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 ベットはとても暖かかった。ラートの洞窟も不思議と寒くはなかったが、ラートの洞窟には、子供の頃からレティが寝てきたような、ふかふかのベットはなかった。今、レティが寝かされているのは、自分が育って来た中で、ずっと眠ってきた、ふかふかのベットだった。


 どうやら、レティは、夢の中にいるようだった。夢の中で、レティは、谷に落ちる前の生活に戻っているらしい。この夢の中では、レティの体は動かなくて、目を開けることも、声を出すこともできない。アレクスは、少し離れた隣に寝ていることもあったし、ベットの横に座って、心配そうな顔でレティの手を握っていることもあった。


 夢の中で、アレクスはレティの髪を優しく撫でたり、頬にキスをしてくれた。夢というのは都合のいいもので、今まで、欲しくても得られなかったものが、都合よく手に入る。驚いたことに、アレクスは、時に愛の言葉さえ囁いてくれた。体は全く動かないのに、ずっと欲しかったものが与えられるなんて、少し皮肉な気はするが、たまにはこんなのも悪くない。アレクスが自分を見て、寄り添ってくているのは、とても幸せなことだ。


 レティは、そんな夢をみては、深い眠りにつき、また同じような夢をみた。


 夢の中で、アレクスがひどく泣いている。近くには、ギュンやアイやユルドもいる。弟たちは必死でアレクスをなだめているが、こんなに取り乱したアレクスを見るのは初めてだ。今度の夢は本当に良くない。

 レティはなんとか起き上がろうと思ったが、体はどうしても動かなかった。いつもなら、何かいたずらをしかけて、アレクスを笑わせてやるんだけれど、これではとてもできそうにない。


 それに、いつの間にか、自分は、ふかふかのベッドから、重くて冷たい泥の中に移動したらしい。泥の中は、すごく寒くて気持ちが悪い。




 ギュンとアイは、泣きじゃくるアレクスを必死でなだめていた。


 窪地の下で発見されたレティは、馬から落ちた際、体に傷を負っていた。窪地から引き上げられた後、すぐにラートが処置を施したが、以前の怪我で弱っていたレティにとっては、今度の傷も、命を脅かすのに十分だった。


 傷が腐る前に、処置を施す必要があった。処置をするには、何らかの薬でレティの感覚を麻痺させなければならないが、医師たちは、プロガム酒を使って、レティがそのまま命を落としてしまうことを恐れていた。


「プロガム酒は、体力のあるものにしか使えませんが…」


 ラートが医師たちを前に淡々と話している。


「東の国の方に、嗅がせるだけで眠るように意識を飛ばす薬があります。それだと、薬が原因でそのまま命を落とすということはないはずです」


 医師たちがざわめく。


「しかし、そんなもの、この国にはないですよ」


「手に入らないならば、効き目を期待せず、薄めたプロガム酒を使うか、あるいは、眠ったまま起きないのを覚悟して、プロガム酒を使うかのどちらかです」


 ラートを含む医師団は、それぞれ近くにいるものと額を寄せ合って、どちらを選択すべきか、話し込んでいる。


 一人の医師が、ギュンとアイの前に立った。プロガム城の医師、ピエタリだった。


「夜会の夜、レティ様に使われた薬を出していただきたい」


 ギュンとアイは、じろりとピエタリを見た。


「レティ様は、私のところに来られて、夜会の夜、何も飲んでいないのに、記憶もなく眠らされたとおっしゃていました。レティ様のお話から、私はそれを今回の手術に有用な薬だと判断します。薬を、我々医師団に預けていただきたい」


 ギュンとアイに、ピエタリが畳み掛ける。


「姉君のためです。すぐに、薬を出してください」


 ギュンとアイは、顔を見合わせた。そして、アイが答えた。


「あれは、俺たちのものではない」


「では、どなたの?すぐにでも譲っていただきたいのです」


「持ち主に早馬を出す」


 アイはサクに目配せし、素早く手紙を書いた。

 アイが印で封じた手紙を持って、サクが部屋を飛び出して行った。

本日もお読みいただき、ありがとうございます!

良い1日になりますように!

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