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レリック・ハンター  作者: 中川あとむ
第二十二話 密航者
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22-2 シカゴ

 俺たちは、ジョージ伯父さんの結婚式の前日に出発することにした。いくらワープですぐ行けるからといって、式の当日では少しせわしないからだ。


 ユリーが気にしていたダンスについては、あとでジョージ伯父さんから連絡があり、披露宴で踊るのは、ワルツとディスコダンスの両方だということが分かった。それでユリーは動きやすいドレスを持っていくことにしたそうだ。

 俺の方は、どちらにしろタキシードしか選択肢はない。


 ダンスといえば、結局俺はこの数日間、毎日ユリーたちにダンスの練習をさせられた。

 これから必要になるからと言って、社交ダンスを何種類か、ディスコダンスも最近流行りの型を何種類か教え込まれた。

 ユウコもいい機会だからと言って、一緒にダンスを覚えていたが、なぜか俺よりも覚えがいい。


 後ろから練習を見ていたエイミーは、アンドロイドだけあって一発で覚えてしまう。

 俺がなかなか覚えられないのを見かねて、

「世話が焼けますねー。私がみっちり教えてあげますよ」

と、俺の練習相手を買って出た。


 エイミーは疲れを知らないので俺が覚えるまで何回も繰り返し、俺はへとへとになりながらも何とかすべて覚えることができた。


 最後にエイミーは、

「これは貸にしておきますね。そのうち返してもらいますから」

と言っていたが、あとで何を見返りに要求されるのだろう。



 そんなことをしているうちに、アメリカに出発する日がやってきた。

 結婚式に出席する俺とユリー、そしてエレナ博士と、結婚式には出ないが、いつも通りイーサンの四人で行くことにする。


 今回は皆が結婚式で着るドレスやら着替えやらの荷物が沢山あるので、それをスターダストに積み込む作業をイーサンに頼んでいた。


 そのイーサンが、俺たちが待つリビングに戻ってくる。

「荷物の運び込みが終わりました」


「ご苦労さまー」

と、ユリー。


「じゃあ、行こうか」

俺が言って、皆でリビングから空港側の出口に回りスターダストに乗り込んだ。


「今回は俺が操縦するよ」

俺はそう言って、操縦席に座る。


 最近はイーサンが操縦することが多かったが、たまには俺も操縦したいからだ。


 すると、イーサンがコックピットから出ていこうとする。

「では、私は荷物を見てきます」


「なんでだ?」

「社長が操縦すると、また揺れるかもしれないので」


 くっ。


 たぶんイーサンは、前にロサンゼルスのラムの家に行った時に、この船が揺れたことをまだ言ってるのかもしれない。


 ヘリオスの方は、推進装置はすべてエルフの星で載せ替えてくれたので、揺れも加速感も何も感じないが、この船の推進システムは、エレナ博士がエルフから教えてもらった技術で新たに作った部分と、予算の関係で一部を従来のもので流用しているので、急な揺れを吸収できない時がある。


「前に大きく揺れたのは、近くをサクバス人の宇宙船が高速で通ったからだろ?」

俺がそう言い返すと、イーサンは、

「まあ、そういう事にしておきます」

と言って、客室に積み上げた荷物を見に行った。


 まったく。

 まあ、サクバス人の宇宙船はレーダーに映らなかったし、証拠があるわけでは無いが。


 俺は、スターダストを発進させた。


 火星の大気圏を出てしばらくすると、いつもの自分の持ち場である端末の前に座っているエレナ博士が、

「地球のワープ管制から、座標が送られてきたわ」

と、俺に知らせてきた。


「早速稼働してるな? じゃあワープしよう」


 エレナ博士がワープゲートを開いて、俺はその中にスターダストを進める。


「ワープ管制って?」

ユリーがエレナ博士に聞いた。


「MHICが地球や火星政府用に、ワープできる船を造っているのが納品され始めたでしょ? 今後はワープできる船が増えるから、ワープを出たところで出合い頭の事故が起きないように、出る場所の座標を少しずつずらして指定されるのよ」

