第17話
ギルド試験は筆記と実技に分かれている。ラー協会の場合、受験者は約五百名、筆記試験合格者は約二百五十名、実技試験合格者は約百名であり、この百名が最終合格となり、合格後三年以内に登録することでギルドメンバーとなる。なお、初期登録はブロンズクラスからに限られる。
二月までに筆記試験は終了しており、三月五日、六日は実技試験であった。
実技試験は、持久走、救急法、模擬戦闘、魔法実技、集団演習の五つのうち、四つを選択して受験することになっていた。それぞれ二十点で合計八十点満点、合格ラインは六十点である。
試験監督係は三月五日の朝八時にはギルドに集まった。
実技科目のうち、六日は集団演習と予備日程になっており、五日は午前、午後ともにびっしりと予定が埋まっていた。
レイガとカガは模擬戦闘の担当になった、どうやら若い試験監督がその担当になるのは恒例らしい。
マリは救急法担当に、ヒロは総合案内に配置された。
試験を受けられるのは十四歳から二十四歳までとなっており、十時の試験開始前には試験会場は若い熱気で埋め尽くされた。
模擬戦闘は時間三分、模擬刀で実戦形式の戦闘を行う。受験生が監督に勝つ必要はないのだが、受験生はそう思っておらず、必死に一本狙いに来る。二百名近い模擬戦闘選択受験生を四人の監督官が受け持つことになり、一人当たり五十人ということになる。
ラーギルドでは、この監督官のことを二回目のギルド試験と呼んでおり、相当な体力を必要とする。
レイガもカガもすでに実戦をくぐりぬけて来た自信があったが、試験が進むにつれて監督官のきつさが分かってきた。
受験生の技量は、それほどではないが、必死でかかってくる、逆に受験生を怪我させるわけにはいかないので、多少手加減を加えながら試験を終わらせる。
午前中の最後の試験が終わり、二人とも役員テントに戻る。
「お疲れ様」ヒロが二人に冷たいお茶を持ってきてくれた。
「ありがとう、しかし、あれだ、これはもう来年はやらんよ」カガがようやく言葉にした。
「ああ、今年で最後だ、十銀貨じゃ割に合わん」レイガも汗だくのようだ。
「二人ともかっこよかったよ、あの人ほどじゃないけど」
「それでいいよ、団長はかっこよすぎだ」カガはどうでもよさそうだった。
「ヒロ、この前あまり話さなかったみたいだけど」レイガが少し心配した。
「あ、ううん、大丈夫・・・ちょっとね」
「やっぱり両手の怪我か?」
ヒロの両手はまだ怪我の跡が痛々しく残っている。
「そんなんじゃないって、気にしないで」
「あ、まあそれならいいんだけどさ」
「そういえばマリは?」カガが周りを見渡した。
「マリは向こうのテントにいるみたい、こっちまでくる時間がないみたいなのよね」
「そっか、飯、食うか」ギルドから昼食が提供されていた。
「うん、ご飯たべよう、レイガも」
「あ、ああ、そうだな、食わないともたん」
三人はテーブルに座りなおして弁当を食べ始めた。
「レイガはあと何人?」カガが弁当を食べながら聞いた。
「あと二十人か」
「まじか、俺は二十二人だったな、一人もらってくれ」
「時間調整間に合えばな」
「たまにめちゃくちゃパワーあるやついるよな」
「それな、受けるだけで腕がしびれるんだが」
「ほんと、それ、受験生の時は考えたこともなかったわ」
「二年前だからな、俺らも若かった」
「だな」
「二人ともなに老け込んでいるの、頑張って」
「あ、ああ」カガは食事が終わると眠気に襲われていた。
「俺も五分寝る、ヒロ起こして」レイガもテントの奥に引っ込んでいった。
「はーい、二人とも少し寝てなさい」
午後の試験も順調に進んでいるようだった。
受験生は受験番号の若い方から四分の一ずつに分かれ午前に模擬戦闘をやった者は午後に救急法と持久走といった具合に試験は組まれていた。選択科目によって科目は変わるが、ほとんどの者は模擬戦闘と魔法実技のどちらかを選択していたから、二日目の集団演習は全員が受ける予定であった。
ちょっとした騒ぎがあったのは魔法実技のほうであった。
史上初のトリプルマスター、魔術院でマスター認定を三つ受けたサーシャ・アビヌが受験生として登場したからであった。
魔法実技は試験官の前で五系統の魔法のうちの一つの術式を完成させるというものであった。
サーシャは雷魔法リザ・グラウンドの術式を詠唱してみせる。
ドォオオオン
隣接していた模擬戦闘会場まで爆音が響き渡った。
本人の説明では、ギルド会員になっておく必要もあるかもしれないと念のために受験したということらしい。
「どうやら化物がきているらしいな」レイガは隣で受験生の相手をしているカガに目で合図をした。
十六時には模擬戦闘試験は終了となった。
他の試験はまだ続いていたが、レイガたち模擬試験担当は早めに上がらせてくれた。
レイガとカガ、ヒロがテントで談笑していると一人の受験生の少女が現れた。
「あなたがヒロ?」少女は、黒い髪の右前髪だけが赤毛であり、さらに左目は黒いが、右目は赤い。
「はい、あなたは?」
「サーシャ・アビヌ、皇子親衛隊、ラ・カーム殿下直属よ」
「あなたが、雷の?」
「まあ、雷と言えば雷ね、他にも二つあるけど、ヒロはダナ・カシム団長の娘さんなんでしょ?よろしくね」
「あ、はい、すみません、今は役員なので受験生とはあまり話せないんですよ」
「ああ、そうね、合格は今月末だものね」サーシャはもう合格したつもりらしい。
「今日は挨拶だけですか?」
「うん、ギルドの登録が終わったら色々教えてもらうわ」
「はい、その時はよろしくお願いします」
サーシャはそのままテントを後にした。