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 騒然としていたリュネの現場に、突如赤い紋章をつけたものたちが現れた。プロガム軍の兵士たちだ。


「最初は全員で土嚢を作れ。それから適宜、運ぶ人員を増やしていけ」


 工兵長の声が飛ぶ。軍は統率の取れた動きで、土嚢を次々に作っては、積み上げた。アレクスは上官らしき兵に声をかけた。


「来てくれたのか」


「はい。王都への帰路でしたが、ここで作業する指示を受け、全員で戻って来ました。きっとお役に立てると思います」


 そう言って、上官はまた土嚢積みに精を出す。あっという間に、作業は進められていく。兵士たちの統率のとれた働きで、またたく間に堤を守る立派な堤防が二重三重に築かれた。


 出来上がった土嚢堤を見て、皆が一息ついた時、上流から、不気味な轟音が響いた。誰かが大声で叫んだ。


「急いで上へ上がれ!」


 男たちは一斉に、高くなったところに逃げ出した。

 音から遅れることしばらく、木々や石を押し流しながら、茶色く濁った水が、ものすごい勢いで迫って来た。

 濁流はいろんなものを巻き込んで流れていく。川は、先ほどと同じ川と思えないほど、増水していく。土嚢に、水が迫り始める。


「切れないか?」


 隣にいたザクリスに、アレクスが聞いた。


「大丈夫だ。軍のおかげで、分厚い土嚢堤ができた。俺たちだけのだったら、間違いなく流されていただろうがな」


 土嚢は濁流に負けることなく、立派に役目を果たしている。それを見て、そこにいた全員が歓声を上げた。

 アレクスとザクリスも、近くにいたものと抱き合って喜ぶ。みんな、疲れていたが、堤を、そして何より民の暮らしを守りきったという安堵の気持ちに包まれていた。



「アレク…!」


 アレクスの腕が、急に強く掴まれた。ギュンだった。アレクスは喜びのあまりギュンに抱きついた。


「ギュン。お前たちだったのか。街も堤も助かったよ」


 アレクスに抱きつかれたギュンは、アレクスの肩を掴んで自分から引き剥がした。それから、ザクリスの方を向いて言った。


「こいつを借りていくが、構わないな?」


 同じ人間とは思えない美しい男に話しかけられ、ザクリスは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になっている。この男がプロガム本家の人間だと気づくまで、ザクリスはしばらく時間を要した。


「どう見ても、今、ここを離れるわけにはいかないだろ」


 アレクスが不満げにギュンに答えている。そういえば、この二人はついこの前まで義兄弟だったのだ。

 ギュンはアレクスの胸ぐらを掴んで持ち上げた。ギュンに持ち上げられたアレクスの足は、宙に浮いている。


「今度は、自分で選ばせてやる」


 ギュンは一旦言葉を切った。


「今回、ここへ兵を向かわせたのは、姉上だと何人もの兵が証言している」


 アレクスは、バタバタさせていた足を止めて、静かにギュンの瞳を覗き込んだ。それから、ギュンの手を振り払って地面に降りた。


「ザクリス、俺、どうしてもいかなくちゃならない」


 ザクリスも、馴染みの作業員たちも、周りにいた兵たちも皆一斉に頷いた。そして、雄叫びが上がった。その声を後ろに、アレクスとギュンは、ぬかるんだ坂道を一気に駆け上った。


 坂を登りきったアレクスは、レティの姿を探した。そこは、ユルドやペテルなど、身分の高いものが集っていた。


「レティは?!」


 アレクスが大声で叫ぶと、ペテルが、首を横に振った。


「レティ様と接触した兵によると、レティ様は、こちらへ向かうとおっしゃられたのですが、途中で行方が分からなくなり…。今、手分けして探しているところです。とても具合が悪そうなご様子だったと…」


 聞いてアレクスは、空いていた馬に飛び乗った。


「アレクス、君はここで待っていないと!」


 ユルドが叫んだ。


「探しにいく。今度は、絶対に見つけるんだ」


 アレクスは言い終わらないうちに、馬腹を蹴っていた。

 ギュンが静かにアレクスの後ろに従った。


 二人は馬を駆けた。途中、あちこちでレティを探している数人組に出会った。アイやサク、ヴィサやリクハルド、皆が必死に探している。生きていたのにもかかわらず、半年以上姿を現さなかったのだ。またどこかへ隠れてもおかしくない。皆焦っていた。



 探しても探しても、レティは一向に見つからなかった。一同に、重苦しい雰囲気が流れ始めた。そこへ、一頭の馬がすごい勢いで近づいてきた。馬には、ラド族の男が一人乗っている。


「おい!君たち!」


 ラドの男は、大そう慌てた様子で馬を止めた。


「マントをかぶった小柄な男を知らないか?この馬に乗っていたはずなんだが…」


 よく見れば、馬は顔の白毛に特徴があった。ヴィサが叫んだ。


「レティ様の乗っていた馬です!」


 ラドの男は、はっとした様子で、ヴィサに詰め寄る。


「レティとあったのか?どんな様子だった?話してくれ」


 それにアイが割って入る。


「お前は、何なのだ?姉上のことを知っているのか?」


 ラドの男は、アイに向かって答えた。


「姉上?」


 男は、ラド族特有の、薄い琥珀色の瞳で、品定めするようにアイを見た。


「レティの弟か。彼女は大怪我をして、まだ普通の体じゃない。待ち合わせ場所に馬だけがきていたから、何かあったのだろうと探しにきた」


 一同がざわめき立つ。


「早く見つけないと…」


 ラドの男は、心配そうに呟いた。先ほどからレティを探しているが、ずっと見つからないことを一人の兵が告げた。すると、ラドの男は、きょろきょろと辺りを見回し、いきなり静かになったかと思うと、森の中へと馬を進めた。


「どこへいくんだ?」


 アイを無視して、男は進み始める。アイは男と馬を並べ、男の顔を覗き込んだ。その目には、先ほどとはまったく違う光が宿っていた。アイは男に話しかけるのをやめ、少し下がったところで馬を歩かせた。


 男は、時折立ち止まっては目を閉じた。そしてまた、馬を進ませる。男も、そして、周りにいる誰も、何も言わない。

 男がまた立ち止まった。そして、振り返った。


「見つけた」


 そこは、草の生い茂った窪地だった。


「この下にいる」


 男はそう言って、窪地の下を指差した。何人かが、馬から降りて、窪地へ下って行こうとした。男は、手を横に広げ、それを制した。


「覚悟があるなら、君が、連れてくるんだ。そうでなければ、彼らに行かせる」


 男はアレクス一人をはっきりと指差した。その後で、ギュンとアイと、ヴィサとリクハルドを指さした。そこにいた全員の視線がアレクスに集まった。


 迷う必要はなかった。アレクスはしっかり頷くと、縄を担いで、一人、窪地へと降りて行った。

読んでくださってありがとうございます!


最終回まで残り7話。

もう少しお付き合いいただければ幸いです!

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