表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レリック・ハンター  作者: 中川あとむ
第十七話 過去からの依頼
68/156

17-4 怪物退治

 天の鳥船でしばらく西に飛ぶと、おやじの描いてくれた地図とだいたい同じような形の湖が見えてきた。

 湖の周りは湿地帯が多く、その湖に流れ込む川と、流れ出る川を合わせると十数本はありそうだ。


「着きました」

操縦していた兵士が俺たちにそう言って、船の高度をだんだん下げていく。


 そして湖の近くの乾いた草原に揺れも無くスムーズに船を着陸させると、その兵士がコントロールパネルの前を離れて俺たちの前に来た。

「殿下は、昼間はこの先の川のあたりで、工事の監督をしているようです」


「工事?」

俺は、何の工事かと思って聞いてみた。


「はい。川の治水工事のようです。ですからもし飛んで行かれるのでしたら、そこは避けていかれる方がいいと思われます」

「わかった。あと、この船には宿泊設備はある?」

「あります」


 ユリーたち三人の顔立ちは明らかに西洋人だし、服もこの時代の服と違うので目立ちすぎる。

 特にシェリーはピンク色のフリルの付いたメイド服で、また天女かと思われかねない。


 あまり目立つと噂になって、すぐにあの殿下にも知られてしまうだろう。

 そうすると、陰から助けるという今回の依頼は失敗だ。


 俺はユリーとカトリーヌ、シェリーの方を向く。

「とりあえず俺一人で村に行ってみるから、三人はここで待っていてくれる?」


「えー?」

と、ユリーが不満そうに。


「この四人で行ったら目立ちすぎるし、場合によっては村の近くで野宿することになるかもしれない。怪物相手だし、安全なここで待っていてくれ」


「……そうだったわね。怪物がいるんだった」

ユリーは俺について行きたい気持ちと、怪物への恐ろしさが半々のようだ。


「わかったわ。でも、何かあったら手伝うから」

と、カトリーヌ。


「じゃあ行ってくる」

俺はそう言って、一人で船を降りた。


 皆が船の扉のところで見送ってくれる。


「行ってらっしゃいませ。旦那様ー」

シェリーが、明るく手を振って見送ってくれた。


 俺は船を降りると、すぐに宝珠の力で飛び上がる。

 そして、一応あの女王の弟、つまり殿下がいそうな川の近くは避けて、おやじに描いてもらった地図の村の方に向かった。


 確か湖から五キロぐらいと言ってたから、そんなにかからないはずだ。


 しばらく行くと、湿地帯から少し離れた山のふもとのあたりに村が見えてきた。

 その村の山側には畑、湿地帯に近い方には田んぼが広がっている。思っていたより大きな集落で、数百人ぐらいは暮らしていそうだ。


 まずは情報を集めるか。

 殿下が泊まっている家や、怪物のことなど聞き出せればいいな。

 やはり、村長に会うのが一番早いか。村長が協力してくれれば、それに越したことはないし。


 俺は村人に飛んでいるところを見つからない様に、一旦村から少し離れた場所に降りてから歩いて村に入る。

 村に入ると、今は女性や子供、老人しかみあたらない。おそらく、働き盛りの男性は農作業にでも出ているのだろう。


 村人の服は、先ほどのシェリーやお爺さんが着ていた服と形が似ているが、もう少し生地が柔らかく、織り方が洗練されているようだった。


 まずはこの村で間違いないかを確かめておくか。


「すいません」

俺は、近くの井戸の前で野菜を洗っていた女性に声をかけた。


 その女性が手を止めて振り返る。

「はい、なんでしょう?」


 その女性は俺の姿を見て、少し驚いたようにも見えた。


 俺の服はこのあたりの一般的な服装と違うから驚いたのだろうが、それでも俺は日系人だから少しの驚きで済んだのだと思う。


