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レリック・ハンター  作者: 中川あとむ
第十九話 洗脳電波
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19-2 地球連邦議長

 俺たちは前の運転手が手配してくれたタクシーに乗替えて、再び目的地へと向かう。

 タクシーが茨城シティのメイン通りをさらに西へ進むと、前方に百階はありそうな先端的なデザインのビルが見えてきた。

 ニュースで見たことがあるが、あれが連邦政府のメイン・ビルだ。


 タクシーが連邦政府のゲートの自動セキュリティーチェックで止まると、タクシーに乗ったまま全員の顔と所持しているIDカードが非接触でスキャンされ、すぐに自動的にゲートが開いていく。

 ここはさすがに、最先端のシステムが導入されているようだ。


 タクシーが門を入って敷地内を進むと、途中にはアンドロイドの警備員が数体巡回しているだけだった。

 まあ、今時のテロなら上空の宇宙船から攻撃するだろうから、議会が開かれていない時期なら地上の警備はそれほど厳しくする必要はないのだろう。

 

 敷地内には連邦政府の本部ビルの横に大きな議事堂や図書館などの施設もあるが、今回会いに行く議長の部屋は本部ビルの最上階にあるらしい。

 タクシーには途中の庭園部分を抜けて、そのまま本部ビルへまっすぐ向かってもらう。

 

 ビルの玄関にタクシーが着くと、俺たちはタクシーを降りてロビーに入った。

 ロビーは広く、大理石を多用していて金が掛かっていそうだが、スッキリとしていて上品な印象だ。


 すると、前を歩いていたエレナ博士が立ち止まって振り返る。

「ショウ? ユリーとユウコの三人で行ってきてくれる? 私とイーサンは、ここで待ってるわ」


「え? ああ、わかった」


 エレナ博士はそのまま、ロビーの左にあるテーブルと椅子のセットの方に向かった。

 俺たちは、エレナ博士が堅ぐるしいのが嫌いなのを知っているので、特に何も言わず三人で行くことにする。


 ロビーを見回すと、右側にはエレベータが何機かあり、中央の奥には女性が三人座っているカウンターがあった。

 

 あそこで聞けばいいのか。


「あそこが受付みたいだな」

俺がそう言って三人で歩いて行こうとすると、俺たちのそばにまだ残っていたイーサンが俺を呼び止めた。

「社長?」


「なんだ?」


「あの受付嬢は美人ですが、アンドロイドですよ」

イーサンが耳打ちしてきた。


「ふーん?」


 なんでイーサンは、そんなことを言ってくるんだろうか?


