第10話
キャンプ地は、十キロ離れた小高い丘に決めた。
キャンプは二日分の用意があり、食料も携帯食料が用意されていた。お湯を作ってスープだけは温かいものが飲めたが、お世辞にも美味しい夕食というわけにはいかなかった。
夜は見張りを立てることも考えたが、明日のため休息を優先し、キャンプの周りに有線の鈴を設置することで侵入者への備えとした。
その設置が終わるころにはすでに二十時になっていた。
「明日は朝六時にここを出立する予定です、そうすれば七時から探索ができ、八時過ぎには地下二階へ到達できるはずです」
「あなたたちは随分手際がいいのね、信用しています」
「ありがとうございます、明日にはオビアヌスが摘めるように最善を尽くします」
「そうね、よろしくお願いするわ」
「はい」
朝六時前には全員準備が整っていた。キャンプはさらに一日探索が続く可能性も考えてそのままにしておくことにした。
ダンジョンに到着すると昨日と同じ隊列で中に入った。
降りてすぐ西へまっすぐに歩く。カガが入念に偵察を行っているためやや時間がかかっている。
昨日スライムを倒した小部屋までは三十分かかった。部屋に入ってもまだ新しいモンスターはいなかった。
そのまま西に進み、地下二階へ降りた。時刻は午前八時十五分。
南へと延びる一直線の道が目の前に広がっていた。
さらにカガが先行し一同はゆっくり南へ向かう。
十五分ほど進むとカガが止まった。どうやら進行方向に巨大なコウモリが数匹止まっているらしい。
レイガはヒロに合図した。
ヒロは素早い動きで弓を構える。
ヒュッ
ヒュッ
ヒュッ
瞬く間に三匹のコウモリを倒す。
どうやらコウモリは三匹だったらしい。ヒロのような弓使いがいなければ多少やっかいな相手だった。
隊列を組みなおしさらに南へ進む。
地下二階へ降りてから一時間ほど歩いただろうか、小部屋に突き当たった。
「ここは、猛獣系のボスがいるはず、俺とカガが前に出る、ヒロは援護頼む、マリは下がっていて」
支持を確認するとカガが部屋に飛び込んだ。
部屋には三メートルはあろうかという女王オオカミとそれを守るように一メートル程度の十匹ほどのオオカミがこちらをにらんでいた。
カガとレイガが飛び込んでいくと向こうも五匹のオオカミが前に出て女王を守る。
一匹一匹の動きが速く、態勢を低くし攻撃を避けている。
「くっ」カガの左腕に一匹のオオカミが食らいついた。
カガはそのまま地面にオオカミを打ち付け右手の短剣で喉を掻き切った。
「カガ下がれ」
「く、悪い」カガは警戒しながら後ずさりする。
すると、カガ目がけて三匹のオオカミが飛びかかってきた。
一匹はヒロの弓が貫き、一匹はレイガの刀が倒したが、もう一匹は届かない。
カガは残った力を振り絞って短剣を振るがオオカミはそれを安々とかいくぐる。
カガの喉にオオカミの牙が突き刺さるかと思えたが、その瞬間レイガがカガを思いっきり蹴飛ばしていた。
重力に逆らいカガの体が飛び、オオカミは目測を誤る。
その隙をついてヒロの二本目の弓が飛びオオカミを貫いた。
「俺はガードに徹する、カガの治療頼む、攻撃はヒロに任せた」
残りのオオカミとレイガが対峙する。ヒロの弓の射程が分かるかのように扇状に距離を取っている。
カガの左腕にマリがラ・ケアの術式をかけている。命に別状はないだろうが戦線復帰には時間がかかりそうだ。
オオカミの群れはじりじりと距離を詰める。
「頭をつぶしに行く、援護してくれ」
「了解」
レイガとヒロが同時に駆け出す。
女王の護衛と見られる二匹を残し四匹がレイガを攻撃する。レイガは止まらずに距離を詰める。
気合の差というべきか、下がりも止まりもしないレイガにオオカミの攻撃は届かない。
逆にヒロの弓によって一匹のオオカミが仕留められていた。
レイガはそのまま女王の方へ走り出す。オオカミは女王を守るために必死でレイガを追いかける。
一匹のオオカミの牙がレイガの右足をえぐった。
血が滴り、さすがにレイガの足が止まる。止まった瞬間、刀を振り一匹のオオカミの頭を飛ばす。
ヒロの弓がさらに一匹に止めを刺す。
女王の他オオカミは三匹にまでなった。
ヒロがレイガのところまで来て肩を貸す。
「ありがとう」
「うん」
オオカミと対峙したまま、全員がマリの下へ集まった。
だいぶ回復したカガと入れ替わりラ・ケアをかけてもらう。
「俺の傷はたいしたことない、カガいけるか?」
「ああ、大丈夫だ」額に大粒の汗を流しながらカガが答える。
「護衛のオオカミは強い、女王はさらにだな、まずは残った一匹を倒す。護衛と女王は一体となって動くだろうから左の護衛から倒す、その後右の護衛を倒し、最後は女王だ、俺とヒロがコンビネーションで倒す、カガは援護に回ってくれ」
『了解』二人とも短く答えた。