「私は旅のものです。実はこの村に、ひげづらの旅の男が来ていると聞いたんですが」


 そうだった。彼の名前を聞いておけばよかった。


「あー、はい。あの人の事かしら。今、川の方に男たちと工事に行ってるはずです」


 やはりこの村で合っているようだ。


「そうですか。ではこの村の村長にお会いしたいんですが」


「それなら、この道をまっすぐ行くと、右に大きな屋敷がありますから」

女性は指を指して教えてくれた。


「ありがとう」



 俺は村の様子を見ながら、村の中の道を歩いて行く。


 この村の住居は、木を加工して組んで作られている様だ。

 他の原住民の村が竪穴式住居なのに比べれば、ずいぶん進んでいることになる。

 それでも、飛騨にあった火星から引っ越してきたばかりのムー人の町と比べたら、技術に何百年以上もの開きがある。

 確か操縦していた兵士が、ここの人々はムーから五百年前に移住した人々の子孫だと言っていたから、やはり知識や技術が失われたようだ。


 あまり古い家が無さそうだから、もしかしたらムーやアトランティスが沈んだ時の大洪水で元の村が壊滅して、ここに引っ越してきたのかもしれないな。



 俺はそのまましばらく道なりに歩いて行くと、村の奥にある少し大きな家の前に着いた。

 おそらくここが村長の家に違いない。


 俺は玄関口から声を掛ける。

「すいませーん」


「はーい」

少し品がある若い女性が出てきた。


「実は旅の者ですが、村長とお会いしたいのですが」


「少しお持ちください」

そう言うと、その女性は奥に入って行った。


 しばらくすると老人が、先ほどの女性を伴って出てくる。

「何用ですかな?」


「実は、この村に来ている、ひげを生やした旅の男のことについて、少々お話したいことがありまして」


「あー彼の? ……まあ、ここではなんですから奥へどうぞ」

村長はそう言って手で奥を指して、俺を招き入れてくれた。


 俺はそのまま入ろうとすると先ほどの女性が、

「申し訳ありませんが、ここで履物はおぬぎください」

と、言ってきた。


 そうか、日本の昔の家は靴を脱ぐんだったか。こんな古代でもそうなんだな?


「あ、そうなんですね?」

俺はそう言って、すぐに靴を脱ぎ始める。


「私の生まれる前。大洪水の前はこの村はもっと海に近いところにあって、そこでは家も石で出来ていたそうです。その時は履物をはいたまま生活していたと聞いていますが、雨が多く高温多湿なこの土地では、この方が快適なのです」


「なるほど」

ということは、履物を脱いで生活する習慣はこのころに生まれたのか。


 俺は家に上がると、待っていた村長に案内されて広めの板の間の部屋に通された。

 村長の家だから、村人たちが集まって話し合いなどをする場所かも知れない。


 部屋には草を編んだような敷物が置いてあって、そこを勧められた。

 おそらく座布団の様なものだろう。


 俺は村長の向かいにあぐらをかいて座ると、先ほどの女性は俺の斜め後ろの方に座ったようだ。


「私は、村長のアシナと言います」

村長が自己紹介をしてきたので、俺は先ほどシェリーが考えた名前を言うことにする。

「これは申し遅れました。私はスクナと言います」


「この者は、私の娘です」

そう言って村長が、俺の斜め後ろに座った先程の女性を紹介した。


 俺は彼女の方に軽く首を回して会釈をする。

「そうでしたか」


「あなたは、ずいぶん遠くから来られたようですね?」

と、村長が聞いてきた。


 俺の服が変わっているからだろう。


「ええ。東の方からやってきました」

ムー人が引越してきた町があるのは東だし、この時代の地名はわからないから、そう言っておいた。


「東の方では、神々が降臨されたという噂を聞きましたが、本当ですか?」

「神々……ですか?」


 ムー人のことかな?


