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レリック・ハンター  作者: 中川あとむ
第二十一話 アミル
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21-3 イングランド

 イングランドに向かいながら、俺はこれから会いに行く相手のことをアデル教授にもう少し聞いてみる。

「ヒューバート・ウォルターって言ったっけ?」


「そうよ」

「その彼に渡せば、リチャード王の母親の王妃に手紙は渡るんだな?」

「彼の叔父さんが前国王の腹心だったので、彼なら宮殿にも顔パスで入れると思うわ。そうでなくても司教という位は、ローマ教皇、大司教に次ぐ位だから問題なく王妃に会えるはずよ。そして歴史では、これから彼は王妃とともに、リチャード王の身代金を集めるのに奔走することになるの」

「ふーん?」


 俺たちはイギリス南部にある、イングランドのソールズベリー地区の上空にやってきた。

 塀に囲まれた円形の街の中心に城がある。

 

 アデル教授が街の様子を見て興奮し始めたようだ。

「オールド・セーラムの街がまだ残ってるわ」


「ん?」

「この数十年後には、この城や街は捨てられるのよ。現代では廃墟になってるの。有名なストーンヘンジも近くにあるし。ねえ、早く降りましょ?」

「観光の前に、まずはヒューバート・ウォルターに会って手紙を渡さないとな」


 アデル教授が、モニターの中央に映っている建物をアゴで指す。

「それなら、この下の聖堂に、司教はいるはずよ」


 俺は下の様子をモニターで確認して、人気のないところに三人でテレポートした。

 入口に回ると聖堂の扉は開いていて、中には自由に入れるようだった。


 俺たちが中に入ると、そこに牧師が通りかかったので、俺は中世英語で声をかけてみる。

「すいません。司教のヒューバート・ウォルターさんにお会いしたいのですが」


「あなたがたは?」

「実は、リチャード王からの手紙を預かっています」


 俺がそう言うと、その牧師は辺りを見回わして、今の話を誰かに聞かれなかったか確認したようだ。


「こちらへ」

彼は小さい声で言うと、奥に歩き出した。


 俺たちは、その牧師の後をついて奥に進む。

 

 彼は聖堂の奥から別の建物の中に俺たちを案内し、一つの扉の前で止まって振り返った。

「ここで少々お待ちください」

彼は俺たちにそう言って、そのドアをノックすると、部屋の中に入って行く。

「失礼いたします……」


 しばらくすると、今の牧師が戻ってきて扉を押さえて俺たちを招き入れる。

「では、どうぞお入りください」


 部屋の奥には、法衣を着た五十才ぐらいの男性が立っていた。

 彼が司教のヒューバート・ウォルターなんだろう。


 するとアデル教授が、俺の脇腹を肘でつついてくる。

「帽子ぐらい、とりなさいよ」


「あ、そうか」

俺は帽子を脱いだ。


 この時代は、もし俺たちがキリスト教徒なら、ひざまずいて挨拶するのが普通だな。


「君たちが、リチャード王からの手紙を?」

司教が聞いてきた。


「はい」

俺は返事をすると、懐から手紙を取り出す。


 俺たちの近くにいた先ほどの牧師が、俺から手紙を受け取り、司教に持って行った。


 司教はその手紙を読み始める。

「確かにリチャード王の字だ。やはり捕らえられていたか。でもどうやって、この手紙を?」


 するとアデル教授が、

「私たちは旅の芸人で、オーストリアのデュルンシュタインで興行をしていると、近くのお城のかたから城内で芸を見せてくれと頼まれました。その使者が帰った後に、その様子をどこかで見ていた方から、報酬を渡すので城の中に幽閉されている人に手紙を渡してほしいと頼まれました。それで仲間が芸を披露しているときに、警備が手薄になったところを渡してきたのです。相手がリチャード王とわかり、返事を預かって私たちが村に戻ると、その人はいなくなっていたので、旅がてらここに届けに来たのです」

