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レリック・ハンター  作者: 中川あとむ
第三話 幽霊と失踪事件
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3-1 おとり

 公爵令嬢のユリアナは、結局家を出て俺たちのところにやってきた。

 どうやって説得したかはわからないが、父親の公爵がよく許したものだと思う。日本には「可愛い子には旅をさせろ」ということわざがあると聞いたが、そういうことなんだろうか。

 

 とにかく、ユリアナは俺たちの仲間になって皆からユリーと呼ばれ、今はそのユリーと俺、エレナ博士とイーサンで事務所のソファで暇を潰していた。


 俺の横ではユリーが電子ペーパーの洋服のカタログを見ていて、その前に座っているエレナ博士は電子ペーパーで新聞を読んでいる。

 俺とイーサンはチェスをしていた。


 エレナ博士が、何か面白い記事を見つけたようだ。

「ふーん。バロア男爵が失踪だって。なになに? 先日、不祥事で降格され、謹慎処分となっていたバロア男爵だったが、屋敷に務めている使用人から警察に捜索願が出されていた模様だ。捜索願いが出されたのは十日前だが、警察はこれまで発表をしていなかった。今回、当社記者の警察への取材で明らかになった。だと」


「十日前と言うと、降格されて謹慎になった次の日か」

俺が言った。


 ユリーは洋服のカタログを見ながら、テーブルのクッキーに手を伸ばす。

「まあ、あんな人は、いなくなったほうが世のため人のため」


 エレナ博士が次の記事に目を移した。

「こっちの記事もおもしろそうね。プリア・シティで失踪事件相次ぐ。幽霊の目撃情報も。だって」


 それを聞いて、ユリーが少しビクッとする。


 なんだろう?


「でもプリア・シティって、その男爵がいる町だろ? なにかあるのかなっ……と」

俺はそう言いながら、目の前のチェスの駒を動かした。


 それを受けて、俺の向かい側でチェスの相手をしていたイーサンが駒を動かす。

「チェックです」


 将棋で言えば王手だ。


「えっ!? ……ちょっと、まった!」

「だめです」


 そこに、「ピヨピヨ」と、チェス盤の横に置いてあった仕事用の携帯端末が、メールの着信を知らせた。

 以前はもっとかっこいい音だったが、ユリーが「かわいくない」とかで、この音に変えてしまったのだ。


 俺はこれ幸いと、携帯端末に手を伸ばす。


「ん? ギルドからの仕事の依頼だ」

俺は画面を見ながら、もう片方の手でチェス盤を勢い良く脇にどけた。


 すると駒がいくつか倒れて、イーサンが何か言いたげな顔をしたが、俺はそれを無視する。


「直接依頼が届くの?」

ユリーが、意外だという表情で俺に聞いてきた。


「どっかのゲームみたいに、掲示板を見に行くわけじゃないさ」


 ギルドはその仕事内容に応じて、過去の実績やチームのスキル、こちらの装備を考慮して依頼をしてくる。

 失敗でもされたら、信用がなくなるからだ。


 もし俺たちが依頼を断ったら、次の候補に依頼がまわる。

 俺たちが自由に仕事を選べない分、ギルドを通さないで依頼も受けられる。ただその場合は、当たり前だがトラブルがあってもギルドは一切関知しない。


 俺は、送られてきた依頼内容を皆に言う。

「今、エレナ博士が言っていた失踪事件の捜索依頼だ。失踪者の家族からの。……受けようと思うけど、みんないいな?」


「えっ? 幽霊?」

ユリーが、ちょっと怖そうな顔をした。


 ははーん。ユリーは幽霊が怖いのか?