「時々交易を求めてやってくる人々がおりまして、その者たちが噂していました」

「私は、それれについてはよく知りません」


「そうですか。それで、どのようなお話を?」

「実は、あの旅の男の身内から頼まれて様子を見にきたのです」

「様子を?」

「何か、この地域に怪物が出たとか?」

「ああ実は、先日また大蛇が出ましてな」

「蛇ですか?」


「蛇と言っても、太さはこれぐらい。長さは長くて端までよく見えないぐらいありましてな」

村長は手で大蛇の太さを示したが、それは八十センチぐらいはあった。


「それは、大きいですね」

「それで今回は、村の娘が川の近くに行ったところを襲われました」

「そうでしたか、それはお気の毒に。でも、今のお話の感じでは何回も襲われているんですか?」


「もう何世代も、あの大蛇には襲われています。先祖の代から警告の口伝えが残っています。あれは、山に餌の動物が豊富な時は降りてこないのですが、少なくなると人里に降りてくるのです」

村長は悩ましそうだった。


「そうだったんですか」

「先ほど娘が言ったとおり、昔はこの村はもっと海の方にありましたので、まだ襲われる回数は少なかったのですが、ここに引っ越してからというものは、毎年のようにあの大蛇はやってきます。それで、あなたが様子を見に来た彼も、剣を持って退治に行ってくれたのですが、何しろ相手は強くて素早いため、歯が立たなかったようです」

「なるほど、それは厄介そうですね。実は私は彼の姉から、陰ながら彼を助けてあげて欲しいと言われたのです」


「さようですか」

村長はそう言って、俺の事をあまり強そうではないな、という目で見ていたので、デモンストレーションをすることにした。


「こう見えても、一応色々な事が出来るのですよ」

俺は試しに、そこから見える庭の石を宝珠の力で持ち上げてみた。


 村長はそれを見て驚き、ひれ伏した。

「もしや、あなたは神々のお一人でしたか?」


「いえ、違います。頭を上げてください。でもこれで、力になれることはわかったでしょう?」

「はい、確かに」


 村長は頭を上げたが、先ほどよりも、神妙な顔になっていた。


 ちょっとやりすぎたか。


「実は彼の家庭の事情で、彼の姉が助け舟を出したことを知られたくない様なんです」

「はあ、そうなのですか」

「私は彼とは昔一回会っただけですので、彼も私の事は覚えていないでしょう。それで、私が頼まれたわけです」


「実は彼はうちに滞在しておりまして、この娘と婚約しております」

村長は娘の方を見て言った。


「なんと。そうでしたか」

俺が斜め後ろに座っている彼女を見ると、彼女は少し顔を赤らめている。


 改めてその女性を見てみると、殿下よりは十歳以上若そうだ。

 年の差婚っていうやつか。


「大蛇退治を手伝って頂けるなら、この家にお泊りなってください。他には空いている家はありませんし」

「それは助かりますが、彼がここに滞在しているなら、顔をあわせた時になんと言ったらいいか」


 すると村長の娘が、

「それでしたら、私の弟が旅から戻ってきたということにされてはどうですか?」

と、言ってきた。


「なるほど。それでしたら、なんとかなりそうですね。それでは、ご厄介になります」


 どうやら、野宿しないで済みそうだ。


「ではまず、その服は目立つので、お取り換えになった方がよろしいようですね。今、何か服を持ってまいりましょう」

と、彼女。


「それはありがたい。この格好では目立ちすぎるので、どうしようかと思っていました」


 彼女は部屋を出て行き、しばらくすると丁寧にたたまれた服を持って戻ってきた。

「ではこれにお着替えください」


 それは村長たちが着ているような、上下につながった服だ。

 俺は部屋を借りて、その服に着替えてくる。


 そして殿下が工事から帰ってくるまでに、色々と教えてもらうことにした。

 まずはこの村のことを教えてもらい、次に話は殿下の話になった。


「それで彼は、具体的にはどういう工事をしているんですか?」

俺が聞いた。


「この村の近くには八本の川がありますが、それがたびたび氾濫して田んぼがやられるというのを聞いて、その八本の川を大きな一本の川にするための土手の工事を村人と一緒にやっています」

と、村長。


「なるほど」

「そうすることによって、湿地帯もすべて田んぼにできます。そうすれば、この村ももっと豊かになります」


 どうやら殿下は、本当に心を入れ替えたようだ。



 夕方になり殿下が帰って来たので、村長の娘から弟として紹介される。


「兄上になられるのですね? よろしくお願いします」

俺は殿下に挨拶した。


「こちらこそよろしく頼む。ところでおぬし、どこかで会わなかったか?」

殿下は、俺の顔を覗き込んできた。


「いえ」

「そうか」


 紹介が済むと、皆で夕飯になる。


「それで、おぬしはどこを旅をしてきたんだ?」

殿下が俺に聞いてきた。

  