と、適当に話を作った。


 俺の服はそういう芸人や道化の様にみえるらしいから、ちょうどいいかもしれない。

 でも、よくそんな話をでっち上げられるものだ。


「ほう? それは、芸を見てみたいな」


 え? まずいぞ。


「あ、私たちは見習いで、芸をする仲間は先にロンドンに行ってしまいましたので」

アデル教授は適当にごまかした。


「そうか。それは残念だ」

司教はそれを聞くと納得したようで、後ろにあった窓に近づき外を眺める。


 でもすぐに考えをまとめたようで、俺たちの方に向き直った。

「この手紙を王妃様に渡さねばならない。どうだね。これから私と一緒にロンドンに行くか?」


 俺はどうしたものかと、アデル教授とユウコを見る。


「おもしろそうじゃない?」

と、アデル教授。


 この状況を楽しんでいるな?

 まあでも、それもいいかもしれない。


「わかりました」

俺は司教に応えた。


 俺たちは、司教の馬車で一緒にロンドンに向かうことになった。


 俺は馬車に乗る前に、この時代の人々の目が無い所で携帯端末を取り出してリモコンソフトを起動し、スターダストを自動追跡モードに設定した。

 これで、携帯端末が時々出す電波を拾って、俺たちの後を自動で追ってくるはずだ。


 司教の準備が終わると、俺たちを乗せた馬車がロンドンに向けて出発した。

 窓の外を見ていると、人々が司教の馬車を見て、帽子を脱いで挨拶してくる。司教は彼らに手を軽く上げて応えていた。

 途中で司教が、リチャード王の様子や囚われている城の様子を聞いてきたので、俺たちはその様子を話したり、俺たちが旅をしてきたことを、アデル教授が疑われない程度に適当に話しをしていた。