 エレナ博士がそんなユリーに、

「幽霊なんて、今の時代にいないわよ。失踪事件と関係あるかどうかもわからないしね」

と言った。


「そ、そうかなー。それなら……」


「じゃあ、受けるよ」

俺はそう言って、メールの最後に記載された「受託」のボタンをタップする。


 依頼を受けたことによって、失踪者のデータや写真、依頼者である親からの情報などが、ギルドから送られてきた。


 俺がそれを読み上げる。

「今回の捜索対象は、ピーター・スミス。年齢十五才、男性で髪はブラウンに瞳は淡褐色。アメリカ系移民三世。三日前、夜中の十一時ごろに、近くの店に買い物に出たきり戻らず。家出の動機は無く、遺書なども見つかっていない。親の仕事は商社の営業職」


「失踪って、考えられる可能性は何かしら。うーん、家出? 誘拐?」

ユリーが上の方を見ながら。


「家出にしては、連続しすぎているよな。それにまだ、一人も見つかっていないんだろ?」


「そう。誘拐だとしても犯人からの連絡もないから、身代金目当ての誘拐とは違いそうね」

と、エレナ博士。


 親が金持ちならともかく庶民らしいから、誘拐しても身代金は大して望めないと思われる。それに、今回は単発の失踪ではなく連続性があるから、誘拐だとしても何か別の目的があるに違いない。


