第13話 頭領との対決
立ち絵あります。
苦手な方はご注意を。
サムライ達が撤退していくのを確認してシナンは叫ぶ。
「アトウさんっ、私たちが相手だ!!」
アトウの意を自分に向ける。
シナンは臨戦態勢を取り、後ろで助太郎が使っている能力で力が送られ青いオーラを纏っている。
「斬リ伏セルッ!」
撤退していくサムライに目も向けず、目の前のシナンに刀を振り下ろす。
シナンは左に跳び避ける。
刀が振り落とされた地点は地面が大きく抉れている。
(すごい威力…!だけど今なら、全部避けられる!)
今のシナンは助太郎の能力でいつもよりも身体が軽い。
助太郎と契約した時点で体調が大きく優れていたが、力が送られている間はさらなる身体能力の向上がされている。
今もアトウの連続の斬撃が続いているが、危なげなく避けられている。
(“混沌”でおかしくなっているならそれを取り除きたいけど、それはどうすればできるんだろう...。)
シナンは避けている間、相手をどうすれば救えるのか考えていた。
前回のレッサードランは“混沌”ごと消炭にして撃破してしまいレッサードラン本体を救う事はできなかった。
危険度は低いが討伐対象であったために罪悪感は薄いのだが人間、それも知り合いとなると話は変わる。
例え他人は切り捨てられる覚悟を持った者であっても、身内であれば撃破は厳しくなるであろう。
シナンの場合は害のない野生動物や人であれば無条件で助けたくなる性分故に、中々反撃ができずにいた。
『“混沌”は大きな衝撃、物理的でも魔法でもいい。
攻撃を与えれば消滅する。
その者が耐えられれば生かす事もできるだろう。
すまない、言い忘れていた。』
「えぇっ!それも早く言って!」
“混沌”は付いた生き物が耐えれば攻撃により消滅させられたのである。
トライスシもとい天使にとっては当たり前の事だったために言い忘れてしまっていた。
トライスシは大きく反省した。
それを聞いたシナンは思わず声を上げながら斬撃を避け、相手の腹に左手で殴りつけた。
腹を殴られたアトウは怯みながらもチャンスとばかりにシナンの左腕を掴む。
「あ、やばい。」
シナンは掴まれた手を振り解こうと暴れアトウの各所が攻撃されるが離れる気配は全くない。
助太郎も全力で力を送るが状況は変わらない。
アトウの身体は重傷だが力は緩まない。
まるで痛みを感じてないかのように。
刀を掲げ、シナンの頭上へ振り下ろし...、
アトウの刀とシナンの頭の間に長刀が割り込み、金属がぶつかる音を響かせアトウの刀を受け流した。
「全く、ワシが感じた神聖な気配は気のせいか?
お主ら、こいつに加減はいらぬ。
早く本気で戦わぬか!」
現れたのは里に着く寸前で会ったニンジャの師匠であった。
身の丈ほどある長刀を横に振り、アトウは後退し避ける。
「時間がかかるならば、ワシが奴を引き受けよう。
今のあやつは目の前の者しか見えておらぬようでな。」
「あ、ありがとうございます。」
シナンは一旦その場を後にし助太郎の元へ向かう。
助太郎もトライスシからシナンの詳しい状況を聞き駆け寄る。
「当然だけどアトウさんて、あんなに強かったんだ。
“混沌”のせいか本人の気力なのか全然怯まなかった…。
あの人が来てくれなきゃ私は斬られてた...。」
「トライスシさん、お願いしてもいいですか?」
『無論だ。最初からワタシにさせても構わなかったのだが。』
『(しかし、スケタロウが使ったあの力、初めて見たはずだがどこかで…、
考えるのは後にしよう。)』
トライスシは内心、助太郎の奇妙な力の事を考えていたがすぐに今からの戦いに集中する事にした。
シナンは懐から輪を取り出し正面に掲げる。
助太郎もその輪に掴む。
ニンジャの師匠は向かってくるアトウの連続の斬撃を避けまたは長刀で受け流して接近し、長刀の持ち手の先端を胸部にぶつける。
攻撃してすぐまた後退し接近の繰り返しをしていた。
(こやつの攻撃、従来よりも見切りやすく単純だが、いくら攻撃しても一切疲れが見えぬな。
こやつにここまでの体力も気力もないはず。
やはりこの不穏な気配の影響か。)
アトウとよく関わるニンジャの師匠はアトウの異常さに気付いていた。
“混沌”の気配を感じていた。
流れ作業のように斬撃を避けていると、刀を避けた直前に斬撃が身体を引き裂いた。
ニンジャの師匠は驚きながらも即後退する。
(刀は避けたはず、まさかカマイタチを起こしたのか!?)
着物は切れてしまい肌が露わになり、肌には切筋に沿った傷が付いている。
切れた着物を抑えながらどうしたものかと距離を取って様子見でいると、
後ろから空色の白い光が輝いた。
「ガッ!」
光が収まってすぐ青い人物が飛び出し、アトウに突っ込んだ。
「ヌゥッ!?」
「やっと現れたか、神聖な気配の正体め。」
青い人物、トライスシはアトウを大きく後ろに引きずらせ、頭を半分後ろに向きニンジャの師匠を見る。
「ギッ。」
「お主一人で十分か、ではワシは撤退させてもらうかの。」
ニンジャの師匠は出血はしていないが傷を負ったとは思えぬ身のこなしでその場を退散するのであった。
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