「ナンパしたら駄目ですよ」

「するか!」


 でもまあ、イーサンはイーサンなりに、俺が恥をかかないように言ってくれたつもりなのかもしれない。見当違いなのは、俺がナンパする可能性があると思っていることだ。


 イーサンはエレナ博士の後を追い、俺はすぐに前を行くユリーとユウコに追いつき、三人で受付の前に行った。


「こんにちは。本日のご用向きは?」

受付の真ん中の女性が聞いてきた。


 中央に座っている女性は日本人のようで、両隣は白人女性だ。

 ナンパするわけでは無いが、三人とも確かに美人だ。でも本当にアンドロイドなのだろうか? よく出来ている。

 エレナ博士が作ったアンドロイドもなかなか人間と見分けがつかないが、目の前の彼女も人間の様に見える。


 俺はつい、ジロジロ見てしまった。


「あの、なんでしょう?」

受付嬢が、ちょっといぶかしげに聞いてきた。


 ユリーが、肘で俺をつついてくる。


「あ」


 しまった。イーサンが余計なことを言うから、不審者に思われたかもしれない。

 アデル教授の占いの、「女性、トラブル。最悪の日」という言葉が一瞬頭をよぎった。


 俺は気を取り直して、受付嬢に言う。

「議長に、火星国王から荷物を届けるように頼まれて来たんですが」


「では、一応IDのチェックと来客予定の確認をさせて頂きます」

彼女はそう言うと、カウンターに組み込まれた装置で、なにかの操作をした。


 おそらくここでも、非接触でIDカードをチェックしたようだ。


 彼女は、すぐにこちらを向いてニコリとする。

「確認できました。では、ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」

そう言って彼女は席を立つと、俺たちを奥の扉の方へ案内して歩いていく。


 俺が彼女の後姿をジロジロ見ていると、ユウコが、

「ショウは、彼女みたいな人が好みなの?」

と、聞いてきた。


 それを聞いて、ユリーがちょっと怖い目をする。


「い、いや、そういう事じゃなくて、アンドロイドかどうか見ていただけだよ。さっきイーサンが、そんなことを言ったもんだから」

「ふーん?」


 その受付嬢は、奥のドアの前に俺たちを案内して立ち止まると、

「私は人間です。他の二人はアンドロイドですけど」

と、俺に言ってきた。


 聞こえてたんだ。


「あ、すいません」

俺はちょっと赤くなって、謝った。


 イーサンめ。おかげで恥をかいてしまったじゃないか。


 受付嬢がちょっと微笑んで、その横のパネルに手を触れるとドアが開く。


「このエレベーターは議長室のある階への直通です。お降りになられたところからは、議長の秘書がご案内します」

彼女がそう言って、手の平で指し示してエレベータの中に進むように案内してきた。


 俺たちはエレベーターに乗る。


 ドアが閉まるとドアの内側がモニターになっていて、外のロビーの様子が見えるようになっていた。

 おそらく、これもセキュリティーなのだろう。もし銃を構えた人が立っていたら、エレベーターが着いてもドアを開けないことも出来るわけだ。


 そんなことを考えていると、あっという間に最上階付近まで昇ったようだ。


 エレベーターが停止してドアが開くと、待っていた議長の秘書と思われる女性が会釈してくる。

「ようこそ、いらっしゃいました。では、こちらにどうぞ」


 エレベーターホールに降りて見回すと、横にある窓なのかモニターなのかわからないが、そこからは先ほど通ってきた茨城シティの町並みが見えている。

 反対側には山が見えているが、あれが筑波山かもしれない。


 その秘書が「議長室」と書かれたドアの横のパネルに手を触れて二重になったドアが開くと、部屋の奥の机から議長と思われる女性が立ちあがり、こちらに歩いてくる。

 銀髪で細身の、知的で品のよさそうな人だ。白人で、歳は四十代か。

 薄い水色のスーツを着ていて、左胸にはブローチを付け、上品な出で立ちだった。

 

 部屋は結構広く、奥までは四十メートルぐらいはありそうだ。

 そこに議長の机と、応接セットなどがある。応接セットは大きめで、いざとなったらここに二、三十人の幹部などを集めて会議が出来るぐらいの席があった。


 部屋の壁は三面が窓になっているように見えたが、どうやらここもモニターになっていて、今はそこに外の景色が映っているようだ。何かあった時は、そのモニターに色々な情報が映し出されるのだろう。


 それはそうか。外から丸見えでは防衛上良くないだろうな。


 俺たちは部屋の中に案内されて、部屋の途中で向こうから歩いてきた議長と落ち合った。


 俺たちは、自己紹介をする。

「はじめまして。ショウと言います」

「ユリアナです」

「ユウコです」


「はじめまして。議長のスカーレットです」

そう言うと議長は俺たちに握手してきた。


 握手が終わると、議長は応接セットに俺たちを案内してくれる。


 俺たちは席に着くと、

「早速ですが、これを火星の王様から預かってきました」

と俺が言って、持ってきた荷物を渡した。


「ふふ」

議長は笑みを浮かべ、その場で荷物を開け始める。


 俺たちは先ほどのひったくりの事もあったので、何が入ってるのかジッと見てしまう。

 議長は、そんな俺たちを尻目に包みを開けた。


 すると、中身はクッキーだった。一応、有名店の物みたいだ。


「えー!?」

ユリーが驚いている。


「あなた方も一緒に頂きましょ?」

そう言うと議長は、秘書にお茶を持ってこさせた。


 議長は俺たちに、

「驚いているでしょう?」

と、聞いてきた。


「ええ、もちろん」


 わざわざクッキーを届けるために、俺たちに頼んだわけないよな?


