歩いてたりとかはない。


 もしかして母さんもぼくと同じように恥ずかしくて周囲を気にしているのかもしれない。


「よし。これでいいわ。それじゃ、いってらっしゃい」


「う、うん。行ってきます」


 ぼくは学校に向かった。


 …………


 学校に張り付いていたマスコミの人たちはキレイにいなくなっていた。


 5人目の被害者が出たからそっちの取材に行っているのか、それとも単純に日数が経って戸波さんに興味がなくなったのか……


 節操がないっていうのはこういう事を言うんだろうなって思った。


 …………


 学校が終わった後、ぼくは直接カムライ教に向かった。理由は、今朝、母さんがすぐに帰ってこいと言っていたので、一度家に帰る時間が惜しかったからだ。


 念のため、カムライ教に行くことを母さん宛にメールを送る。すると直ぐに返信が来た。やけに早いなと思いながら携帯を確認すると、


「また!?」


 まさに絶妙なタイミングだった。


 それは母さんからの返信じゃなく、予言のメールだった。適当な文字列のアドレスに『divination of the spirit』と書かれた件名。それから本文には『米座吾郎』。


 6通目のメール……


 カムライ教に向かいながら、昨日、杵島さんに言われたことを思い出して、このメールを転送することにした。


 しばらくすると、杵島さんから『ご協力どうも』と短い文章のメールが届いた。


 それから、カムライ教に着くまでの間、母さんからの返信はなかった。


 …………


 扉を開けホールに入るといつもと違った雰囲気だった。


 いつも杏珠さんが祈りを捧げている場所に3人ほどの人が集まっていた。


「いったいどういうつもりですの!!」


 その集まりから、ヒステリックに叫ぶ女性の声がホール内に反響する。


 何事かと思いぼくはその場に駆け寄った。


 その3人は、たまにこの場所で見かける小太りの男性と、いつも入り口で挨拶を交わすお爺さん。それから見覚えのない厚化粧の女性だった。3人陰になる位置に杏珠さんの姿もあった。


 そして厚化粧の女性が今まさに杏珠さんを攻め立てていた。誹りを受ける杏珠さんは俯きシュンとしてしまっている。


「あの、何かあったんですか?」


 小太りの男性に声を掛ける。


「えっと、この人がここに来るなり杏珠さんに突っかかってね」


 どうやらこの人も状況がわかっていなみたいだった。


「とにかく落ち着きなさい」


 お爺さんが女性をなだめようとするがまったく効果はなく、


「うちの娘はあんたが殺したんでしょ!?」


 女性はとんでもないことを言い出した。


「え!?」「ん!?」「なんじゃと!?」


 ぼくを含めた男性陣3人が同時に声を上げた。


「お前さん、そりゃ一体どういうことじゃ?」


「どうもなにも事実を言ったまでです!」


「いや、でも、俺たちには事情が飲み込めてないわけで……」


 2人と違いぼくにはなんとなく女性の言っている意味が理解できた。


 人が殺されたり死んだりしたら大体の場合ニュースになる。そしてここ最近のニュースで話題になっているのは例の事件以外にない。


「あの……もしかしてなんですけど、最近起きてる連続殺人事件の被害者の中に娘さんが?」


「ええ、そうです!! 詩愛はわたくしの可愛い一人娘でしたのに!! 女手ひとつで育ててきた大事な娘でしたのに!! この女が――!!」


 女性はよよよと泣き出し、高そうなハンカチで目元を覆った。


 しあ……おそらく鳩場詩愛さんのことだろう。3人目の被害者で、土曜日にぼくと赤木くんも目にした、歓楽街で殺されていた女性だ。


 でもどうして杏珠さんが殺したことになるんだろうか?


「ちと待っとくれ。どうして杏珠ちゃんが殺したことになるんじゃ? しかもそうだとしたら杏珠ちゃんが連続殺人犯になってしまうぞ?」


 ぼくの言いたかったことをお爺さんが訊ねていた。


「警察がわたくしの家に来てこう訊いてきたんですよ。『うちの娘がカムライ教に出入りしてましたか?』って。もちろん、うちの娘はこんな得体の知れない場所に足を運んだりしていませんわ。ですが、警察からそういう質問が飛び出すということはこの女が犯人以外考えられないじゃないですか!!」


「ええ!? たったそれだけの理由で疑うんですか!?」


 小太りの男性が呆れ顔で驚く。


「それだけですって!!」


 鳩場さん――娘の名前が鳩場詩愛であることから――が小太りの男性を睨みつけると、彼は蛇に睨まれた蛙のように萎縮してしまった。


「違います! 私は殺していません!」


 すると、それまで俯いていた杏珠さんが顔を上げ必死に訴えた。


「じゃあお訊ねしますが、あなたが犯人ではないという証拠はおありですか?」


「そ、それは……」


 杏珠さんは力なく、また俯いてしまった。


 でもそれを言ったら杏珠さんが殺した証拠はあるのかと問いたかったが、般若のごとく烈火の怒りを現す女性が怖くてそれを口にすることはできなかった。


「とと、とにかく、女の子を攻め立てるのはナンセンスですよ。それに、杏珠さんに人を殺せるとはとても――」


「まぁ!! そうやってまた若い女の味方をする!! これだから男は!!」


 鳩場さんが自分が年齢による差別を受けていると思ったらしくまたヒステリックになる。


「そういうわけじゃなくてのぅ。こういうのは冷静にじゃな」


「わたくしは冷静です!! さあ、白状なさいな!!」


 腰に手を当て高圧的な態度の鳩場さん。それはもう「はい」以外の答えは認めないと言っているようなものだ。


「わた、しは……私は――!!」


 杏珠さんは絞り出すように言って走り出した。その場から逃げるように関係者用の部屋に入っていった。


 杏珠さんは泣いていた――


 彼女の涙を見てぼくは自分のことのように辛くなった。


「もう!! 逃げればいいと思って……」


 鳩場さんは怒りを向ける相手がいなくなってしまったからか、ドシドシと足を踏み鳴らすようにして怒りを湛えたままホールを出ていった。


 お爺さんと小太りの男性は顔を見合わせそろって肩を落とす。


 ぼくは情けない気持ちになっていた。


 先日、杏珠さんは言った。ぼくが救世主だと。


 目の前で責められていた彼女を助けてあげられなかったぼくに……そんな資格なんてないよ――


 …………


 カムライ今日での出来事を引きずって、ぼくの足取りはとても重いものになっていた。そんなだから想定していたよりも帰宅時間が遅くなってしまった。


 家に着く頃には辺りはすっかり暗くなっていて、ぼくは母さんにものすごく怒られた。母さんに怒らるのはずいぶんと久しぶりな気がする。特にここ2週間くらいは一緒に会話をする時間もほとんどなかったため、たとえ怒られているのだとしても、家族の会話があったことに少しほっとしていた。


 ただひとつ言っておくと、ぼくは決して怒られて喜ぶような人間ではない。

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