 司教は、リチャード王がそれほど不自由無さそうなのを聞いて、安心していたようだ。


 その後、三時間ほどでロンドンに着いた。

 もうちょっと早く着くと思ったが、この時代の馬車ではこんなものか。


 窓の外を見ると建物も密集していて、街中を行き交っている人も多い。

 やはりここは都会だ。


 すると馬車はどこかの城門で止まり、すぐに門が開いて中に入る。


 アデル教授が、小さな声で俺たちに、

「ウェストミンスター宮殿ね」

と、教えてくれた。


 俺たちは宮殿の玄関で馬車を降りると、司教の後を少し離れて歩いた。


 俺は周りを見回しながら、隣を歩くアデル教授に小さい声で聞いてみる。

「現代の写真でよく見るのとは、ずいぶん違うな?」


 俺がよく写真などで見るのは、ビッグベンという時計塔のある繊細そうな建物だ。


「ここは千八百年代に火事で焼失して、その後にゴシック様式で再建されるのよ。私たちが写真でよく見るのは再建された方だからね」

とアデル教授が、小声で教えてくれた。


 俺たちは、司教の後について宮殿の中を歩いていくと、向こうから兵士を伴った身なりのいい男性が歩いて来た。

 その男性が司教に声をかけてくる。

「これは司教、ひさしぶりですね。今日はどうしました?」


「これはジョン王子、いやジョン王。お母上にご機嫌伺いです」


「そうですか」

そう言うとジョン王子は、歩いて行ってしまった。


 俺たちのことは、それほど不審には思われなかったようだ。

 きっと、どこか東方から来たキリスト教徒が、あいさつに来たぐらいに思ったのだろう。


「今のが、悪名高き、弟のジョン王子ね」

アデル教授が小声で俺たちに言った。


 俺たちはさらに廊下を歩いていくと、兵士が守っている扉が見えてくる。

 すると、その兵士が司教に気がついて、自分が守っている扉をノックして部屋の中の人を呼んでから、再び姿勢を正した。

 すると、部屋の中から侍女らしき女性がでてきた。


「これは司教様」

侍女は膝をついて挨拶する。


 そして立ち上がり、

「どうぞお入りください」

と言って、司教と俺たちを部屋の中に招き入れた。


 俺たちが入ると侍女は扉を閉めて、

「ただいま、王妃様にお知らせしてまいります」

と言って、彼女は奥の部屋に入って行く。


 すると奥から、五十代ぐらいの修道女の様な服装の女性が出てきた。

 彼女が王妃だろうが、おそらく夫の国王が亡くなっているので、こういう格好をしているのだろう。

「これはウォルター殿、おめずらしい」


 司教は、俺たちを入口の近くに残して彼女に近づく。

 そして俺たちを指して小声で王妃に何かを言って、例の手紙を渡した。


 王妃は俺たちをチラリと見てから、手紙を読み始める。

「ああ、やはりリチャードは生きていたのですね? ブロンデルに確認させていたのです」


 俺はアデル教授に小声で聞いてみる。

「ブロンデルって?」


「私たちが助けた人よ。彼はいわゆる密偵ね。彼はリチャード王が好きな歌を歌って、ドイツなどを回って王がどこに幽閉されているか探していたと言われているわ。それで第一節を彼が歌うと、第二節が城の中から返ってきたので、そこにリチャード王がいると思ったと伝えられているわ。本当かどうかわからないけど」

「ふーん。そういうことだったのか」


「……安心しました。幽閉されている場所がわかった以上、兵を送ったほうがいいかしら」

王妃が司教に相談した。


「今彼らから聞いたところによると、あの城は崖の上にあって、攻めるのは容易では無いようです」

「それでは、どうすればいいと?」

「身代金の交渉のほうが、安全かと」

「おそらく、莫大な金額をふっかけられるでしょうね?」

「わたくしも微力ながら、王のために身代金集めをお手伝いさせていただきます」


「わかりました。それでは、さっそく引き渡しの交渉に入らねばなりませんね」

と王妃は司教に言ったあと、俺たちの方に少し近づいてくる。

「リチャードは元気そうでしたか?」


「はい、元気にしておられました」

と、俺が答えた。


「そうですか。あなた方にはお礼をしなければなりませんね」


「いえ。お礼には及びません。最初に頼まれた方から報酬は貰ってますので」

俺は、アデル教授が先ほど司教に話した内容に合わせた。

 

「そうですか? でも、旅費もかかっているでしょうから、せめてその分だけでも」

そう言うと王妃は侍女に目配せする。


 侍女がトレーに小さな袋を乗せて俺の前にやってきた。

 おそらく金貨が何枚か入っているのだろう。


 俺はどうしたものかと、アデル教授を見る。


「せっかくだから貰っておいたら」

と、アデル教授。


「わかりました。では頂戴します」

俺は袋を受け取った。


「分かっていると思いますが、このことは他言無用ですよ」

と、王妃。


「はい」


「では、私たちはこれで」

司教がそう言って、俺たちを連れて部屋を出た。


 司教が廊下を戻りながら、

「さて、君たちはこれからどうする? ロンドンに仲間が先に来ているとか言っていたな?」

と、聞いてきた。


「はい、私たちはこの宮殿を出たところでお別れしたいと思いますわ」

アデル教授が言った。


「そうか、では門の外まで一緒に行こう」


 俺たちは短い距離だが一旦馬車に乗り、城門を出たところで馬車を降りて司教と別れた。


 俺たちが平民の格好なので、宮殿内で衛兵とトラブルを起こさない様に気を使ってくれたのだろう。

 あるいは、俺たちが下手に捕まって、今の話をジョン王子側に漏らしてしまうのを防いだのかも知れない。


「さて、この後どうするか」

俺はそう言って、二人の顔を見る。


 すると、後ろの方から声がした。

「おい、まだいたのか? 早く帰れ」


 何かと思って振り返ると、今出てきた宮殿の門番が、そこにいた五、六人の農民風の人たちに言ったようだ。

 その農民たちは、うつむいて門を離れて行く。

 彼らはトボトボと歩き、衛兵から見えないところまで行くと、立ち止まって何か話し合い始めた。

 彼らの服は、ロンドンの街を歩いている他の人たちに比べると、ずいぶんくたびれている。

 そして暗い顔をしているし、何か事情がありそうだ。


 俺は気になったので、近づいて声をかけてみることにした。

「いったい、どうしたんだ?」


「あっ。あなたは先ほどの司教様の馬車から降りられた方ですね? 実は……」

その農民は言いかけたが、他の仲間がとめる。

「おい、めったなことをよそ者に言わない方がいい。おとがめを受けるぞ」


「あ、そうか」

言いかけた農民は、黙ってしまった。

 

 何が起こっているんだろうな?


