第29話 精霊の森との別れ
タヌ、助太郎、シナンの3人がツネのいる場所まで帰還する。
「ツネー、戻ったぞ。」
「あらーおかえり。」
ツネが3人を出迎える。
「それじゃあツネ、そろそろ儀式を始める準備をしようか。」
「ええ、そう言うと思ってもう一通り準備はしておいたわ。そうだ、よかったらあなたたちも見ていかない?」
「えっと、これから何かするのですか?」
助太郎がこれから何をするか質問をする。
「ああ!今日はツネの憧れだった精霊の神子になる儀式をする日だったんだ。」
「精霊の神子!?あの精霊を統べる存在と言われる!?」
「そう、その精霊の神子よ。」
シナンが驚きの声をあげる。
そもそも精霊とは魔法を発動させる力の源になる。
精霊の過半数が精霊の森に発生し十分成長してから各地に散在するようになる。
精霊の神子はこの森に生息する精霊及び、精霊の森全体を管理し統治する役割を持った者の肩書きなのだ。
実は精霊の神子という肩書きは地球で言うと一国の王、女王級の知名度なのだ。
「まあ、そもそも俺達は2人のどちらかが精霊の神子になれるようにこの森で生まれ、育ったからな。
なれなかった方は神子のサポート役になるな。」
「予め自分の将来が決まっていたんだね。
何か思うところはなかったの?」
「ねーよ、そんなもん。
確かに決められた運命を進むだけじゃつまらないと思う奴もいるだろうが、俺もツネもそんな事は思ってない。」
この言葉はタヌの本音だ。
「さ、ツネ。そろそろ儀式を始めようぜ。
今日は転ぶなよ。」
「転ばないよー、今日はとても大事な日なんだから。
料理を作り始めた時も人の姿に化け忘れそうになったけどー、直前で気付いたから毛も入ってなかったでしょー。」
「始める前に気付けたんだな、えらい!」
(直前まで気付けなかったのか…まあ気付けて事故を防げたならいいか)
(直前まで気付けなかったのね…でも気付けて失敗しなかったならいいね)
(『2人とも似た事を思ってるな。』)
しばらくして雛壇の頂上のようなセットがある場所に移動し、そこにツネが正座する。
ツネの周りには精霊の光が集まっている。
タヌがゆっくり歩いてツネの前に立ち、唱和を行う。
「今現在を持って貴方は第196代目、“精霊の神子”となる。
精霊の生まれから巣立ちまでの成長を統べ、精霊森の安泰を守護する、“精霊の神子”の使命を全うする事をここに誓いますか?」
「誓います。」
儀式は数十分程行われ、その後お開きになった。
儀式終了後、儀式を見ていた助太郎とシナンが駆け寄る。
「とても綺麗だったよ、まさか新たな精霊の神子が決まる瞬間を見れて運が良かった!」
「なんだか神秘的だったよ。」
「2人ともありがと〜。儀式を見てくれて。」
「ありがとな、見届けてくれて。
そうだ、菓子を作ったんだが喰うか?」
タヌは皿の上に乗った青い餡子がかかった餅を差し出した。
「お、おおう...。これは凄い色で...。」
「スケタローは青色はあまり食欲出ないの?」
「ああ、青色の食べ物は故郷では中々なくてね。」
「しまったな。緑か黒の餡子にすべきだったか。」
「でも美味しいよ〜。タヌの作るお菓子はとっても美味しいんだから。」
ツネにもオススメされてスケタローは皆と青い餡子の餅を一口食べる。
「…お、美味しい!」
「この餡子餅、今まで食べた中で一番美味しいよ!
タヌが作ったの!?」
「そうでしょ〜。タヌが作ったお菓子はどれも、とっても美味しいのよ〜。
私は料理は好きだけどお菓子作りは上手くいかないのよね〜。」
「菓子作りは繊細だからな。難しいけど楽しいんだ。
ツネは材料や冷やしたり茹でたりする時間を間違えて失敗しやすいんだ。」
「えー、70秒ぐらいは誤差にならないの?」
「菓子がダメだったら誤差じゃないな。」
会話を挟みながら青い餡子の餅を食べ終える。
「この後、二人はどうします?」
「3つ目の試練がある西の大陸、サバイヴ大陸に行こうと思ってます。」
「サバイヴ大陸か、このマジク大陸からだと遠くてサバイヴ大陸行きの船はないんだよな。
一旦ナチュラ大陸に行かないと向かえないな。」
「そうだったんですね。教えてくれてありがとう。」
しばらくして助太郎とシナンは出発の準備を終える。
「身体に気を付けろよー。」
「また来てね〜。」
「色々とありがとうございました!」
「色々ありがとー!また会いましょー!」
助太郎とシナンは別れの挨拶をし、精霊の森を後にする。
森を出て道を進む2人。
向かう先はマジク大陸の西の果ての人の少ない海。
その海の近くにある小さい村で支度をし、飛んでいく予定だ。
しばらく歩き、2人は小さい村まで着いた。
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