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レリック・ハンター  作者: 中川あとむ
第十八話 ムーの海底ピラミッド
71/156

18-3 海底都市

今回の手直しで、主人公が腕の宝珠を隠すためのカモフラージュ装置を登場させました。

今後、以後の話を見直す際には、それを考慮して順次書き換えていきます。(2024/01/08)

 俺は船に戻ると、まずは携帯端末で撮ってきた壁の文字の画像や、宇宙服に付いているカメラで自動的に撮られたドーム内の動画データを船のコンピュータに転送した。


 そして宇宙服を脱ぎ、エレナ博士のところに行って先程拾った写真を渡す。

「今送ったデータと、この写真を前面モニターに映してくれる? みんなの意見も聞いてみたいから」


 エレナ博士が、それらをコックピットの前面モニターに映し出した。


 俺はその画像を皆に説明する。

「これは今行ってきた場所で拾った少女の写真と壁にあった文字で、少女の写真はプリントしてからまだそんなに時間は経っていないみたいなんだ」


 俺は改めてその文字をよく見てみるが、やはり古代文字の様なそうでない様な。よくわからない。


 するとイーサンが、

「これは古代文字の様ですが、変化しているようです」

と、言ってきた。


「変化?」

「一種の簡略化の様な変化ですね。でもどうやら、地熱発電所と書いてあるようです」

「地熱発電所か。だから他の場所が溶岩で破壊されていても、あの部屋だけは明かりが点いていたんだな?」


「古代文字ということは?」

ユリーが首を傾げた。


「一つ考えられるのは、あそこにムー人の生き残りがいたのかもしれないわ」

と、エレナ博士。


「えー!? ということは、一万二千年前からこの海底で暮らしていたの?」

「東洋人で、この古代文字。そう考えるのが自然ね」


 イーサンが神妙な顔で振り向く。

「ということは私たちは、間接的にムー人の生き残りを殺してしまったのですか?」


「なんか、やりきれないわね」

ユウコがぽつりと言った。


「まさか、こんなことになるなんて」

ユリーも意気消沈している。


「でも、なんでこんなところにいたんだ?」

俺は疑問を口にした。


「それはー……」

ユリー途中まで言いかけて、考え込む。


「一万二千年前に、火星に逃げ遅れたのかもしれないわ」

エレナ博士がそう言って腕を組み、椅子の背もたれに寄りかかった。


 この写真の少女の先祖たちは、ムー大陸が沈むときに逃げ遅れて、あそこで暮らすことになったということか。

 でもそれなら、火星のゲートから行けば助けられるかもしれない。


 俺は思いついたことを言ってみる。

「じゃあ火星に戻って、オリンポス山のゲートから一万二千年前に助けに行ってみるか?」


 エレナ博士が眼鏡を触った。

「いや、それでは救えないわね。あの海底のゲートがその時使えたなら、ここにはいない。つまり、ここに着いた時ゲートのあたりが先に水没して逃げられなかったから、あの丘の空洞に避難してこの海底に取り残されたのよ。そしておそらくあの空洞は、ゲートに不具合があった時のために作られたシェルターなんだろうね」


「そうか。あの女王が民を見捨てるとは思えないから、ゲートはギリギリまで開いてたに違いないしな。ということは、女王は逃げ遅れた人がいたのに気が付かなかったんだな?」


 予言では、大陸が沈む正確な日にちまでは伝わっていなかったらしいから、おそらく隕石が落下してきたり洪水が起きて慌てて逃げることになったはずだ。混乱もあったのだろう。


「おそらく船でアメリカ大陸やオーストラリアの方に逃げるはずだった人々が、何かの手違いでゲートの方に逃げてきたんじゃないかしら。そして、それを当時の女王たちに知らせるのは難しいかもしれない」

