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 まぶたの中で、ものすごく明るい光が見える。明るすぎて、まともに見ることができない。レティは、我慢できず光から目を背けた。それから、恐る恐る、まぶたを開けた。


 強い日差しの下で目覚めたと思ったが、外は全然明るくない。一体、今は何時なのだろう。薄暗くて、夜が明けていくのか、日が沈んでいくのか、よくわからない。


 それよりも、先ほどの耐え難いような光はなんだったのだろう?レティは、光のあった方に目をやった。


 視線の先にいたのは、アレクスだった。ベットの横に座り、突っ伏して眠っている。レティはアレクスの頭に手を伸ばした。久しぶりに触れるこげ茶色の髪は、いつもより伸びて、ふさふさと柔らかい。


 レティはアレクスの髪に触れて、これまでの夢とは違って、体が動くことに気づいた。泥の沼に浸かって寒くてたまらなかった体も、暖かさが少し戻っている。レティはアレクスの髪の感触を確かめるように、指先で優しく梳いた。


 アレクスがピクリと動いた。しばらくそうやって眠っていたのか、額には服の刺繍がしっかりと残っている。そして、口の周りにはよだれのあとも見える。レティの知っている、いつものアレクスだった。レティは、思わず笑い出しそうになった。


「…レティ!」


 アレクスが大声で叫んだ。

 アレクスの慌てぶりに、レティはまた笑いがこみ上げてきた。


「なに?」


 答えたつもりが、喉が渇いて声にならない。

 アレクスは広いベットによじ登ってきた。それから、両手で、レティの頬を包んだ。


「レティ~」


 アレクスがボロボロと大粒の涙を流す。レティの胸のあたりに、涙がぽたぽたと落ちる。下から見ると、雨が落ちてくる瞬間にも似ていて面白い。だけど、雨と違うのは、それが温かいということだ。


「どうしたの?」


 レティはまたアレクスに聞いたが、やっぱり、声は出なかった。

 アレクスは、レティの胸に顔を埋めて大きな声で泣き始めた。

 たくさんの人が、部屋に入ってくる気配がする。考えてみたら、ここはどこなのだろう?どこにも赤い飾りがないし、プロガムに関係する建物ではないようだ。


「レティ」


 声をかけ、レティの手を取って、ラートが脈を取り始める。レティの周りを、プロガム城のピエタリや、レティの隊の衛生兵長や、緑のものを身につけた医師と思しき人物が数人取り囲み、まぶたをひっくり返したり、口を開けて舌を見たりと大騒ぎしている。


「アレクス様、離れてください」


 ピエタリが迷惑そうに、さっきからレティの横でうずくまっているアレクスに言った。


「嫌だ」


「傷をあらためたいのです。ベッドから降りてください」


「嫌だ」


 アレクスはレティにしがみついて、医師団の邪魔をしていた。素直なアレクスが、人の邪魔をするのをレティは初めて見た。ピエタリ含む医師団の迷惑そうな顔に、口に少し水を含ませてもらって声を出せるようになったレティが助け舟を出した。


「アレクス、離れて。少し重いわ」


 レティが微かな声で言うと、アレクスは、ごめんと言って、すぐにレティから体を離した。後ろで待ち構えていたギュンとアイが、すかさずアレクスをベッドから引きずり下ろす。


「やめろっ!」


 アレクスはじたばたとギュンとアイに抵抗する。その隙に、医師団はアレクスをしめ出すように囲いを作った。


 アレクスは力の限り暴れたが、アレクスが暴れてもギュンとアイには、なんということもない。双子は、バタバタと暴れ続けるアレクスを、軽々と隣の部屋に放り込んだ。そこには、ユルド、ナシル、ヴィサ、リクハルドと、レティに近しい関係者が集っていた。


「なぜ俺をつまみ出す?俺はレティの夫だぞ」


 その言葉に、ナシルがゆらりと立ち上がって、アレクスを見下ろした。


「夫だと?お前、3ヶ月も一緒にいて、なにもなかったっていうのに?よくそんなことが言えるな」


 ナシルは昨日からアレクスに対しては、容赦がない。優雅で温厚だと思ってきたナシルの、攻撃的で辛辣な様子にアレクスは圧倒された。

 外交の場で活躍すべく育てられたシンド家のものに、言葉の応酬で勝てる気はしない。しかし、ここで引き下がるわけにもいかなかった。


「俺は、レティが好きなのはお前だと思ってたし、お前もレティを好きだと思っていたんだよ!だから、お前が東の国から帰ってくるまで、何もせず待っていようと思ったんだ!」


 アレクスは思いっきり叫んだ。


「待っていようと思ったってことは、お前、レティのこと、好きでもなんでもなかったんだよな?好きだったら、自分が愛されてなかったとしても、愛されようと努力しただろ。それに、四公の決定があったんだ。誰にも遠慮なんていらない。要するに、お前はレティをなんとも思ってなかったんだ」


 ナシルの目は、心底冷たくアレクスを見た。


「今度のことで、お前にレティを任せられないことは嫌という程わかった。レティの傷が治ったら、すぐにレティと婚約する。この際、外へ行くのは、二人ぐらい子ができてからで構わない」


「そんな…」


 アレクスは、ナシルの言葉を聞いて、青くなった。ナシルが名乗りをあげれば、アレクスに勝ち目はない。アレクスは、アイやギュン、ユルドの方をすがるように振り返った。みんな難しい顔をして黙っている。実際、弟たちにはどうしようもできない話なのだ。


 ナシルはアレクスの胸元に拳を当てた。


「今更、レティを愛してたとか言うなよ。お前の口からだけは、聞きたくもないからな」


 ナシルは、拳を力強く押した。その意外にも強い力に、アレクスは、よろめいて倒れそうになった。


 看護師が皆を呼びにきた。

 レティの手術はうまくいって、あとは感染に気をつけてゆっくり療養すれば良いらしい。

本日は、あと1回夜に更新します。

そして、明日、3話で最終回となります。


ここまでお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございます。

後少し、登場人物たちを見守ってやってください。

どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

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