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第23話 救う者達と捨てる者達

 一部焼けた跡が残る草原、その上空。

 地上からは見えづらいがそこに青年を抱えた少女がその場で留まり飛んでいる。

 少女、シナンは足下の地上を見ている。

 地上には黒い厚着を着た盗賊団と赤いレッサーゴブリンが同じ道を進んでいる。


「もしかして気になるの?あのゴブリンのこと。」

「うん。話にあった通り盗賊団と行動を共にしているみたいだけど、何だか悪い魔物って感じがしなかったんだよね。」

「そうなんだ。確かにあのゴブリンの声はずっと聞こえてたけど、なんか思ってる事を素直に喋るって感じで悪い印象は薄かったかな。」

「やっぱりそうだよね!

 もしかしたら盗賊団に騙されているとか、盗賊団に恩があるとか事情がありそうで気になってしまうんだよね。」

『少なくとも盗賊団はレッサーゴブリンの事をどうでもいいと思っているぐらいには絆が皆無だ。

 逆にレッサーゴブリン側は盗賊達の事は信用しているようだ。』


「そう...、ねえスケタロー、トライスシ。これは私のわがままなんだけど、あのレッサーゴブリンをできれば助けたい。

 あの子なら人と友好的な魔物と同じ生活ができると思うの。

 あの盗賊団を追いかけるけどいいかな?」

「俺はいいよ。元々シナンに着いて行ってるようなものなんだから。シナンがやりたいようにするといいよ。」

『ワタシも同意見だ。

 なるべく各地は見ておきたいからね。』

「2人ともありがとう。じゃあ行くよ!」


 シナンはどこかへ向かう盗賊団を上空から追尾して行った。




 特に目星になるものがなく地図にも名称の書かれていない洞窟の内部、盗賊団はそこを住処にしていた。

 洞窟の奥では話し声と灯りがあった。


「さてと、直近の成果はまあまあだな。

 無駄に有名になっちまったせいで警戒されてんな。」

「仕方ねぇよ。ゴブリン君が目立つんだから。」

「ま、都合よくそこそこの強さのレッサーゴブリンを拾えたからそいつを利用している俺等の自業自得でもあるけどな。

 この方法もそろそろ潮時かな。」

「オイ!何デオレヲ縛ルンダ!」

「もうそろそろあの2人の冒険家がやって来るだろうからそいつを囮にして俺等はズラかるか。」

「OK!」

「オイ、何ヲ言ッテイルンダ!?」


 盗賊団は荷物を纏めて住処を後にする様子。

 シナン達がこちらに向かっている事に気付いているからだ。

 赤いレッサーゴブリンは硬そうなロープで地面に刺さった杭に縛られている。


「何って、まだ分からないのか?」

「もうお前はいらないんだよ。ろくに成果はあげられないないし無駄に目立つからな。」

「まあ目立ったのは君だけだから最後は俺達の撤退に役立つ囮として役立っておくれよ。」

「何デダヨ!!今マデ俺ニ飯ヲクレテ!言葉ヲ教エテクレテ!盗ンダモンモ多イダロ!!

