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レリック・ハンター  作者: 中川あとむ
第二十四話 シェリーの恋
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24-3 ヴァーチャル空間

 そのヴァーチャル空間に入ると、周りは薄暗く殺風景で、月面にでもいるような感じの風景だった。


 遠くに見えるのは火山か?


 唯一、その火山から吹き出しているマグマだけが、赤い色を放っていた。


 何か声が聞こえたようなのでそちらの方を見ると、少し離れたところに何人か人がいるのが見える。

 おそらく彼らが、あのカプセルに横たわっていたアンドロイドたちなんだろう。


 さて、ここはヴァーチャル空間なのだろうが、ここでは俺の姿はどうなってるんだ?

 俺はそう思い、自分の体を眺めてみる。服は先程から着ているものと同じようだ。

 次いで自分の手で顔を触ってみるが、こちらもいつもと変わらない気がする。

 鏡が無いからわからないが、機械がスキャンして同じ姿にしているのか、それとも俺のイメージから俺の姿が作られているのか。


 そんなことをしていると、俺の隣に何もない空間から女の子が現れた。

 彼女の顔はシェリーに似ている。ピンクのメイド服を着ているからシェリーなのかもしれない。


 その女の子が、頭を少し横に傾けて俺を見つめてきた。

「旦那様? どうされましたか?」


「あ。やっぱり、シェリーか」


 現実界で待っているものかと思ったが、来てしまったようだ。


 俺はシェリーを、頭からつま先までよく見てみた。現実界の彼女より、さらにかわいくなってるし、なぜか胸も大きい気がする。

 ということは、これはシェリーが自分に対して思っているイメージということか。


「旦那様?」

「ん? ああ。どうやら、ここでの姿は自分のイメージが反映されるらしいな。それに、本当の肉体みたいに感じる」


 仕組はまったくわからないが、俺たちのの技術よりだいぶ進んでいるに違いない。


 この間にもシェリーは、肌のぬくもりや感覚を楽しんでいる。

 自分の体を触り感覚を確かめ、それが終わると俺の手をさわり、今度は俺の髪の毛に触れてきた。

「旦那様を感じることができます」


「え?」


「うれしいです。この中では、私も旦那様と同じ人間でいられるようです」

そう言ったシェリーは、満面の笑顔だ。


「ヴァーチャル空間だから、感覚的には人間もアンドロイドも無いのか?」


 シェリーはアンドロイドだが、以前、外見は細部まで人間と区別がつかない様に作られていると言っていた。それでも肌の感触は、わずかだが作り物という感じがしていた。

 しかし、今のシェリーは肌がプルプルしていて、本物の女の子の様だ。


 するとシェリーが、俺に抱き着いてきた。

「ああ、この感覚なんですね? ユリー様や皆さんが感じているのは。私も今、それを肌で感じることができます。すばらしいです。旦那様? 私はきれいですか?」

そう言って、上目づかいで俺を見る。


「あのなあ」

「旦那様。冷たいです」


 俺はそんなことを言われるとは思ってもみなかった。


 シェリーたちエレナ博士が作ったアンドロイドは、人工知能で疑似的な感情を出すことがある。演じていると言った方がいいかもしれない。

 でも、この世界ではアンドロイドも本当の感情が持てるのか?


「えっ。いや、かわいいけど」

俺は答えた。


 嘘ではない。本当にかわいい。


 シェリーがニコリとする。

「よかった。でも、この薄暗い空間は残念です。せめて火星の海岸とかならロマンチックでいいのに」


 火星か。

 俺は火星の海岸の景色を思い描いた。

 今ごろみんなは、海岸で昼寝でもしてるんだろうな?


 すると突然、俺の足元の地面から色が付き始め、それが周りに広がっていく。

 だんだん周りが火星のユリア・シティの海岸の景色になり、太陽も上空で輝き始め、周りが明るくなった。


 すると、少し離れた所にいた、もともとこの空間にいた人々が驚いている。

「どうしたんだ?」「なに? この景色は?」「これは大量の水?」


 多分彼らは、先ほどカプセルに入っていたアンドロイドたちなんだろうが、こういう景色を見たことが無いのだろうか?


