第1話
第一章護衛
王国歴八八六年二月
ラ・カーム王国の首都ラーはお祭り騒ぎであった。
建国以来戦い続けたイグニクェトゥアとの和平が昨年の暮れに達成され、町中でその祝賀イベントが行われていた。
町の中心部にある冒険者ギルドもその話で持ち切りだった。
「今回の和平は千年伝承の皇子の働きかけらしいな」
「皇子はまだ十歳だろう、本当なのか?」
「ああ、北部森林の戦い以降、国王はイグニクェトゥア侵攻を考えていたらしい」
「皇子はすでに国政に深く関与しているということか」
「ああ、冒険者ギルドに関しては不干渉が原則となっているが、クエスト遂行の際に犯した罪についての扱いは各国で違うからな、皇子がそこまで口出ししてくればめんどうくさいことになる」
「お手並み拝見といったところか」
ギルドには様々な情報が流れてくるが、クエストの情報などは各国政府から流れてくるものもあり確かな情報が多い、また、冒険者ギルドはラ・カーム王国、イグニクェトゥアの他、隣国のキリスオーやレグニヤーローにもあり、ギルド同士の情報交換が各国政府にも利用され、ダブルスパイのような役割も担っていた。
ギルドの会員になるには、冒険者としての登録と年会費が必要である。登録の条件は十五歳になっていることと、ギルド試験に受かっていることの二つである。
冒険者はブロンズ、アイアン、シルバー、ミスリル、ゴールド、クラウン、ギルドマスターの七種類に分けられる。
ブロンズには五千名が在籍しているが、アイアンになると十分の一程度の六百名といった具合にギルドマスターを頂点としたピラミッドになっている。
ギルドランクはクエストを達成することで上がっていくが多くのポイントがもらえるクエストは難易度も高くなっており、ギルドランクをあげるためにパーティーを組むのが一般的である。
ラー生まれの少年レイガ・クウもシルバーランクの冒険者である。
十七歳のレイガは黒い髪を短く刈っていて、細身であるが筋肉質な身体を持っている。仲間のカガ・ロイ、マリ・ナ、ヒロ・ミィと四人パーティーでいつもクエストを受注している。
「レイガ!」カガがクエストボードを見ながら叫ぶ。
「いいクエストあったか?」
「ああ、このクエストやればマリとヒロもシルバーになれるんじゃないか?」
四人の中でシルバーランクなのはレイガとカガの二人だけだった。
[ユニコーンの角一本:五百ポイント:四十三銀貨:ラー協会のみ]
「たしかに五百ポイントあれば二人ともシルバーか、ただこれだとヒロが嫌がるんじゃないか?あいつ動物好きだから」
「あー、そっかあ、けっこうおいしいクエストだけどなあ」
「これなんてどうだ?」
「どれどれ」
[メノ・インヴォース地理調査:三千ポイント:十金貨:全ての協会]
「おい、レイガ、これはやばいやつだろ、メノ・インヴォースって言ったらとんでもない魔人がいるところだよな?シルバーとかアイアンレベルの話じゃないぞ」
「魔人と戦うわけじゃないし」
「当たり前だ、魔人と戦うのなら王国の全兵力が必要だぜ」
「却下か」
「却下だ」
二人がクエストの品定めをしていると、マリ・ナとヒロ・ミィが入ってきた。
「お二人さん、決まった?」ヒロが二人に声をかける。
「俺はユニコーンの角がいいと思ったんだけど」
「カガ、なんの罪もないユニコーンを殺す気?」ヒロが目を細めてカガに詰め寄る。
「ですよねー、やめておきます」
「メノ・インヴォースの調査がいいと思ったんだけど」レイガはまだあきらめていないようだ。
『却下』カガとヒロが瞬間はもった。
「俺がリーダーなのに」
「リーダーならもう少しまともなクエストを選んでよ」ヒロにくぎを刺される。
「これなんて、いいんじゃないかな?」今まで黙っていたマリがクエストボードを指さした。
[護衛任務(シルバーランク含む三人以上):七百ポイント:六十銀貨:オーガニア協会のみ]
「これしかないかな、キリスオーまで行かないといけないから悩んだのだけど」レイガはクエストボードを見ながら呟いた。
「護衛は、当たりはずれあるけど、これでいいんじゃないか?」カガも賛成のようだ。
「じゃあ、決まりね!これ」ヒロの一言で全員が賛成ということになった。