18-2 海底火山
翌日俺たちは、スターダストで火星を出発した。
今回は俺とユリー、エレナ博士とイーサン、それにユウコの五人だ。
俺はピラミッドを探すのに専念しようと思うので操縦をイーサンに任せ、今回は副操縦席に座っている。
エレナ博士は情報端末の前に座っているが、最近レーダーの担当をユリーに任せているから、現地に着くまでは特にやることが無く暇そうだ。
ユウコは武器関係が得意だから、重火器コンソールを任せていた。
「では、ムーのピラミッドの座標を教えてください」
操縦席のイーサンが、俺に聞いてきた。
俺は、おやじから貰った簡単な地図をポケットから取り出して確認する。
「これによると、ハワイの約二千キロ南ということだ」
「そんなアバウトなんですか?」
イーサンがあきれた顔をした。
俺は肩を少しすくめる。
「まあ、一万二千年前のことだから、座標系なんて整備されてなかったんじゃないか?」
エレナ博士がため息をつき、あきらめた様な表情をする。
「あいつは相変わらずアバウトね。まあ、しょうがない。後は現地で探そう」
まあ、おやじは繊細で緻密と言うよりは、豪快で結果オーライって感じだからな。
レリック・ハンターの仕事の時は、それをエレナ博士やイーサンが補っていたわけだ。
何か予想外のトラブルがあっても、最後にはうまくまとめていたらしい。
俺たちは火星から十分離れた所でワープして、すぐに地球の近くに出た。
イーサンはワープから出ると、かなりの高速で地球に近づいていく。
この船は異星人の推進システムに載せ替えてあるので、その気になれば通常航行でもあっという間に着くことが出来る。
でも、誰がどこで見ているかも知れないから、あまり目立たないようにしたほうがいい。
「あんまりスピードを上げすぎるなよ」
俺はイーサンに言った。
「これでも、ゆっくりな方ですよ」
イーサンはそう言いながらも、少しスピードを落としたようだ。
するとユウコが、
「スピードを上げたらダメなの?」
と、俺に聞いてきた。
「地球の技術では実現できないほどスピードを上げすぎると、またどこかの国の情報部がちょっかい出してくるかも知れないからな」
「そういえば、前に格納庫に侵入されたんだっけ?」
「そう。夜中にヘリオスを盗まれそうになったんだ」
「社長は、心配しすぎですよ。このあたりは航路から離れているし、監視はゆるい場所です」
と、イーサン。
「よく知ってるな」
「パイロットの常識です」
くっ。
まあ、イーサンはおやじと一緒にやっていた時代から、地球と火星の間の運送も何回かやってるからな。
どこかで情報を仕入れたのかも知れない。
そんなことを言っていると、後ろからエレナ博士が、
「もう、ハワイの二千キロ南の上空に到着したわよ」
と、言ってきた。
「もう着いたのか。で、どうやって探す?」
俺はそう言って、窓の外を見た。
遠くに小さい島がいくつか見えるだけで他には何もなく、辺りは真っ青な海が広がっている。
「海に潜って探した方が目立たないでいいかもね」
と、エレナ博士。
旧来のロケットエンジンでは海に入ると水がエンジンに入ってしまうが、この船は異星人の技術の推進装置に載せ替えてあるので、そのまま海に潜って活動できる。
「この辺りの水深は?」
俺が聞いた。
「この真下の水深は3140メートルよ」
でも水の中はかなりの水圧がかかるはずなので、今度は船の強度の心配をしなくてはいけない。
「この船は、どこまで水圧に耐えられるかな?」
「補強もしてあるし、三千メートルぐらいまでならなんとか大丈夫よ」
「じゃあ、とりあえず二千メートルぐらい潜って探すか。そのぐらいなら、どこかの潜水艦と交通事故になることも無いだろうし、船にも負担がかからないだろう」
すると、レーダーをチェックしていたユリーが、
「この下の海上には、船はいないわ。そのまま着水して大丈夫よ」
と、言ってきた。
ユリーは、もうすっかりレーダー係の仕事を的確にこなしているようだ。
「オーケー。じゃあ、そのまま海中に潜ろう」
と、俺。
「では降下します」
イーサンはそう言うとスターダストの高度を下げていき、静かに海中に入れた。
窓の外が青くなり、着水時に驚いて逃げていた魚やサメが、しばらくすると興味を示して寄ってくる。
「おさかなよ!?」
ユウコが窓から見える景色に、少しはしゃいでいる。
イーサンが気を利かして、海面付近をゆっくりと下降していくので、窓の外はまるで水族館のようだった。
しかし始めはブルーだった景色も、水深が深くなるにしたがい、だんだん漆黒の世界になる。
俺は船外ライトのスイッチを入れたが、それでも肉眼で見えるのは、百メートルぐらい先までか。
