第24話 救われる者と破滅する者達
『間に合え!』
洞窟内を高速で進む青い光、トライスシは洞窟の出口へ急ぐ。
その速度は通常の者ならば視認不可だろう。
既にランプが吊るされた通路を抜け、暗い洞窟内を突き進んでいる。
トライスシは来た道を覚えており自身が放つ青白い光で辺りを照らされているため、円滑に進んでいる。
遠くに一点の光が見える。出口の外から入った光だ。
トライスシは出口へ突き進み、外へ出た。
外へ出てしばらく勢いのまま進み、しばらくして静止する。
『後は任せる。』
トライスシはそう内心で言いシナンと助太郎に切り替わった。
レッサーゴブリンは助太郎が担いでいる。
「思ったより軽い?いや、それより早く応急処置を!」
「そうだね!」
助太郎はレッサーゴブリンが意外と軽い事に驚くがすぐに何らかの処置が必要だと判断する。シナンも回復薬や塗り薬に包帯を用意している。
応急処置に回復薬を飲ませ、火傷してそうな身体に薬を塗り包帯を巻いた。
未だ気絶しているが何とか息はある。
「何とか今は助けられたね。この後は、どうしよう。」
「人と暮らしていけるにしても預かる人がいないといけないよね。俺らは連れて行けないわけだし。」
助けたは良いものの、この後この名もなき元盗賊のレッサーゴブリンの保護者になる人は必要である。一度交戦しての判断だがこの者は通常のレッサーゴブリンよりは優れているが、一般の魔物や人間に比べると知能が低い。
衣食住を与え教養する人物が必要なのだ。
しかし2人ともこの地には来たばかりで知り合いはおらず心当たりがある者はいない。
どうしようと悩んでいるとトライスシが気付く。
『都市の方角から武装した団体が来ている。
敵意は感じられない。』
こちらに向かって団体が来ているようだ。
トライスシが敵意はないと言えるため今回はあまり警戒はしなくていいが、どうしたものかと悩んだ。
気付けばすぐにその団体が見えた。見覚えがある白いフード付きのコートを着た団体だ。
「おや、あなた方は」
「あ、朝の!」
早朝に勧誘しにきた勇者教団の者だった。
「私達はある盗賊団を討つために来ましたが、あなた方が介抱しているその魔物はもしや?」
「その盗賊団が炎のレッサーゴブリンを連れた盗賊団のことでしたら、この魔物が炎のレッサーゴブリンです。
ただ盗賊団からは捨てられたみたいで、交戦した際に悪意が感じられなかったので助けました。その時には瀕死の状態だったから今は介抱しています。」
教団の者達は応急処置がされた赤いレッサーゴブリンをチラチラ見ている。
赤色のレッサーゴブリンはかなり珍しいからである。
「ふむ、なるほど。
それで他の盗賊団はどうなりました?」
「私達が来た頃にはもうこの子しかいませんでした。私達が通った通路とは別の通路から撤退したようです。」
「そうでしたか。ご無事でなによりです。
そこの魔物は今後どうするつもりで?」
「…助けたはいいもののこの後はどうするかを考えていたんですよね。私達では世話がやりきれませんし、かと言って他に預ける人もいないですからね。
この後を考えずに助けるのは愚策だったでしょうか…。」
シナンが今後のレッサーゴブリンの将来を考えずに助けた事に不安で俯く。
助太郎も何か声をかけようとするが言葉がみつからない。
「その魔物は、下級ですが人間の生活ができるのですか?」
「元々盗賊団に利用されるためとはいえ人間の生活はできるそうです。人の言葉も話してましたので。
教養次第では十分暮らしていけると思います。」
「そうですか。ならば私供で預かりましょう。怪我を治した後に預かり手を探します。
もしいなかったら私が預かりますよ。」
「いいのですか!?助かりますが、あなた方にも仕事はあるのではないのですか?」
「勇者教団は弱きを助け悪を討つ勇者様に憧れた者の集まりです。私はこの魔物は助けるべき弱き者と判断致しました。
なので、責務は果たしましょう。」
「ありがとうございます!本当に!」
「この子を、よろしくお願いします。」
シナンと助太郎はレッサーゴブリンを勇者教団に預けた。
(『ふむ、勇者教団というものは相変わらずお人好しだね。ワタシが人間だった時から人員は変わろうとも、信念は変わらないようでなによりだ。』)
トライスシが天使になる前の人間時代から勇者教団は存在していたが、その時にもトライスシは少しだけお世話になった経験がある。
その時から変わらない弱き者を救い導く教義が変わってない事に喜びの感情が湧いた。表情が変わるならば笑顔になっていただろう。
「そういえば盗賊団を討つためにここまで来たんですよね。足止めさせてしまいすみません。」
「いえいえ、お気になさらず。
私達以外にも討伐隊は結成されていますから問題ありません。では私達はこれで。」
勇者教団はレッサーゴブリンを連れて撤退していった。
シナン達もその場で休憩した後に精霊の森へ向かう事にした。
時は少し遡る。トライスシが洞窟から出ようとする頃、
「隠し通路を作っといて正解だったぜ。」
「まさか洞窟内で火を放つとは思わんかったわ。もっと早く捨ててもよかったな。」
「ま、次からはもっと賢く盗みを働こうぜ。」
「「「「「ハハハッ!」」」」」
盗賊団が洞窟のアジトに仕掛けた隠し通路を通っている。
出口を隠す岩をどかして外の日の光が当たる。
1人が顔を覗かして辺りを見渡す。誰もいない。
安全を確認し盗賊団が荷物を持って外へ出る。
最後の1人が出てしばらく進む。
「突撃ーッ!!」
「「「「「「「!?」」」」」」」
白コートの集団が1人の声と共に急に周りに現れ盗賊団が驚く。
周りに動物の気配すらしなかったのに急に現れては驚くのも無理もない。この集団は勇者教団の者たちの中でも気配を消す事が得意な者の集まりである。
盗賊団はあっという間に囲まれてしまい洞窟の退路も塞がれる。
「武器を捨て、降参せよ!さすれば痛い目には合わずに済むぞ!」
「やべー、勇者教団じゃねぇか…」
「どうしましょう団長。」
「ゆ、勇者教団は数多くの部隊がいる。
この部隊は気配遮断が得意な代わりに戦闘が苦手なんだろ。ハッタリだよ、返り討ちにしてやる!」
盗賊団の団長は今周りを囲んでいる者達は弱いと決めつける。そう思わないとやってられないのだ。
盗賊団が荷物を捨て一斉に教団に挑んだ、が教団側の圧勝であった。
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