 すると今度は、俺の後ろで話を聞いていたユウコが俺の横に来て、

「ねえ、私たちはアミルっていう女性の弓の名人を探して旅してるんだけど、誰か知らない?」

と、農民に聞いた。


「女性の弓の名人? 俺たちの村にも狩りをしていて弓がうまいやつはいるが、男だしな」


「村の名前は?」

今度はアデル教授が聞いた。


「ノッティンガムの名も無い村だ」


「ノッティンガム!?」

アデル教授が驚いている。


「どうしたの?」

ユウコがアデル教授に聞いた。


「あそこは、ロビン・フッドの伝説があるところよ。時代もだいたいあってるわ」


 ユウコはその名前を聞いても、あまりピンときていないようだ。

 でも俺は、「ロビン・フッド」の映画を前に見たことがある。

 たしかイギリスの地方の森の中で暮らしていて、彼は義賊で弓がうまく、悪い役人から金品を奪って村人に分け与える話だったか。


「じゃあ、ロビン・フッドという人はいる?」

俺は村人に聞いてみた。


「いや、聞いたことがない」


「……そうか。ありがとう」

なんだ、いないのか。少し期待したんだが。


 俺たちはそこを離れ、三人でロンドン見物を兼ねて、街を少しぶらぶらしてみことにした。


 するとアデル教授が、

「さっきの村人、ロビン・フッドのことを隠している可能性があるわ」

と、言ってきた。


「なんで?」

俺が聞いた。


「ロビン・フッドは義賊で、お尋ね者だから、知り合いは下手すると捕まるでしょ?」

「あっ、そうか」


「義賊?」

ユウコは、義賊という言葉に反応した。


 ユウコは昔、「ねずみ小僧」を名乗って義賊をしていたからな。同業者というわけだ。


 アデル教授が説明してくれる。

「このころ農村では、重税で苦しんでいたのよ。ロビン・フッドはその重税で苦しむ農民を救っていたらしいわ。そして、たぶんだけど、さっきの農民たちは重税の陳情ちんじょうに来ていたんじゃないかしら」


「なるほど」

と、俺。


 ユウコが、目をキラキラさせている。

「ねえ、行ってみない? その村に」


 ユウコは、そのロビン・フッドに会ってみたいんだな?


