第3話
王都ラーの噴水広場には大小様々な店が並び、大陸でも一番と言われるほどの繁華街を形成していた。
その繁華街の中でも南に面した通りは武器屋がずらりと並んでいた。数十軒はあろうかという武器屋の中から二人は迷わず馴染みの店に入っていく。
「オヤジさん、いい刀ある?」レイガが暇そうにしている店主に声をかける。
「レイガか、いい刀はいくらでもあるが、お前の技量と財布なら二階においているやつで十分だろう、適当に見繕ってきな」
「はいな」挨拶をして二人はそのまま二階へ上がる。
二階は刀と剣、それに戦斧が置いてあった。どれも一金貨前後の価格設定で、レイガの予算ぴったりのものばかりだった。
「あのオヤジ、俺の財布の中身が見えるのか?」
「俺たちが正式なギルド会員になる前からの知り合いだからね、お見通しじゃないかな、下手したら俺たちがクリアしたクエスト全部知っているかもしれんな」
「こわ!!まあ、いいか、どれがいいかな・・と」レイガは店内の刀コーナーを見渡す。
「俺は短剣見ているから、一階にいるよ」
「はいよ」
・・・二階に来てから妙な違和感のようなものを感じる。レイガはその違和感のほうに歩いて行った。
まさに、その違和感の根源の場所に一本の刀があった。近づいてみると禍々しいオーラを感じる。
刀の柄を握ってみるとしっとりと濡れているような感じがした。勢いのまま鞘から抜いてみる。
・・・手になじむな、妖刀っていうことはなさそうだ。これにするか。
レイガは刀を手にして一階へ降りる。
「レイガはそれにしたのか、なんか高そうじゃん?」
「予算の範囲内のはずだよ」
「俺はこれでいいよ、レイガに出してもらわなくてもどうにかなりそう」
「ああ、そうか、なら二人になにかお土産でも買って帰るか」
「そうだね、まあ食べ物でいいでしょ」
「服やら装備品は本人がいないと分からないから」
「オヤジさん、これとこれで」カウンターへ刀を持っていく。
「ほう、この刀にしたのか」
「訳アリなんだろ?」
「さあてね、まあなにもなければ十金貨くらいするやつだな」
「どうりで、いい刀だわ」
「ところで、お前ら冒険者なんてやってないで軍に入らないか?」
「軍?戦争は終わったっていうのに?」短剣をいじりながらカガが聞き返す。
「腕のいい若者はどこでも欲しがる、軍なら一生安泰だよ」
「軍ねえ、毎月二十銀貨のために生きるのはなあ、アイアンクラスでもその三倍は稼ぐよ」
「まあ、少しは考えてみな、お前らなら北部方面軍でも推薦できる」
「ありがとう、まあ考えておくよ」レイガとカガは店を出た。
飛空艇は中央大陸を結ぶ重要な交通手段だ。あまり重い積み荷は乗せられないため、主に人員輸送用である。
ラ・カーム王国とキリスオーは友好国であるため直通便も多いがそれでも週に五本程度にとどまっている。
ラーの中心部から北に四キロほど離れた場所に飛空艇の乗り場がある。
四人が飛空艇乗り場に到着した時には、すでに大型の飛空艇が到着し、整備を受けていた。
「今回の飛空艇は大きいのね」ヒロが驚いたような声を上げる。
「三百人乗れるらしいね」レイガがパンフレットを見ながら説明する。
四人がチケットカウンターにつくとマリが前に出た。
「大人四枚、オーガニア行、冒険者割引がつくはずです」
「はい、本日午前十時半出発のものでよろしいですか?」
「それで、お願いします」
「ギルドカードの提出をお願いします、一名様のみでけっこうです」
「はい」マリはギルドカードを提出する。
「確認できました、四名様で二銀貨八十銅貨になります」
マリは財布からきっちり二銀貨八十銅貨を出して渡した。
「これがチケットになります、オーガニアに着くまでは絶対になくさないようにしてください、皆様の旅の安全をお祈り申し上げます」
「ありがとう」そう言ってマリは四人分のチケットを受けとった。
時計を見ると九時半になっており、すでに搭乗ゲートは開放され飛空艇に乗れる時間となっていた。
「もう、乗ろうか」レイガがメンバーに声をかけた。
「そうしよう、このところ天気は良かったけど、寒いよう」ヒロが甘えた声を出す。