 シェリーの方を再び見ると、彼女は海に少し入り、両手で水をすくってみている。

 すると、シェリーが俺に水を引っかけてきた。


「あっ? このー」

俺も海に入り、水をシェリーに掛け返した。


 シェリーがそれを避けながら、横に逃げる。

「うふふ」


 俺は追いかけて、シェリーを両手で抱くように捕まえた。

 すると俺の腕の中で、シェリーが俺を見つめてくる。


 うっ。かわいい。


 するとそこに、一人の女性が俺たちの方に歩いて来た。

「あなたたちは誰?」


 彼女は俺たち人類と同じ外見で、西洋人の姿だ。でも服は先ほど宇宙船内で見た、簡易宇宙服のような機能的な服を着ている。


 俺はシェリーをゆっくり離し、その女性の方に向き直った。

 彼女がシェリーをジロジロ見るので、シェリーは俺の後ろに隠れ、不安そうに彼女を覗き見ている。


「あ。俺たちは、今君たちの船が訪れている太陽系の住人で、この船を調査に来たんだ」

と、俺。


「そうなの? ということは、船があなたをここに入れたのね?」

「ああ」

「ふーん? で、この景色は何?」


 俺は周りを見回しながら答える。

「たぶん俺の記憶にある、故郷の星の景色だと思う」


「あなたの記憶がここに投影されたのね?」

彼女はそう言って、周りを見回した。


「ところで、君たちはここで何をしているんだ?」

俺が聞いた。


「何って、夢を見てるのよ」

「夢?」


「私たちがアンドロイドだということは聞いたかしら。私たちを作った創造主の方々は、十万年前に私たちを置いてこの船を離れたの。それ以来こうやってヴァーチャル空間で夢を見ているのよ。それにこの中にいると、肉体の感覚と、ある程度の感情を持ってすごせるわ。そしていつか創造主の方々が戻られるのを待っているの」

彼女が説明してくれた。


「十万年前か。その間、その創造主は一度も?」

「ええ。戻られてないわ」


 すると、彼女が上を見て問いかける。

「タラリア?」


「何? ラリス」

先ほどの船の声がした。


 ということは、この船の名前がタラリアなんだな? そしてこの女性はラリスか。


「この方の遺伝子はどうだった? 調べたんでしょ?」


 いつ俺の遺伝子を検査したんだ?

