悪い血
もう一か月以上前の話になるが、十月の下旬31日から十一月上旬の少しの間、実家に帰省していた。
帰省の目的はアマゾンで買っていたパソコンの設置と実家の携帯電話をガラケーからスマホにする事と、あとパソコンが壊れていた間、両親で奪い合うように使っていたというエピソードに心を痛めて購入したタブレットの追加。それにWi-Fi環境の増築であった。
今年初めから始まったコロナとその拡大によるあおりを受けて、帰省しようと思った時から半年以上帰れない日々が続いた。その間も実家からの連絡はたまにあり、パソコンがないことへの不満を聞かされていた。
姉なんかはその辺メンタルがうまい事出来ているので聞き流すという事が出来ていたようだが、あいにくと私はそういう器用さを持っていない。実家も実家で帰れないのは承知なのにそういう事を言ってきていて、
「パソコンが無くて不便。iモードだと見れないページとかあるし、お父さんがタブレット離さないし」
もちろんこれは実家には言わないでいるし、一生いう事はないだろうけど(わからないけど、酒に酔った時とかついゲロっちゃう可能性もあるけど)、しんどかった。この半年。メンタルが結構な割合やられた。パソコンがない期間が実家に及ぼす被害を考えると、本当にやられていたと思う。
「ボケたりしないかな?」
とか、結構マジで考えていたから。ボケたらどうしよう。とか。
あと当初は私の持ってる予備のノートパソコンをもって帰ろうと思っていたが、アマゾンがその間にセールをやったり、NTTの通販サイトのセールで安くてそれなりに大きいPCモニターが出たりして、結局のところ新しく買った形になる。
それからあとゾンセールでファイヤタブを買ったり、Wi-Fiも一軒家という事を考慮してメッシュWi-Fiにしようと決め、それを買ったりした。
んで、コロナの第三波が来る直前、10月末から11月上旬に帰った次第である。誰にも言わなかった。秘密裏に帰った。アメブロでも書かなかった。その後も二週間は黙っていた。保菌期間だ。まあその後は解禁したけども。んで、それからすぐ、11月中旬頃から現在に至るまでコロナの第三波が留まることを知らない状態になったのを見ると、おそらくいいタイミングだったんだと思う。ありがたいことに。本当にありがたいことに。
実家ではパソコンの設置を行い、Wi-Fiを設置して、予約していたドコモに行った。で、正直お金も時間もかかったが、半年抱えていた不安には勝らなかった。父も母もボケてはいなかったし。
問題はファイヤタブレットがアマゾン独自のプラットフォームでGoogleplayが無いという事実と、それから半年触らなかったパソコンの使い方を思いの他忘れてしまっていた父母である。
それに費やす講習に関しては今回の帰省では考えていなかったため、軽く触りだけ、これがグーグルでとか、そういうの。ブックマークはこうで。みたいなの。スタートボタンはこれで、シャットアウトはこうで。みたいなの。それ+タブレットで多少触っていたとはいえ、スマホの触り方に関しても全く教えないわけにはいかなかった。だから結果的に言えば色々と時間が足りなかった。父母の協力体制も無かった。
「今皿洗ってるから」
と、講習に参加しなかった。父はパソコンを設置したというのにいつまでもタブレットの小さい画面で仁のドラマ観てるし。
あと、ファイヤタブレットのアマゾンアプリストアにdTVのアプリが無くて(あるのかな?いくら探しても出てこなかったけど)、それでdTVが観れないというまま帰ってしまったのが気にかかる。
かろうじてネットフリックスはあったのでそれを観るようにとは言ったが(コロナでみんな気持ちが閉塞してると思ったので、私の払いで一族全員がネットフリックスを観れるように契約したのだ)、それにしてもアマゾンファイヤタブは私の見たものの履歴とかガンガン見れる感じで、それを実家においてきたら私が普段アマゾンで何観ているのかとか筒抜けじゃーん。ってそれが凄い不安。あとモンキーピークって漫画をキンドルで買ってるのが凄い見れてしまうので、どう思われるか心配。
「こういうの見てるの?好きなの?」