エレナ博士はサクバス人の船から移植したレーダーシステムの画像を先ほどから見ていたようだが、俺たちも見れるようにそれを前面の大型モニターに映し出した。
モニターには、海底の地形がグラフィック表示で鮮明に描き出されている。
それにどうやら、潜水艦なども近くにはいない様だ。
皆でその画像を食い入るように見つめ、ピラミッドらしき山が無いか探してみるが、それらしきものは見当たらなかった。
「無いな」
と、俺。
「いくらなんでも、そんなドンピシャなはずは無いわよね?」
ユリーが応えた。
「正確な場所がわからないから、この辺りを渦巻き状に離れて探す範囲を広げていくか?」
俺が皆の方を振り返ってそう言うと、エレナ博士がうなずく。
「そうね。それがいいわね」
「ねえ、ムーのピラミッドって四角推じゃないのよね?」
ユウコが俺に聞いてきた。
「そうだった。ムー人は自然の山に装置を埋め込んでピラミッドの機能を持たせているから、見分けが大変だぞ」
「でも、火星のオリンポス山も過去の日本で見た山もわりときれいな形だったから、なんとかなるんじゃない?」
と、ユリー。
「そうであってほしい。エレナ博士、なんかいい方法は無いかな?」
俺が聞いた。
「じゃあ、一メートル以上の大きさの金属を探査して、画面上に重ねてみるわ。あのゲートは金属が含まれていたと思うから」
あの輪の形のゲートが、原型のままピラミッドの近くに残っていれば、ピラミッドを見分けるのに助けになるはずだ。
エレナ博士がコンソールを操作すると、レーダーの画面に金属反応が追加表示された。
ところどころに、海底に沈んでいる小さな金属片が表示されているが、ゲートではなさそうだ。
しかし、いままでの地球の技術では海中では通常のレーダさえも使えないから、こうやって簡単に探査できるのもサクバス人の技術のおかげだ。
イーサンがスターダストを操船して、捜索開始地点から渦巻状に離れながら海底を移動させていく中、俺たちは皆でそのレーダー画像が映っているモニター画面を見つめた。
すると、ユウコが画面の端を指す。
「あっ、あれ。あのあたりに金属が何個か集中してるわ」
そこをエレナ博士がズームしてみる。
「あれは沈没船みたいね」
「それなら、お宝満載だったりして。ちょっと寄り道して見てみる?」
ユウコは沈没船に残された財宝を想像して、ちょっとワクワクしているようだ。
ユウコは俺たちと出会った頃までは義賊をしていて、財宝などには人一倍反応する。
でも、それを手に入れても自分の手元には残さずに、全て貧しい人に分け与えたり、不当に奪われた物は元の持ち主に返してしまっていた。
おそらくそれは正義感が半分、財宝を手に入れる過程を楽しむのが半分といったところかもしれない。
「金属が多いから、第二次世界大戦で沈んだ軍艦かもしれないわよ。骸骨が満載だったらどうする?」
エレナ博士がそう言うと、ユリーがすぐにピクリと反応する。
「パス! 先に行きましょ?」
ユリーは幽霊とか骸骨は嫌いだ。
しばらく進むと、前方に再び金属反応がある場所を見つけた。
エレナ博士がそこをズームしてみると、大きめの、わりと奇麗な円錐形の山のふもとに、直径二メートルぐらいの金属の輪がある。
その周りには、その山よりも小さい丘がいくつかあるようだ。
「見つけたみたいね」
と、ユリー。
俺はユリーにうなずいてから、イーサンに指示する。
「イーサン、ここで停止しよう」
「はい」
現在のスターダストの位置からその山までは、水平距離で五百メートルぐらいだ。
「じゃあ破壊しようか。例の原子破壊砲の呼び名は何て言うんだっけ?」
俺はエレナ博士に聞いた。
「あ、まだ名前を付けてないわ。エレナ砲にする?」
エレナ博士が、即席で自分の名前を付けてみた。
「えー? それはちょっとカッコよくない」
俺がそう言うと、エレナ博士が少しふてくされたようだ。
「ふん。じゃあ原子破壊砲のままでいいわよ」
俺は今度は、武器コンソールに座っているユウコの方を見る。
「じゃあ、ユウコ? そこのコンソールで、原子破壊砲を操作してくれるか?」
俺のフィアンセたちには、いつ一緒にこうやって出かけるかわからないので、ある程度の操船方法やその他の必要な事を予め覚えてもらっている。
特にユウコは武器関係が得意だから、重火器や原子破壊砲の使い方も教えてあった。
「えっと。たしかこれね?」
窓から外を見ていると、船の前部からでんでんむしの触角の様なものが左右に伸びて出てきた。
「おやじによると、破壊するのはあの山の上から三分の二まででいいらしい」
「了解。じゃあ、発射するわ」
ユウコがコンピュータにターゲットを指示し終わると、発射ボタンを押した。
すると音も無く、山の上からだんだん消滅していき、あっという間に山が無くなってしまった。
これで終わりか。ん?
