第4話 二人の自己紹介
主人公とヒロインの自己紹介回です。
「よーし、これでゆっくりと話せるね!私はミナイ シナン。気軽に名で呼んでよ!君は?」
目の前の少女が気軽に話しかけてくる。とても良い笑顔だ。
意識が戻ってきた助太郎も軽く自己紹介を始める。
「…えっと、俺は参橋助太郎です。上の名前が名字で、…助けていただきありがとうございます。」
「いいよいいよ!困った時はお互い様!でサンバシ スケタロウね。でも上の名前が名字なんてわざわざ言わなくても当たり前でしょ?姓名が逆の地域なんてあるの?」
会話はできている。異星の人間であろう目の前の少女の言葉を自分が知る言語で完全に理解でき、相手も自分が言っている言葉を理解できているようだ。
[言語翻訳]の能力のおかげである。
「あれ、この星では姓名の順番が日本と一緒なのか。ということはあなたの場合は、シナンさん?」
「うん、そうだよ!私もスケタローと呼ぶね!
それとその言い方だと、スケタローは別の星から来たの?」
「……実はそうなんです。」
一瞬自分の事について話すのは躊躇ったが、個人でどうにかする能力は与えられておらず、あの自称宇宙人は自分が誰かと組む事を想定したのだろう。
だから組む事になるかもしれない相手ならばあまり隠し事はしない方がいいかもしれない。少なくとも森を出るまでは一緒にいたい。
助太郎はシナンに今までの事を包み隠さず話した。
「そっか。スケタローは地球っていう別の星からこの"スサノ"に連れて来られちゃったんだね。その宇宙人はスサノの人なのかな。」
「うん。合ってると思う。(この星の名前はスサノなのか。)」
「今私が君と問題なく話せてるのもその人がくれた異能のおかげなのね。」
「そうだね。地球とこの星が同じ言語とは考えにくいからね。あの人がスキルと呼んでいた力はとても強い力を感じる。」
「よし、君が故郷へ帰れるよう私が手伝うよ!まずは私を契約する?」
「え、いいの?…いやダメだ。正直ありがたいけど、契補送波のスキルで一度君と契約すると君の人生はずっと俺に縛られる事になる、そんな力な気がするんだ。
俺の達成できるかも分からない目標の、故郷への帰還のために君の人生を巻き込む訳にはいかない。」
話している間に助太郎の敬語がなくなり知り合い程度の関係にはなった。シナンの遠慮のない会話である程度は打ち解けたか。
しかし契補送波で契約する事は、助太郎が拒否する。
契約者は死ぬまでずっと契約する事になるのである。
なんとなくだが助太郎は与えられた能力の詳細が分かる。契約の詳細を知ってから契補送波の能力は使わないと思い始めているのであった。
「そう、か。でも故郷へ帰る手伝いはするよ!契約も必要になったら私ならいつでもいいからね!」
シナンはあまり契約の重みを理解してはいないが、困ったひとがいるならば助けたい。その一心である。
だから異形の姿になってしまったのだが…
助太郎はずっと気になっていたが、触れてはいけないと思い言わなかった異様な姿を恐る恐る聞こうとする。
「あのー、それと、ええと、その姿は、」
「やっぱり気になるよね。いいよ、君だって話したんだから。」
シナンは微笑みながら話す。
「私ってさ、困ってる人がいたら絶対助けたいと思うし、頼まれたら断れない性格なんだよね。そんな性格でずっと過ごしてきてたんだけど、
ある日ね、謎の科学者の人達に捕まって人間兵器を作るための実験台にされたんだ。
身体の左半分は機械みたいになって流れる血も人とは全然違うものに改造されたの。
科学者達は“いいデータが取れた。”と私を解放してどこかへ行っちゃった。」
シナンの話に助太郎は驚愕の表情を浮かべる。
自分よりも大変な事になってるではないかと。
「…すみません…辛い事を話させて…」
「そんな暗い表情しないでよ。確かに改造された時はとても痛かったよ。でも、おかげですごい力が身に付いたんだ。
激しく動けるようになったり、飛べるようになったり、魔法を使わずに光線を撃てたり。たまに暴走するけど。
誰かを助けるには力がいるからとても役立つんだ!
親のいない私でも、この体のおかげで君やいろんな人を助けられたんだよ。
むしろあの科学者達にはお礼が言いたい!」
すごい精神だ。もしくは深く考えていないのか。
普通の人では復讐に走るか絶望に沈んでいるだろう。
異常とも言える女の子だ。
「でももっと力は必要だと思う。だからスサノの各大陸に一つずつある試練を攻略して、もっと強くなって、世界中の人々を助けられるようになりたい。それが私の目標!」
「なんか、うまく言えないけど、君はすごいよ。
誰かを助けたい気持ちは分かるから君の目標は応援する。」
デカデカとスケールの大きい目標をシナンは宣言する。
助太郎も本心で答える。内心では、
(やっぱり、この子を俺のために縛るわけにはいかない。)
自分の目標は自分一人でどうにかしようと心に決めかけていた。
座って話していたシナンは立ち上がり、
「さ、まずはこの森を出よっか。近くに人の住む街もあるからそこへ行こっ!」
そう言いながら右手を助太郎に伸ばす。
助太郎は「あ、どうも。」と言いながら手を取り、
「よいしょ。」
シナンの右腕に抱えられた。
サッカーボールを脇に挟むように。
「…あのー、シナンさん?」
「街まで飛んでいくからしっかり捕まっててね。
とても速いよ!」
そう言うと、シナンの背中から生える突起物から赤い光が噴射される。ざっくりとした翼のような形をしている。
そして一気に上空へ上昇し街がある方角へ直進した。
そのスピードは凄まじく、ジェットコースターのようである。
突然の飛翔とスピードに助太郎は絶叫するのであった。
「ああああああああああああああああああっ!!!!!」
ご覧頂きありがとうございました。
シナンが言った試練については今後作中で説明させます。