 うーん。あまり話すとバレてしまうな。

 そういえばさっき、村長がときどき交易人がこの村にも来ると言っていたっけ。


「交易人といっしょに、色々な所を見てきました……」

俺は余計なことを聞かれる前に、すぐに話題を大蛇に持っていくことにした。

「……ところで、また大蛇が出たそうですね」


「そうなんだ。あいつは大きい割に、すばしっこくてな。動きを止められれば何とかなるんだがな」

「動きですか?」

「例えば酒を飲ませて酔わせるとか」

「酒?」

「米から造る酒だ。この村の伝承によるとな。あいつは酒が好きで、酒の匂いで寄って来るらしい。それで、それ以来この村では酒を造るのをやめてしまったそうだ。ああ、おぬしのほうが詳しかったな?」


 まずい、まずい。バレないようにしないとな。


「ああ……でも、物心つく前の事だと思うので、あまり詳しくは……」

「そうだな」


 でも酒と言えば、俺はシェリーの作った酒の事を思い出した。

「でも、酒なら私に心当たりがあります」


「おお、そうなのか?」


 俺は、心当たりがあると言ったものの、どう言おうか少し考える。

「……一緒に旅をしていた交易人が樽で持ってました」


 この時代は宿屋なんてないだろうから、普通は野宿のはずだ。

 隣の村に向かう途中のどこかで、野宿する予定だと聞いたことにしておこう。


 俺が続ける。

「まだこの村からそれほど離れていないところで今晩は野宿しているはずなので、明日の日が昇る前に探してきます」


「そうか。それはありがたい。こないだ一人犠牲になったが、大蛇はそろそろまた腹を空かせてやって来るに違いない」


 

 俺は次の日の朝早く起きると、テレポートで船の所に戻った。

 

 俺は昨日借りた現地の人の服のまま戻ったので、それを見たユリーとカトリーヌがクスクス笑っている。


「旦那様、その恰好よくお似合いです」

と、シェリーが言ってきたが、少し目が笑っているようだ。


 自分も昨日まで、もっと原始的なものを着ていたくせに。


「しょうがないだろ?」



 俺はそのあと、昨日聞いた話を操縦士を含めて皆にした。


「また蛇なの?」

ユリーが怖がっている。


「そう、だからここにいた方がいい。それで、殿下が言うにはその蛇に酒を飲ますことができれば、動きが鈍くなって、討伐しやすいと言っていたんだ。それにどうやら、酒の匂いで寄ってくるらしい」


「酒?」

「米から造る酒だと言っていたから、たぶん日本酒のことだと思う」


 それを聞いて、皆がシェリーに注目した。


 俺は酒の事はあまり詳しくないので、念のためにシェリーに聞いてみる。

「シェリーの造ったのは、日本酒だよな?」


「私が作ったから、シェリー酒です」

とシェリーが、しれっと言った。


「え?」

たしかシェリー酒というのは、ワインの一種だったような。


 じゃあ、だめかな?


「大丈夫よ。米を麹菌と酵母菌でつくって醸造したんだから、日本酒よ」

カトリーヌが教えてくれた。


 そうか、さっきのはシェリーの冗談か? まったく。


「じゃあ、シェリーの酒を一樽もらって行くぞ」

俺はそう言って立ち上がり、酒樽の方へ行こうとした。


 するとシェリーが、

「えー!? 旦那様ー、それだけはー」

そう言って、俺の腰にすがりついてきた。


 ああ、そうか。シェリーは酒を持っていかれると、エレナ博士に怒られると思っているのか。

 それで、「シェリー酒」なんて言ってごまかしたのか。


「なんか俺が悪者みたいじゃないか。大丈夫だ。エレナ博士には俺から言ってやるから」

「そうですかー?」


 まだ少し不安そうだ。

 いったい、エレナ博士に何をされるというんだろう。


「じゃあ、酒を持って村に戻るから」


「私たちも何かできない?」

カトリーヌが聞いてきた。


「うーん……。あっ、そうだ、上空から大蛇の動きを見ていてくれるかな。殿下の勘によると、そろそろ腹を空かせてやって来るころらしいから、おそらくこの後大蛇退治になるはずだ。腹がすいてなくても、酒の匂いで来るだろう。それでこの船は、太陽を背にして空にいれば殿下にはバレないと思う」

