第7話 昼食前に
「よし、これから飛ぶよ、準備はいい?」
「なるべく、ゆっくりめでお願いします。」
シナンが再度、助太郎を右腕で抱え一声かける。
助太郎は苦笑いになりながら返答する。
了承の返答を聞き、シナンは緩めの速度で空を飛んだ。
目的地は人の住む街。
とりあえずそこで昼食をしていろいろ買い物をしよう、という目的で向かっている。
移動中、助太郎は自分の中で休養中のトライスシに気になっていた事を聞く。
「そういえばトライスシさんはどこから来たのですか?
地上では長く生きられないと言っていましたからこの付近ではありませんよね。」
『ああ、言ってなかったね。
ワタシや天使は衛星アマラスで神に進化するための修行をしているのだよ。
アマラスならばこのスサノにはないエネルギーが大気に溢れていて生きていられる。
それとワタシと話す時は喋りやすい言葉使いで構わない。
しばらくは一緒に行動するからね。』
「あー、ではお言葉に甘えて。
天使でも難儀なものですね。」
「アマラスにそんな性質があったのね。」
問答を終え、助太郎はふと自分の右側の方向を見る。
ずっと遠くに雲でボヤけているが高い塔らしき影が見える。
「あれが天使になるためには登らないといけない塔かな?
かなり遠くにありそうだけどここからでもよく見えるということは、かなり大きそうだけど。」
「あれは海の真ん中、世界の中心ともいえる場所にあるからね。
過去にあの塔を捜索した人がいて、中はとても広くて螺旋階段が壁沿いにあって全部で百の階層があるみたいだよ。
石材でできていたけどかなり頑丈で、お宝とかは何もなかったって。」
『頂上に辿り着くのは大変だったね。
あの塔はこの星を作ったモノが一緒に作った説や古代人が作った説なんてものもあるよ。』
そんな会話をしながら助太郎とシナンも自分達の事情を話しながら森を抜け、人の街が見えてきた。
シナンは地へ降りここからは歩いていく。
『君達はそんなに抱えていたのか、ワタシに巻き込んでしまってすまないね。』
「いえ、気にしないで。」
「そうそう、助けたくて助けたんだから!
…そろそろ街だよ、お腹空いたなー。」
街は街道の先にあり石の砦が塞ぐ。
砦には人が数人、門の前には門番が二人いた。
シナンは助太郎の事を森で助けた人間だと門番に話し、門番もまたかと苦笑いで答え通行を許した。
シナンは近隣の人達からの信頼が厚いらしい。
そして街へ入った。
街は人が賑わい、石材や木材の家や店の建物も並ぶ。
昼食のためにどんな飲食店があるか確認するため街の広間へ向かった。
そこに子どもが泣く声が聞こえる。
助太郎が泣き声が聞こえる方向を見て向かう頃には既にシナンが少年の元へ向かっていた。
「君、どうしたの?ケガしちゃった?」
「パパとママがー!!わーん!!」
少年は親とはぐれ迷子のようだ。
助太郎もその場に着きどうするか相談する。
「迷子かな?親の方も探しているだろうからこっちも探そうか、それとも迷子を預ける場所とかはあるかな。」
「預ける場所ならあの道を通った場所に自警団があるからそこに届けよう!
君、歩ける?」
『ちょっといいかな、二人とも。』
「とぉ!?」
自警団に預ける話になるもトライスシが割り込む。
『ワタシの声は君達にしか聞こえない。
その子と強い絆を持つ人間が君達から見て左の方向にいる。間違いなく保護者の反応だ。
そちらに向かう選択肢もある事を教えておこう。』
トライスシによると迷子の少年の保護者は自警団の逆方向にいるらしい。
そこで再び相談をする。
「どうする?親は自警団とは逆側にいるみたいだけど。」
「…よし!親の方へ行こう!
早く親子で会わせてあげたいから!」
「分かった。俺も賛成する。
君、お兄さんとお姉さんに着いていけるかな?」
「ぐすっ…ぐすっ……うん。」
『...ワタシが言うのもアレだが、君達は随分と簡単に人の言う事を信じるね?』
少年を連れ、トライスシの言った場所へ向かう二人。
しばらく歩いて、
「!、パパ!ママ!」
「「!、ショウキ!」」
少年が親の元へ走り、親子共々喜び合う。
「良かった。無事に送れて。」
「ありがとうございます!うちの子を連れてくださり!」
「なんとお礼をしたら!」
「いえいえ、困った時はお互い様ですから。」
少年の親がお礼を述べる。
助太郎とシナンも笑顔で応対し、お礼を言いながら親子と別れた。
「やっぱり良いことすると気持ちがいい!」
「そうだね。
トライスシもよく分かったね、それって天使の力?」
『人の絆を見れる力なら天使としてではなくワタシ個人の力だよ。
ワタシは絆に関する力を持っているからね。
それとワタシに話しかける時は声に出さずとも、心の声で念じればいい。』
(…えっと、こんな感じですかね。)
『そうそう、そんな感じ。』
(スケタローの心の声は私には聞こえないのね。)
そう三人で会話しながら再度、飲食店へ向かうのだった。
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