と、エレナ博士。


「え?」

「つまり、海底に沈んだゲートと古代の火星のゲートがつながっている間は、未来の火星からつなぐことはできないわ。あれは一対一でしかつなげられないから」


「そうか、未来から沈む直前にそこにつなげる事はできないわけか」


 それなら、沈む何ヶ月か前に行って知らせてあげるのはどうだろう。


 俺がそれを言おうとすると、

「じゃあどうするの?」

と、ユウコが聞いた。


 皆の視線がエレナ博士に集まる。


 たしかにエレナ博士なら、俺が今考えついたことぐらいとっくに思いついているだろう。

 エレナ博士の案を聞いてみよう。


 エレナ博士が少し考えてから、

「ショウのしている宝珠。確かスターダストぐらいの大きさまでなら使えるのよね?」

と、俺に聞いてきた。


「ああ」

「じゃあ、その宝珠で今から少しだけ過去に行きましょ?」


 少し過去ということは、ニ、三日前か?


「そうか、俺たちがさっきのピラミッドを破壊する前に戻って、彼らを逃がせればいいな」

「そういうこと。まずは、逃がすにしてもあそこに何人ぐらい暮らしていたのか知らないと、作戦の立てようがないわ」

「じゃあ、とりあえず様子を見に行ってみるか」


「私たちがピラミッドを破壊するのをやめさせるのは?」

ユウコが聞いてきた。


 それもいいかもしれないな。


「すでに起きた事を変えない方がいいかもしれない。時空に矛盾が生じて、地球が消滅するかもしれないわ」

エレナ博士がユウコに言った。


「え? そうなの?」


「それに、ショウはあそこで、ムー人の遺体を見たわけじゃないんでしょ?」

エレナ博士が、今度は俺に聞いてきた。


「ああ」

「じゃあ、助けられる可能性があるわ」

「……ああ、なるほど。つまり、俺たちが過去に行って助けたから、すでに逃げていて遺体が無かったのかもしれない、ということか」

「そういうこと」


 頭がこんがらがりそうだ。


「じゃあ、過去に行ってみよう」


 俺たちは、一旦スターダストを海上に出した。


 この宝珠でどのぐらい前までタイムトラベルできるかわからないが、とりあえず二日ぐらい前に行ってみようと思う。


 俺は副操縦席に座り、左腕の宝珠に触れて集中した。

 スターダスト全体を思い浮かべて、二日前に行くことを念じてみる。


「どう? 行けた?」

俺は、地球の時報電波をチェックしているエレナ博士に確認した。


「だめ。変わってないわ」

「どういうことだ? この宝珠だけでは過去に行けないのか?」

「今、どれぐらい過去に行こうとしたの?」

「二日前」

「その宝珠だけでは大してタイムトラベルできないみたいなことを、ムーの女王が言っていたわよ。ましてや、今やろうとしているのはこの船まるごとのタイムトラベルなんだし」

