第25話
全員が着替え終わった頃、サーシャが周囲の異変に気付いた。
サーシャがレイガの肘をつつく。
「ん・・・・?」
どうやら包囲されているらしい。
ゴブリンが20体はいるだろうか。
残りの3人も気づいたようだ。
ヒュンッ。
小さな矢が立て続けに飛んできた、どうやら和解という選択肢はないようだ。
5人とも、地面に伏せる。
・・・失敗か、どうやって撤退するか?
ゴブリンに見つかってしまったからには迂回する必要もなく、村まで直線距離で降りて行けばいい。
が、ゴブリンの配置も正確な数も今のところ分からなかった。
「カガと俺が右手に突っ込む、ヒロ、援護してくれ、サーシャは派手な魔法叩きこんでくれ、マリは常にサーシャと行動を共にしてくれ」レイガから全員に指示が出る。
「あいよ」掛け声とともにカガが突っ走る。やや後をレイガが追いかける。
10本以上の矢が二人に降りかかる。
レイガもカガもぎりぎりでかわしながら前に進む。
その間に、ヒロが1体のゴブリンを射止めたようだ。
サーシャは炎魔法のファ・ギガスレイブを詠唱し始めた。術者を中心に炎の円ができる。詠唱が終われば、ここにいるゴブリンの大半を倒せるだろう。
ゴブリンの中に魔法の知識のある者はいないはずだが、サーシャの詠唱が危険であると察知したらしく、レイガやカガに向かっていた矢がサーシャへ向き始める。
詠唱中に術者は無防備だ。
サーシャの右肩に矢が食い込む。
「くっ」顔をゆがめながらも、サーシャは詠唱を途切れさせない。
その間にレイガが2体、カガが1体のゴブリンを駆逐する。
「レイガ、カガそろそろ術式が発動するから、サーシャの近くまで戻ってきて、巻き込まれるわ」マリが叫ぶ。
二人は跳ねるように、サーシャの近くへと戻っていく。
その時、一筋の矢がサーシャの心臓を射抜く軌道で飛んでいくのを、サーシャ以外の4人からは見えた、まるでスローモーションのように。
シュッ
小さな音がして柔らかい体へ刺さった。
ただし、サーシャの心臓ではなくて、サーシャをかばったマリの背中にであった。
次の瞬間、サーシャの術式が完成し、周囲は猛烈な炎が荒れ狂った。
半径500メートルの炎がそこにいたゴブリン全てを焼き尽くす。
「マリ!!」近くにいたヒロがマリを抱き寄せる。
ようやく口を開いたマリが、苦しそうに呟く。
「回復魔法なんて知っているとさ、こんなとき、あまりよくないかも。だって、回復できない範囲の傷だって分かっちゃうから」
「バカ、しっかりしろ、トリプルマスターがいるんだからな」カガはマリの手を握る。
サーシャには珍しく、険しい顔でラ・ケアの術式を唱えている。
レイガは付近の動きに目を配らせていた。
「下山しよう、俺の判断ミスだ、みんなすまん。カガはマリを背負ってくれ、サーシャは引き続き術式をかけ続けてくれるか?」
「私が先行して様子を見るね」ヒロは言うと、焼け野原をかき分けて進んでいった。