 そうか、今現実界で俺の体が横たわっているカプセルにその機能があったのか。 

 もしかしてそれが目的で、俺がこの空間に入るように誘導したのだろうか。


「創造主の方々と似ているわ」

タラリアと呼ばれた船が答えた。


「そう? 合致はしてないのね? 残念だわ。とうとう創造主様の直系の御子孫に会えたかと思ったのに」


「タラリアというのはこの船の名前か?」

俺はラリスに聞いた。


「そうよ」


 俺も船に聞いてみたくなった。

「タラリア? 俺を調べるために、この空間に入るように促したのか?」


「私に全てを話す権限が無いことは事実です」

「じゃあ、タラリア? 似ているっていうことは、その創造主と俺はどこが違うんだ?」


「一番違うのは寿命です。創造主様は寿命というものがありませんでした。でもあなたは、宇宙標準年でせいぜい百二十才までしか生きられません」


 うっ。なんか変な気持ちだ。百二十才なら長生きだが、なんか死を宣告されたような気になる。


 でもラリスが、なぜか驚いて俺の方を見ている。


「どうしたんだ?」

俺は聞いてみた。


「あなた、なんでタラリアが質問に答えるの? このヴァーチャル空間では、臨時リーダーである私にしかその権限がないのに」

「え? だって……」


「もしかしたら……」

彼女が俺に何か言おうとすると、彼女の後ろから何人かの男女が近づいてきた。


 彼女もそうだが、近づいてきた彼らも皆同じような、簡易宇宙服のような服を着ている。


「ラリス!? なんだこの景色は」

ちょっと、いかつい男が言ってきた。


「あ、サマラス? 実はこの方、もしかしたら……」

ラリスが、俺たちのことを話そうとすると、

「俺は許さんぞ」

と、そのサマラスと呼ばれた男が遮って言った。


「なんです? その言い様は。私は臨時リーダーよ」

「なら、この状況をどうするんだ」

「この状況って?」


「見てみろ。みんな、だらけ始めたぞ」

サマラスが、後ろの方で遊び始めた仲間たちを指した。


「だらける? いいえ、そうではない。新しい環境を楽しんでいるだけだわ」

「俺はゆるさん」

「それは横暴だわ。それに、あなたは人のことを言えないでしょ?」


 すると、サマラスが怒りをあらわにする。

「うるさい! お前をリーダーから外す。ここにいる十人の代表が同意すれば、お前をリーダから外すことができる」


「何ですって!?」

「さあ、ラリスがリーダーにふさわしくないと思うやつは意思を示せ」


 すると、サマラスの後ろにいた十人が拍手をした。

 

 ここでは拍手で決を採るのか?


 サマラスが続ける。

「よし、これでお前は解任だ。次に俺が臨時リーダーにふさわしいと思うやつはそれを示せ」


 すると再び後ろにいた十人が拍手をした。


 俺は思わず口を出す。

「お前ら、はじめからグルなんだろ?」


 すると、そのサマラスが俺に近づいて、いきなり殴ってきた。


 ヴァーチャル空間ということもあり、油断していた。


「旦那様ー!」

シェリーが俺を呼ぶ声がして、俺はそのまま気を失った。



 薄暗い部屋の中だ。


 ここはどこだ? そうか。俺はさっき殴られて……。


「いてて。ヴァーチャル空間なのに痛みを感じて、気絶もするのか?」

俺はそう言いながら、上半身を起こした。


 周りを見ると、俺はベッドのようなところに寝かされている。

 ベッドの横にはラリスが座っていて、どうやら看病していてくれたようだ。


「ふふ。痛いのはあなたの観念もあります。痛くないと思えば痛みは和らぎます」

ラリスが言ってきた。


「そうなんだ?」


 俺は、痛くない、痛くないと念じてみる。

 痛くなくなったような、まだ痛いような。これも慣れだろうか?


 でもだんだん痛みが引いてきて、俺は周りをゆっくり観察する余裕ができた。

 ここは石でできた質素な家の中だ。家具も殆ど無い。


「ここは私の家。あなたはサマラスに殴られて気絶してしまったから、ここに運んできました」

そう言いながらラリスは、俺の手を触ってきた。


「そうか、それはありがとう。でも、いったいなんであんなことに?」

「彼は前から臨時リーダーの座を狙っていたのかもしれません」

「あの後ろで拍手した十人は?」


「ここの代表たち。私と先ほどのサマラスを含めて十二人いますが、のこりの十人をいつのまにかサマラスが味方にしていたようです」

ラリスは目をそらした。


「わからないんだが、君たちはアンドロイドなんだろ? 権力欲とかそういうのもあるのか?」

「このヴァーチャル空間の中では、アンドロイドも感情や欲望を持てます」


 ああ、そうか。そういえばシェリーもいつもと違っていたな。

 あれ?


「そうだ、シェリーは?」

俺は完全に体を起こし、辺りを探す。


「シェリー? ああ、あなたと一緒にいた女の子ですね? 彼女はサマラスに連れて行かれました」

「え? 何のために?」

「どうかしら? もしサマラスが気に入ったのなら、ハレムに入れられるかもしれないし。もし彼女が強く拒めば監禁されるか、なにか拷問を受けるかもしれません」


 俺はベッドから起き上がる。

「じゃあ、助けに行かないと。……待てよ。俺やシェリーが望めば、この空間から出られるんだろ?」


「さきほどサマラスが、私から臨時リーダーの座を奪って、その権限でこの空間にロックを掛けました」

「ロック? じゃあ、出られないって事か?」


「あなたはともかく、シェリーさんや私たちはロックを掛けられると、この空間の中で死ぬ以外、現実界には戻る手はありません。そしてロックが解けないと、再びこの世界に入ることもできません」