俺はそう言って操縦士を見ると、

「わかりました」

と、彼は言ってきた。


「俺は村人と一緒にいると思うから、携帯端末の無線はバイブレーションモードにしておくよ。場合によってはすぐに無線には出れないかもしれない」


「わかったわ。じゃあ、いってらっしゃい」

と、カトリーヌ。


 ユリーとシェリーも俺のことを心配そうに見ていた。


 あ、シェリーは酒が気がかりなのか?



 俺は酒樽一つとともに、村の入口にテレポートして戻った。

 普通の人間ならこの樽は一人では持てない重さだし、それで村長の家に直接テレポートしたら、交易人が一緒にいないのにどうやって持ってきたかと、殿下が疑うかも知れないからだ。


 俺は村の入口で、殿下や村人が工事に出かけるのを、そのまま待つことにした。


 しばらく待っていると、殿下が村の衆を従えてやって来る。

「おう、スクナ。もしかしてそれは酒か?」


「交易人に頼んで酒を譲ってもらいましたよ」

と、俺。


「そいつはすげえ」

殿下は飲みたそうに酒樽を見ている。


 殿下の顔はすべて自分で飲んでしまいそうに見えたので、俺は、

「おっと、これは大蛇退治に使うんですよ」

と言った。


「少しぐらい、いいではないか」

「だめだめ」


「うーむ。しょうがない。おーいみんな、これは大蛇をおびき寄せて酔わせるための酒だ。皆で担いで、川のそばの谷へ持って行ってくれ」

殿下は村人に指示した。


「へーい」


 村人が樽を縄でしばり、そこに工事で石を運ぶときに使う長めの棒を二本通して、八人でその樽を担ぎ上げる。


 そこへ、村長の娘も見送りにやってきた。


 すると殿下が村長の娘に、

「今日、あの大蛇を倒してやる」

と、言った。


「そうですか、ではくれぐれもお気を付けて。あっ、これを……」

そう言うと娘は自分の髪に刺していたくしを殿下に渡した。

「これを私だと思ってください。ご無事をお祈りしております」


「そうか、これで勇気百倍だ。がっはっは。では行ってくる」

殿下はそう言って出発した。


 俺も村人たちと一緒に歩いて付いて行くことにする。


 しばらく行くと、幅がニ十メートルぐらいの谷になっている場所にやってきた。

 殿下は、その谷底の中央に酒樽を置かせる。


 次に殿下は、村人を川の工事に行く人と、そこで大蛇討伐を手伝う人の二手に分けた。

 全員だと人数が多すぎて、大蛇が来ても隠れる場所も無いからだろう。


 谷に残った村人たちは、殿下の指示で大きい岩を運んできて、谷の上に積み上げている。

 ニ時間もすると、その準備も終わった。


 でも準備は出来たが、果たしてそんなにうまく大蛇は来るのだろうか。

 俺がそう思っていると、遠くで雷が鳴ったような気がした。


 まさか雨になるのか?

 雨の中では殿下がうまく戦えるかわからないし、そもそも酒の匂いもかき消されて、大蛇がここまで来ないかも知れない。


 しかし空を見上げてみると、この辺りには黒い雲はなさそうだ。


 そこに、服の下に隠した携帯端末が振動する。ユリーたちからの連絡だ。


 俺は谷から離れた所に歩いていき、人のいない場所を探して無線に出る。

「どうした? 動きがあったか?」


 連絡してきたのはカトリーヌだった。

「大蛇が寝ていたので、船から雷を落としてそちらに追い立てたわ。大蛇は今そちらに向かっていて、あと三キロぐらいかしら。あのスピードだと三十分ぐらいでそこに着きそうよ」


「そうか。わかった、ありがとう」


 さっきの雷はカトリーヌたちか。雷を落とす兵器があるんだな?

