表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/35

筋を書くもの

 夏の夜会が始まった。

 あの夏の夜会から一年が経っていた。

 

 レティは結局アレクスが迎えに行くことを許してはくれなかったが、広間へエスコートすることは許してくれた。アレクスは、レティの到着を待って、双子に代わり広間へ連れてきた。

 今日は誘われても、誰とも踊らず、ずっとレティの近くにいるつもりだ。


「アレクス。喉が渇いたわ。何かとってきて」


 アレクスは、レティに言われて、いそいそと飲み物を取りに行く。

 アレクスがレティから離れたのをみて、ナシルがすかさずレティに歩み寄った。


「体はもう大丈夫?」


 レティはナシルを見上げた。


「ええ、もうだいぶいいわ。前のようには動けないけど」


 ナシルは、会場に背を向けて、レティを広間から遮った。


「アレクスとはどうなってる?」


 レティはちょっと顔を背けて答えた。


「どうもなってないわ」


 ナシルは、少しかがみこんで、レティに覆いかぶさるように顔を近づけた。


「毎日君のところへ行ってるとか…」


「アレクは優しいから、同情と愛情を勘違いしてるのよ」

 

 ナシルはさらにレティの近くに顔を寄せる。後ろから見たら、二人がキスしているようにも見える。


「それは関係ないよ。君が、どう思うかだよ。君は、自分に正直に生きないと。一度死にかけたんだから、それがどんなに大事かわかるよね?」


 レティはナシルから目を背けた。


「もたもたしてると、本当に僕と婚約させられちゃうよ。もっとも、僕は婚約したら、アレクみたいに待つような間抜けなことはしないから、そのつもりで」


 ナシルはいい終わると、レティの唇に触れるか触れないかのようなキスをした。それは、ナシルがレティにした、初めての唇へのキスだった。


「さて、あとはごゆっくり」


 そう言って去ったナシルの後ろに、気泡の浮かぶ酒の入ったグラスを二つ手に持ったアレクスが、なんともいえない顔をして立っていた。



 ナシルは双子を連れて、バルコニーで酒を飲んでいた。


「そういえば、姉上の婚約者に名乗り出るって言ってたけど、本気なのか?」


 ギュンが聞いた。


「そんなわけないだろ。この計画に、どれだけ時間をかけてきたと思ってる。長期にわたって東方への憧れを語り続け、外国へ出た際に薬を手に入れ…。予想外のことはあったけど、俺ほどレティの幸せを願い、身を砕いてきた人間はいない。あれは、アレクに対する、最後の脅しだ。ついさっき、レティにも、揺さぶりをかけてきた」


 ナシルは持っていた酒を一気に飲み干し、ニヤリと笑った。


「これで上手くいかなかったら、晴れて、俺がお前たちの義兄だ」


 そういって、ナシルは双子の背中を思いっきり叩いた。

 その場所を起点に、二人の全身に悪寒が走る。ナシルが食えない男だと、今回のことで嫌という程理解した。ナシルは目的を達成するためには、どんなことでも平気でやってのけるのだ。


 双子にとって、計算高く、腹の底が読めないナシルが義兄になるよりは、裏も表もないアレクスが義兄になった方が、はるかに平和なのは間違いない。


「さて、約束のものを出せ」


 ナシルに促され、二人は懐からそれぞれ紙一枚を差し出した。ナシルはそれを広げてざっと目をとおす。


「三年は帰ってこれないからな。運が悪かったら命もない。独身で、屈強な精鋭。もちろん、お前たちの近習は入っているんだろうな」


 ナシルが手にしていたのは、東方へ連れて行く兵の候補を書き連ねたものだ。レティとアレクスを婚約させる話をナシルが持ちかけてきたとき、その見返りとして要求してきたものだ。もちろん、言われた通り、自分たちの近習たちの名も書いてある。


「少なくとも一人は残してくれ。不便でかなわん」


 言ったアイの顔はひきつっていた。


「四公のお許しさえ出れば、お前たちのどちらかを連れて行ってもいいんだぞ。お前たちプロガムも、国にこもってばかりいないで、外に出てみるといい。見える世界が変わってくる」


 双子の顔が同時に引きつった。もしかして、どちらかが東方に行くことになるかもしれない。ナシルは二人にかまわずリストを見ながら話し続ける。


「レティを治したラドの医者。ラートと言ったか。あいつにも声をかけようかと思ってる。あいつにもっと医学を学ばせれば、多くの民の役に立つ。それに、あいつはラドだ。護衛としても連れて行って損はない」


 本当に、ナシルという男は、みんなのことを考えているのか、自分のことしか考えていないのか、よくわからない。もしかしてその両方かもしれないが、いつも緻密な計算が言動の背後に隠れていることは間違いない。


 今回の件も、レティのためといいつつ、結局自分の思い通りに筋を書いただけのような気がしてならない。今後ナシルから何か持ちかけられた時は、絶対に簡単に話に乗ってはいけない。ギュンとアイの双子は、目を見合わせた。

ラストまでもう少しです。


読んでいただいた皆様、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとございました。

残り2話も、どうぞお付き合いください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