第15話 傷心を越えて
アトウが頭領を辞め、自ら処刑に踏み込んだその日、サムライやニンジャ、シナンも大きなショックを受けた。
助太郎は今日初めてこの里に来たために、あまりの怒涛の展開に着いてこれておらず混乱気味である。
その日は皆、休む事にしたのであった。
そして次の日。
早く目が覚めた助太郎は既に起きているサムライたちと話し、朝食を作る手伝いをしていた。
朝食がもうすぐ出来上がる時にはサムライの者たちは皆起き、シナンも起きて食堂に来ていた。
「…あ、シナン、おはよう!
もうすぐ朝食できるよ…!」
「う、うん。」
シナンは昨日のショックが抜け切れておらずいつもよりもテンションが低い。
対して助太郎はいつもより明るく振る舞っている。空元気に見えなくもない。
助太郎は食器を机に運び、シナンの近くに来た時、彼女は呼び止めた。
「スケタロー、いつもよりも、張り切ってるね。
(無理してるように思えるけど。)」
「ああ、うん。
俺は比較的平穏な所で生きてきたから殺伐とした雰囲気はあまり慣れてなくて、どういう態度でいればいいかもよく分からない。
でもシナンにとってはとても辛い事だったのは確かだから暗くはなるのは当然。
皆が暗くなるぐらいなら、せめて俺だけでも明るくいようとは思ったんだ。」
逆にその行動が苦しめる一因になり得る可能性も助太郎は考慮していたが、やはり全員が暗くなるのはよくないと結論付けての行動でもあった。
シナンは会話後、しばらく何かを考える。
そして両手で顔を叩く。左側は義手のせいで痛そうである。
「フゥー、よし。
いつまでもクヨクヨしてはいられない。
アトウさん自身が決めた結果に私が責任を負ってたら、アトウさんも悲しむよね!
“混沌”で苦しむ誰かを助ける約束も絶対守る!
そのためにも、今は朝ごはんを食べないと!」
シナンは早くも立ち直った。
朝食の席に座りサムライの皆といただいた。
「いただきますっ!」
「なんだ今のは?」
「スケタローの故郷にある文化で食事前に食材と作った人への感謝の挨拶みたいだよ。」
「ふむ、食に感謝か。
拙者もするか。」
「お、我も致そう。」
「ワシも。」
「あ、食後はまた別の挨拶があって…」
※「いただきます」の意味は助太郎の解釈なため完全に正しいとは限りません。
サムライたちはシナンの合掌の意味に感銘を受けたのか次々と皆が真似し始めた。
結局、この場にいた者全員が「いただきます」と「ごちそうさま」を行った。
後々、サムライとニンジャにこの文化が定着するのであった。
「シナン殿、また〈気の試練〉に挑みに来たのでしょうが、体調は大丈夫なのですか?
特に今回はアトウ殿の事がありますので。」
「うん、いつまでも気にしてたらアトウさんが悲しむだろうからね。
それに、今回こそは絶対にできる!そんな気がするんだ。」
「左様ですか。
これまでよりも活力が伝わりますので今回は良い結果が出せるでしょう。
御連れのスケタロウ殿も御奮闘を。」
「え、俺も挑む流れなの?」
「スケタローも挑んでみる?
試練では死なないし怪我もしないからね。」
「そもそも試練ってのがよく分からないんだけど…。」
「では私が御説明を。
このスサノには三つの大陸がある事は既に聞いていますね?
その大陸にそれぞれ一つ、試練と呼ばれる建造物があるのです。
西の地サバイヴ大陸には〈筋の試練〉、
東の地マジク大陸には〈魔の試練〉、
そしてここ南の地ナチュラ大陸に〈気の試練〉があります。
この三つ試練の共通事項として、試練は崩れた建造物のような建物でありその内部で行います。
試練は不思議な事に怪我や死亡をしてしまっても入り口に挑む前の状態で戻ります。
それ故に神がこの世界を作ると同時に建てた、という伝承もあります。
そして試練の攻略に成功する事で、不可思議な力がその身に宿ります。
〈気の試練〉ならば強力な精神力が宿ります。」
「私も今回で6回目になるね。
今まで失敗してるけど特に後遺症もなく無事だよ。」
〈気の試練〉の地に案内され石材の階段を歩いている間、案内役のサムライとシナンに試練について助太郎は聞いた。
実際にやれば分かるだろうが、聞いてもパッとは分からない。
(怪我や後遺症もないなら試練に挑んでみようかな。
“混沌”と関係ないなら〈混沌の邪神〉の手がかりもないし。)
一応この星に連れてこられてまだ四日目なため、目的はまだ忘れていない。
そんなこんなで階段を上がりきり、試練の地に着いた。
目の前には先端が欠けた鳥居が建ち、その先には古く老朽化している神社が建っていた。
屋根の瓦は殆ど無くなり、木の柱は傷だらけで障子は全て破れて穴が空いている。
地球の神社と明確に異なる点は、賽銭箱の前に魔法陣のような模様が地面にはっきりと描かれてある事ぐらいだ。
どう見ても神社の廃虚としか思えない。
「この神社の賽銭箱の前にある印の上に立つ事で〈気の試練〉に挑戦できます。
一度に挑める人数は四人までです。」
「案内ありがとね。」
案内役のサムライは鳥居の前で待機した。
里に帰るまでが彼の仕事なのだろう。
『二人とも、これは人が天使に進化するため大事な試練だ。
薄々気付いているとは思うが、試練でワタシは一切の干渉を行わない。
君達だけの力で試練を乗り越えることだ。』
「んー、やっぱりそうなるよね。
でも今日は本当にいける気がするから大丈夫だよ。」
「うん、邪魔にならないよう頑張ります。」
シナンは自分を鼓舞し助太郎は苦笑い気味に言う。
二人は賽銭箱の印の上に立つ。
しばらくして印が光り、二人姿が消える。
その場には鳥居の前で待機するサムライだけが残る。
二人の〈気の試練〉が始まった。
ご覧頂きありがとうございました。
みんなの立ち直りが早すぎたかな…