「実は、あなた達に会いたくて、火星の王様にお願いしたのよ」


「えー!? 伯父様ったら」

ユリーがあきれて言った。


 俺は議長に聞いてみる。

「それは、どういうことですか?」


「実は内密に調査してもらいたいことがあるの。そしてできれば解決してもらいたい。……ああ、言いたいことはわかります。でも私は、仕事を頼むときは直に相手に会いたいの。それにおそらく、今回の件は地球に来ないとできない仕事だし」


 俺はユリー、ユウコと顔を見合わせてから議長に向き直り、

「そういうことですか。俺たちはレリック・ハンターだし、依頼であれば違法なこと以外は何でもやりますけど」

と、言った。


「よかったわ」


「仕事なら、エレナ博士にも来てもらった方がいいかも」

ユリーが俺に言ってきた。


 それを聞いた議長の目が光る。

「エレナ博士?」


 エレナ博士はエレナ彗星で有名になったから、議長も興味を持ったのかも知れない。


「今、下のロビーで待ってます。どうも堅ぐるしいのが嫌いみたいなので」


 俺がそう言うと、議長がインターホンで秘書にエレナ博士を連れてくるように指示をした。


 しばらくすると、エレナ博士が秘書に案内されて入ってくる。でもちょっと気まずそうだ。


 すると、議長がエレナ博士を見て、

「やはり、あなただったのね?」

と、言った。


「え? 知り合い?」

俺はエレナ博士に聞いた。


「昔、ちょっとね」

と、エレナ博士。


「あら、ちょっとだなんて。でもあなたは、いつまでも歳を取らないの?」

議長が、親しそうな口調でエレナ博士に聞いた。


「十五年間、冷凍睡眠で寝てたからね」

「そうなのね?」


「で、仕事なんでしょ?」

エレナ博士が話題を変えて、議長に聞いた。


「そうね。個人的な話はまた今度ね。……実は最近地球でおかしな事件が多発しているの」


 事件と聞いて、ユウコがピクっとする。


 職業病か?


「どんな事件ですか?」

ユウコが聞いた。


「そのうちの一つは、あなた方が一か月前に関係しているわ。カリフォルニアでね」


 俺は予想もしていなかった話だったので、少し驚いた。

「え? もしかして、イーサン・レインの?」


「そう。彼は政府高官である父親のIDを盗み、アメリカ政府の機密情報にアクセスしていたわ。でも、彼はその情報を他の国に渡した形跡もないし、その後取り調べを受けて自白剤を使っても、夢の中の話をしているだけだったそうよ」


「あの時は、私たちの仲間が初恋の相手だった彼に会いに行って……」

ユリーが弁解する。


 たしかに今の話だと、俺たちも疑われかねない。


「大丈夫よ、あなた達に疑いはかかってないわ。それにエレナがいるなら、そんなことをする必要は無いしね」

議長はそう言って、エレナ博士を見た。


 エレナ博士は、少し首を横に振っている。

 何か言ってほしくない過去があるのかもしれない。

 

 まあエレナ博士なら、イーサン・レインに頼らなくても、アメリカ政府の情報をハッキングできるだろうしな。

 でもまさか、昔どこかの情報機関でハッキングでもしていたのだろうか。


 議長が続ける。

「そして、その前は科学者たちが異常な行動をしていた。でも最近は、世界中で善良な一般市民が、衝動的に犯罪をすることが多くなってきたわ。始めは、彗星のせいでパニックになっていただけかと思っていたけれど、一か月近くたった今でもまだ収まらない。些細なものでは万引き。時には強盗など。なぜか皆、自分の欲望を押さえきれなくなっているわ」