 その雷で大蛇をやっつけることもできそうだが、それだとあの殿下の為にならないだろうな。


 村人たちのいる谷の方を遠目に見ると、準備が終わり皆が休憩しているのが見えた。


 こちらに大蛇が向かっていることを知らせないとな。


 谷の方に歩いていると、再びカトリーヌから無線が入る。

「今、大蛇が途中で止まって村の方を見てるわ」


「え?」


 風向きかなにかのせいで、村の方から餌である人間の匂いがするのかもしれない。


「このままじゃ村が危ないわ。私をテレポートで大蛇の近くに降ろしてくれる? 谷の方に誘導するわ」

「それは、危険じゃないか?」

「大丈夫よ。いざとなったら、私もシールドを張れるから」

「そうか、そうだったな。それなら」


 俺は少し離れた上空にある天の鳥船を探してテレポートした。


 カトリーヌが、現れた俺を見るなり、

「じゃあ私を連れて行って」

と、言って俺の横に来る。


 ユリーは申し訳無さそうにしている。

「ごめんね、一人で行かせて。私は蛇がちょっと……」

と、カトリーヌに。


「大丈夫よ。じゃあショウ、行きましょ?」

「ああ」


 シェリーはどうしているかと思って見てみると、後ろの方でコソコソしていて、できれば行きたくないって感じだ。

 まあ、シェリーが行ったところで、人間臭い匂いはしないから、オトリにはならないだろう。


 俺は窓から下の大蛇を確認すると、カトリーヌを連れて大蛇から遠すぎず近すぎない谷側の場所に降りた。


 大蛇を初めて近くで見たが、やはり大きい。長さは、五十メートル以上ありそうだ。

 でも、太さは村長が言っていたのよりも、もう少し細くて五、六十センチぐらいか。

 それでも人間なんて、一飲みで食われてしまうだろう。


 カトリーヌが、すぐに大蛇の注意を引きつけ始める。

「こっちよー」


「こっちだー」

俺も一緒に大蛇の気を引いた。


 すると大蛇は村の方を見るのをやめて、俺とカトリーヌの方に動き出した。

 カトリーヌは、殿下たちが待ち伏せている谷の方へ大蛇を誘って行く。


「じゃあ、谷にいる皆に知らせてくる。すぐもどるから」

俺はカトリーヌにそう言って、テレポートでそこを離れた。


 俺は谷の近くにテレポートで出て、そこから少しだけ走って行くことにする。

 それらしく見せるためだ。


 そして谷の入口で見張りをしていた村人に、殿下や皆への伝言を頼むことにした。

 俺が直接知らせたら、出来すぎになってしまい、殿下に俺の素性がバレる可能性があるからだ。

 

 俺は、さも遠くから走ってきたように息を切らせながら、

「ハァ、ハァ。もうすぐ大蛇が来る! 皆に知らせてくれ!」

俺はそう伝言を頼み、走ってきて疲れきった芝居をして、その場に座り込んだ。


「はい」

その村人はすぐに、殿下のいる方に駆けて行く。


 俺は周りに人がいないのを確認すると、すぐにカトリーヌの近くにテレポートで戻った。

 カトリーヌが小走りで、大蛇をどんどん谷の方へ誘導しているところだ。


 すると、大蛇が一瞬止まって、カトリーヌから谷の方に目を向けた。

 どうやら酒の匂いか、あるいは待ち伏せている多くの村人の匂いにでも気が付いたようだ。


「もう大丈夫だろう」

「そうね」


 俺はカトリーヌの肩を抱いてテレポートし、天の鳥船にカトリーヌを連れて帰った。


 そして俺はすぐに谷の近くにテレポートで戻り、谷の上で自分たちが積み上げた岩の後ろに隠れている村人らに合流する。

 

 さて。あの殿下はどうしてるかな。ちゃんと酒を飲まずに準備しているかな。

 