とか言ってこられたら最悪。別に悪くない家族間の仲が悪くなる。
とにかくまあ、一言で言えば色々と問題が残った帰省だった。時間が足りなかった。一族の協力も足りなかった。色々と一気にやろうとしすぎた。パソコンスマホWi-Fiタブレット。あと実家帰省間のアリバイ工作の映画視聴とか。しかし私としては大荷物を下ろしたという思いもあって、半年前から抱えていた不安は去った。
今抱えてるのは以前とは違う不安だ。でも不安も古い奴より新しい奴の方がいい。
パソコン使えてるかな?とか。ノーパソからデスクトップにしてモニターも買って大きな画面で見れるようになったけど、どうしてWi-Fi子機の予備を買うという事を失念していたんだ。とか。スマホ使えてるかな。とか。電源ボタン強く押してないかな?とか。あ、あとドコモテレビターミナルも買って設置したからそれも使えてるかな?とか。ネットフリックス観てくれてるかな?とか。
そういうの。
黎明期に戻ってしまったパソコン文化。せっかく昭和まで進んだ文明がまるで明治まで戻ってしまった感がある。それに対する心配。
でも、パソコンが壊れてコロナで帰れないのにその不満を電話で聞かされていた頃よりもマシ。凄いマシ。ライトだ。全然違う。
それに実家の人もラインが使えるようになったし。それまでは一通3円とかかかるメッセージでやり取りしていた。無駄だった。
だから、総合的に見ると負担は大分減ったと思う。
私はやる事をやったし。講習の未実施あるいは講習不足とあとファイヤタブレット問題はあるが、それはまたおいおいでいいだろう。多分。
何より、Googleで調べたらすぐ出てくるじゃん。こうしてこうしてください。みたいなの。いくらでも出てくるじゃん。もちろんそれも教えたし。
正直、彼らには死ぬまでパソコンを触っていられる人達でいてほしい。パソコンでdTV観れます。タブレットでネットフリックス観れます。それで十分だから。もう生い先はそんなにないだろうから。それで十分だから。
そんな折、母がサンダルで走って転んで手首の骨にひびが入ったという連絡を受けた。帰省から一週間とか経過した時だったかな?確か。
幸いケガは大したことなく手術の必要も無いようで、今は安静にしているらしいが随分と気落ちして反省しているという。
で、正直コロナ禍で帰れなった頃の私だったら、あれだったと思う。
「歳考えろ!何してんだ!」
とか言ってた可能性がある。
不安な上に何してんだお前!
的な。強い口調で。
しかし、もうその時には半年の間抱えていた不安を降ろしていた私だったから、
「へへへへ、よかったね。大事無くてね。ネットフリックス観たり、dTV観れるじゃん。慣れておいたらいいじゃん今のうちに」
という優しい言葉をかけれた。
良かった。
あと、
「たまにケガとかもしておいた方が、いいんじゃん?ケガとか病気とかしないと人間時間とともに尊大になって行くだけだからさ」
っていう様な事も言えた。
良かった。
子供の頃、歯磨きに関して歯医者の先生から言われたことがある。
「歯ぐきから血が出るのはいいんでしょうか?」
と、母。
「あ、それは悪い血なんで出しても大丈夫です」
と、担当医師。
勿論今はどうだか知らない。今の常識とは違うのかもしれない。でも私の記憶には残ってる。悪い血。出した方がいい悪い血。
そんで、昨日、いやもう日付的には今日だ。
さっき。
私も歩いていて転んだ。突然片方の靴が脱げたのだ。
そんで右膝と右脛を負傷した。
家に帰って衣服をめくりあげてみると、膝は大したことなかったが、脛はぱっくりと割れており、思いの他深い傷を負っていた。
「ケガするのなんて久々だなあ」
子供の頃はよく転ぶ子供だった。両親からは足の長さが違うんじゃないかとか、酷い事も言われた。でも大人になって転ぶ機会も減り、ケガする機会も無くなった。
「へっ、へへへ」
だから、なんかうれしかった。
ぱっくりと割れた脛は痛い。当然痛い。
でも、これで私の尊大も取り払われる。
そう思うとうれしくなった。
悪い血。
血は思いの他出ていた。衣服にもべっとりとついて垂れていた。
でも、悪い血だから。
これは悪い血だから。
そう思うと、たまらなくうれしくなる。