「ん? 俺は大丈夫なのか?」


「あなたは先ほど、船のタラリアに質問して、タラリアはそれに答えたでしょ?」

と、ラリス。


「ああ……」

「タラリアは私たちの代表の臨時リーダーと、創造主様またはその子孫と認めた方でなければ質問や命令を受け付けません」

「そうなのか」

「おそらく、子孫としての遺伝子の一致は百パーセントではありませんでしたが、子孫の可能性が高いわけです」


 そう言えば、この船は十万年かけて一周する軌道を描いているとエレナ博士が言っていた。そして、このラリスは十万年前に創造主が去ったと言った。

 ということは、この創造主と呼ばれる人たちが十万年前にこの星系にいて、地球に来ていたとしてもおかしくはないな。


 つまり地球人の先祖はこの船で他の星系から来たのか?

 でも、子孫としての一致率が百パーセントではないということは、地球の原住民と結婚して混血したのかもしれない。

 あるいは、自分たちに似せて人類を作ったか? まさかな。


 ラリスが続ける。

「ですから、あなたは私たちにできないこともできるはずです」


「例えば?」

「タラリアに命令して、ロックも解除できるでしょう。そうですね……あとは、例えば空を飛んだり、物を念力で持ち上げたり。それに壁の向こうを透視したり、服の中に何か武器を隠していないか透視することもできるはずです。昔、創造主様がそんなことを言っておられました」


「え?」

そんなことを言うものだから、俺は思わず横にいたラリスの服を見てしまった。


 ラリスはハッとして胸を隠して、赤くなる。


「あ、見てない。見てないから」

俺はすぐに否定した。


「べ、別にかまいません。この中ではあなたは、神。自由に何をしてもかまいません」

「え? 神?」


 創造主の子孫だから神扱いか。


 俺は続けて聞いてみる。

「ところで、その創造主は俺たちと同じ姿をしているんだろ?」


 まさか、角が生えているとかは無いよな?


「はい」

「でも、俺たちの社会に十万年も前から生きている人はいないはずだから、おそらくとっくの昔に死に絶えたか、他の星に行ったか」


「そうですか」

ラリスは少し悲しそうな表情をした。


 俺は考えを口に出して整理してみる。

「さて。俺がロックを解除できたとして、シェリーがそれに気が付かないと逃げないだろうな。ということは、どのみち助けに行くしかなさそうだ。助けに行くなら相手に気付かれない様に、今はこのままの状態にしておいた方がいいか」


「そうですね」

「よし、じゃあやはり、これからシェリーを助けに行く」

「では、ご案内します」


 俺たちはラリスの家を出て、歩いてサマラスたちのいる場所に行くことにした。


 家の外に出ると、最初に俺たちが来た時に見た、薄暗い景色に戻っている。周りはラリスの家のような、質素な石造りの家が並んでいた。


 俺はラリスに聞いてみる。

「ところで、この薄暗い景色は何?」


「私たちは、この船の中で作られました。一度だけ他の星に降りたことがありますが、この景色はその星の景色です。つまり、見たことが無い世界は表現しようがありませんから、今まではずっとこの景色でした」


 なるほど。

 ここのアンドロイドたちが、皆同じような服を着てるのもそれが理由か。他のデザインを見たことがないわけだ。感情は持てても創造力は無いんだな?


「さっきの、俺のイメージから作られた景色は?」

「何が気に入らなかったのか、サマラスが元に戻し、その時に臨時リーダーの権限で、もう変わらない様にロックを掛けてしまいました」


 そうか。それで現状が変わらない様にロックを掛け、出ることも出来なくなったのか。


「そういえばさっき、サマラスのハレムがどうとかいってたな?」

「はい。彼は女性をいつも五、六人周りにはべらせているんです。まったく、いやらしというか、スケベというか、女ったらしというか。創造主の方々の悪いところだけを真似しているんですわ」