 俺はそう思って岩の間から覗いて谷底を見てみると、殿下はさやに入った剣を左手に持ち、一人で樽の横に立っていた。


 あんな剣だけで一人で立ち向かおうとするなんて、やはり本当はすごいやつなんだな。


 でも、殿下は酒の誘惑に耐えきれなかったのか、樽の中の酒を少し飲み始める。


「あいつめー」

俺は頭を横に振った。


「景気づけだ!」

殿下は俺の声が聞こえたかのように、そう言った。


 そこに、何かがこすれるような音がしてきて、それがだんだん大きくなってくる。

 おそらく、大蛇が谷の手前の草地をかき分けてくる音だろう。


 村人たちは顔を見合わせ、殿下もそれを聞いて剣を抜いた。


「おーい。岩を落とすのは、大蛇が酔っぱらってからだぞー。俺が合図するからなー。それまでは見つからないように隠れていろー」

殿下は谷の上にいる村人たちに大声でそう言うと、自分は酒樽から少し離れた岩の陰に隠れる。


 やがて、俺と村人がいる谷の上からは、大蛇がやってくるのが見えた。

 俺たちは、見つからない様に背を低くして息をひそめる。


 すると大蛇は何かに気がついたのか、谷の入口で止まり、あたりを見回した。

 村人たちの間に緊張が走り、俺と村人たちは、見つからないようにさらに身を低くする。


 あの大蛇にどれぐらいの知能があるのだろう。

 もしかしたら、待ち伏せに気が付き、逆襲されるかもしれない。


 ところが、そこに運良く酒の置いてある谷の方から、大蛇の方に向かってそよ風が吹いた。

 大蛇は舌を出し、酒の匂いに引かれ、再び谷の中へと進みはじめる。


「よかった。うまくいきそうだ」


 俺がそう言うと、隣にいた村人も安堵したようだ。


 大蛇は酒樽の前までやってくると、まずは匂いで確かめ、そして口を酒樽のなかに突っ込み酒を飲み始める。

 酒がどんどん減っていった。


 もしかして、足りないか?


 酒を飲み干すと、大蛇はその酒樽を頭を使って横に放り投げた。


 合図はまだか。

 

 村人たちもそわそわしている。

 すると大蛇の様子が変わってきた。少し酔ってきたのかもしれない。


 その時だ、

「岩を落とせー」

殿下が声を上げた。


 果たしてこの岩はどれぐらい効果があるかわからなかったが、その呼びかけに村人たちが谷の上から岩を落とし始める。

 すると大蛇がそれを見て、少し暴れ始めた。


 でも効果があったみたいだ。

 落とした岩に囲まれ、大蛇の横方向への動きが鈍くなった。


 横方向の動きを封じたので、動きが単純になり、読みやすくなるかもしれない。

 さらに酒の効果で、全体的に動きが鈍くなっている。


 そこに殿下が剣を振りかざして、踊りでてきた。

「えーい!」


 しかし、一刀目は大蛇の牙で跳ね返される。しかも跳ね返された拍子に、殿下が後ろに倒れた。


 危ない!


 俺は殿下にわからない様に宝珠の力を使い、大蛇の頭を抑えつけて動きを遅くした。

 大蛇の頭がゆっくりと、殿下の方に近づいていく。

 

「こしゃくな!」

殿下はすぐに起き上がって、今度は大蛇の頭に飛び上がり、大蛇の頭に剣を突き立てた。

「これでどうだ!」


 大蛇が口を大きく開けて苦しみ悶ている。

 そして次に殿下は大蛇の横にまわりこみ、剣を振り下ろすと大蛇の首が飛んだ。


「やったぞー!」

殿下が剣を天にかざして叫んだ。


 谷の上から見ていた村人から歓声があがった。

「おー」「やったな」「さすがだ」 


 大蛇は頭が切り離されてもしばらくの間は動いていたが、やがて静かになる。

 

 すると、村人たちが崖が低くなったところから谷底に降り、笑顔で話しながら殿下の周りに集まってくる。


 次に殿下が大蛇を細かく切り始めると、村人が何人か川に工事に行った人々も呼びに行き、皆でその肉を村へ運ぶ準備を始めた。


 大事なタンパク源なのだろうな。きっと村では、しばらくはこの蛇料理が出るに違いない。

 でも俺は、あれを食べたくないから、長居しないですぐに帰ろう。


 皆が村に戻り始めたので、俺もとりあえず村人とともに村に一旦戻る。

 殿下は、一番最後からやって来るようだった。



 俺は村に戻ると先に村長の家に戻り、村長や娘に先に知らせる。

「うまくいきましたよ。大蛇は彼がやっつけました」

 