「エレナ博士? 他の失踪者との共通点とか、何かありそうかな?」

俺がそう聞くと、エレナ博士は自分の定位置の机に戻り、コンピュータを操作し始めた。


 おそらくギルドのデータベースや、新聞記事を検索してきて、それを人工知能に整理させているのだろう。


「今回の失踪事件のデータを整理して、モニターに表示するわ」

エレナ博士がソファの横にある大型モニターに、失踪者の性別、年齢、最後の目撃場所と日時を地図に重ねて表示した。


 俺たちはソファに座ったまま、それを眺める。

 それによると、失踪事件はどうやらプリア・シティの南側に集中しているようだ。それに時間帯は、夜ばかりだ。

 夜か……。


 俺は、幽霊の噂も今回の失踪に関連があるのか、興味がわいてきた。

「それじゃあ、幽霊の目撃された場所も重ねて表示できる?」


 エレナ博士がコンピュータを操作すると、モニターにはさらに別の色で幽霊の目撃ポイントが追加された。


 エレナ博士がその結果を見て腕を組む。

「これを見ると、まったく無関係とは言えないかもしれないねぇ」


 地図上のマークは、どちらも街の南側、庶民が暮らすエリアに集中している。

 失踪したのは六人で、幽霊の目撃は三件。でもその三件の目撃場所や日時は、失踪した人の一部と重なっていた。


「このエリアに集中してるってことは?」

ユリーがそう言って、首をかしげた。


 ここは先輩として、俺が何か言って頼りになるところを見せなくちゃな。

「つまりー……、この近くに何かあるのか、それとも理由があって誰かが庶民を狙っているのか……」


 そんな俺の考えを察したのか、エレナ博士がニヤッとすした。

「まあ、バロア男爵はともかく、他の六人については、防犯カメラの少ないエリアにいた人を狙ったのかもしれないわよ」


 ああ、そういうことか。


「そう言えば、バロア男爵も行方不明になっていたわね」

と、ユリー。


 俺も言われるまで、バロア男爵のことをすっかり忘れていた。


「やつも今回の被害者なのか?」


「それはどうかしらね。バロア男爵の場合は、明らかに降格が原因の家出のような気がするわ」

エレナ博士が言った。


「確かに。でも六人が誘拐だとして、もし防犯カメラの少ないエリアを狙っているなら、例の防犯カメラ・データベースはあまり役に立たないか……」


 以前にリスル少佐からもらったデータベースにアクセスするためのIDは、まだ使うことができている。


「もし防犯カメラに写っているなら、警察もこれほど手こずっていないだろうしね」

「じゃあ、どうやるか。聞き込みとか?」


「単に聞き込みして歩き回っても大した情報は出ないだろうね。警察もすでにやっているだろうし」

そう言うと、エレナ博士が足を組んで椅子の背もたれに体重をかけた。


「これは連続誘拐事件と考えていいよな? そして、これだけ連続してれば次もすぐにありそうだから、おとり作戦でいくか?」

俺はそう言って、皆を見回した。


 つまり誰かがおとりになって、誘拐犯が接触してきたところを、捕まえて白状させようというわけだ。

 あるいはちょっと危険だが、わざと誘拐されて、誘拐犯のアジトを突き止めるのもいいかもしれない。


 すると、イーサンが何か気がついたようだ。

「失踪者のデータを見ると、若い人に集中していますね」


「それなら、俺がおとりになるか」


「私も一緒におとりになるわ」

ユリーが言ってきた。


「え?」

「私が公爵令嬢だからって、特別扱いしないでね? もうチームの一員なんだから」

「でもなー」

「それに、一人で目的もなくブラブラしていたら怪しまれるでしょ? データを見ると、年齢は若ければ若いほど食い付きやすそうだし」


 確かに今回の失踪者は、バロア男爵を除けば十四歳から十七歳までのようだ。俺は十八だから、十六歳のユリーがいたほうがいいか。それに二人で歩いていれば、デートだと思われて怪しまれないかもしれない。


「うーん。じゃあ、俺とユリーでおとりになるか」


 エレナ博士が、「私だってまだ若いから……」と、グダグダ言い始めたが、結局俺とユリーがカップルに扮して、事件が頻発している付近を歩いてみることにした。



 事件が起きているプリア・シティは、首都アーム・シティの東、約八千キロ離れたイシディス平原にある。

 ほぼ火星の裏側だ。


 俺たちはスターダストにバンタイプの車を積んで、プリア・シティの空港まで飛ぶことにした。

 このバンには、コンピュータや通信設備、各種探知機を搭載してある。

 エレナ博士とイーサンはそのバンに残り、離れたところでモニターして、状況によって介入するか警察を呼ぶ手はずだ。



 次の日の夜、俺たちはプリア・シティの空港にスターダストを置いて、皆でバンに乗って市街へ出発した。


 プリア・シティは、首都のアーム・シティに比べれば少し見劣りするが、それでもこの地区の中心都市だ。人口は千五百万人を超えている。


 オフィス街を抜けると、マンションが増え、さらに進むと戸建ての家が目立つようになってきた。

 戸建てと言っても、庭はそれほど大きくなく、家と家の間隔も狭いようだ。


 俺は南地区の人気の無い通りに車を停めた。


 俺がイーサンに車を任せて降りようとすると、イーサンが真面目な顔で、

「もし幽霊がいたら、ぜひ捕まえてきてください」

と、言ってきた。


「え? 幽霊をどうやって?」

「社長が、いつもの様につまらないギャグを言えば、凍りつくかもしれません」


 くっ。


「いつも、つまらないギャグを言うのはお前だろ?」

「私のは洗練されたギャグです」


「はいはい。じゃあ、行ってくる。後はよろしく」

俺は適当にいなした。


「じゃあ、行ってきまーす」

ユリーが明るく言ってバンを降りる。


「じゃあ、いってらっしゃーい、気を付けてねー」

と、エレナ博士。

 こちらも明るいというか、軽い。


 俺とユリーは携帯端末で地図を確認し、前回失踪が起きた方向に歩いて行く。


 今回俺たちはカップルに扮するということで、俺の服装はユリーに選んでもらった。俺はいつもの服でも良かったのだが、デザインより動きやすさや丈夫さを重視していたため、ユリーからだめだしを食ったのだ。それで今日は、二人ともデートらしい、少しおしゃれな格好をしている。

 その服に、俺はエレナ博士特製の超小型カメラとマイクが仕込まれたボタン、ユリーもブローチ型のものを身につけていた。


 今回はわざと捕まって、相手のアジトに乗り込むことになるかもしれない。

 ユリーの銀の宝珠は、捕まった時に怪しまれたり、奪われてしまわない様に、今回はエレナ博士に預けてある。もし銃撃戦にでもなったら、ユリーは俺のシールドに入れて守るつもりだ。

 そして、俺の虹の宝珠は誰も知らないはずだし、そもそも外せないので袖の下に隠した。もし見つかったとしても宝石には見えないし、安物のアクセサリーに見えるので見逃される可能性が高い。


 今回はまだ死者は出ていない様だし、すぐには殺されないだろうという予想だが、少し考えが甘いだろうか?

 俺は一応、先日のオート・シールドを発動しておいた。

 

 エレナ博士たちが乗っているバンから直接見えないところまで歩いて来ると、ユリーが俺の左腕に手を回してきた。


 ええっ!?