「そうか、じゃあ一日前にしてみる」


 俺は行く時間を一日前にして、もう一度念じてみた。

 すると一瞬、テレポートしたときのような感覚に包まれる。

 今度は行けたかもしれない。


「どう?」


「成功よ。一日前に行けたわ」

エレナ博士が左手の親指を立てて、グーサインをしてきた。


「じゃあイーサン。さっきのピラミッドの近くに、また行ってくれ」

「はい」


 俺たちは海中に潜り、レーダー画像で見てみると、まだピラミッドがあった。

 確かに一日前に戻れたようだ。


 そしてエレナ博士がその丘の下にある空間をスキャンして、結果の画像を前面モニターに表示した。 

 今度は空洞部分が溶岩に埋め尽くされていないので、全体がはっきりと映っている。

 それによると、その丘の下にはドーム状の空間がいくつかあるようだ。


 俺はそれを見て、席を立ち上がる。

「じゃあ、あの一番大きな空間にテレポートで行ってくるよ」


「あ、これを持って行って」

エレナ博士はそう言うと、少し大き目な無線機の様なものをキャビネットから出して、俺に渡してきた。


「なんだこれ? 一昔前の無線機みたいだな」

「携帯用の亜空間通信機よ。なるべく小さくしたんだけど、今はこの大きさが限界ね」


 そうか。海中や地底では普通の電波は届かない。それで、亜空間通信機を渡してきたわけだ。


「あと、これも」

エレナ博士はそう言って、リストバンドのような物を渡してきた。


「これは?」

「それを腕の宝珠の上からはめて。サクバス人の技術を利用した、カモフラージュ装置が組み込まれていて、その宝珠を隠すことが出来るわ」


 俺はそれを受け取ると、早速腕の宝珠の上から付けてみた。

 すると、宝珠の腕輪が消えて腕に何も着けていないように見える。


「すごいな」

「試しに、まずは小さいもの用に作ってみたのよ。この船全体を隠せる装置はまだこれからね」


「じゃあ、行ってくるか。明日には俺たちがこのピラミッドを破壊に来るから、それまでに終わらせないといけないな」


「過去の私たちですね?」

イーサンが言ってきた。


「うーん。頭がこんがらがりそうだ。じゃあ、ともかく行ってくる」

俺はそう言うと、丘の地下にある一番大きな空間にテレポートした。



 今回テレポートで出たところは、直径数百メートルのドームの中に作られた町の中だった。

 周りには小ぶりの家が並んでいて、頭上には人工太陽のようなものが輝いている。


 この家の数からすると、結構な人数が住んでいそうだ。


 建物の殆どは、もともとは火星のムー人の町で見たような、樹脂の様なもので作られていたようだったが、壊れた所を別の素材でつぎはぎしているような感じだ。

 この海底では、あの樹脂のような素材はもう作れないのだろう。

 

 でもこの、つぎはぎに使っている材料は、いやに光ってるな。これは金か?


 そして、いくつかの家は石で出来ている。

 きっとこちらの方が新しいのだろう。石ならこの海底の空洞を掘り進めれば、比較的簡単に手に入るに違いない。


 すると通りがかった若い男性が、俺を見て驚いている。

 

 それはそうか。こんな閉じた社会だから、ここの人々は皆親戚で顔見知りのはずだ。


 彼の着ている服は、写真の少女と同様にシンプルなデザインで、少しくたびれていた。

 こんな海底だから布を作るのも大変なんだろう。


「すいません」

俺はその若い男性に、古代語で話しかけた。


「あ、え? あなたは……?」


 その若い男性は少しなまっているようだが、言葉は通じるようだ。

 そしてもちろんだが、彼は俺を警戒している。


「地上から来ました」

「え?」


「ここはムー人の町ですか?」

俺は確認してみた。


「え、ええ。そう伝えられています」

「やはりそうなんですね? では、ここを取りまとめているかたに会いたいのですが」


「え? はい、どうしよう。とりあえず、こちらにどうぞ」

その若い男性は少し戸惑っていたが、俺を案内して家々の間を歩いて行く。


 俺は一軒の家の前に案内されたが、その家の大きさは周りの家と変わりないので、はっきりした上下関係は無いのかも知れない。


「この地区の区長がこの家にいます。ちょっと待っていてください」

そう言うと、彼は戸を叩いてから中に入って行った。


 しばらくすると、区長と思われる中年男性が血相を変えて出てきた。

「あ、あなたは本当に地上からやって来たのか?」


「はい」

「まさか、どうやって来たのですか?」

「宝珠の力です」

「宝珠? 神話に出てくるやつですか?」

「きっとそうなんでしょう。それより大事な話があります。ここの人々の命に係わる事です」

「え? 命に? ま、まあ、中にどうぞ」


 俺は彼の後について、家の中に入った。


 すると奥から、少女が出てくる。

「お父さん? だれ?」


「ああ、これは私の娘で、アスカと言います」

区長が俺に紹介した。


 俺は驚いた。あの地熱発電所で見つけた写真の少女だった。


「君は……」


 どういうことだろう? こんな偶然があるのだろうか。


「どうしました?」

区長が聞いてきた。


 でも今は、ここの人々を逃がすためにやらなければいけないことが沢山ある。

 このアスカのことは後にしよう。


「あ、いえ。知り合いに似ていたものですから。俺はショウと言います」


 区長がダイニングテーブルの椅子を勧めてくれたので俺はそこに座った。

 少しすると、先ほどの区長の娘アスカが、お茶を持ってきてくれる。でも、アスカが出してくれたお茶は、金の器に入っていた。

 