 ギク。

 俺の周りにも、いつもユリーたち五、六人の女性がいて、俺もはたから見たらそう見えるんだろうか。

 でもうちはハレムではないし。みんな仲間だと思っているし。


 俺がそんなことを考えていると、ラリスが俺の顔を覗き込む。

「どうかされましたか?」


「あ、いや……。で、そのことは他の人々も知っているのか?」

「いえ大部分は知らないと思います。私はそのハレムから逃げてきた女性から相談されましたが、問題が大きくなるので、彼女には黙っているように言っておきましたから。今考えると、それが彼の横暴を許してしまったのかもしれません」


 するとそこに他の住人たちが近づいてきて、俺たちは立ち止まった。


「ラリスさん。私たちはあなたを支持します。もし事を起こすなら手伝います」

一人が言ってきた。


「そう? ありがとう」

ラリスは愛想よく答えた。


 そして、ラリスはそこに集まって来た数十人を見まわす。

「でもこの方は、創造主様の御子孫らしいわ。ですから、この方ならお一人で制圧できます」


「え!?」

そこにいた他の住人が驚きの声を上げて俺を見る。そしてひざまずいてきた。


 俺はどうもこういうのは苦手なので、立ってもらう。

「あ、ひざまずかなくていい。立ってくれ」


「では、とうとう我々の旅も終わるのですか?」

他の一人が聞いてきた。


 すると、ラリスが俺をチラッと見る。

「どうやら、もともとの創造主の方々は、もういらっしゃらないようです。この方も我々の事は知りませんでした。ですから、この方がどう判断されるか……」


 ということは、彼らを地球や火星に受け入れるか、それともそのまま旅を続けさせるかという判断をしないといけないのか?

 うーん。


「まあでも、まずはシェリーを助けに行かないと」

俺はラリスに言った。


「はい」


 俺たちはその人々の間を抜けて、サマラスのいる場所に向かったが、多くのラリス派の住人が俺たちの後をついてくる。



 町の中心らしき場所に来ると、ラリスが足を止めた。

「サマラスは、あの建物にいるはずです」


 俺のうわさが広まったのか、先程後ろを付いてきた住人たち以外にも、別の住人たちもここに集まり始めて、俺が何をするのか遠巻きに見ているようだ。


 さて、どうするか。

 先ほどラリスは、俺なら神の様に何でもできると言っていたっけ。

 例えば、ここで大災害を起こして皆を殺せば、苦労せずに全員で現実界に戻り、終わらせることもできるかもしれない。

 でも、そんなやり方は俺の趣味じゃない。


 さっきラリスは、俺なら透視も出来るはずだと言ってたっけ?

 まずは透視で、その建物の中にサマラスとシェリーがいるかどうかを確認してみるか。


 おっ。見える。


 壁が透き通って、建物の中にいる人々が見えた。


 奥の大きめな部屋に、サマラスたちがいるのが見える。そして、サマラスの横にはシェリーが肩を抱かれて、何か酒の酌をさせられているようだ。

 そしてサマラスは、周りにシェリーを含めて女性を五、六人はべらせている。その女性たちも、なぜかシェリーと同じようなメイド服を着ていた。

 ここのアンドロイドたちは、皆宇宙服みたいなものを着ていたはずだから、きっとシェリーのメイド服を見て気に入って、ロックをかける前にコピーしたに違いない。

 ヴァーチャル空間だからな。管理者権限があれば好きなように変えられるはずだ。


 そしてその部屋の少し離れたところには、他にも男性が五、六人いて、どうやら宴会をしている感じだ。


 さて。何でもできるなら、いつものようにテレポートで入ってみるか。


 俺がラリスの肩を抱くと、ラリスが、えっ? という顔で俺を見てきた。


「あ、テレポートするから」

俺はそう言って、そのままサマラスたちがいる部屋の中にテレポートした。


 テレポートから出ると、俺は周りを見回す。

先ほど透視で見た通りだ。


 でも、ここはメイド喫茶か?


