行進
雨季のまだ手前だというのに、ここのところ雨がずっと降り続いていた。
久しぶりの晴れ間に、ラートとレティは、朝はやく洞窟を出て、患者の元へと向かっていた。
ユルキに会ったあの日から、レティはあの街には行っていない。ラートが何度か出かけて行って、レティを探している気配はないと言うので、悩んだ末、今日は久しぶりについてきた。
それでも、用心して、今日はラドの服を着るのをやめた。ありふれた男ものの服を着て、顔を布でしっかりと隠し、フードを深くかぶっている。
レティを乗せた馬を引いていたラートが、急に、道を外れて森に入った。
「何かいるの?」
レティはラートの顔を覗き込んだ。ラートが静かに頷く。
ラートは物音や気配を、驚くほど遠くから察知する。遠くのものが、まるで目で見えているみたいに行動するのだ。
ラド族出身のラートは、レティたちアズヴェルト人とは全く違う感覚で生きている。レティから見れば、ラートは特殊な能力を持っているかのようにも見えるが、ラートに言わせれば、ただ『当たり前のこと』で、レティたちアズヴェルト人にもできることらしい。信じられないことに、単に『やり方を忘れている』だけだそうだ。
「なにがいるの?」
レティはもう一度聞いた。ラートは人差し指を口に立てて、静かに、とレティを促す。
ラートは木々が茂った、街道がぎりぎり見える位置で馬を止め、レティを馬から下ろした。
しばらくすると、レティにもはっきりと、聞き慣れた音が聞こえてきた。
規則正しく繰り返される足音。
軍が行進している音だ。
ギュンとアイとユルドの旗印が見えて来た。先頭の集団に、ギュンとアイの姿が見える。二人とも、疲れてはいたが、体は元気そうだ。ギュンとアイの隊が通り過ぎた後、レティの兵士たちの顔が見えた。最後尾には、ユルドがペテルら主だった将に守られながら進んで来た。ユルドのそばには、レティの近習ヴィサとリクハルドもいる。
軍はあっという間にレティたちの前を通り過ぎていった。
「大丈夫?」
ラートは心配そうにレティの顔を覗き込んだ。
「ええ。もちろん。皆の元気な様子を見られてよかった」
レティは明るく笑った。
ラートは再びレティを馬に乗せ、道に戻って歩き始める。
「隊の交代があったようね。交代直後は軍の動きが活発になるから、残念だけど今日も、街へ入るのはやめておくわ」
「じゃぁ、昼前にいつものところで待ち合わせよう。何かあった時のために、馬を置いて行くよ」
レティが頷くと、ラートは何か引っかかったのか、こう言った。
「乗ってもいいけど、全力で駆けるのはダメだよ」
「そんな無茶はしないわ」
レティは、笑って答えた。ラートは何か言おうとして、もどかしそうに口をパクパクさせた。
「う…ん。なんと言うか…。馬を使うのは仕方ないかもしれない。だけど、長い距離を駆けるのは、今の君には無理なんだ」
「わかったわ。ラート。あなたの言うことは、いつも正しいもの」
レティは本心からそう思っていた。こうやって、ラートが『預言』したことが外れたことはない。ラートの『預言』に従って、損はないことをレティはもうよくわかっていた。
本日最後の更新です。
削りまくった章で、文章が短い…。
今日も読んでいただき、誠にありがとうございました!




