祝いのあと
ドアがノックされ、部屋の扉が開いた。レティは振り返りもせずに、窓の方を眺めていた。
アレクスがレティの顔をそーっと覗き込む。
レティが起きているのに気づいて、アレクスは陽気に笑い出した。
「寝てるのかと思った」
お酒のせいか、アレクスはとても楽しそうだ。
「疲れたの?みんなお祝いに来てくれてるんだ。大丈夫なら、降りておいでよ」
アレクスはレティの手をとって立ち上げようとする。
「アレク」
アレクスは中腰になってレティの顔を覗き込んだ。
「ん?」
屈託のない目で、自分を見つめるアレクスの体に、レティはゆっくりと腕を回した。
「どうしたの?酔ってるの?」
レティに抱きつかれて、アレクスは体制を崩した。それでもその手はレティの体を優しく支えている。
「そうね。酔ってるのかな」
「酔ってるのかな、って?」
アレクスは明るく笑って、レティの背中に手を添えた。
「レティが酔うなんて、今日は雪が積もるぞ」
プロガムの一族は、浴びるほど酒を飲んでも、顔色ひとつ変わらない。
もちろん、レティもその血をしっかりと引いていた。
レティは、アレクスに抱きついて離れようとしない。
「何か嫌なことがあった?」
アレクスはレティの背中を撫でた。レティは小さい頃、何かあると、アレクスにこうして慰めてもらっていた。
レティは、ただじっとしている。
アレクスは、レティが軍務に就く前の少女の頃に戻ったような錯覚を覚えて、レティの顔を覗き込んだ。レティは、心配そうなアレクスの目を見て、ふふっと笑った。
「嫌なことっていうより、ちょっと現実に戻ってたのよ」
「現実?軍務こととか?」
レティはアレクスの肩に自分の顎を乗せた。
「そんなところね。秋になると、ノードリアからの盗賊が増えるわ。食べ物がなくて困ってのことだと思うけど、放っておくわけにはいかない。私が国境に戻って、威嚇しないとね」
「うわ。恐ろしい!でも、婚約したら、半年ぐらいはこっちにいていいんじゃないの?」
確かにそういうことになっていたが、半年王都にいたところで、果たして、自分たちの間に変化は起きるのだろうか。ここ一ヶ月の間、何もなかったというのに。
「そうね。だけど、絶対ってわけじゃないわ。秋の間は、ひとまず国境に戻って、雪で国境が閉ざされる冬の間に、こちらでゆっくりしようと思っているの」
アレクスは、子供を褒めるようにレティの頭をよしよしと撫でた。
まるで子供時代と変わっていない。
「そっか。次期当主様は、大変だな」
レティはふふっと笑って言った。
「ねぎらって」
「承知しました」
アレクスはそう言って、頬に優しくキスをした。
それは、リュネの領地で一緒に過ごした幼い頃に、レティが落ち込んだり、元気がないときにアレクスがしてくれた励ましだった。
レティはアレクスから体を離し、しっかりと立ち上がった。
「秋までに決めるわ」
立ち上がりざま、レティが小さくつぶやいた。
アレクスが、もう一度言ってと、耳を近づけたが、レティはただにっこり笑うだけだった。
ここで1章が終わりました。
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