第10話 冒険前の準備
多くの人が利用するこの街の商業区。
多くの人の中にはシナンも含まれる。
ギルドでの用事を終えたシナンと彼女の連れである助太郎は商業区に来ていた。
そこそこ長い道のりになるため、必要なものを買い揃えている。
保存の効く食料を大量に、助太郎用の男性服をいくつか、そして今は薬屋に来ていた。
薬屋では薬草を上手く加工した薬もあれば薬草がそのまま売られてもいる。
塗り薬に飲み薬と種類も豊富で包帯もある。
その中でも特に目を引くものが瓶に入った薄く光る液体であった。
これは回復薬と呼ばれ魔法大陸からの輸入品である。
効果は体の傷の修復や疲労、病気の回復が即発動し、飲んでも塗っても効果が発揮される優れものである。
しかし数が少ないことや輸入品であるために、国産である普通の薬草と比べると値段は凄まじく高額である。
とても気軽に手を出せる品ではないが、
「包帯とこの塗り薬を八つと回復薬を五つください。」
シナンは普通に購入した。
「ほいほい、今日はいつもよりも少ないね。」
「今日はあまり使わなかったからね。」
店員も慣れていた。
シナンは購入した品を右の袖の中にしまう。
「買い物の時ずっと思ってたけど、そこに入れてたら落とさない?」
「ああ、この服は中に道具をたくさん収納できる魔法大陸の物だよ。
鞄が必要なくて楽で便利なんだよね。」
「もちろんそれも高級品だけどな、毎度あり。」
そんな高級品を少し破いてしまっているのだが…、そこはシナンの身体がビームを撃ったり光の翼を生やして飛んだりするため仕方なし。
シナンと薬屋の店員の説明で助太郎はなんとなく理解する。
魔法大陸の技術とシナンのお金を使う思い切りさは凄いと。
店を出て人通りの邪魔にならない場所に立つ。
「買い物は終わったよ!
これから試練を受けに森の奥に行って…、と思ってたけどスケタロー疲れてそうだね。
私は元気が有り余ってるけど、今日は宿で休もっか。」
「ごめん、ありがとう。
今日だけでいろいろあったから確かに疲れちゃったみたい...。」
助太郎は苦笑いをしながら答えた。
早速宿の予約に行こうと宿のある地区に向かう。
途中で迷子の子を助けたり、道の落し物を保安局に預けたりして日が暮れてきたが宿の地区に着く。
宿は予約済みの部屋や使用中の部屋が多く中々予約が取れなかったが、広めの一人部屋をなんとか予約する事ができた。
床には畳が敷きられ和室のようである。
そして宿の部屋にいる中、助太郎はある事に気付きシナンに問いかける。
「そういえば、そのー、お手洗い、はあるかな?」
「お手洗いなら部屋を出た廊下の奥にあるよ。
気付いてやれなかったのはごめんね。」
「ありがとう!じゃあ、ちょっと行ってくる!」
助太郎は返事を聞きお礼を言った後、早歩きでトイレに向かっていった。
トイレは二部屋あり文字が書いてある。
男性用と女性用と書いている。
当然男性用の部屋に入る。
部屋は個室のみとなっており、助太郎は個室に入る。
そこには和式トイレ、によく似た石を加工したようなものがあった。
(和式トイレだ...。この星、地球に似た文化が結構多いのかな。)
そう思いながら特に何事もなく用を済ます事ができ個室を出る。
よく見たら出入り口にはいかにも手を洗ってくださいとばかりに蛇口と排水溝らしきものがあった。
(実はここが日本と言われても今なら信じてしまいそう。)
蛇口らしきものを捻ると透明な水が出た。
特に問題もなく手を洗い、部屋に戻る。
「夕食はあと一時間後からできるようになるよ。
それまで今後の予定とか話しておこうか。」
「そうだね。」
翌日からはシナンが〈気の試練〉に挑戦するためにピリオド大森林の奥へ行く事になる。
途中で誰かを助ける事や多少は助太郎に合わせた進行になると予想されるため数日は野宿になると思われる。
シナンは行き慣れた道のりではあるが一般人の助太郎を連れて行くため計画はしっかり立てる必要がある。
「野生動物は私が対応するとして、野宿になると思うからしばらく食事は質素なものになるよ。」
「俺、料理はそこそこ得意な自信はあるのだが、そういえば異星の材料で料理なんてできるだろうか。」
「え、スケタロー料理できるの!?
じゃあお願いしようかな。」
「いやでも材料は故郷と違うだろうし…」
「一回だけでもいいから!ね?」
「…分かった、ベストは尽くすよ。」
料理が得意だと知り野宿中の食事は助太郎にやらせてみる事になった。
移動は基本は徒歩で飛ぶ場合は一声かけるという約束をした。
トライスシは助太郎が無事ならば治癒に問題はないそうだ。
いろいろと話していると夕食の時間となった。
夕食は食事用の部屋で取る。
夕食の献立はお米らしきものに半分に切った焼魚、野菜を炒めたようなサラダに味噌汁のようなスープの定食のようなものだった。
野菜が強調されているくらいで日本の和食に近いような献立だった。
夕食は美味しくいただいた。
湯浴びもできるようで汚れも取れた。
外もすっかりと暗くなり窓からは建物から淡い橙色の灯りが見える。
宿用の服に着替え、後は睡眠なのだが、一人部屋なため布団は一人分しかない。
「俺が布団なしで寝るよ。俺だけ布団で寝るのはなんか気になるし。」
「いやいや、私の方が硬い場所で寝るのは慣れてるからスケタローが布団使いなよ。そんな気にしなくていいから。」
言い合いの末、枕は使わず助太郎は敷布団を、シナンは掛け布団を掛けて眠った。
ご覧頂きありがとうございました。
そういえばまだ1日が終わってなかった事に気が付いたので、出発前に休ませました。