第11話 出発して野宿
窓から朝日が差し込む。
鳥のさえずりが僅かに聞こえてくる。
日の光で二人の意識が覚める。
助太郎は上半身だけ起き上がり、両手を上げあくびをする。
シナンは猫のような伸びをし、目と口を閉じ「ん〜」と声を出している。
意識も目も完全に覚めてから各自、自分の服に着替えて宿の服を戻し忘れ物がないか確認する。
出る準備ができてから宿の朝食を取り、宿を出た。ちなみに代金は予約した時点で払っている。
「よーし、これからピリオド大森林に入って〈気の試練〉のある社に行こう!...ん?」
「お?」
これから街を出てしばしの冒険に出る気でいたが、落とし物を探している人を見かける。
当然シナンは即助けに行き助太郎も付き合う。
落とし物を無事見つけ出した後、この街に始めて来た人を見かけて道案内したり、店の開店時間までに積み荷を店内へ運ぶ作業が間に合わなくて困っている店主を手伝ったり、素材が足りなく困っている人に手持ちの素材を渡して回ったり、その他諸々…。
困っている人を見かけては一々助けに行っている内に朝だった時間は既に昼前になっていた。
もうついでに早めの昼食を街で取り、ようやく街を出た。人が多い街でも今は流石に困っている人はいなさそうだった。
街を出て森へは歩いていく。
シナンが助太郎を担いで飛んで行くのもアリだったが試練を受ける前に疲れる事は控えておきたかったのだ。
途中、人力車の修理を手伝ったり、野生動物に追われている冒険者達を助けたり、飢えて動けない旅人に食料を少し譲ったり、困っている人を見かけては助けを繰り返している内にピリオド大森林の入り口へ着いた。
時間は既に夕刻で周りは陽の光で橙色に染まっている。
結局、森に入るもあまり進展せずに夜を迎えた。
これ以上進むのはいろいろ都合が悪いためここで野宿をする事にした。
シナンは着物の懐から食器や調理器具と食材を取り出した。
分かっていても着物から明らかに大きな物を出し入れする光景には驚く助太郎である。
「さ!何か作ってみて!」
「…善処するよ。」
迂闊に料理が得意だと言ったばかりに期待を持たれて料理を任されてしまった。プレッシャーが重い。
シナンは焚き火を起こした後、テントを張っている。
この星、スサノは地球と似た所が多々あった。
それは料理も例外ではなかった。
ならば材料の詳細が分かれば、自分の知るレシピでも作れる可能性はある。
「この材料を推測するに作れるのは...、明日の朝にまた食べる事も考えると、茹でるのが妥当かな。香辛料らしきものも味の濃さを考慮して量をブツブツ...」
助太郎は材料の考察をしながら調理に入った。
シナンはテントを張りながら助太郎の料理に期待する。
一人で旅している時は自分で料理ができないため保存力に特化した質素なものしか食べられない。
不味くはないが上手く調理したものには敵わない。
たまに誰かのグループに一時的に加わる事もあるが、その時の一、ニ番目くらいには楽しみな事が料理を食べられることなのである。
しばらく共に行く相手が料理ができるならばさせない手はない。
強引に料理当番を任せて重荷だろうが期待せずにはいられなかったのだ。
テントを張り終えたシナンは助太郎の料理を満面の笑みで待つ。当然周りの警戒は怠っていない。
助太郎からしたらプレッシャーが高まるのだが今は調理に集中して火加減に気を付け少し別皿に移して味見をしている。
味見の度に助太郎と味覚を共有しているトライスシが『美味い』と言っているためシナンの期待は加速する。
しばらくして料理が完成する。
シチューのようなものである。
「味見はしたから美味しくはできたはず。
トライスシには美味しかったみたいだけどシナンの口に合うといいかな。」
「美味しそー、いただきます!」
シナンは満面の笑みでシチューを取り皿に装い食べる。
「おいしーー!!店で出せるぐらいに美味しいよ!!」
「よかった…。」
『当然さ。これがワタシの好物の1つなのもあるが本当に美味しい。自信を持っていい。』
シナンの口にも合ったようである。
助太郎も安心する。
夕食を終えテントで睡眠を取った。
火の番はシナンが先で数時間後は助太郎が見た。
翌日。
余っていたシチューを温め直し朝食にする。
その後はまた森の進行を再開する。
歩きながらこの後のことを話す。
「今は“サムライの里”に向かってるよ。
試練に挑む時いつもそこでお世話になっててね。
みんないい人で…、...。」
「?、シナン、どうしたの?」
「この先に普段はない殺伐とした気配を感じる。
ここからは隠れながら行こう。」
「...分かった。」
シナンはいつもなら感じない気配で警戒態勢で進んでいく。
助太郎もなるべく息を潜め、シナンに着いていくのであった。
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