 俺は焦ってユリーの方を見ると、

「カップルなら当然でしょ!」

と、言ってきた。


「あ、ああ」

まあ確かにそうだ。カップルに扮しておとり捜査をしているんだからな。


 俺たちはそうやってしばらく、襲われそうな裏通りを歩いたり人気の少ない場所を選んで歩いたが、一向に襲われない。

 すれ違った酔っ払いが、ひやかしてきたぐらいだ。


「一人の方がよかったかな?」

俺がそう言うと、

「カップルで失踪したケースもあったから、大丈夫でしょ?」

と、ユリーが俺を見上げてくる。


 まあ、始めからすぐに引っ掛かるはずもないか。



 俺たちはそれから一時間ほど歩き回って、一旦、喫茶店を見つけて休むことにした。

 もう夜の九時半ごろなので、喫茶店はすいている。四十人ぐらい入る店に、三人ほどがいるだけだ。


 俺たちは入口付近の小さいテーブルに二人で向き合って座り、女性型給仕アンドロイドにコーヒーを注文した。

 店の中を見回すと、少し離れた壁に埋め込まれたモニターにニュースが流れている。


 俺はそのニュースに目が止まった。

「あの男爵が戻ってきたらしい」


「えっ?」

ユリーも、そのモニターを見る。


 一週間前に男爵が戻ってきていたそうだ。男爵は飛び降り自殺しようとしていたところを、通りがかった「メルロン教団」の教祖に説得されて、自殺を思いとどまったらしい。

 男爵は戻ってから、館の使用人に警察やマスコミには言わない様にと口止めしたらしいが、警察が今日尋ねて行って、すでに戻っていたことが発覚したということだ。

 

 つまり、使用人が警察に捜索願を出して三日後に男爵は戻ってきたわけだが、戻ってきたことを警察には届けなかったわけだ。自殺しようとしたなんてことがマスコミにバレると、世間体が悪いからだろう。

 しかし警察は昨日マスコミに発表してしまったために、男爵邸に事後説明にでも行ったのだろう。ところが、男爵邸に行ってみると、男爵はすでに戻ってきていて、その場で捜索願を取り下げた、といったところか。

 

「男爵も警察も何をやってるんだか」

 

「自殺しようなんて、どこまでも情けない人ね」

ユリーがあきれて言った。


「お騒がせだな。こんな報道が出たら、また王様に叱られるんじゃないか?」

「たぶんね」


 休憩を終えた俺たちは、喫茶店を出て、今度は公園の方に行ってみることにした。


 公園に入ると、その中央は芝生の広場になっていて、周りには木が植えてある。その木々の中に道が引かれ、ところどころにベンチもある。よくある公園だ。

 街灯もあるのだが、公園の中は薄暗かった。


 この公園、ほとんど人がいないな。デートしているカップルとかいても不思議じゃないのに。そう思って歩いていると、ユリーがもっと体を密着させてきた。


 幽霊が怖いのだろうか。でもなんか、ドキドキする。

 後でエレナ博士にからかわれそうだ。


 すると、百五十メートルぐらい先に、ぼんやりと黄色っぽい光が見えた。


「あれは?」

俺は目を凝らしてよく見てみる。


 まさか? 女性の頭が浮いている!?


「ゆ、幽霊?」

ユリーが怖そうに言って、俺の後ろに隠れた。


 俺がもう少し近づこうとすると、ユリーが小さい声で、

「ちょ、ちょっと、やめない?」

と言って、俺の腕を引っ張る。


「大丈夫だよ。もう少し近くで見てみよう」

俺がそう言って警戒しながら近づいて行くと、ユリーはしょうがなく、俺のすぐ後ろに隠れてついてきた。

 でも腰が引けている。


 俺たちは木に身を隠しながら五十メートルぐらいまで近づくと、近くの太い木の陰からそっと覗いてみる。

 すると、頭が浮いているように見えたのは、黄色い光に女性の顔が照らされて、浮かび上がって見えているだけだった。


 でもこの光、あれか?