「ふーん?」


 ワープゲートをくぐって目の前に地球が見えると、俺は斜め後ろにいるエレナ博士の方を振り向く。

「えっと、今日はワシントンのホテルに予約を取ってあるんだよな?」


「そうよ」


 エレナ博士も俺も宮殿はどうも居心地が悪い。それで、できるだけ一般のホテルに泊まりたかったので、わざわざ予約したわけだ。


「今日はアメリカ時間の昼過ぎには着くけど、この後どうする? そのワシントン付近で、どこかを観光するか?」


「それなら……」

ユリーが俺たちに何か言おうとすると、後ろからイーサンの声。

「みなさん、お知らせしたいたいことがあります」


 その声に俺たちがドアの方に注目すると、イーサンが知らない女の子を連れて立っている。十才ぐらいのかわいい黒髪の女の子で、ラテン系みたいだ。


「どうしたんだ、その子は!?」

俺は驚いて聞いた。


「社長の隠し子では?」

イーサンが、真面目な顔で聞いてきた。


 するとユリーが、俺を疑いの目で見てくる。


「そんなわけないだろ」

俺はすぐに否定した。


 もし俺の子だったら、俺が九才ぐらいの時に生まれたことになる。


「冗談です。どうやら、密航者です。部屋の荷物を移動していたら、荷物の間に隠れているのを見つけました」

「まったく……」


 イーサンめ、誤解を招くような冗談を。

 ということは、この子はさっき荷物を積んでいた時に入ったんだな?


「お願い、火星に戻さないで」

その少女が言ってきた。


 ユリーが椅子から立ち上がって少女の近くに寄り、かがんで話しかける。

「お父さんや、お母さんが心配してるんじゃない?」


「私、地球にいるおじいちゃんに会いたいの。皆さんには迷惑かけないわ。地球までの一週間分の食べ物も持って来たから」

そう言って少女は、背中のリュックを俺たちの方に向けて見せた。


「この船が地球に行くって知ってたの?」

俺が聞いた。


「第二空港の宇宙船は、ほとんどが地球との往復をしてるって聞いたわ」

「まあ、たしかに」


 そのとき、少女がハッとする。

「あれ!? 窓の外に見えているのは、まさか地球!?」


「ああ、そうだよ」

俺が答えた。


「なんで!? さっき火星だったのに!」

少女が驚いている。


「それは秘密さ」

俺は少し微笑みながら、いつもの調子で応えた。


「秘密なの? じゃあ、黙っていてあげるから、このまま地球に連れて行って?」


「うっ」

しまった。


「ショウの負けね」

と、エレナ博士。


 ユリーが今度は少女の横にひざをつく。

「私はユリーと呼んでね。で、お嬢ちゃんの名前は?」


「フィオナ」

少女が明るく答えた。


「お父さんと、お母さんは?」

「ママはベルタ。アーム・シティに住んでるわ。パパとは別居中よ」


「……そうなの? で、フィオナは、おじいちゃんに会いたいのね?」

「うん。地球のどこでもいいから降ろしてくれたら、一人で会いに行くから。できればアメリカがいいけど」

「おじいちゃんは、アメリカのどこに住んでいるの?」

「シカゴよ」


 俺たちは、シカゴに寄り道することにした。

 一応、火星に残っているユウコにフィオナのことを伝えて、もし捜索願が出たら対応してもらうことにする。


 俺たちはシカゴ郊外のオヘア国際宇宙空港にスターダストを降ろすと、貨物室からエアカーを出す。イーサンには留守番を頼んで、それ以外の俺たちはフィオナを送るためにエアカーに乗り込んだ。