 世話シテクレタノニ捨テルノカ!?」

「盗んだって言っても君の餌代でマイナスだし都合がいいから言葉教えただけよ。聞き取りにくいけどな。」

「大体、冒険家複数人相手にお前1人で向かわせて助太刀しなかったり与えた服がテキトーな時点で気付けよ。」

「マサカ、騙シタノカ!?許セネェ!」


 レッサーゴブリンはその身を自身が放つ炎で燃え上がる。


「洞窟内で炎を使うのか…。もっと早く捨てるべきだったな。」

「ーファイアーインパクトー!!!」


 縛られたレッサーゴブリンを中心に高温の炎が飛ばされる。

 炎は盗賊団を包みこみ…、炎が消えた時には何事もなく盗賊団が立っていた。荷物も無事である。


「ナ、何デ…!?」

「いつお前がこちらに炎を飛ばして来るか分からんからな。全員耐火服を着てるんだよ。」

「ついでに荷物も耐火性の箱に入れてるぜ。

 お前には言ってなかったな。」

「オ前ラ炎大丈夫ナノカヨ!!…ゲホッ!」


 炎による煙が洞窟内を埋め尽くす。

 盗賊団は既にガスマスクを着けている。

 柱に縛られたレッサーゴブリンは当然どうにかできる手段がなく煙で苦しんでいる。


「洞窟内であんな炎出すから悪いんだよ。」

「最後は自分の魔法で自滅か、いっそ哀れだな。」

「下級の魔物が1体いなくなったところで誰も悲しまねえよ。あばよ。」


 盗賊団は荷物を持って出入口とは逆側の壁を動かし隠し通路から脱出する。

 盗賊団が全員通過した後はしっかり壁を閉めた。

 その場には黒煙が充満し縛られて動けないレッサーゴブリンだけが残る。


「チクショウ…!ゴホッゴホッ!」


 レッサーゴブリンは黒煙で著しく衰弱する。出入口の扉が音を立てて崩れた。




 時は少し遡る。

 上空からシナン達は盗賊団が名もなき洞窟内に入っていく様子を見た。

 シナンはなるべく音を立てないように地上へと降りた。

 洞窟入口は無骨な洞穴であり特に珍しいものはない。見張りも罠も見当たらない。


「ここがあの盗賊団の住処ね。」

『あの魔物を助けたいなら急いだ方がいい。

 あの者達、ここで魔物を除名する気だ。』

「それは街に戻ってお巡りさんに知らせる時間もなさそうだね。連絡手段がないのは痛手だ。」


 シナン達は一応罠や見張りに警戒しながら洞窟内に入って行った。

 シナンが懐からロウソクのような物が入ったランタンを取り出し、灯りを付ける。

 洞窟内をしばらく進むと6つの別れ道に当たる。


「どの道を進めばいいんだろう?」

『どの道からも気配がする。どうやら全ての道は同じ場所へと繋がっているようだ。』

「「ありがとう!」」


 シナンと助太郎は正面の道へ駆け出す。

 駆けたその先は行き止まりだった。


「あれ、塞がってる。」

「ん?シナン、灯りは消さなくていいからランタンの灯りを遮ってみて。」

「うん?分かった。」


 シナンはランタンを背後に置き、懐から寝袋を取り出し正面への灯りを遮る。


「やっぱり!」


 壁から縦長の楕円形に光が少し漏れている。

 壁を押してみると僅かに動いた。


「なるほど。」


 シナンは寝袋を片付け、壁を押す。

 壁は動き、倒れた。

 その先は通路が広がり両側の壁にはランタンが吊されている。

 壁の隙間から漏れていた光はこの灯りだったのだろう。


「通路に壁を置く事で見つかりにくくしてたんだ。」

「長い事やってるのか慣れで締め切れずに隙間ができてたみたいだね。」


 シナンはランタンの灯りを消し片付ける。

 そして通路を駆け出した。


 しばらく走ると何やら身体によく無さそうな匂いがし始める。

 何やら周りが曇っている。


「これは、煙?」


 助太郎が煙と認識し、顔の下半分を右手で覆い姿勢を低くする。

 敵の罠の可能性があり辺りを警戒する。何も変わったところはないのだが。


「この煙は通路の先から来てる?

 急いだ方がいいよね。」

「そうだよね、行こう。」

『待て、一旦ワタシと変わるんだ。

 君達にこの空気は害だろう。ワタシなら問題ない。』

「そうなんですか、ではお願いします!」

「ありがとうございます!」


 シナンは上が尖ったリングを取り出し助太郎と共に掴む。

 2人は天使のトライスシと切り替わった。

 トライスシは人とは比べ物にならない速度で通路を突き進む。


「ゲェアッ!」


 通路の先に扉が見えたが右手から放った光の矢で扉だけを破壊する。

 勢いそのままに扉があった部屋へ侵入すると黒煙が充満していた。

 視界は悪いが部屋の真ん中辺りに目的の魔物がいた。柱に縛られ動けず黒煙で衰弱しせきをしている。


『特定の魔物はそこにいる、が盗賊団はあの先から既に逃走したようだね。今から追いかければ盗賊団と対峙し成敗できるだろうが、魔物を優先でいいかい?』

『当然です!今後の盗賊による被害は気になるけど目の前の命は放っておけない!』

『盗賊を倒せるのは俺達だけではないけど、今目の前の生き物を助けられるのはトライスシだけだからね。』

『了解!』


 この会話は脳内で行わられているようなものな為、一瞬の出来事である。

 トライスシは魔物に近付き、鋭い手の爪でロープを切りレッサーゴブリンを抱える。

 そして先程通った道から外へ向かった。


「ナ、ナンダ、オ前ハ…」


 レッサーゴブリンは気絶してしまった。

 トライスシは外へ急ぎ進んだ。

ご覧頂きありがとうございます。

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