表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラ・カーム戦記 Ⅱ  作者: 神名 信
26/26

第26話

 一行の足取りは重かった。

 依頼については全く目的も果たせず、しかも、マリの傷は肺にまで届く重いもので、サーシャのラ・ケアでかろうじて息をしているという状態だった。

 まずは村まで戻らなければ、再度ゴブリンに囲まれてしまえば、大幅な戦力ダウンの状態で戦わなければならなくなる。

 ただ、ゴブリンの集落を避けて下山している時間的な余裕もなく、先行しているヒロはゴブリンを見つけ次第射止めているようで、あちこちにゴブリンの死体が転がっていた。

 サーシャの矢の傷はレイガが応急手当しており、すでに出血は止まっているが、あれから30分以上ラ・ケアを唱え続けており、顔からは血の気が引いていた。

 「ごめんね、サーシャ、ラ・ケアで治るような傷じゃないの分かっているよ、もう、やめていいよ、・・・ん」マリが弱弱しく言葉を吐いたが、自らの吐血で言葉はさえぎられた。

 「マリ、・・・」レイガもかける言葉を失っていた。

 サーシャは自分の盾になってくれた、マリのために、自分が倒れるまでは、術式をかけ続けたかった。

 ・・・キヌア師匠がいたら、どうにかなるのかな。

 重くなっていく頭でそんなことを考えていた。

 

 下山途中では大きな戦闘はおこらず、村まで戻ってきた。あたりはすでに真っ暗であった。

 レイガがアイラ村の村長の家をノックする。

 少し間を置いて、村長が現れた。

 「依頼は失敗です、すみません。仲間が深手を負ってしまって、近くに医師はいませんか?」

 「この村の付近にはいないな、大きな病院なら、ユーガの街にまで行かないとないな」村長は少し失望したようであった。

 「はい、ありがとうございます、失礼します」返事をするのももどかしく踵を返す。


 レイガは仲間のところに戻ると、ユーガへ向かうよう指示をした。

 全員が重い雰囲気であった。

 馬車に戻るとカガが馬を操ってくれた。

 馬車の真ん中にマリを寝かせるように固定して、周りをレイガ、ヒロ、サーシャが囲む。

 サーシャは、すでに術式の詠唱をやめている。

 少しすると馬車が動き始めた。

 「レイガ・・・」マリが小さな声で呼ぶ。

 「ああ、どうした?」

 「ギルド保険に入っていたの、それも一番大きいやつ、だからさ、もう、みんな一生お金に困らなくなるよ、手続き忘れないでね」

 「マリ、そんなこと気にするな」

 「でも、心配だよ、カガとかお金の管理できてないし、大きなお金が入ったら全部使っちゃうんじゃないかってさ」

 「大丈夫だ、から・・」レイガの目から涙がこぼれ落ちて来た。

 「レイガ・・お願いがあるんだ」

 「俺にできることなら」

 「キスしてほしいの、私が生きていた証、もらってくれないかな・・・」

 「あ、ああ・・・」

 レイガは優しくマリを抱きしめると、顔を近づけた。

 二人の唇が重なって、マリは少しだけ微笑んだように見えた。

 キスが終わると、マリは、もう二度と話すことはなくなっていた。



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