第16話 気の試練
目の前の光りが薄まり助太郎は目を開く。
周りは背景、床、天井全てが万華鏡を回して覗いてるかのように変化している。
「…ここは?」
「ここは神社の中だよ。
もうすぐ試練が始まるよ。」
シナンが声をかけてすぐ、2人の周りに無数の影が現れそれが人型となる。
人型の影は身長180cmの大柄で右手には刀を持っている。
影は合計20体が現れた。
「これが〈気の試練〉。
影は200人まで出てくるから、全部倒すか2時間まで耐えきれるかの勝負だよ。
影は10回衝撃を与えれば倒せるけど、こっちも向こうからの攻撃を全部で60回受けたら負け。
相手の攻撃を受けると眠くなるから気を付けてね。」
「時間が経つとまた増えるのか...。」
〈気の試練〉…制限時間 2時間の間に総勢200体現れる影の攻撃を耐えきり、起きていられるかの試練。
影は10回の攻撃か一定以上の威力の攻撃で消滅するが、影からの攻撃を受けると眠気が蓄積される。
影からの攻撃を総勢60回受けると気絶してしまい試練失敗となる。
200体の影を倒しきっても勝利となる。
シナンの説明が終わり、試練開始の合図であろう鐘の音が ゴ〜ン となる。
鐘の音と同時に周りを囲っていた影が一斉に襲いかかる。
「伏せてぇ!」
「ひゃいっ!」
シナンの叫びと同時に助太郎はその場に伏せる。
開始前から既に準備をしていた赤い熱光線を左手の義腕からその場を回りながら放つ。
迫っていた影は光線に直撃し、爆発して消滅した。
「10回当てなくても消滅するんだ。」
「爆発が何回分の衝撃になるかは分からないけど、ある程度の威力の衝撃でも倒せるんよ。
光線はしばらく使えないよ。」
第一陣の影を倒してすぐ第二陣の影が10体現れた。
シナンは影に立ち向かい、助太郎は契補送波の能力でシナンを補助する。
一瞬、他人から貰ったこの力を使ってもいいのか?と助太郎は思ったが、常に言語翻訳が発動してる以上今更であった。
シナンの邪魔にならないよう伏せて、シナンの隣で力を送る。
助太郎から送られる青い光のオーラによりシナンは中々疲れず思考が鈍らないため、影達からの攻撃を避けつつ的確に反撃ができていた。
これまでは被弾覚悟で反撃しているのと集中力が1分も続かず敗北していた。
今は集中力が続き、それどころか避けて反撃する余裕すらある極限の健康体であった。
影が残り3体になったところで影の第三陣が現れる。
数は30体である。
まだ体力に余裕があるが、一度にこの数は流石に被弾を覚悟しなければならない。
「やあぁ!」
シナンが声を出し、両腕で連続のパンチを行う。
この数では避けながらの反撃は困難と判断し、被弾覚悟で猛攻を始めた。
影から10回攻撃を受けながらも周りの影を23体は倒せた。
その瞬間に40体の影が出現した。
(具体的な数は分からないけど、次は50くらいかな。
それならギリギリ、勝てる!)
シナンはそう目論み、勝てる希望が見え始めた。
「!、シナン危ない!」
「…え?」
伏せていた助太郎が急速に立ち上がり、シナンの背後に両腕を横に広げて立つ。
助太郎が影達の刀に斬られ続け、倒れた。
その影達は先ほど現れた40体の影や今戦っている影でもない。
40体の影が現れた直後に現れた、残り100体の影であった。
「な、スケタローっ!」
「…俺のことは気にするなっ!
…っ今も攻撃が来てるっ!」
「っ!」
シナンが助太郎を気遣い、一瞬目を逸らすも助太郎の掛け声ですぐ戦闘を再開する。
残りの影が全て現れ、150体の影に囲まれている状況なため一瞬でも気を緩めてはならないのだ。
影側の攻撃は仲間に攻撃は効かないのか、目の前に影がいても構わず攻撃を振り、その攻撃はすり抜けている。
相手の影を自分の盾にする事はできず、単純に数が多いほど影側が有利なのだ。
「だったらこれで!」
時間がある程度経ったため再度、高熱光線を回りながら放つ。
シナンの近くにいた影は光線と爆発で消滅したが、その後ろにいた影は普通に残っている。
自分達の攻撃は味方をすり抜けるが、相手の攻撃はすり抜けず盾にできるようだ。
影の数は残り142体。
完全に囲まれ攻撃も総勢17回は受けている。
(また、負けてしまうの…?
でも今までは行けなかった所までは来れた。
だから次に活かして…、)
「...いや、ダメだ!
諦めちゃダメだあ!」
シナンは諦めかけるが、自分を鼓舞し影に向かっていった。
「最後のその時まで!私は諦めない!
じゃないと、誰も救えない!
アトウさんの約束も、スケタローの約束も、みんな守る!!」
「…シ、シナ、ン...。」
誰かを守る、その為にシナンは諦めない。
気絶寸前の助太郎もその声を聞き、気を保ちながらシナンに力を送る。
青いオーラを纏ったシナンは影に猛攻をしかける。
避ける時間を攻撃に割き、凄まじい攻撃の嵐を繰り出す。
影の数はみるみる減るが影達は怯む事なく攻撃を続ける。
影からの攻撃を受ける度に集中力が削られ眠くなる。
だが、シナンは止まらない。
「うわああああああっ!!!!」
影からの攻撃で眠気がひどく、今のシナンは目の前の敵に猛攻をする事しか考えられなくなっていた。
そんな防御を捨てた攻撃のぶつかり合いがどれだけ続いたか。
100体越えの影が残り1体にまでなっていた。
シナンは肩を大きく動かし荒い呼吸をしており、目が虚気味になっている。まだ契補送波の強化は続いている。
影が迫り攻撃を振る。
シナンも影が迫った瞬間から右ストレートで迎え撃つ。
互いの攻撃が交差し、シナンの拳が先に影を飛ばすがシナンも影の攻撃を受けてしまう。
シナンはその場に倒れる。
影の方は威力が足りなかったのかまだ消滅していない。
倒れたシナンにトドメを刺すべく、影は接近し刀を振り上げ、
「だああああああっ!!!」
今ある最後の力を振り絞った助太郎が影にタックルをした。
影に48回斬られ気絶しそうになるも、最後までシナンへ力を送り続け、シナンが倒れたその時から立ち上がろうと気力を振り絞っていたのだ。
影にタックルをし戦いを知らぬ一般人なりに悪あがきで攻撃をする。
拳に勢いが出ておらず攻撃速度もそこまで早くない弱い攻撃だが、ここの敵は特殊である。
シナンの拳と助太郎のタックルを含め10回の衝撃を与えられ、影は消滅した。
助太郎もその場に倒れる。
影の総勢200体が消滅したその時、試練始まりの合図と同じ鐘の音が鳴る。
試練終わりの合図であった。
ご覧頂きありがとうございました。
分けたら短くなりそうだったので1話に収めました。