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レリック・ハンター  作者: 中川あとむ
第二話 誘拐捜査
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2-3 アデル教授

 二日後、俺たちはアデル教授に会いに行くことになった。主な目的は白の癒しの光についての報告だ。


 いつものように俺が車を運転して、皆でアーム大学に向かう。

 この車はタイヤ式で、年式も古い五人乗りの乗用車だ。一応この車にも自動運転装置は付いているのだが、疲れているとき以外は自分で運転するようにしている。

 宇宙船もそうだが、やはり自分の思い通りに運転するのは楽しい。


 火星王立アーム大学は、アーム・シティの中心から少し南に行ったところにある。俺たちの拠点である第二空港はシティの西のはずれにあるので、まずは中心方向に向かい、途中で環状線に入った。


 俺は運転しながら、後ろの席に座っているエレナ博士をミラーでチラッと見て話しかける。

「アデル教授は、なんだか苦手だよ」


「ショウにも苦手な人がいたのね?」


 すると、助手席にいるイーサンが真面目な顔で、

「私は、アデル教授には見習うべき点が多々あるように思えます」

と、言ってきた。


「たとえば?」

俺が聞いた。


「目的を達成するためには、手段を選ばないところです」

「だからそれが苦手なんだ。それは見習わないでくれよ」


 被害者はいつも俺だ。



 さらに三十分ほど走ると、アーム大学の正門に着く。すると、いつものアンドロイドの警備員が門を開けてくれた。最近何回も来ているので、顔パスになっているのだ。

 ちなみに顔パスというのは、もちろん警備アンドロイドに搭載されている顔認証機能によるものだ。

 俺はその警備員に軽く手を上げて挨拶すると、そのまま車を校内に入れて、アデル教授の研究室がある研究棟へと車を走らせた。


 この大学は、火星では一番大きな総合大学で、敷地は一辺が三キロぐらいはあるらしい。敷地が広いので、学生は校内の循環バスを利用しているそうだ。

 そして校内ではスピード制限が低く設定されているので、俺は周りの景色を見ながら、ゆっくりと走らせた。

 中央の広い道の両脇には木が植えられていて、その奥に校舎や研究施設が建っている。


「大学はどこも同じような雰囲気があるな」

俺がそう言うと、イーサンが、

「まるで、大学に通っていたような言い方ですね?」

と、からかってきた。


「いいだろ? ……あれ? そういえば、エレナ博士もここの出身?」

俺はふと気になって聞いてみた。


「あまり詮索しないで」


 おや? どうしたのかな?


 するとイーサンが、後ろを気にしながら、

「昔、爆発事故を起こして、肩身が狭いそうです」

と、小さい声で言ってきた。


「イーサン! 言っちゃダメって言ったでしょ!」


 なるほどー、そういうことか。

 そういえばアデル教授が、院生が爆発事故を起こしたとか言っていたが、犯人はエレナ博士だったわけだ。


 俺は、エレナ博士をからかうネタができたのでニヤッとする。



 俺たちは研究棟の横に車を停めて、アデルの教授の研究室に歩いて行く。

 研究室に着くと、ドアをノックした。


「はーい、どーぞー。待ってたわー」

アデル教授が出迎えた。


 おっ。今日は、なんか機嫌がいいな。


 部屋に入ると、入り口近くのソファを勧められて、四人で座る。


 俺の正面にはアデル教授が座った。

「で何? 新しい機能って」


「報告は二つあるんだけど、一つはすでに発見されている黄の宝珠の機能だよ」

「催眠暗示ね?」

「そう。この宝珠には黄色も入っているから試しに使ってみたんだ。それで、事件で犯人を自白させることが出来た」

「まあ、それは予想はしていたわ。で、もう一つは?」


 俺は一昨日の状況を説明する。

「実は銃撃戦になってね。エレナ博士が撃たれたんだけど、宝珠から白い光が出て、それを当てたら傷が治ったんだ」 


 受けた依頼の内容に関しては、守秘義務があるので話せるところだけを話した。


「……でね、私はここを撃たれたのよ。まったくこんな美人を撃つなんて」

エレナ博士は胸元を少し開けて、アデル教授に撃たれた辺りを見せる。


「軍人の中には同性愛者もいるようですから、無理もありません」

イーサンが、また適当なことを言った。


「失礼しちゃうわ」

と、エレナ博士。


 するとアデル教授が、何かに気が付いたようだ。

「あれ? でも他の肌より艶がいいんじゃない?」


「ほんと?」

エレナ博士が自分の撃たれたところを、しげしげと見ている。


「エステを始めようなんて言わないでくれよ」

と、俺は釘を刺した。


 今度はエレナ博士が、俺の方を驚いた目で見てくる。

「一昨日もそうだけど、私の考えを読めるようになったの?」


「これだけ一緒にいれば、エレナ博士の考えていることぐらい予想がつくさ」



「ふーん? 癒しの力ね……」

アデル教授は、そう言ってソファから立ち上がり、奥の自分の机に向かう。


 すると、机の引き出しから何かを取り出してきて、再びソファに座るかと思いきや、いきなり俺の右手をナイフで切りつけてきた。


「何するんだ!」

俺はとっさに手を引っ込めて、体も後ろに引くが、あまりにも不意を突かれて逃げ遅れた。

 右手から少し血が流れている。


「治せるんでしょ? 見てみたいのよ」

と、アデル教授。


 目がすわっているぞ。


「あのなー!」

「男の子がなによ、そのぐらいの傷で! 実験動物を用意する予算なんて無いんだから」


 俺は実験動物か?