 区長と娘のアスカ、先ほどの若者、ムサイというそうだが彼を含め四人でテーブルを囲って、話し始める。


「ここでは、金は珍しくないんですか?」

俺はそのカップを見ながら聞いてみた。


「ええ、ここで豊富に採れるのは金と石ぐらいですから。どちらも材料以外の価値はありませんよ」

区長が言った。


「食料はどうしているんです?」

「植物工場があります。今、妻がその植物工場に収穫に行っています」


「あなた方は、昔どうしてこの海底に取り残されたか伝わってますか?」

俺はさらに聞いてみた。


「言い伝えによると、先祖たちはムーの女王に見放されて、ここに着いたときは、すでに女王や皆はいなかったそうです。でもこの場所を見つけて難を逃れたと伝わっています」

区長が答えた。

 でもはるか昔の話なので、他人事のようだ。


「実は火星でゲートを見つけて、タイムトラベルをして一万二千年前の女王に会ってきました。女王はとても民思いの方で、あなた方の先祖を見捨てたようには思えません」


「タイムトラベル? そんなことができるんですか? でもまあ、昔いろいろとあったのでしょうね。それであなたは、先ほど命にかかわると言われてましたが?」

区長が聞いてきた。


「そうでした。まずは外の世界について、お話しておきます……」


 俺は、今の地球の状況と火星の状況を簡単に話した。そして、火星で発生している「時空の裂け目」を消すために、この近くのピラミッドの破壊をしにやってきたことを伝えた。


 そして、続けて本題に入る。

「それで実は明日、ピラミッドを破壊したらそれが火山だったんです」


「火山?」

アスカが聞いてきた。


 そうか、火山なんて見たことないだろうな。


「なんと言ったらいいか。活動している山で、あるときマグマを吹き出すことがあるんだ」


「マグマなら知っています。我々も発電に使っています」

と、区長。


 俺はうなずいて、話を続ける。

「すると、そのマグマがこのドームに流れ込んで、ここがつぶれてしまいました。ここを調査すると人が住んでいた形跡を見つけたので、今こうやって一日前にタイムトラベルして、知らせに来たんです」


 その区長は、始め驚いていたが、すぐに考え込む。


 すると、横で聞いていた先ほどの若者ムサイが、興奮気味になって立ちあがった。

「なんということだ。それではあなたが明日、私たちを殺すというのか?」


「知らなかったこととは言え、申し訳なく思っています。それで、なんとか助けようと、こうやって知らせに来たのです」


 ムサイはうろうろして考え始め、そして区長の家を出て行った。


 アスカが少し涙目で、

「どうにかならないんですか?」

と、俺に聞いてきた。


「これから起こることを変える手段がないんです。もしできたとしても、時空に矛盾が生じて、この地球が消滅してしまうような事が起きる危険もあります」


「おそろしい」

と、区長が頭を振った。


「でも何とか皆さんを助けようと思っています。ここには、何か逃げ出す船などの乗り物はないんですか?」

俺は聞いてみた。潜水艦でもあれば手っ取り早そうだ。


「あるらしいのですが……」

「らしい?」

「この町というか国を治めている書記長が、過去の遺産の潜水艇を管理しているらしい、ということは聞いたことがあります」


「書記長?」


「書記長はひどいのよ。自分だけいい生活をしてるの」

アスカが口を挟んだ。


「めったなことを言うもんじゃない。下手すると牢屋に入れられるぞ」

区長が、娘のアスカをさとした。


「今この国は、どういう事になっているんです」

俺は聞いてみた。


「はい。はるか昔から私たちの先祖は、子供を生むのも二人というように決めて人口も調節してきました。それ以外にも、限りある設備や食料などを管理するために、投票で書記長を決めたそうです。始めは良かったそうですが、ある時からそれが終身制になり、職も子供に引き継がれて、今では書記長は王様のようにふるまっています」