王国の二月はよく雪が降る。ただ、この年はまだ雪が降っていなかった。
座席は客席最後尾に四人が一列に乗れた。一番左の窓際にはレイガが座り、その右横にカガ、さらに横にヒロ、一番右にマリだった。
早起きしたこともあり、座席につくと四人はすぐに熟睡した。
浮遊感がしてレイガは目を覚ました。窓から下を見るとどうやら離陸したらしい。
「到着は午後八時か・・・」隣を見てみると三人は完全に眠っているようだった。
隣を起こさないようじっとしていると、そのまま寝てしまった。
レイガが次に目が覚めるとお昼だった。三人はすでに起きていて昼食が運ばれるのを待っていた。
「レイガ、ようやく起きたのか、飯だぞー!」カガがレイガの顔にぶつかりそうになりながら話す。
「ああ、機内食か、ちょっと楽しみだな」
「お昼はステーキみたいよ、ラ・カーム王国の中央高地産の高級な牛らしいわ、ちょっと楽しみ」ヒロがパンフレットを見ながら解説する。
「肉かー!早く食いたい!」カガがはしゃぐ。
「おい、他にもお客さんいるんだからもう少し静かにしろよ」レイガがたしなめる。
「でもさー肉だよ?肉?興奮するしかないっしょ」
「ああ、肉はいいな」
レイガが対応に困っていると、ちょうど昼食が運ばれてきた。
四人は肉の香ばしい匂いに包まれる。
「いただきまーす!」カガの声を合図に四人はそれぞれ食べ始める。
「今回の依頼だけど」レイガが話しかける。
「ん?依頼」カガは半分ほど食べたステーキに集中しているようだ。
「依頼主は二十代女性、護衛範囲は自宅からダンジョンの地下二階までの往復」だったよな。
「ああ、たしかそうだったな」
「今回のダンジョンは地下十五階まである大規模なものだけど、地下二階までならよほどのことがない限り危険なモンスターが現れるとは思わないんだが」
「まあ、俺たちからしたらそうだが、一般人からすればダンジョンに入るってことは相当な危険だろ、それに今回のダンジョンの地下一階ですら全滅したパーティーもいるって話だ」
「たしかに、地上付近に強力なモンスターが出現することもあるからな」
「レイガぁ、まーた考えてるの?行ってみなきゃ分からないでしょ?いっつもいっつも考えすぎなんだから」横からヒロが口を挟む。
「考えすぎかなぁ、まあたしかにヒロの言う通りか」
「ほんとそう、オーガニアのギルドからの話もあるだろうし、依頼主とも会ってみないと、今から考えても分からないわよ」
「ヒロの言う通り、そんなに考えていたら疲れるぞ、レイガさん」カガも突っ込みを入れる。
「分かった、分かった、オーガニアに到着するまでまだまだ時間もあるし、カードでもするか?」
「お、いいね、ヒロとマリもやる?」
「あーわたしはいいわ、マリは?」
「わたしもパス、カードやるならお小遣い渡しておく、十銀貨ずつね、これ以上負けたら出しませんからね」パーティーの会計を担当しているマリの言葉は絶対だった。
カガ・ロイもレイガと同じ十七歳、ラー出身で幼馴染だ。小さな頃から二人はいつもつるんでいる。髪は赤く肌は白い。身長はレイガより数センチ高くがっしりとした体格をしている。短剣を使い、罠を解除する役割としてはシーフのような立ち回りをする。
マリ・ナもラー出身で一つ下の十六歳、レイガやカガと幼馴染である。金髪に色白の肌、体は細いが大きな胸の女性だ。水魔法、特にラ・キュリスやラ・ケアといった治癒系の魔法が得意である。正式に魔術院に行けばマジシャンの認定はもらえそうだが、認定代がもったいないともらってはいない。治癒魔法が使えるマジシャンはどこでも人気があるので、スカウトされるのを嫌がっているのかもしれない。
ヒロ・ミィは最年少の十五歳。北部森林の村アービィで生まれたが十歳の時に戦火に巻き込まれ両親と家族を失った。その時に北部方面軍団長ダナ・カシムに助けられ王都に連れてこられた。ヒロはマリの家に預けられたが、マリの親とはなかなか馴染めず、四人で部屋を借りるきっかけになった。長い黒髪に眼鏡の少女である。弓をメインウエポンとして使うが風魔法も独自に勉強中である。