第22話 炎のレッサーゴブリン
助太郎とシナンは街道に沿って進む。
地図を参考にして進めば“精霊の森”は遠くない。
都市で馬車に乗って行く手もあったが歩いて行ける距離ではあったため徒歩で行く事にしている。
「そういえばこの大陸ではどんな試練なの?
確か、〈魔の試練〉…だっけ?」
「そう、〈魔の試練〉で合ってるよ。
どんな試練かは私にも分かんないけどね。」
『魔の試練は今、自分が抱えている悩みや懸念を突きつけてくる精神力を試す試練だ。
何か気にしている事があれば今の内に相談などで解決させておくべきだろう。』
「そうか、…そういえば下級ゴブリンとレッサーゴブリンに違いはあるの?」
「特にないよ。普通の魔物よりも劣った魔物の事をナチュラ大陸では下級で呼ぶけど、マジク大陸ではレッサーと呼ぶんだ。
レッサードランはマジク大陸以外にはいないから下級とは呼ばないけどね。」
話しながら進むこと数時間後、振り返ればすっかり都市が見えなくなった。
辺りは低い草むらが生い茂り、草が生えていない道を進んでいる。
周りに人は見当たらない。あまり人が通らない道だからだ。
隠れる場所はないが、襲撃するならばそこそこ都合の良い場所であり、
「なんか暑くなってきたような。」
「ん、あれ俺たちの周りの草、燃えてない?」
シナン達の周りの草むらが囲むように燃えていた。
そして上から何やら声が聞こえる。
「ウオオオオラアア!!!」
「上から来る!?」
「危なっ!」
何者かが頭上から襲いかかって来た。
その者は大きい鈍器を地面に叩きつける。
完全に不意打ちとなったが、大きな声で叫んでいたために助太郎でも回避が間に合った。
代わりにシナンと助太郎の2人は別々に回避したため、飛んで即撤退ができなくなった。
「オイ!避ケンジャネェッ!」
「赤い、レッサーゴブリン?」
その者、燃える炎のように赤いレッサーゴブリンは自分の攻撃を避けた事に腹を立てる。
彼の外見は炎ように逆立った赤髪に普通のレッサーゴブリンの緑の肌とは異なる赤黒い肌。身長は160cm程度で後は横に尖った耳、不良のような目付きにギザ歯、水浴びもできて無さそうな汚れた身体に申し訳程度の服を着ていた。
炎に囲まれたと同時に現れた炎を連想させるレッサーゴブリン、2人は確信する。
「炎のレッサーゴブリン…!」
噂のゴブリンと会ってしまった。
会ったらすぐに飛んで撤退する予定だったが、初撃で軽く分断され即時撤退はできない。
一般人の助太郎では周りの炎を通過するどころか近付くだけでも高熱が厳しい。
それに噂通りならば付近に仲間の盗賊団がいる可能性もある。
「エート、カメメ、間違エタ!金目、ノアルモンモッテルヤツハドッチダ!」
あまり喋り慣れてないのか滑舌が微妙に怪しい。
レッサーゴブリンならば上出来な滑舌なのだが。
金目のある物を奪いに現れたようだ。
「私だ!懐にたくさん道具を持ってる!」
「ソウカ!ダッタラオ前カラダ!!」
シナンが自分に攻撃が向くように返答する。道具を所持しているのは確かなのだが。
炎のレッサーゴブリンも正直にシナンへ突っ込んで行った。
鈍器を振り回し攻撃をしているが、あまりに攻撃が遅く余裕で回避できる。
自分に合った武器ではないようだ。
しかし冒険家の1団体を襲撃できているため油断はしない。攻撃は簡単に避けられるため助太郎の様子と周りの警戒を優先する事にした。
一方、助太郎は周りや炎の外の警戒をしつつシナンとどうやって合流し撤退するかを考えていた。
炎の外はトライスシの支援で確認ができた。
炎の円陣よりも少々離れた位置に何人かの人が待機をしている。
今のところ動く様子はないが、敵意を感じるため味方ではない事は確実だ。盗賊団の一味だと予測できる。
「コノ!コノ!!避ケルンジャネェ!!」
「だったら武器を変えるべきじゃない?」
シナンとレッサーゴブリンは相変わらず戦闘をしている。シナンは攻撃を難なく避け反撃も行っていない。
「コノ武器ハナ、リーダーガ譲ッテクレタ武器ナンダ!オレヲ拾ッテクレタ集団ノリーダーノナ!!
ーバーニングライズーッ!!」
「赤の魔法!?」
レッサーゴブリンが技名を叫ぶと地面に赤い円形の光が複数出現する。
シナンは危険を察知し光のない地点へ回避する。
回避してすぐに光から高温の火柱が噴き出した。
(あの冒険家たちはこの魔法にやられたのね。
魔法を使える相手とは思わず不意を突かれたのかな。)
「ナンデコレモ避ケラレルンダーーッ!!!」
シナンはギリギリだったがレッサーゴブリンは攻撃が当たらない事に腹を立てている。
「シナン!大きく上に飛んで!」
「!」
助太郎がシナンの元へ駆ける。
気付いたシナンも飛行準備をしながら助太郎の元へ走る。
「オイ!逃ゲルノカ!?」
レッサーゴブリンは2人が逃走する事に気付き慌てて追いかける。しかし重い鈍器を持ったままでは追いつかない。
シナンが助太郎が伸ばす手を掴むと一気にその場を急上昇して逃走して行った。
「待チヤガレー!…ゼエゼエ…」
レッサーゴブリンは上に向かって叫ぶが状況は何も変わらない。疲弊したのか息は切れ、周りの炎の壁が消える。
「あーあ、逃げられたなぁ。」
「どう落とし前付けるんだゴブリンくぅん?」
炎の壁が消えたと同時にレッサーゴブリンの元に黒い厚着の集団が近寄る。炎のレッサーゴブリンを連れていると噂の盗賊団である。
「オ前等モ加勢シテレバ勝テタンダ!」
「加勢したいとは思ってたんだけどー、炎の壁のせいで近付けなかったんだよねー。」
「クッ…」
「とりあえずアジトに戻ろうか。」
盗賊団はレッサーゴブリンを連れてアジトへ向かって行った。
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