「まったく。……とりあえず、ナイフをしまってくれよ」


 アデル教授がナイフを脇に置くと、俺はため息をついて、右手の傷を皆からよく見えるように応接テーブルの中央に突き出す。そして、左腕に付いている虹の宝珠を近づけて、自分の右手に癒しの光を当てた。


 みるみる傷が治っていく。

 その様子を、アデル教授とエレナ博士が、顔を近づけてじっと見ている。


「体の本来の修復機能を高めて、細胞分裂を促進しているみたいね。……この様子だと、もしかしたら免疫機能も高めているかもしれないわ」

と、エレナ博士が推測して言った。


「つまり?」

アデル教授は、あまり医学の知識は無いようだ。


「もしそうだとすると、ケガだけではなく、たいていの病気は治せるかもしれないっていうことよ。さらに、肝臓の解毒機能を高めることができるなら、毒に対しても効くかもしれない」


 アデル教授が何か考えている。


「頼むから、毒を盛るのはやめてくれよ」

俺はアデル教授に言った。


「ばれたか」

「あのなー」


 俺の手と宝珠を見ていたアデル教授が、顔を離してソファに座りなおした。

「えっとこれは、未発見の『白の宝珠』の機能ということよね? ……どこかの遺跡に、癒しについての記述がないか探してみるわ。何か新発見があったら、また協力してね。無料で!」


「えー? こっちもー?」

一昨日、リスル少佐からも「無償で」と言われたので、エレナ博士はちょっとしょげている。


 まあ経費ぐらいは出してくれると思うが、依頼料の方はあまり期待できなさそうだ。

 王様ー、どうかアデル教授の研究費を増やしてやってくれー。


「じゃあ、こちらからも、いいことを教えてあげる」

と、アデル教授が俺に。


「本当にいいことなのか?」


 先程いきなり手を切られたばかりだから、素直には信じられない。


「疑り深いわね。女の子にモテないわよ」

「よけいなお世話だ」

「じゃあ、教えてあげるのやめようかなー。仕事で役立ちそうなんだけどね」


らすなって」

「いいわ。じゃあ、また一つ貸しね?」

「くっ」


「実は、昨日学会誌で発表された銀の宝珠の最新の研究報告なんだけど、『オート・シールド』機能があるらしいわ」

「それって?」

「予めセットしておけば、不意打ちをされたときに、自動的にシールドが張られて攻撃を防いでくれるらしいのよ」

「そうなのか!?」


 初めにそれを教えてくれていれば、さっきも怪我はしなかっただろうに。

 まあ、そうなると白の宝珠の実験はできなかったわけだが。


「私の手元には銀の宝珠がないから、今試してよ」

「また、俺が実験動物の代わりなのか?」

「いいじゃない。今度は傷つかないはずだから」

「まあ」

 

「じゃあ、発動してみて」

「オート・シールドって言えばいいのか?」

「他の機能と同じ様に、心の中で言っても大丈夫」

「じゃあ、『オート・シールド』……何も変わらないぞ」


 いつもの、銀の宝珠でシールドを張ったような感覚はなかった。


「だから。いざという時に自動的にシールドを張ってくれる、って言ったでしょ?」

「ああそうか」


 すると、アデル教授が先程机の上に置いたナイフを取って、俺を突き刺そうとする。


「わっ! いきないり!」

「どうやら、ちゃんと発動したみたいね」


 アデル教授が持っているナイフの刃が、俺の体から五ミリぐらいのところで止まっていた。


「すごいな。でも、もし発動しなかったらどうするつもりだったんだよ」

「その時は、自分の白の宝珠の機能で癒やせばいいじゃない」

「まったく」 


「それで実験では、レイガンのエネルギー弾でも大丈夫だったらしいわ」

「そうなのか?」

「それで、だいたい三時間経つと切れるらしいから、必要なら掛け直せばいいみたい。もちろん自動シールドが有効なのは、銀の宝珠を持っている本人だけだからね」

「なるほど。でも、これは役に立ちそうだ」


「じゃあ、今日の報告は終わり?」

「また何か発見があったら連絡するよ」

「よろしくね」


 そこに、研究室の電話が鳴った。


「あっ、他に用がなければ、俺たちはこれで……」

ちょうど切もいいので、俺たちは上着を着て帰り支度を始めた。


 その間に、アデル教授が電話に出ている。

「はい、もしもし。……はい、そうです……。なるほど……それなら、ちょうどここに持っている人間がいます。……レリック・ハンターのショウさんです。……はい、では」


 ん? 俺の名前が出たか?


 帰ろうとしていた俺たちは、アデル教授に呼び止められた。

「リスル少佐が、あなたたちも一緒に来てほしいって」


「え?」


 なんだろう。

 今回、銀の宝珠の機能として「オート・シールド」を追加しました。(23/10/26)

 以後の話も、「オート・シールド」を前提とした内容に順次書き直していきます。 

 しかし、時々主人公が「オート・シールド」を掛け忘れて、傷を負ってしまうこともあるかもしれません。 

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