 俺は運転席に座ると、フィオナがメモで持っていた住所を自動運転装置に入力して出発する。よく知らない町なので自分では運転せず、自動運転で行くことにした。



 今俺たちを乗せたエアカーは、郊外の空港からシカゴ中心部へ向かっているが、周りはビルばかりで緑が少ない町だ。そんな中で、ゴルフ場や小さな林がある地区にやってきた。その辺りだけ緑がある。


 エアカーは、その林などがある敷地の門の前で止まった。


「目的地に到着しました」

と、自動運転の音声案内。


 すると、そこの門番がレイガンを構えて近寄ってくる。

「なんだ、おまえらは?」


 ちょっと、普通の家じゃなさそうだ。


 俺は、少し開けてあった窓をもっと開けて、

「この子がおじいさんに会いたいそうで、連れて来たんだけど」

と言って、助手席に座っているフィオナを指さす。


 フィオナは、門番からよく見えるように体を俺の方に乗り出して、

「フィオナよ。おじいちゃんに会いたいの」

と、言った。


 門番が無線で問い合わせ、肩についていた小型カメラをフィオナに向ける。


「……わかりました」

彼は無線にそう答えて、

「よし、入っていい」

と、俺に言ってきた。


 許可が下りて、目の前の大きな金属製の門が開くと、俺はエアカーをその敷地に入れて母屋の方に向かった。


 シカゴの町はビルが乱立して人やエアカーの往来も多く騒々しいのに、ここはその喧噪とは打って変わって静かだ。敷地内にはゴルフ場も見える。

 分かれ道にはレイガンを腰に下げた人が立っていて、俺たちに進む道を指し示した。


 しばらく進むと前方に屋敷が見えてくる。けっこう大きな、アメリカらしいモダンなデザインの屋敷だ。

 その母屋の玄関に着くと、スーツを着た若い男が迎えに出てきた。


 俺たちがエアカーを降りようとすると彼が、

「武器を持っているなら、エアカーに置いてきてくれ」

と言ってきた。


 俺たちはエアカーに武器を置いて、彼に案内されて皆で一緒に屋敷の中に入る。


 広く、高級な調度品で囲まれた応接間で待っていると、仕立てのいいスーツを着た六十ぐらいのかっぷくのいい男が、武器を持った護衛を伴って入ってきた。


 それを見て、フィオナが走り寄る。

「おじいいちゃん! 会いたかったわ」


「おー、フィオナ。元気だったか?」

フィオナのおじいさんは、そう言いながらフィオナを抱き上げた。


「うん」

「ベルタは?」

「一人で来たの」

「どうやって?」

「この人たちの宇宙船に……」


「そうか……」

彼は孫と俺たちを見て、密航かヒッチハイクだと察したようだ。


 フィオナのおじいさんが、フィオナを下に降ろして、

「孫が世話になったな。ゆっくりしていってくれ」

と、俺たちに言ってきた。


 でもちょっと、長居はしたくない雰囲気の家だ。なんか警備が異様だ。

 それで俺は、すぐに帰ることにする。

「俺たちはこれから用があるので、これで」


「そうか、では小切手でも受け取ってくれ」


「いや、礼はいらないよ。ついでだったからね」

俺がそう言って出て行こうとすると、フィオナが、

「お兄ちゃん、お姉ちゃんたち、ありがとう」

と言って、手を振ってくる。


 ユリーが手を振り返した。

「じゃあ、元気でね」


 俺とエレナ博士も手を軽く振って部屋を出る。

 俺たちはエアカーに戻ると、元来た道をオヘア国際宇宙空港に向かった。


 俺は運転しながら、助手席のユリーと後ろのエレナ博士をルームミラーでちらっと見る。

「なんか、いやに警備の厳しい家だったな」


「あれは、裏稼業をしているとみたわ」

と、エレナ博士。


「じゃあ、長居しなくてよかったかもね」

ユリーが応えた。


 そうか、それでエレナ博士にしてはめずらしく、小切手を貰っていこうと言い出さなかったんだな?

 どんな金かわからないからな。


 俺たちは空港に戻ると、スターダストをワシントンに向けて飛ばした。

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