 ありそうな話だな。


「それで、その潜水艇というのは?」

「私たちが知らない場所にあって、その書記長の部下が時々それを使って、地上から何かを持ってくると聞いたことがあります。でも詳しいことは側近たちしか知らないと思います」


「そうなの!?」

アスカはこの話を初めて聞いたのだろう。地上に行く手段があると聞いて驚いた様子だった。


「今まで、誰もここを抜け出そうとはしなかったんですか?」

俺が続けて区長に聞いた。


「外の世界は恐ろしいところだから、行こうと思ってはいけないと言われていますし」


 まあ、地上では戦争が頻繁に起きていた時代があったのも確かだ。

 しかし、平和な時代もあったから、それはおそらく書記長が自分の地位を守るための口実なのだろう。

 皆がここを出て地上の人々の間に交わってしまえば、書記長は今の王様のような生活はできなくなる。


「本当に地表は恐ろしい所なの? 先ほどのお話ではそんな感じはしなかったけど」

アスカが聞いた。


 俺はアスカにやさしく答える。

「たしかに昔は、戦争があった時代もあった。でも今は、まあ国王が各国を治めてはいるけど、人々は自由で、人生を楽しんでいるよ」


「へー。行ってみたいな」

「行けるよ。俺が何とかしてあげる。ぜったい皆をここから救い出すから」


 アスカが俺を見つめてくる。

「はい」


 すると、玄関のドアが開き、先ほど出て行ったムサイという若者が、兵士を連れて入ってきた。

 兵士と言っても服装はここの皆と大して変わらず、ベルトの色が金色なのと、頭にも同様に金色のはちまきのようなものを巻いているだけの違いのようだ。

 そして武器としては槍のようなものを持っている。槍は何か特別な機能があるのかどうかは、見ただけではわからなかった。


「あ、ムサイ!?」

区長が驚いている。


 そうか、彼は明日この町が滅んでしまうことを聞いて動揺していたからな。

 俺を捕まえようと思ったわけだ。

 俺を今捕まえれば、明日の破壊が起こらないと思ったのかも知れない。


「こいつです」

ムサイが兵士に、俺のことを指して言った。


 どするか。逃げることもできるが、一度捕まってみるか。

 一度逃げたら、この後ずっと逃げ回らないといけない。


 それに、もしかしたら書記長というやつに会えるかも知れない。

 もし書記長が協力してくれれば話が早いはずだ。


 俺は持っていた亜空間無線機をポケットからそっと取り出し、彼らに見えないように横に座っていたアスカにテーブルの陰でそれを手渡すと、ゆっくりと手を上げながら立ち上がった。


 わざと捕まるにしても、これを取り上げられるのはまずい。壊されでもしたら大変だ。

 後でテレポートして帰るときに、スターダストが同じ場所にいるか確認してからテレポートしないと、海の中に出てしまうかも知れない。


 アスカがそれを彼らに渡してしまう可能性もあるが、その時はその時だ。

 

「抵抗はしない」

俺はそう言って両手を上げた。


 そして密かにオート・シールドを起動しておく。

 手を上げても、カモフラージュ装置のおかげで宝珠の腕輪は見えていない。

 すると兵士たちは俺の横に来て俺の腰に下がっているレイガンを取り上げ、次に俺が腕を下ろすと、降ろした腕をつかんだ。


「区長、お前もこい」

兵士はそう言って、俺と区長を家から連れ出す。


「お父さん!?」

アスカが心配そうに言った。


「アスカ、大丈夫だ。ここで待ってるんだよ」

と、区長。



 俺たちは、その海底の町の中心と思われる広場に面した、一番大きな建物に連れて行かれた。

 少し大きな部屋に入ると、目の前の中央の椅子には、ふてぶてしそうな若い男が座っていて、その横には太った年寄りが座っていた。

 

 真ん中に座っている所を見ると、若い方が書記長か?


 区長や先ほどの若者など他の住民がやせているのに比べ、この男や取り巻きの老人は太っている。

 それに服も綺麗な服を着ていて、彼らだけいい生活をしているようだ。


 おや? この部屋の調度品は、地球や火星でもよく見かけるやつじゃないか?

