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ラ・カーム戦記 Ⅱ  作者: 神名 信
22/26

第22話

「レイガ、アイラ村って言えば、神隠しの噂があるところだよな」帰り道、カガはレイガに尋ねた。

「ああ、何百年も前からいきなり村の子どもが消えるっていう話だ」

「解決できるのか?モンスターを倒せばいいってもんじゃないだろ?」

「どうなんだろうな、とりあえず村長が何か知っているはずだ、聞いてみるしかないな」

「なんか、レイガまでヒロみたいに出たとこ勝負になってないか?」

「カガ、なにか言ったぁ?」ヒロが隣から声をかける。

「いや、なんでもないです!」

「ところで、サーシャは大丈夫なのか?今回のクエストはちょっとかかるかもしれないぞ?」レイガが確認した。

「うん、大丈夫。殿下の授業については魔術院に依頼しておいたし、アイラ村のことは気になるし」

「了解、サーシャには期待している」

「うん、任せて」

「マリ、馬車を借りたい、手続き頼めるか?」

「大丈夫、明後日の朝には出発できるわ」

「よし、集合時間は明後日の朝九時、アイラ村へは馬車で三日はかかるだろうから」

『はーい』


 アイラ村は中央山地と北部森林の境界にある村で人口は千人ほどしかいない。

 村の産業と言えば農業になるがこれといった名産品もなく、村の子どもの多くは十五歳になると村を出て王都などの都会で仕事に就く。

 地味な村であるが、神隠しの伝説がこの村を有名にしていた。

 数百年前から起きていると言われており、今まで行方不明になった子どもは分かっているだけで百名近く、年齢も出産直後から十五歳まで幅広い。

 今回も御者はカガがやっていた。

 アービィ旅団の馬車は王都からいったん東へ向かい、三十キロほど走ったところで北上する予定であった。

「ヒロ、ユーガに寄るか?」レイガが外を見ているヒロに聞いた。

「あの人のところか、なんか迷惑になりそう」

 北部方面軍の本部は中央山地、金の産出地であるユーガに置かれていた。

 ダナ・カシム団長は王都での用事がない限りユーガにいた。

「そうだな、またにするか」

「うん、それがいいよ」

「ヒロ、魔法の練習をしているのだろ?」

「ん、レイガ知っていた?」

「ああ、サーシャに習ったらどうだ?仲間なんだし」

「私は問題ないぞ」サーシャは暇を持て余しているようだ。

「え、いいのかな?なんか図々しいような?」

「ヒロ!?お前から図々しさを取ったらなにが残るんだよ」

「レイガ、殺されたいの?」

「いや・・・そういうわけじゃないんだが」

「ヒロが教わるなら、私も一緒に習いたいな」マリも乗っかってきた。

「魔術の基本練習はどの系統の魔術でも同じだし二人一緒に教えるよ」

「ありがとう、私は風魔法系なのかなって少し練習しているんだ」

「やることもないから基礎練習でもしてようか?お二人さん」

『はい』

 魔術の基本練習はマナをミスリルロッドに集中し、それを開放するという反復である。

 二人はそれぞれのミスリルロッドにマナを流し込み、数秒の後に開放するという反復練習をこなしていった。

「これ、きっつい」ヒロは額の汗がしたたり落ちている。

「マリはさすがに大丈夫みたいね」

「ううん、私もきついよ」

「これを十回一セットで五回、毎日やっていれば魔力の基本能力が上がるから、ヒロも素質あると思う、すぐに一つくらい術式を覚えられるんじゃないかな?」

 三人の少女の様子を見ていたレイガは馬車の先頭まで移動した。

「カガ」

「ん?どうした?」

「少し風にあたりたくて、変わるから少し休みな」

「あ、ああ、あと十キロ走れば北に行く道にぶつかる。見逃すなよ」

「了解、少し寝ていてくれ」

「おう、女性陣は魔法の練習に夢中か」

「まあな、それはそれでいいことだけど」

「レイガ、おやすみ」カガは御者台と客車の間に丸まって寝始めた。

「ああ、おやすみ」

 馬車は舗装された街道を東へ進んでいる。街道には商品を満載した馬車などが頻繁に行き交っていた。

 昨年末に和平が結ばれてから四か月、生活に大きな変化はない。千年続いた戦争はヒロやサーシャのような戦災孤児を始め、大きな被害を出し続けた。新たな悲劇を生まないためにということは国民全員が考えていることであった。そして、この平和を皆が享受し、喜んでいた。

 千年戦争がほんとにこれで終わったのかは分からないが、ラ・カーム皇子が和平のために命を張ったという噂は国中に流れており、神のようにあがめる者も出始めていた。

 レイガはそこまで心酔してはいないが、ラ・カームの従者であるサーシャの実力を見ても、ただの十歳とは思えず、一目置いていた。

 今回の和平がなければレイガやカガも軍隊に徴兵されるかもしれない。ダナ・カシムのような英雄も身近にいるが、戦争とはいえ人と人が殺しあうというのはレイガからすれば避けたかった。

 ダナ・カシムはレイガたちに自分の戦功を自慢することも、戦争を美化することも一切なかった。ただ、部下たちのことはいつも感謝しているようで、そんなダナ・カシムをみんなが大好きだった。


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