ところが、窓から見える前方の真暗な海底の一部が、薄ら赤くなったようだ。
俺は椅子から身を乗り出して、窓の外を目を凝らして見る。
「あれは……溶岩か? もしかしてピラミッドは火山だったのか!?」
遠いからはっきりとはわからないが、あの色は溶岩の様だ。でもすぐに海水で冷やされて暗くなる。
「げ!」
エレナ博士が予想外だったらしく、下品な声を上げた。
エレナ博士は普段なら、こういう事態にならないように気を回して予めチェックをしてくれていることが多いが、今回は気を抜いていたみたいだ。
「もしかして、噴火するのか?」
俺は焦ってエレナ博士に聞いた。
「可能性は高いわ。すぐにここを離れたほうがいいわね」
「イーサン、後退だ!」
「はい」
イーサンがすぐに船をバックさせる。
地震も起きたようだ。船の外から低くこもったような音も伝わってきた。
すると船内に警報が鳴り、
「一時の方向から、ミサイルか魚雷と思われる物体が接近しています」
と、船のコンピュータが警告してきた。
え!?
海中ではシールドを張れないぞ。
俺は焦ってイーサンに、
「早く船を海上に出せ!」
と、怒鳴った。
「はい」
イーサンが、すぐに船を急速浮上させる。
暗かった窓の外がどんどん明るくなり、スターダストは海面を突き抜け、空中にそのまま飛び上がった。
空中に出ると、エレナ博士がすぐにシールドを張る。
それが魚雷ではなくミサイルなら、空中まで追ってくる可能性もあるからだ。
俺たちは海上から二百メートルまで上がると船を制止させ、そこで様子を見ることにした。
そこでしばらく待ってみたが、どうやら大丈夫のようだ。あのミサイルはもう追ってこない様だった。
俺は、誰かが相手を見ていなかったか確認する。
「どこからの攻撃か、誰か見ていたか?」
「攻撃はピラミッドの右横の丘のあたりからでした」
イーサンが答えた。
「潜水艦か何かいたの? 気が付かなかったわ」
と、ユリー。
エレナ博士が首をかしげる。
「今の各国の海軍に配備されている主流の潜水艦は機動性も重視していて、あまり重くならないように外壁の厚さを抑えているわ。だから普通は、二千メートルぐらいまで潜るのがやっとのはずなのにね」
「さっきの場所は水深三千メートルぐらいだったよな? どういうことだ?」
俺が聞いた。
「私には、ピラミッドの横の丘のあたりから撃たれたように見えましたが」
イーサンが言ってきた。
「え? どういうこと?」
ユリーが聞いたが、誰も答えられない。
その間にもエレナ博士が下の海の様子を前面モニターに映すと、海中から灰色のものが上がってきて、海が濁り始めている。
でも、潜水艦らしきものは浮上してこないようだ。
「ねえ、もう一度潜って、誰が撃って来たか調べてみない?」
ユウコが俺に言ってきた。
「そうだな。もし潜水艦がいたのなら、この火山爆発の巻き添えになっているかもしれない。撃ってきた理由はどうであれ、救助の努力はしよう」
「では、もう一度潜水します」
イーサンがそう言って、高度を下げ始める。
「わかってると思うけど、少し離れた所から潜水してくれよ」
海底火山の影響もあるし、また撃たれる可能性もあるからだ。
「了解です」
俺たちは先ほどの所より三キロ離れた場所から、海に潜った。
そして、海の中を先ほどの場所へ、様子をみながら少しずつ近づいて行く。
俺はモニターに映ったサクバス人のレーダーのグラフィック画面をよく見てみるが、どうもそれらしき船はいないようだし、海底に沈んでもいない。
「イーサン? 本当にあの右側の丘のあたりから撃って来たのか?」
「私の言う事が信じられないと?」
イーサンが半目で言ってきた。
「そういうわけじゃないけどさ」
「じゃあ、あの丘のあたりをスキャンしてみるわよ」
エレナ博士がそう言って端末を操作し、スキャン結果をモニターに表示した。
