第9話 用事を済まして
今いる街の冒険家ギルドの施設に着いた。
建物の入り口はのれんが掛けられて解放されている。
この街の建物はよく見ると時代劇の舞台のような和風の雰囲気だ。
冒険家ギルドに入り、シナンは受付に向かう。
「どもー!依頼にあったピリオド大森林の薬草を持って来ました!」
そういうとシナンは懐から薬草の入った袋を取り出し受付の人に渡した。
シナンが受けていた依頼はあの森、ピリオド大森林に生える薬草を採取してくることだった。
「はい、では確認のため身分証の提示の上、お掛けになってお待ち下さい。」
「はーい。」
シナンは受付に身分証を提出し、助太郎の元へ戻る。
「スケタロー、他にもやる事あるから、まあここに座ってて。」
「うん、分かった。」
シナンは机と椅子のある席に助太郎を案内させ、自分は別の人物の元へ行った。
シナンが向かった先には屈強な外見の男性がいる。
ベテランの冒険家のようだ。
「はい、頼まれてた鉱石だよ!これで足りるかな。」
「おう、問題ねえ。いつもすまんなぁ。
ほいっ、礼の品だ。」
懐から鉱石が入った袋を男性に渡す。
鉱石の採取を頼まれていたようだ。
渡し終え礼を受け取ると今度は男性二人女性一人のチームの元へ向かう。
また懐から何かが入った袋を取り出し、中身を見せる。
「言ってた落し物ってこれの事かな?
損傷とかないよね?」
「おお!ホントに見つけてくれたのか!?
ありがてぇ!もう見つからねえと思ってたんだ!」
「良かったじゃん!」
「ありがとうございます。
これがお礼の物品になります。」
このチームからはリーダーの人から落し物の探索を頼まれていた。
お礼を受け取るとまた違う人物の元へ向かう。
(凄い、自分の依頼をしながらたくさんの人達を助けてたのか。俺やトライスシを含めて。)
「おう小僧、シナンに助けられたか?」
助太郎がシナンに憧れの目で見ていると、一人の男性が話しかけてきた。
先程の鉱石の人ではなく、目付きが細くモヒカンのヘアースタイルでトゲトゲした服を着ている。
一般人には威圧感が強すぎる。
「え、あ、はい...。」
「そう緊張するな、俺もあの子に助けられた身でな、魔物にやられそうになったところを助けられたわけよ。
今日の早朝まであの子はなぁんか、空元気をしてるように見えてたんだが、今は本気で元気そうだな。
お前に会ってなんかあっただろうが…、あの子は優しすぎる。できれば今助けられてる奴らの分まで支えてやりなッ。あばよッ!」
威圧感のある男性は助太郎の肩を軽く叩き外に出て行った。
「あの人、外見の割には良い人?
...シナンの支えか。」
ぼそっと小声で言う助太郎。
『あの人間からは友好的な絆が見えたよ。
中々の良心を持っているね。
シナン君の事はワタシも共に支えよう。』
威圧感のある男性は絆を感じる事ができるトライスシのお墨付きで良い人だったようだ。
シナンが受付の人に呼ばれ受付に向かう。
「はい、ソセイ草を依頼分、確認致しました。
身分証の返却とこちら報酬になります。」
「どうもー、それと報告する事があります。
ピリオド大森林に黒いモヤを纏ったレッサードランがいました。
普通のレッサードランとは比べられないくらい、とても強かったです。
現れたのは一匹だけで何とか討伐はできました、以上が報告です。」
「黒いモヤ?...ご報告感謝いたします。」
シナンの報告に辺りがざわつく。
「シナンちゃんがとても強いと言う魔物だと…!?」
「空飛ぶだけのレッサードランが!?」
「そもそも黒いモヤを纏った生き物自体いなかったよな?」
「もし会っても違いが分かりやすいのが幸いか。」
誰もシナンの事を疑わず新たな脅威に各々の感情を露わにしている。
(誰もシナンを疑っていない、本気で信じられているんだ。)
シナンが助太郎の元へ戻る。
「お待たせ、次の目的地は決まってるよ。
さあ行こっか!」
「よお、シナンちゃんよ。
また〈気の試練〉に挑むのか?」
シナンの言葉とともに誰かが割り込んできた。
逆三角形型のレンズをしたサングラスをかけた筋肉質な男性である。
「うん、そうだよ。
今度は成功するからね!」
「ほお、その根拠は?」
「今は一人じゃない!
今までとは全然違うよ!!」
「ほー、シナンちゃんと組むとは、お前か少年。」
「は、はいっ!」
突然話しかけられ助太郎は返事をする。声は震えている。
一般人の助太郎には目の前の男性も威圧感が強すぎる。
「これからこの子の無造作な救援に振り回されるだろうが、まあ頑張りたまえ。」
「あ、はい…?」
そう言うと男性は部屋の奥へ行ってしまった。
(そういえばシナンはあんなに慕われてるのに一人で活動しているのか。
さっきの人が言った事を照らし合わせて考えると、
強くて人の良いシナンだけど困ってる人を見かけると一々助けに行く性格、だから誰も着いてこれずに誰とも組めなかったのかな。)
実際シナンが誰とも組まずに一人で活動している理由は考察通りである。
冒険者達は一つや二つ程度の依頼や冒険に集中したいのだが、困っている人を見かけると絶対に助けにいく性分はテンポが悪い。
街を出るまでに半日が経過してしまったり、街から徒歩三時間の地点に着くまでに二日は掛かってしまったりとシナンに着いて来れる者はそうそういない。
たまに戦力が必要で一時的にチームに加わる事もあるがそれぐらいである。
「目的地はこの〈ナチュラ大陸〉南東にある社だよ。
〈気の試練〉を今度こそ攻略する!」
シナンはまたまた懐から物を取り出す。世界地図だ。
三日月型の大地に海が広がり、大地に囲まれるように塔が建っている地形だ。
今いる大陸は地図の南側を占める自然溢れる大地、ナチュラ大陸。
この星には三つの大陸に分けられるが、特にナチュラ大陸は広大で大地のほとんどが森や林になっている。
今から向かう場所はナチュラ大陸の南東辺りにある〈気の試練〉を受けられる社。
シナンは過去に何度も挑戦しているが、失敗続きだった。
「今なら、いける。そんな気がする!
スケタローの目的にも協力するから、一緒に来て!」
「分かった、一緒に行くよ。
俺に何ができるかは分からないけど、他にできる事もないからね。」
助太郎達は方針を決め、冒険家ギルドを出た。
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