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第14話 頭領の責務

 ニンジャの師匠がこの場を去ったのを確認し、トライスシは目の前の相手に視線を戻す。

 既にサムライ達やシナン達、ニンジャの師匠との連戦により相手はボロボロである。

 “混沌”とアトウ本人の気力で未だ戦闘を続行できるのだろう。


『これ以上は、長引かせない。

 もう終わらせよう。』


 トライスシはそう言いながら姿勢を下げ、右手を後方に構える。


「本当に、終わらせてくれるの...?」

「俺たちにできる事はありますか?」

『問題ない、あそこまで弱っていればね。』


 シナンと助太郎は普段のトライスシとは立ち位置が逆になり、トライスシの中にいる状態である。

 ちなみにトライスシが現世に出ても、彼の言葉はこの二人にしか伝わらない。

 二人の言葉もトライスシの中にいる間はトライスシにしか聞こえない。


「オオオッ!!」


 アトウがトライスシに突っ込み叩き斬ろうとする。

 トライスシも右手に力を込め、右手を空色の輝きに染める。


ルッ!」

「ゴォォッ!」


 アトウはトライスシの首を斬り伏せようと刀を横薙ぎに振るが、トライスシは見てから更に姿勢を下げ回避し、アトウの胸部に右手で発勁を当てる。


「ッヌワアァァぁぁっ!!」


 アトウは断末魔を上げ吹き飛ばされる。

 黒いモヤを吹き出しながら。


『これでもう“混沌”は大丈夫だ。

 早く治療させてやると良い。』


 トライスシはそう言って身体を光らせ、シナンと助太郎の二人と切り替わった。


「……!アトウさん!

 スケタロー、!」

「うん、サムライの皆さんを呼び戻すよ。

 医療に詳しい人もここに連れて来る!」


 助太郎はそう言いながら避難した者達に頭領は戻ったと伝えに、森に走った。

 シナンも助太郎を見届けながら瀕死で倒れているアトウに回復薬をかけたり飲ませたりして、傷付いた部位を包帯で巻いた。



 しばらくしてニンジャの支援もあり助太郎がこの里の医者を連れ、アトウは何とか安静な場所へ運ばれ眠っている。

 シナンと助太郎は戻ってきたサムライたちに案内され客室で休んでいる。

 部屋は障子と畳の和室で食事も用意された。

 ニンジャ達も別室で、もてなされている。

 サムライたちからの感謝なのだろう。


「なんとか、頭領の方を生かせてよかったね。」

「うん、トライスシには感謝しないとね。

 スケタローもお疲れ様。」


 シナンはこの里に来る度に世話になったアトウを救えて嬉しい一方、彼の怪我や今後を考えると不安で、表情は微妙な笑顔になっていた。

 助太郎も何とか笑顔でいようとはするが、儚げな表情になっている。

 トライスシは助太郎の中で休みながら考え事をしている。


「…頭領さんは、どうなるんだろう...?」

「…普通に考えれば処罰、降格か追放だね。

 アトウさんなら人望はあるから少しは軽くなると思うけど。」


 サムライの里の頭領アトウは普段、里の者たちやニンジャと協力し合い安定した生活を里の皆が送る事ができていた。そのため里の者たちからの人望は厚い。

 しかし、いくら人望が厚く外的要因である“混沌”が原因でも、里を荒らし里民に刃を向けたのだ。

 ただでは済まないだろう。

 ちなみに“混沌”の事は避難民が戻ってきた時点で皆に話している。


「シナン殿とその御連れ様。」


 サムライの男性が障子を開き声をかける。


「頭領の暴走を止めていただき今一度、御感謝の言葉を申し上げます。」

「あぁ、どうも。

 …それとアトウさんの処罰はどうなるのでしょうか...?」


 シナンは恐る恐るアトウの今後を聞く。


「頭領は“混沌”、という奇怪なものに正常ではなかった、そうですね。

 その件を考慮しつつ我々サムライとニンジャの方々で会議を行い、頭領は引き続き〈頭領〉の立場を続行ただし次はない、という結論に至りました。」

「そう、なんだ。」


 シナンはサムライの報告を聞き安堵する。が、


「しかし会議が終わる直前に目が覚めた頭領が会議室に現れました。

 そして、

{拙者のやった事は許される事ではない。

 奇怪な気配が原因とされたそうだが、今回の件で理解した。

 拙者は、破壊本能を抱えている。

 あの暴挙は少なからず拙者の意思を含んでおった。

 こんな者を、生かす訳にはいかぬ。

 拙者への処罰は島流しで頼む。}

 そう仰いました…。」

「っ...!」


 アトウは暴走している間の記憶が残っていた。

 そしてその暴走には、自分の意思が含まれていた自覚があり、無罪は己が納得できなかったのである。


 このサムライの里では島流しの刑が最も重い。

 この辺りは断崖絶壁の下にしか海はなく、この付近の海は肉食の魚類や鳥類多く生息している。


 シナンは部屋を出て走る。

 助太郎も報告に来たサムライと共にシナンを追いかける。



 ここは島流しの処刑場、と言っても断崖絶壁に柵はなく下は海が広がるだけの場所である。

 アトウは島流し用の簡単な服だけ着て崖の前に立ち、周りにはサムライたちがいる。


「頭領、考え直しませんか?

 我々は今まで頭領の指揮でやってこれて…」

「そうだよ!何も自分から処刑にしなくてもいいじゃんか!」


 シナンが処刑前にこの場へ走ってきた。

 彼女やサムライたちがアトウ自らの処罰に抗議するが、


「今まで頭領としての責務を全うできたのは御主らの支えがあったからこそである。

 拙者がいなくとも十分に生活していられるであろう。

 それに、拙者はいつまた暴挙に出るか分からぬ。

 …また破壊本能が湧き上がる自分が恐いのだ…!」


 アトウは覚悟を決めた声でそう言った。


「シナン殿、これはサムライの、頭領としての責務だ…!

 もう元の生活へは戻れぬ。

 もしお主が、いやお主等が“混沌”とやらに対処できるならば、拙者のような者を出さないでくれ。

 これが拙者からの頼みだ!」


 アトウはシナンと後から追い付いた助太郎に面向かって力強く言う。

 そしてアトウは崖下にその身を投げ出した。


「アトウさあああぁぁぁん!!!」


 その場にはシナンの叫び声と海に何かが着水した音が響いたのであった。

ご覧頂きありがとうございました。

崖からの飛び降りは下が海でも大変危険ですので、真似しないようにしましょう。

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