すると、ピラミッドのすぐ横にあった丘の下に、空洞があるようだ。
「あの空洞は何? こんなところに、どこかの国の秘密基地があるの?」
ユリーがちょっと焦って聞いてきた。
エレナ博士が腕を組む。
「三千メートルの海底よ。今の地球の技術ではできないことはないけど、莫大な金がかかるし、こんなところに作ってもあまりメリットは無さそうだわ」
「ということは異星人?」
「でも、さっき撃ってきた魚雷かミサイルみたいなものは、異星人にしてはちょっとね」
「じゃあ、俺がテレポートして様子を見てくるか」
俺はそう言って立ち上がった。
「待って。火山の溶岩があの空間の中に流れ込んできているわ。中は地獄よ」
と、エレナ博士。
「じゃあ原子破壊砲で、あの溶岩が流れ込む元を狙って消滅させれば、あとは海水で溶岩が固まって、これ以上あの空間に流れ込むのを防げるかもしれないな」
俺が言った。
「やってみるわ」
ユウコがそう言って武器コンソールを操作して、原子破壊砲を発射する。
火山とその空洞の間の溶岩の通り道に一瞬で穴が開き、海水が流れ込んで溶岩が冷やされて固まったようだ。
もうこれ以上空洞に溶岩が流れ込む心配は無くなった。
「うまくいったみたいだな。じゃあちょっと行ってくる」
俺がそう言うと、エレナ博士が、
「溶岩はなんとか止められたみたいだけど、中はもうどうなっているかわからないから、宇宙服を着ていった方がいいわ」
と言ってきた。
「わかった」
俺は宇宙服を着終わるとモニターを確認し、その空間の溶岩がまだ流れ込んでなさそうな場所にテレポートした。
そこに出てみると、意外にもその空間には明かりが点いている。
周りを見回すと、今俺がいるのは直径百メートルほどのドームの中で、中央には何かの大きな機械が設置してあり、しかもその機械はまだ動いているようだった。
そして、ここから見える範囲には人は見当たらない。
俺は宇宙服の腕についている簡易センサーで空気があるかどうかをチェックしてみると、このドームの中は火山性ガスが充満していた。
これではもし人間がここにいても、助からないだろう。
次に俺は念の為にシールドを張ってその大きなドームの中を歩き回り、手がかりを探してみることにする。
その中央の機械にも近づいてみるが、記号のようなものが書かれているだけで特に文字は無いようだ。
人間もいないし、遺体も見当たらない。
ここは廃墟なのか? 機械だけが動いていたのだろうか?
俺はそこに立ち止まって再び周りを見回してみると、少し先にこのドームの入口を見つけた。
しかも、その入口の横の壁に何か文字が描いてあるようだ。
ここからは斜めでよく見えないから、俺はそこに歩いて行ってみる。
すると、その文字の下の床に小さな紙のようなものが落ちているのを見つけた。
俺はシールドを切って近づき、それを拾い上げてみる。
それは写真で、映っていたのは人間の少女だった。
それも東洋人で、年齢は十四、五才ぐらいの可愛い子だ。服は質素で飾り気はない。
次にその写真の表裏をよく見てみるが、色はあせていないし汚れも無い。
まだ、プリントしてからそんなに時間が経っていない様に見えた。
もしかしたら、親が自分の子供の写真を持っていたのを、落としたのかも知れない。
ということは最近までここに人がいたのか? どこの国だろう?
そこで俺は、先程発見した壁に書かれている文字のことを思い出し、それを見上げてみる。
ん? これは……古代文字かもしれない。まったく同じではないが、似ている。
帰ってコンピュータに解析させるか。
俺はそれを写真に撮った。
次にその入口の先を覗いてみるが、通路の途中まで溶岩が流れてきていて、それ以上は進めそうになかった。
しょうがない。でも、いくらか手がかりはあったな。
俺はスターダストに一旦戻ることにした。