 俺は立ち止まって、二人を見る。

「じゃあ、行ってみるか? もしかしたらアミルが、カモフラージュ装置で男に化けているかもしれないしな」


「でも、ロビン・フッドはただの伝説かもしれないから、いなくてもがっかりしない様にね」

と、アデル教授。


 俺たちは路地に入り空を見上げ、雲にカモフラージュして俺たちを自動で追尾してきているスターダストを見つけると、テレポートで戻った。

 そしてすぐに、イングランド中部のノッティンガムに広がる森の上空に向かう。


 あっという間に目的地に着くと、俺は操縦席から振り向いてアデル教授を見る。

「ここでいいのか? 二十二世紀の地図によると、この下がシャーウッドの森みたいだ」


 ロビン・フッドはこのシャーウッドの森を拠点にしていることが有名だが、現代の地図に比べて森がずいぶんと大きく広がっていた。


「あってるわ」

アデル教授はそう言って、地上の様子を映したモニターを食い入るように見ている。

 そして、森の気になったところを拡大して見たり、俺が教えたセンサーを駆使して人が住んでいないか探し始めたようだ。

「……森の中には、人が住んでいそうな気配はないわね。えっと、すこし西に村があるわよ」


「じゃあ、村に行ってみるか」

俺は西に見えた村の上空に、スターダストを移動した。


 モニターで見ると、石積みで藁葺わらぶき屋根の家や、木の家もある。この時代の田舎の標準的な家か。

 すると、三人の馬に乗った騎士風の男たちが、その村に入って来る。俺たちはその様子をしばらく上空から見ていた。

 三人の騎士は手分けして、その村の各家を回っているようだ。


「きっと、税金の取り立てよ」

アデル教授が言った。


 見ていると、家から出てきた騎士を追いかけて、村人が騎士の足にしがみつく。

 その騎士はその村人を突き放し、足で蹴り飛ばした。


「許せないわ」

と、ユウコ。


 隣の家では、家の中から女性が無理やり連れ出されて、馬に乗せられた。

 こちらでもやはり、それを追いかけて家の中から人が出てきて、地面に膝まづいて何か懇願こんがんしている。


「歴史が変わるとか言ってられないわよ。助けに行きましょ?」

とユウコが言って、俺とアデル教授を真剣な眼差しで見てくる。


「あ、ああ」

俺はそう応えると、二人の肩を抱いて、今の家の裏にテレポートした。


 表に回ると、騎士たちが馬で走り去っていくところだった。

 俺たちはすぐに、先ほど騎士に膝まづいて地面に座り込んでいる村人の所に行ってみる。


「どうしたんだ?」

俺は一応聞いてみた。たぶん税金の取り立てだと思うが、違う可能性だってある。


「どうしたも何も、税金が払えないんで……」

村人は弱々しい口調でそう言いながら、俺の方をみてハッとする。


 俺たちがよそ者だとわかって、言ってしまったのを少し後悔しているみたいだ。


 すると、少し離れた所にいた太り気味の修道士がこちらに歩いて来た。

「あなたがたは?」


「俺たちは旅行者です」


「旅行者なんてめずらしい。でもこんな田舎の村に、見るところなんてありませんが」

修道士は、俺たちをちょっと疑っているようだ。

 もしかしたら、どこかの密偵と思っているのかも知れない。


「実は人を探しているんです」

「誰です?」


「ロビン・フッドよ」

と、ユウコ。


「ロビン・フッド? 私は、聞いたことありませんね」

続けて修道士は近くにいた村人に、

「誰かロビン・フッドって知ってるかい?」

と、聞いてくれた。


 村人たちは首を振る。


 やはり、いないか。


 するとアデル教授が、

「ロンドンから来たから疲れたわ。ねえ教会で休ませてくれないかしら?」

と、修道士に言った。


 別に俺たちは疲れてはいないが、アデル教授には何か考えがあるのだろう。


「なんと、ロンドンからですか。それは、いろいろと話を聞かせてください。さあこちらへどうぞ」

そう言って修道士は、村の中ほどにある教会に俺たちを案内した。


 こんな田舎に住んでいると、都会の様子が知りたいのだろう。


 教会に入ると、修道士は奥の部屋のテーブルを俺たちに勧めて、飲み物を出してくれる。

「水しかありませんが」


「本当は、お酒を隠しているんでしょ?」

アデル教授が半目で聞いた。


「何を、めっそうも無い」

と修道士は否定したが、確かに彼は焦っている。


 伝説の通りなのか?

 伝説や映画では、ロビン・フッドの仲間の修道士が、密造酒を作っていることになっている。

 キリスト教では宗派にもよるが、聖職者はブドウ酒だけはキリストの血ということで飲むことが許されていて、他の酒は許されないらしい。でも、この村の様にブドウ園が無い所では、ブドウ酒を作ることができない。