 やはり、こいつらだけ密かに地上に行ってるんだな?


「お前がここを破壊するのか?」

その老人の方が俺に聞いてきた。


「ピラミッドが火山だということを知らず、未来で破壊したら、ここが巻き添えを食ったのです」

「未来で?」

「明日です。ですから早く逃げてください」

「そんなこと、信じられるか。地上の人間にそんなことができるはずがない」

「地上の世界を知っているんですか?」

「うるさい。それで、ここにどうやって来た? 潜水艇か? 仲間はいるのか?」


 今度は書記長と思われる若い男が口を開く。

「おい区長。お前は、こいつをかくまったのか?」


「そういうわけでは……」


「お前は、前から反抗的なところがある。おい、こいつら二人とも牢屋に入れておけ。それに牢屋に入れておけば何も出来ないしな」

書記長が兵士に命令した。


 この書記長も俺を捕まえておけば、明日この町を破壊することが出来ないだろう、と思っているのかも知れない。

 でもやっぱり、すんなりとは聞いてくれなかったな。


「はっ」

兵士たちが、俺と区長を部屋から連れ出した。



 俺たちはその建物の地下にある、石でできた牢屋に入れられた。

 石でできているということは、この牢屋は後から増築されたのだろう。

 俺たちの予想通りここが元々シェルターだったのなら、牢屋までは普通作らないだろう。


 さて、この牢の中にずっといてもしょうがない。

 俺は兵士の足音が遠ざかるのを聞いて、テレポートで廊下に出た。


 確か区長は隣の牢に入れられたはずだ。

 俺は隣の牢の前に行く。


 扉を見ると鍵ではなかった。かんぬきだ。

 こんな閉じた世界だから、それほど厳重にする必要もないのだろう。


 俺は、扉を開けて中に入った。


「あ、あなたはどうやって?」

区長が驚いて聞いてきた。


「それより、ここを抜け出しましょう」

「あ、はい」


 俺はここに来るまでの道や、位置関係を覚えていたので、二人で区長の家の前までテレポートした。


「これはいったい。あっ、これが伝説の宝珠の力なんですね?」

区長が驚いているというより、納得している感じだ。


「人に見られる前に中に入りましょう」

「はい。ではどうぞ」


 俺たちは区長の家に入った。


「アスカ?」

区長がアスカを探している。


「いないんですか?」


「ええ」

区長は少し心配そうな顔だ。


「心当たりは?」

「おそらく私たちが心配で、後をついて行ったか、あるいは母親のところに行ったのかもしれません」

「わかりました。もし後をついて行ったなら、アスカさんは俺が連れ戻します。あなたは、他の区長たちに知らせてもらえませんか?」

「どう言います?」

「本当のことを。明日ここが火山噴火で破壊されることと、逃げる手段は俺が何とかしますから、皆には逃げる準備をさせてください」

「やってみましょう」


 俺はテレポートしようとしたが、その前に情報を聞いておくことにする。

「ところで、兵士は全部でどれくらいいるんです?」


「十五人ぐらいです」


 え? たった十五人か。まあ、狭い世界だからな。


「では、ここに住んでいる住民の数は?」

「全部で、えー、五千人ぐらいです」


 五千人か。


 俺はまず先ほど連行されたときに取り上げられた、レイガンや携帯端末を取り戻すことにした。

 向こうでアスカとも会えるかもしれないし。


 俺は先ほどの牢屋にテレポートで戻り、そこから注意深く廊下を歩いて行くと兵士の詰所があった。


 中をそっと覗いてみると、テーブルの上に俺のレイガンと携帯端末もある。

 おそらく使い方はわからないのだろう、触ってはいない様だ。


 俺は宝珠の力でそれを引き寄せると、一人の兵士がそれに気づいた。

「あっ!」


 俺はレイガンを取り戻すと、すぐにシールドを張った。

 兵士たちが、ヤリを手にジリジリと俺に近づいてくる。


「無駄な戦いはやめろ」