「先ほどここに来る途中にも、タクシーの前に万引きした男が飛び出してきたわ」

ユリーが言った。


「そう。そういう事が、比較的治安のいいこの国でも、毎日数千件起きてるわ。それでエリックにも聞いてみたら、火星では起きてないと言われて、あなた方を紹介されたわけ」


 エリックというのは、火星の王様の名前だ。


「なるほど」

エレナ博士が、腕を組んで俺たちをチラッと見た。


「関係あるのかしら」

ユリーもそう言って、俺を見る。


「やはり、なにか心当たりがあるのね?」

議長は、俺たちが目で話しているのを見て聞いてきた。


「いい機会だから、言っておいた方がいいんじゃないかしら。今回の一般市民の犯罪のことと関係あるかどうかわからないけど」

ユリーが、俺とエレナ博士を見て言った。


 エレナ博士も、俺たちを見てうなずく。

「そうね」


 俺はサクバス人の事を、議長に話すことにした。

「実は、信じられないかもしれませんが、イーサン・レインとエレナ彗星の事件には、サクバス人という異星人が関わっていたんです。まずはこれを見てください……」

そう言って、携帯端末に保存してあった、サクバス人や宇宙船の画像などを見せた。


 議長が息を飲むのが分かる。

「噂では聞いていたけど……」


 俺は続けて説明する。

「奴らは、人間の欲望を掻き立て、人間を堕落させます。そして、人間に精神だけ乗り移ることもあります。イーサン・レインがそうでした」


「でも、何のために?」

「奴らは基本的に人間を堕落させるのが好きなようです。そして人間に精神だけ乗り移って、自分もそれを体験して楽しむことがあり、人間が恐怖を抱いたりして心にスキが出来たときには、乗り移りやすくなるようです。おそらくその状態を作るために、エレナ彗星を利用しようとしていたと俺たちは見ています」

「なんてこと」


「しかもあの時は、最終的にはイーサン・レインの父親に乗り移って、その地位を利用して混乱を広めようとしていたようですね」

「そうだったのね?」


「でも一般市民の犯罪が多くなったっていう事は、彼らがすでに大挙してやってきて乗り移っているって事?」

ユリーがそう言って、エレナ博士を見た。


「そうとは限らないわ。なにか別の手を使っているかもしれない。もし巨大な宇宙船がこの太陽系に来ていたら、カモフラージュしていたとしても、私たちが気づかないはずがないわ」

「そうよね。でも、別の手って?」

「今はまだわからないけど、やつらの技術なら色々なことができるから」


「科学者の異常行動と言えば、あの彗星対策をしていた科学者たちも関係あるのかな?」

俺はエレナ博士に聞いてみた。


「あいつらは、単に無能だっただけかもしれないわ」


 はは、手厳しいな。


 すると議長が、

「あの科学者たちは、まだ行方をくらましているわ。今の世論では、当分の間出てこれないでしょうね」

と、言った。


「え?」

ユリーが。


「非難ごうごうなのよ」


「そりゃそうね」

と、エレナ博士。


 そういえばあの科学者たちは、彗星対策を途中で放り出したあげく、マスコミにすべてをばらして逃げたらしいからな。

 おかげであの直後、地球の多くの国でパニックになった人々が暴動を起こして、死者も出たらしい。


 その後俺たちがエレナ衛星の軌道を変えてから混乱も収まったはずなのに、今でも人々の行動に異常があるという。

 火星の王様は、それがサクバス人に関係しているのではないかとにらんで、俺たちを推薦したわけだ。


「じゃあ、どこから調査を始める?」

ユリーがユウコやエレナ博士の方を向いて聞いた。


「まず、その欲望を押さえきれずに犯罪を犯した人たちに会ってみない?」

と、ユウコ。


「そうね、ショウがまた頭に入って見ればわかるわ」

エレナ博士がそう言って、皆が俺を見た。


 俺が前にロサンゼルスで、宝珠の力を借りてイーサン・レインの頭の中に入ったときは、頭の中に暗い領域があって、そこにサクバス人の精神が巣くっていた。


 奴らが得意とする夢や精神の領域では俺は勝てるかどうかわからないが、とりあえず入ってみれば、今回の件にサクバス人が関係しているかは、はっきりするだろう。


 それを聞いて、議長が頭を振る。

「私は、話について行けそうにないわ。では地元の警察に話しておくから、面会できるようにしておくわね」

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