「ユリー、幽霊なんかじゃない。誰かが黄の宝珠を使ってるんだ」

俺は小声で、後ろにいるユリーに言った。


「えっ?」

それを聞いたユリーが、俺の背中から顔を出して覗く。


 俺たちは、見つからないように木に隠れながら、もう少し近づいてみた。


 すると、人影が三つ見える。今の女性と、その両脇に二人だ。

 両脇の二人は黒い服を着て、顔も黒いものをかぶって隠しているから、近づかないとわからなかった。背格好からすると男性だ。

 一人が女性を押さえ、もう一人が黄色い光をあてている。


 やはりそうだ。黄の宝珠で意思を奪っているのか?


 黄色の光が消えると男性二人はあたりを見回し、近くに人がいないのを確認したように見える。全身が黒いから、はっきりとは見えない。

 そして、足取りがおぼつかない女性を両側から支えて、公園の外に運んでいった。


 彼らが犯人だとしても、もう少し証拠が無いとな。

 今出ていって捕まえても、黄の宝珠を使っただけなら警察が相手にしてくれるか疑わしい。それを取り締まる法律がないからだ。

 そして、女性の具合が悪いから介抱していた、なんて言い逃れられるかも知れない。


 どうするか、なんとか自白させるか。でも、俺たちは今回レイガンを持ってきていないし、相手は屈強そうだ。

 つけていって、どこに運ぶか見届けるか。


 俺たちが尾行を始めると、彼らは公園を出てすぐ近くに停めてあった車に乗り込んでしまった。

 俺たちはすぐにその車の死角から走り寄ろうとしたが、車はそのまま走り去る。


「エレナ博士たちを呼ぶか」

俺がそう言うと、ユリーが周りを見回して、俺の腕を引っ張る。

「見て、あそこにタクシーが」


 ユリーの指さした方を見ると、俺たちの後ろの方でタクシーの運転手が外でタバコを吸って休憩している。

 彼は反対方向を向いているので、今の女性が車に乗せられる様子は見ていなかったようだ。


 俺たちはすぐにそのタクシーのところに走っていき、運転手に車を出すように頼んで、今の車を追いかけてもらうことにした。

 エレナ博士たちも、俺たちのボタンやブローチから送られた映像を見ていて、すぐに動き出しているに違いない。


 タクシーが走り出して、すぐにエレナ博士から携帯端末に連絡が入った。

「今の車のナンバー、登録されてないわ」


 偽造ナンバーか。


 尾行に気づかれるといけないので、タクシーにはあまり近づきすぎない様にしてもらう。もしはぐれても、博士たちが防犯カメラシステムを駆使して探してくれるに違いない。大きい通りならカメラもあるだろう。


 つけていくと、どうやら犯人の車は、町の中心部に向かっているようだった。そしてしばらくすると、いくつか角を曲がって、比較的細い路地に入っていく。


 周りを見ると、この辺りには比較的大きな屋敷や高級そうなマンションが並んでいた。それぞれの敷地の庭が大きい分、道から建物までは離れていて、人目は少なそうだ。


 するとその車は、どこかの屋敷の門の前で止まった。


「あ、そこを曲がったところで停めてくれ」

俺はタクシーの運転手に、一つ手前の角を曲がってもらい、そこで停めてもらう。


 電子マネーで料金を支払うと、俺たちは少し小走りで、その車が止まった場所に向かった。

 しかし、もうあの車は屋敷に入ってしまったようで、姿は見えない。


 俺たちは、先程の車が止まった門の所まで行き、その屋敷を眺めてみる。


「確か、あの車はこの門の前で停まったよな?」

俺は隣のユリーに確認した。


「ええ。でも、こちらは裏側みたいね」


 ということは、どこかの屋敷の通用門なのだろう。


 この門の向かいは他の屋敷の塀になっているから、ここに入ったのは間違い無さそうだ。

 俺たちはその門の格子の間から屋敷の中を覗き込み、先程の車を探してみた。


 こっそり中に入って調べてみるべきか、それとも明日出直して、正面から訪れてみるべきか?

 これが映画なら、侵入して調査になるんだろうけどな。


 そのとき、背後から人が近づく気配がした。

 しまった、と思ったときは遅かった。背後からレイガンの音がした。

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