俺はそう言って、レイガンを床に向けて発射した。


 兵士たちが驚いて、一歩下がる。


 俺が続けて言う。

「ここは明日、マグマが流れ込んできて地獄になる。俺は君たちを助けるためにやって来たんだ。協力してくれないか?」


 すると、二人の兵士が襲い掛かってきた。

 俺はレイガンを麻痺モードにして撃つと、二人はあっけなく床に崩れる。


「大丈夫だ、気絶しているだけで、二時間もしたら目が覚める」


 一人の兵士が、

「どうやってあんたを信じる? 我々はこの国の兵士だ。責任がある」

と、聞いてきた。


「じゃあ、これでどうかな?」

俺は宝珠の力で、一メートル横にテレポートした。


 皆が驚いている。


「このように逃げようと思えば、いつでも逃げられる。でもそうしないのは皆を助けたいからだ」


 次に俺は、リストバンドを外し宝珠を見せながら言ってみる。ダメもとだ。

「そして俺が腕にしているのは、ムーの王に代々伝わってきた宝珠だ。俺の父親がムーの女王と結婚して、俺がこれを引き継いだ」


 すると、兵士たちが驚いて顔を見合わせ、次の瞬間には皆がひざまづいた。


「陛下、なんなりと」

兵士がの一人が言ってきた。


 陛下だって? うーん、まあしばらくは、このままムーの王ということにしておいた方が、いろいろ都合がいいか。


「じゃあ、ここの民を広場に集めてくれるか?」

「かしこまりました」


 先ほどのアスカの父親の区長にも頼んだが、兵士が協力してくれるなら皆にいっぺんに聞いてもらった方が速そうだ。


「もし、書記長が邪魔をするようなら、とりあえず牢屋に入れて欲しい」

「はい」

「あと誰か、書記長が管理しているという潜水艇に案内してくれないか?」


 一人の兵士が進み出る。

「では、私がご案内いたします」


 俺はその兵士に案内されて建物の外に出ると、建物の陰からアスカが顔を出した。


 俺が連行されているわけではなさそうなのを見ると、すぐに走り寄ってくる。

「ショウさん!?」


「ああ、アスカ。会えてよかった」

「お父様は?」

「もう家に帰ってるよ」


「よかった。あっ、これを」

アスカがそう言って、亜空間無線機を渡してきた。

「このボタンを押したら、女の人の声が聞こえたので、お話ししました」


 たぶん、エレナ博士だろう。


「あ、話したんだ?」

「色々聞かれたので、この国のことや知っていることをすべて教えました」


 そうか、ということはエレナ博士はもう動いているだろうな。


 俺はその無線機を手に取り、連絡を取ってみる。

「エレナ博士?」


「お、やっと通信して来たね。話はアスカから聞いて、今住民を逃がす準備をしているよ」

「なんとかなりそうか?」

「大丈夫。私に任せなさい。準備ができたら連絡するわ」

「わかった」


 俺は通信を切った。


 エレナ博士が大丈夫というなら、大丈夫なんだろう。これで何とかなりそうだ。

 

 それにしても、俺が明日発電所で写真を見つけなければ、こうやってここの住民を逃がすこともできなかったはずだ。

 あの写真は、普通に考えればアスカの父親が持っていて、発電所で落としたのかもしれない。


 俺はそのあたりをアスカに聞てみる。

「そうだ、アスカ? 君のお父さんは発電所で働いているの?」


「いえ?」

「え? じゃあ、君の写真を持ってるのは誰かな?」


「写真……て、どんなものですか?」

「え? 写真を知らない? こういうものだけど」


 俺は携帯端末の中の、ロサンゼルスで撮った写真を見せた。


「すごくきれいな絵ですね?」


 そうか、写真はここにないのか。ということは、あの発電所で見つけた写真は、俺が撮ってあそこに置いたということか?

 つまり俺が未来の俺にメッセージを残すわけか。ここに人が住んでいるぞ、という。


 俺は、アスカの写真を撮らせてもらった。

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