前書き
勇者は魔王を倒し、国の危機を救う物語は古から今に至るまで、語り継がれている。勇者は魔王に脅かされている国の、国民の希望、魔王は未曾有の大災害、完全悪とみなされ、お互いに相容れない存在である。だがそれは、勇者が魔王にならないという理由にはなりえない。勇者は人間だ。であれば、どうして勇者を人間として何の欠陥のない存在といえようか。
これは、孤独に耐え続けた、勇者の物語である。
人間如きの侵入を阻むように放たれる魔力に包まれた、魔界。のような場所。確証を持つべきかよく分からないが、一応それなりに魔王が過去にいたと思われる、荘厳たる佇まいの魔王城。いかなるものを憎しみの念をもって開眼した目を二つ無理矢理ねじ込み、この世の闇を染み込ませたような、堅牢であるだろう重厚な扉。禍禍しく歪曲し、琴柱を交わしたように肘を置くには少々とげとげしい肘置きがある玉座。私はというと(ここではまだ私の名は伏せておこう)、ここで魔王と語るべき存在だと自称している者だ。何かしらの魔王に値する資格があるらしく、200年の間ここに鎮座している。渋の抜けた精鋭悪魔集団、魔王の片腕ともいえるだろう者たちを従えて今まで魔王城にいるのだが、彼らは私に何か隠し事をしているように私は何だか魔王という位に適当に当てられ、彼らの企みの中でうまいようにまるめ込まれている感覚だ。
そりゃそうなるよな、誰だって。特にわたしはそうだ。
私は200年前、勇者をしていたからだ。