第12話 狂ったらしい頭領
木々は数多に生え、地面は草が生え放題の森の中を隠密行動のように進む人物が二人。
その二人は辺りを警戒しながらゆっくり進む。(片方の一人はもう一人の見よう見真似だが)
その二人はもちろん助太郎とシナンである。
(おかしいな、サムライの里は強い人は多いけど温厚な里のはず。どうしてこんなに殺気が…
私の知り合いはいるから大丈夫だと思うけど気を付けて。)
『…そうシナンは思っているよ。
スケタロウからは何か伝える事はあるかい?』
(ありがとう、俺からは今はないよ。)
今は進みながら二人にしか声が聞こえないトライスシを通して声を発さずに対話をしている。
ちなみにトライスシからの提案である。
『そうか、…!
これは、“混沌”の気配か!?』
「「!」」
トライスシが今向かっている先から混沌の気配を感じ取った。
シナンと助太郎の二人も驚く。
(昨日出たばかりなのにもう二体目が!?
まさかもう各地に溢れている可能性が?)
(前回はスキルとシナンのおかげでトドメを刺せたけど、それはトライスシが弱らせたのもあるだろうし、もしレッサードラン、だっけ?以外の生き物にも“混沌”が付くとしたら…さらに強敵になるとも...。)
『…、いざとなったらシナンが持っている輪を二人で掴むといい。
ワタシが代わりに行おう。』
(ありがとう!!)
(ありがとうございます!)
トライスシが戦ってくれるのは二人にとって本当にありがたいことであった。
前回の戦いでは負けてしまっているが、それは地上では天使であるトライスシは力を引き出せないからだ。
あの時は倒せなかったが全力の攻撃で敵に致命傷を与える事はでき、そのおかげでシナン達はトドメを刺せたのである。
三人で(喋ってはいない)会話をしていると目の前に人が音もなく降り立った。
助太郎とシナンは足を止める。
目の前の人物は女性で長く黒い膝まで伸びる長髪と二本のアホ毛にマゼンダ色の着物と籠手を装備し腰には短刀を下げている。なにより身体はとても細く病気を疑う程である。
その人物は草の生える地面を音もなく歩き二人の前に立つ。
「もしかして、“ニンジャ”の方ですか?」
「はい、私はシノリ。
この先の里は争いが起きているので向かわない事を勧めます。」
目の前の人物はシノリと名乗り、“ニンジャ”らしい。
争いに巻き込まれないよう里に向かう二人を止めに来たようだ。
「サムライの里で争いが!?
一体何が起きてるの!?」
「里では頭領が今日、突然自分以外のサムライは不要と言い出し、里の者たちに刃を向けました。
今は戦える者共で応戦してニンジャも避難の救援をしているところです。」
「そこには知り合いがいるんです、どうか!」
「気持ちはわかります。
ですがそれならあなたにも分かるでしょう、サムライは強いと。
犠牲者を増やさぬためにも通す訳には…」
「良いではないかシノリよ。」
「師匠!?」
部外者を通す訳にはいかないシノリの横から老人が歩いてきた。
白髪で前髪を上げた長髪にシワのある顔に髭が生えいかにもな老人だが、強者感のある雰囲気であった。
「こやつらからは特別な何かを感じる。
サムライの長に突然現れた気配とは対照的な何かをな。
存外、こやつらに任せれば何とかしてくれるかもしれぬぞ。」
「師匠がそこまで言うのであれば。
この先は本当に危険ですのでお気を付けてください。では私どもはこれで」
ニンジャとその師匠はこの先への通行を許可し、その場を去った。
シナンは進行を再開し助太郎も着いていく。
(ニンジャって人もいるんだね。
サムライも特別強い人みたいだし。)
(うん、サムライは剣術と武術の達人でニンジャは暗器や隠密とかの達人なの。
ニンジャはあまり見ないけどね。)
(そうなのか。
もしかして争いと“混沌”に繋がりがあるのだろうか。)
(とにかく見てみなきゃ分からない。
急ごう!)
この会話は心の声をトライスシ経由で行われている。
草木を進み続け、人の叫び声や金属同士がぶつかる音が聞こえ始め、煙の臭いがしてきた。
それらを察知すると二人はさらに急いで進み里の前に着いた。
草むらから里の様子を伺う。
「頭領!一体どうしたと言うんですか!」
「本当に我々を裏切ったんです!?」
「ダマレッ!さむらいハ拙者1人で十分!
オマエタチハ大人シク滅ビヨ!!」
袴田を着た屈強な男性達が中でも一際強そうな男性一人を相手に刀と言葉をぶつかり合っている。
彼らがサムライで頭領と呼ばれた一際強そうな男性が彼らの長だ。
頭領の者は声が篭ってほんの少し身体から黒い霧のようなモノが出ている。
「い、一体何が起きて…」
「アトウさん...、一体どうして…。」
『…残念な知らせだ。
あの頭領という者に少量だが“混沌”がいる。
ワタシが感じ取った気配は彼のモノだろう。』
「そんな!?」
「人にも付くんだ...。」
頭領のアトウと知り合いらしいシナンがショックを受けていたところに、“混沌”が付いている事実でさらに衝撃を受ける。
助太郎はもはや目の前で起きている本気の斬り合いとアトウの殺気に怯えている。
そんな事をしている間にも斬り合いは続く。
サムライ達の太刀筋は流石は達人と言うべきか頭領を相手に問いかけながらも、躊躇いなく的確な連携で斬りかかっている。
その剣術はもはや美しい。
対してアトウの剣術は妙に粗い。
向かってくる攻撃を全て弾く反射神経こそあるが、力任せで刀を振るっている事がサムライ達と比較すると分かる。
シナンは見ていられなくなり草むらから飛び出しアトウの元に走って行った。
その間にアトウはその場を回転し周りのサムライを薙ぎ払う。
そして目の前に倒れたサムライを斬り付けようとしたところで、走ってきたシナンが左腕の義腕で刀を掴んで止める。
辺りには金属同士がぶつかる音が響く。
義腕と刀は互いに無傷だがシナンは押されている。
「一体、何が、あったの...?」
「邪魔ヲスルナラバ、キサマモ斬リ捨テル!」
アトウのデタラメな力によりシナンはどんどん押される。
(怯えるな、俺。女の子が躊躇いもなく向かって行ったんだ!男の俺がいつまでも怯えるな!!)
「シナンっ!」
「…っ、おっ、いける!」
シナンの勇姿に助太郎は惨状と覇気に怯える内心を振り払い、助太郎は契補送波の能力でシナンに力を送る。
刀が生身に迫る前に相手を刀ごと投げ飛ばす。
「皆さん、ここは私たちに任せて早く避難を!
アトウさんはどうにか止めます!」
「シナン殿、任せて…いいのだな?」
サムライ達は頭領の事だから自分達で解決しなければと思っていたが、何人で挑んでもとても敵う相手ではなかった。
面識があるとはいえ余所者であるシナンに任せていいのだろうかという不安もあったが、
「もちろん!任せて!!」
堂々とした返答で不安が少しは解消される。
サムライ達は不安は残りつつもシナンに任せる事にし撤退していった。
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