第8話 初めての異星の食事
この街が始めての助太郎のためにシナンはどんな施設があるのか、街の中央に設置された街の詳細が書かれている案内板を昼食を何にするか決めるついでに見せていた。
地球のデパートでよくある案内地図のようなものだ。
店は飲食店はもちろん日常的な服を扱う服屋、野菜・果物が主体で輸入品の肉や魚も扱う市場、薬草や輸入品の回復薬を扱う薬局、様々な本を売る本屋などもあれば、鎧などの防具や剣や槍など武器を取り扱う店もある。
施設は警察のような役割を持つ自警団に、冒険者に支援や依頼を提供する冒険家ギルドなんてものがあった。
シナンは冒険家ギルドで依頼を受け森に来ていたようだ。
昼食の方は鍋料理専門店にする事にした。
代金は余裕があるからとシナンが払うと言った。
目的の店は街の中央から遠くなく、歩いて数分で着いた。
お昼のピークが過ぎた辺りの時間なため周りに人は大勢はおらず、そもそもこの店はたまに食べに来る客が多いため他の店よりも人は少なめである。
シナンはこの店の質は良いと評価している。
「いらっしゃいませー。空いてる席へどうぞー。」
店に入ったと同時に店員が声をかけた。
二人は空いている二人席へ座る。
席は和式の畳に座布団が置かれ、鍋を置くための暖炉が設置され、木製のメニュー表が置かれていた。
メニューには単純に野菜だけを煮込む鍋やシチューらしきものやカレーらしきものもあった。
助太郎には見たこともない言語で書かれていたが言語翻訳の能力でなんなく読める。
だが、どれにしようかは決まらない。
結局、シナンのおすすめを頼む事にした。
料理の待ち時間の間、トライスシが話しかけてくる。
『スケタロウ君、今から食べる鍋料理だが、よければ味覚共有してもいいだろうか。久しぶりに食べ物の味を堪能したくてね。もちろん嫌なら拒否してもいいのだが。』
(…いいですよ、みんなで食べた方が美味しいですからね!)
『そうか…、ありがとう。』
(もしかして普段は食事ができないのですか?)
『ああ、天使は食事が不要な代わりに別のエネルギーが必要な体だからね。
幸い人に憑依すれば感覚を共有できる性質もある。』
天使が人と感覚を共有できるのは人間と神の狭間ゆえに、中途半端に人間の機能が残り、きっかけがあれば感覚が一時的に復活するのである。
ちなみに神に進化するともう感覚が復活することはなくなる。
そんなこんなで注文した料理が来た。
鍋料理は野菜をメインに少し肉や魚を含めて、オプションにお米らしきモノも茶碗に盛られ出された。
鍋の量は二人分で少々大きい。
ちなみに鍋からは食材をお玉ですくい、レンゲで食べる。
「きたきた、これ好きなんだよねえ!」
「見た事ない野菜や肉もあるけど、どんな味なんだろう。
じゃあ、いただきます。」
助太郎は両手を合わせ、食事前の挨拶をする。
それを見たシナンは首を傾げる。
「スケタロー、今のは何?」
「ん、俺の故郷で食事前に食べ物と料理を作った人に感謝の意を込めてする挨拶だよ。
食事は命をいただく事で、料理は誰でもできるわけではないからね。少なくとも俺はそう思ってる。」
厳密には意味が異なるかもしれない、が助太郎はそういう認識でいる。
「何それ!?すっごくいいじゃん、これからは私もやろ!
いただきます!」
話を聞いたシナンは目を輝かせ興味津々である。
この辺の地域では食事前の挨拶の文化がないようだ。
手を合わせて少し興奮気味に挨拶をした。
料理の方は簡潔に言うならば美味いものだった。
野菜や肉、魚の食感や味はあまり慣れないものだが少なくとも煮込み料理には合う。
出汁も魚か野菜もしくは両方から取ったらしい味で飲食店特有の濃い味というわけではなく、食材に合う程良い濃さであった。
お米らしきモノも普段食べていた一般的なお米と比べると、ふわりとしているくらいであまり違和感のない味であった。
異星人である助太郎でも問題なく美味しく食べられた。
これが好物らしいシナンはよく食べる。
正直二人分だと多いと思っていたが普通に完食できそうである。
トライスシも助太郎の味覚を共有して、実質的には共に食事をしていた。
『うむ。やはり茹で野菜は美味だ。』
声が普段よりも少し踊っている。
トライスシにも人間の時の好物がこの系統の料理のようだ。
食事を終え、レンゲを器に置き助太郎は手を合わせる。
「ごちそうさまでした。」
「…!ごちそうさまでしたっ!」
食後の挨拶だと察したシナンが真似をする。
会計をシナンが済ませ、店を出る。
「いやー、やっぱり誰かと一緒に食べる食事は最高だね!
これからちょっと買い物と用事があるけど付き合ってもらっていいかな?」
「うん、いいよ。あと、昼食ありがとね。」
助太郎はシナンの用事に付き合う事にし、冒険家ギルドへ向かった。
ご覧頂きありがとうございました。