 それで伝説では、ここの修道士がハチミツ酒を密造して飲んでいるわけだ。


 でもここで、無理に問い詰めるわけにもいかないだろう。

 俺は修道士に、

「彼女の冗談ですよ」

と、言った。


「そうですよね? 我々修道士はブドウ酒以外の酒を造ることもないし、飲むこともありません。わっはっは」


 わかりやすい人だ。この反応からして、おそらく酒を造っているに違いない。ということは、もしかしたらロビン・フッドも本当にいるのかもしれない。


 今度は修道士が、

「ところで先ほど、ロンドンから来られたと言ってましたね?」

と、聞いてきた。


「王妃様に会ってきたのよ」

アデル教授が答えた。


「え? 王妃様に? あなた方はいったい?」


 俺はどこまで漏らしていいかわからないので、話はアデル教授に任せる。


「実は、リチャード王からの手紙を届けたの」

「え? リチャード王は生きておられるのですか?」


「そうよ」

アデル教授がそう言うと、その修道士は笑顔になったり、真剣な顔になったりしている。


「で、さっきの騎士たちは、やはり税の取り立てでしょ? ひどいことをするわね」

ユウコが聞いた。


「そうなんです。先ほどの村人は、税の代わりに娘を連れて行かれました」

「その娘はどうなるの?」

「売られるかもしれないし、代官の好みなら、なぐさみにするかもしれません」


「許せないわ。ねえショウ? 助けましょうよ」

ユウコが真剣なまなざしで俺を見てきた。


 俺はアデル教授に聞いてみる。

「助けても大丈夫かな?」


 それを聞いて修道士が、

「助けられるのなら、助けてあげてください」

と言ってきた。


 俺はアデル教授に、助けても歴史が変わらないか聞きたかったわけだが。


「さっきも聞いたけど、本当にロビン・フッドという義賊はいないのか? シャーウッドの森に。彼がいたら助けになるんだが」

俺は念のために聞いてみた。

 もし本当にいたら、いざというときの援護や陽動などを頼むこともできるかもしれない。


「誰ですか、それは? それにシャーウッドの森は王の所有ですから、誰も入りません」


 これは、本当にいないのかな?


「そうか。それで、その娘はどこに連れて行かれたんだ?」

「おそらく、代官の砦です。ノッティンガムの」


「たしか、ここから十キロぐらいの場所ね」

と、アデル教授。

 アデル教授がそう言った後、ちょっと後悔してるようだ。


 ん? そうか。この頃はキロメートルという単位は使われてないか。


 でも、修道士は気にしていない様だ。

 俺たちが旅人だし、故郷で使われている単位ぐらいに思ったのだろう。


「でも、砦には兵士が大勢います。大丈夫ですか?」


「私たちは、こっそり忍び込むのが得意だから大丈夫よ」

と、ユウコ。


「そうですか」

「でも彼女を助けてここに連れ帰っても、彼女がここに戻っているのが見つかったら、この村の人々に復讐されるかもしれないわ」


 それを修道士が聞いて、剃っている自分の頭をなでる。

「うーん、なるほど。ではシャーウッドの森の奥に隠れた方がいいかもしれないですね」


「え? 誰も入らないんじゃないの?」

「だから、隠れるには最適なんです」

「そういう事ね?」


「リチャード王が戻って、重税が終わるまでそこに隠れていた方がいいわ」

と、アデル教授。


「いつ戻られるのです?」

修道士が聞いた。


「そうね。王妃様が身代金交渉を始めるみたいだから、再来年ぐらいには戻るはずよ。それまでそこに隠れていて、誰かが食料を運ぶとか、あるいは狩りができる人が世話をしないといけないと思うけど」

「なるほど。あとで、村人と相談してみます」


 そのあと俺たちは、修道士と一緒にこっそりとシャーウッドの森に入って、助けた娘がキャンプできそうな場所を探すことにした。


 修道士がナイフで木に目印を刻んで、迷子にならない様に森の奥に進む。

 すると森の奥に、小川が流れている少し開けた場所がみつかった。


「ここなら、キャンプできそうだな」

と、俺。


「では、ここにしましょう」

修道士が応えた。


「じゃあ俺たちは、これから娘さんを助けに行ってくる」

「それではお願いします。私の方は村人と相談して、ここでの生活に必要そうな物をそろえて持ってきます」


 生活に必要そうな物とは、テントを張る布とか鍋などだろう。


 俺たちは修道士と一旦そこで別れ、上空のスターダストに戻った。

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