第5話 ハードモードは終わらない
この話の主人公亀井義人は、わけもわからずほぼ死刑宣告と変わらない奴隷宣告を受けてヤンジール王国辺境伯領のさらに北に行った超辺境の自然も何もない鉱物のみを生み出す鉱山送りにされたのだった。
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<ヤンジール王国奴隷鉱山ジャム・牢屋>
ここ牢屋だよね。処刑場の次は牢屋?わかったこれは冤罪で監獄に放り込まれて外から弟が助けに来てくれるパティーンのやつだ。
プリズンブレイク的なやつだよね。
誰か助けに来てくれるよね!そうだよね!ね!
このまま牢屋で過ごして話進まないとか最悪じゃねぇかよぉ!
義人は受け入れられない現実に思わず涙を流し悶えながらわめく
「誰か助けてくれぇえええ!弟でも兄でもいいからぁぁぁあ!母さあぁぁぁん!綾乃おぉぉぉ!」
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<ヤンジール王国奴隷鉱山ジャム・看守ローザム>
ここに来るやつは大体がやばいやつか訳ありのやつだが、この黒髪の男は相当だな。
絶対に近づかないでおこう。
あと数年で中央に返り咲けるのだ、こんな奴に関わって中央に戻れないなんてなったら最悪以外の何物でもない。
看守ローザムは元々ヤンジール王国の騎士であった。
だが、ヤンジール王国の騎士には数年中央の騎士団から離れ、国の地方へ行きそこでの仕事で一定の成果を上げなければ中央に戻れないという慣習があった。
王国騎士団の騎士は他の領の騎士や冒険者、傭兵などの自分たち以外の存在を必要以上に見下すきらいがあった。それでは国の有事の際に、連携が取れず不必要に国を危険にさらす可能性があるという上層部の命により作られたものであるとされる。
が、それは建前であった。いや、もともとそういうものであったのだが一部の上層部により都合のいいものに作り替えられていた。
ヤンジール王国の一部の上層部は体のいい慣習を立てて本音のところでは自分の邪魔になる存在、自分より優れた軍人を事前に消すことを当たり前のように行っていたのであった。
そういうこともあり看守ローザムはその優秀さを上官に疎ましく思われていて、そのせいで左遷されたのであった。
このジャムにきてかれこれ五年になるか、この鉱山には本当にいろんなやつがやってくる。
窃盗のようなしょうもない罪を犯してここに来るやつ、何十人という人を殺して来たやつ、貴族、または自分よりも上の階級の人間に疎まれて冤罪のようなものを着せられここに無理やり送られたやつ、そのほかにもろくでもないやつが多数存在する。
後半に挙げたやつは本当にかわいそうだが、それ以外の大多数は救いようがないやつばかりだ。
だがこの鉱山ではいい奴であろうと、悪い奴であろうとその劣悪な環境に耐え切れずすぐに死んでいくのだ。
看守ローザムはそう考えながらわめいている義人に近づいていく。
自分もまたそういう存在であると知らずに。
ここの鉱山奴隷がすぐに死んでいく理由の多くは魔物である。
ここには魔鉱石が取れる岩肌をさらけ出した鉱山しか存在しないが、唯一鉱石以外に魔物が存在するのである。
奴隷が魔鉱石を取るために鉱山を掘っている最中に岩の魔物が襲って来ることはざらである。
その中でノルマを達成することはほぼ不可能である。
そのため看守によりバツが与えられるころになる。
そういうことを繰り返されれば自然と身体的にも精神的にもきつくなり自分でも気づかないうちに息絶えることになる。それがこの鉱山での常識であった。
「おい312番何をしでかしたか知らんがこれからはここで30年をかけて働いてもらう。わかったな?」
「あqwせdfrtgyhhヴぃうあhぢあなsdfふえふ!!!!(私は何もしていません。したかもしんないけど。てかここどこ!!今思ったら処刑場の時から制服じゃなくてほぼ雑巾と変わらない服を着ているし、鎖につながれている手錠と足枷もつけられているし、なんなんだよぉ!!!)」
「やっぱりすでにいかれているなこいつ、これはすぐにしぬかもな。なに言っているのかわかんねぇし。はぁ、つれてくか」
ローザムは牢屋の中に入り自分に土下座している義人を起こし、義人の足についていた錘付きの足枷を外す。そして義人を連れて坑道にでる。
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<奴隷鉱山ジャム・坑道>
義人は目の前の人物についていきながらすでに精神的に参っていた。異世界に来てゴブリンに襲われ、自分でも訳が分からず偉い人に裁かれおそらく奴隷としてこの坑道にいる。自分の考えていた異世界生活とは天と地ほど違う状況にもはや十代の精神力では耐えられるものではなかった。
もう死んだほうがいいのかな。
しんどすぎる。
さっきまでは空元気だったけど、この足場の悪い道を歩いていてだんだんそれもなくなってきた。
ただただつらい。
これから先の状況を考えると絶望だ。
奴隷ということは理不尽に働かされ使いつぶされることは俺でも思いつく。
義人がどれほど歩いたかわからないほど坑道を歩いて降りていくと、だんだん自分と同じような格好をして坑道を掘っている人たちを見かける。その多くはやせ細り目が死んでいた。また坑道に横になっている人などもいる。その中には死んでいる人もいるのだろうかと義人が考えることをやめた頭で思っていると、漸く到着したのか前の人物が足を止める。
「お前と同じ組の313番と315番だ」と看守ローザムが言う。
義人の目の前には背がとても大きく頭巾をかぶって顔が見えない男と背の小さい顔の周りに髭を蓄えたおっさんがいた。
「おい!お前たちこっちは312番だ。名前は知らん!お前たちの組の新しい奴隷だ。仲良くしてやれ」
「ワカッタ」
「了解しやした」
看守ローザムの紹介に髭のおっさんと頭巾のデカいやつが答える。義人は三人が何を言っているのかわからないのでただただ後ろで不安そうに見つめる。看守ローザムはそれを知ってか知らずか義人を横目に去っていく。
「あqwせdrftgyふじこlp(おい新入り、俺の名前はバンサイ。隣のでっかいのはアーロンだ。俺たちの仕事はノルマに達成するまで壁を掘り続け魔鉱石を手に入れ続けることだ)」とバンサイは身振り手振りで義人に伝える。
「よろしくお願いします」と義人は自分に説明してくれていると感じて、何となく挨拶をしながら頭を下げる。
「あwsでrfgth(何言ってんのかわからねぇ、こりゃ大変だ)」とバンサイは思わずつぶやく。
「くぁsdftgyふj(ダイジョブ。オデ、オシエル)」
「あせdrfちこ(お前も片言じゃねぇか)」
義人は二人のやり取りを見ながら、言葉がわからないがなんだかよさそうな人たちだと感覚的に感じた。それは絶望の中にある一筋の光だった。
誤字脱字あったら教えてください。
読んでくれてありがとうございました。