第24話
「レイガ、どうする?」五人で馬車に戻るとカガが真っ先に聞いた。
「ゴブリンは二百匹はいるらしいな、小さな砦まであるらしい。ただ、お孫さんが発見されたのはゴブリンの領地の中でも比較的手薄な場所らしいから大きく迂回すれば潜入は成功するはずだ」
「嫌な気配がするわ」マリが呟いた。
「そうか?どんな感じだ?」
「ずっと監視されているみたいな」
「村についてからか?」
「うん・・・」
「まずいな、マリのそれはよく当たるからな」レイガはため息をついた。
「ゴブリンの集落ごと焼き払う?」サーシャが物騒なことを言い始めた。
「これ以上大事にしないでくれ」
「レイガ、依頼料一金貨よね?」ヒロが諭すように言った。
「ああ、どうした?」
「多分、この村お金ないよね」
「まあ、ないだろうな」
「私たちに払うお金以外にギルドへの手数料もあるし、大変な出費だったと思うの、だからやれることはやってあげようよ、それが冒険者の務めだよ」
「ああ、そうだな、ヒロ。そうだよな」
「俺とカガだけで潜入したいが、戦力不足になる、悪いが五人でまとまって動く。途中火は使えないから保存食を仕入れてくる。出発は二日後の四月四日。三日ほど山道を行く予定だ。ゴブリンはなわばりに侵入してきた人間に対しては攻撃的だ、ただし、こちらからは攻撃しないでくれ」
『はい』四人は口をそろえた。
ゴブリンの領地は深い山の中にあった。
発見された子どもは村からは直線距離で三キロほど北上したところだが、まっすぐに進めばゴブリンとの遭遇は避けられず、一度大きく西へ向かいコの字型に戻るルートになる。
四日の朝に出発して午前中は何事もなく順調に行程をこなしていった。
「雨か・・・」それまで青空が広がっていたが、急に雲が広がり大粒の雨が降ってきた。
「もう少し進もう」低い声でレイガが指示を飛ばした。
結局それから三時間雨の中を歩き続けることになった。
小雨になるころ、ようやくテントが張れる茂みをみつけレイガとカガが手際よくテントを張った。
全員ずぶぬれになり、少女たちは下着が透けて見えるが隠そうともせずテントに入っていった。
レイガとカガは目のやり場に困ったがとりあえずは全員でテントの中に入った。
「みんな、上着を脱いで集まって、お互いの肌で温めあうんだ」
女の子たちのやわらかい肌に男性陣は緊張していた。
「二人とも、目はテントの外を見てなさいよ」ヒロが注意した。
「あ、ああ」カガはやや照れたようにそう相槌を打った。
雨はまだ止まないが、空を見ると晴れ間も見え、どうやらあと少しで動けるようになりそうだ。
「マリ、まだ嫌な感じはするか?」レイガは気にしているようだ。
「どうかな?村にいたときのほうが強く感じたかな、山に入ってからは薄らいだかも」
「そうか・・・」
何百年も続く神隠し事件の真相、今回奇跡的に見つかった子ども。何か得体のしれない力が働いているのか、レイガたちには想像のしようもなかった。
「俺たちの依頼は村長のお孫さん発見だからな」レイガが確認するように呟いた。
「ああ、妖怪だかなんだか分からないところに突っ込んだりはしないよ」カガも同意らしい。
「なんかさ、ミイラ取りがミイラっていう言葉が今の私たちにぴったりのような気がするのよね」ヒロがのん気に怖いことを言ってのけた。
「ヒロ的確すぎ、大丈夫だよ、うん、大丈夫」マリは自分に言い聞かせるように言った。
「いざとなったら、私のファ・ラグナロクで山ごと焼き払うから大丈夫」サーシャのミスリルロッドが光っていた。
雨が止むころにはもう辺りは完全に暗くなってしまった。
「悔しいが今日はこのままここで一泊しよう、五人で二時間ごとに交代で見張りだ、明日は日が昇りきらないうちから出発するからな」