「あっ、旦那様ー!? 助けてください!」

シェリーが俺を見つけて、助けを求めてきた。


 するとサマラスがソファのようなものから立ち上がる。

「おまえら、いつの間に!?」


「シェリーを返してもらう」

と、俺。


「何!? 俺はこいつを気に入った。渡さないぞ。すぐに出ていけ」

そう言うとサマラスは部下に目で合図して、再びシェリーの横に座り、片方の手でシェリーの肩を抱き、もう片方の手で他の女性の肩を抱いた。


 隅にいた部下たちが立ち上がって、俺たちの方にゆっくりと近づいてくる。


 俺はまず、サマラスがこの世界に掛けたロックを解除することにする。

「タラリア? この世界のロックを解除」


「ロックを解除しました」

タラリアが答えた。


 何も変わらないが、おそらく解除されたに違いない。


「どういうことだ?」

サマラスが驚いている。


 次に俺は、この建物の壁と天井をすべて取り払うことにした。

 ロックが解除されていればできるはずだ。


 俺がそう念じると、建物の天井と壁が無くなり、中の様子が外からすべて丸見えになった。

 すると外に集まっていた群衆たちが、サマラスが女性たちをはべらせているのを見てざわつき始める。

 サマラスは、うろたえたようだ。


 そのすきにシェリーが、サマラスの手を振りほどいて俺の方に駆け寄って来きた。

「旦那様ー!」


「大丈夫だったか?」

俺がシェリーにそう聞くと、シェリーはべそをかきながら、

「旦那さまー。助けに来てくれたのね? ありがとう、とっても心細かった」

と言いながら、俺に抱き着いてくる。


 なんか、かわいい。

 俺もシェリーを抱き寄せた。


 するとサマラスが俺たちを捕まえようと思ったのか、怒りの形相で迫ってくる。


 俺はラリスとシェリーを連れて、とりあえず一緒に二階ぐらいの高さの空中に飛び上がった。


 それを見て、集まっていた群衆が騒ぎ始めた。サマラスも口を開けて俺たちを見ている。


 群衆からは、

「おー、やっぱり創造主様のご子孫らしい」「本当だったのか」

とか、口々に言っているのが聞こえた。


 すると今度は、周りに集まっていた群衆が、だんだん前に出てこの場を取り囲んだ。


 どうする気だろう。


 そのまま見ていると、集まってきた群衆うちの数人がさらに前に出て、サマラスに詰め寄る。

「サマラス、どういうことだ? ここで何をやっていたんだ?」


「なんだ、おまえたち。俺にさからうのか?」

サマラスが、わめいた。


「我々はあくまで創造主の方々が戻られるまでの間、この空間で秩序よくお待ちしているのではなかったのか?」

「いつ帰ってくるかわからないのに、もうそんな義理立てしなくてもいいだろ?」


 すると、ラリスが、

「あなた、この方の力を見てわからない?」

と、俺のことを手で指した。


「え?」

「この方は創造主様の御子孫よ」


「そんなことあるものか。俺は認めないぞ。おい、おまえたち」

サマラスは後ろにいた自分の部下にも言って、俺たちに武器のようなものを向けてきた。


「救いようがないわね」

と、ラリス。


 俺はすぐに、俺たちのまわりにシールドを張った。

 サマラスと部下は俺たちを撃ってきたが、それはシールドに吸収される。


 さあ、こいつらをどうしてやろうか。

 あいつらを殺せば、このバーチャル空間から弾き出すことも出来る。それでもいいが、今後のことも考えると、もう少し効果がある方法が無いものだろうか。

 俺はこの中では神様らしいから、何でもできるのだろう。それなら、とりあえず……。


 俺はサマラスと、サマラスの部下と思われる数人に向かい、

「停止」

と言ってみた。


 思った通り、彼らは凍りついたように動かなくなる。


 それを見届けると、俺たちはそのサマラスの横に空中から降り立った。


 俺がサマラスを見ながら、

「とりあえず停止させてみたが、さあて、こいつらをどうしたものか」

と言うとラリスが、

「彼らも現実界に戻ればアンドロイドらしく戻ると思いますが、とりあえずはこのままにしておきませんか?」

と言ってきた。


 そうだな。それもいいかもしれない。彼らは半永久にこのままだ。


 終わったな。

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