「それはよかった。ありがとうございます」

と、村長。


「そろそろ、帰ってくるはずです」

「では、迎えに出ましょう」


 俺たちは皆で外に殿下を迎えに行こうとしていると、

「おーい、スクナ!?」

と、外から殿下が俺を呼ぶ声が聞こえた。


 どうやら殿下はもう帰ってきたみたいだ。

 俺たちはすぐに玄関先まで出た。


「見事、仕留めたそうじゃの」

村長が殿下に声をかけた。


 俺も殿下を褒める。

「さすがですね」


 殿下は俺の肩に手を回してきた。

「お前のおかげだよ」


 そのあと殿下は、婚約者の娘の方に行き、抱き寄せた。

「やったぞ」


「よろしゅうございました」



 さて、これで今回の仕事は終わりだ。宴会になって、あの蛇の料理が出される前に帰ろう。


 俺はこっそり着替えて帰ろうと思い、そっと村長の家に入ろうとした。


 すると殿下が、

「もう帰るのか? 帰ったら姉上によろしくな」

と、言ってきた。


「え!?」

俺は足を止めた。


「なに驚いているんだ? とっくにお前の正体はわかっていたさ」

「なーんだ、人が悪いな」


「がっはっはっは」

殿下は豪快に笑った。



 俺は元の服に着替えて、殿下の前に戻る。

「じゃあ、帰るよ」


「ああ、世話になったな。俺はこの娘と結婚して、ここに骨をうずめるつもりだ。姉上にはそう伝えてくれ」

殿下はそう言いながら、村長の娘の肩を抱いた。


「わかった。じゃあこれで」

俺はその場でテレポートして、はじめに船が待っていた湖のほとりに戻った。


 船はすでに元の場所に着陸して、俺を待っていた。


 俺が船に入ると皆が迎えてくれる。


「おかえりー」

ユリーは、少し申し訳なさそうだ。


「うまくいったわね」

と、カトリーヌ。


「おかえりなさいませ、旦那様」

シェリーがニコッとした。


「ご苦労様でした。では戻りましょう」

兵士がそう言って、船を発進させた。



 俺たちは一時間ほどで、飛騨にあるムーの人々が暮らす町に帰って来た。


 宮殿の屋上に船が到着すると、おやじが出迎えてくれる。

「おかえり。どうだった?」


「うまくいったよ」

「そうか。女王が首を長くして待っているぞ」


 俺たちはそのまま宮殿に入り、女王の待つ部屋に行き、そこで女王とおやじに成り行きを報告した。


「そうか、うまくやったな」

おやじが満足そうに言った。


「弟も、これでもう大丈夫ですね」

女王も安心したようだ。


「俺も、ショウが独り立ちできて、もうこれで未来世界に思い残すことはない」


「なんだ。もしかして、俺がちゃんと依頼をこなせるかを試したのか?」

俺が聞いた。


「それもあるが、今回の仕事はお前が適任だったからな。一石二鳥というやつさ」

「まったく」


 するとおやじは、シェリーの持っていた酒樽に目が行く。

「なあ、それは酒だろ? それをくれないか?」


「ダメです。持って帰らなかったら、エレナ博士になんて言われるか」

シェリーがすぐに断った。


「ここにだって酒はあるだろ?」

俺はそう思って聞いてみた。


「引っ越してきたばかりで、まだ酒造りが始まってないんだ」

「そういうことか」


「エレナだったら、こっちの方が喜ぶぞ」

そう言うとおやじは、後ろに置いてあった袋から、金の塊を出して見せる。


 あの量なら五十万ギルぐらいになりそうだ。

 確かにあれだけあれば、エレナ博士は文句を言わないだろう。


 おやじはそれを袋に戻して、俺に渡してきた。

「じゃあこれは、今回の報酬だ。おっと、それにその酒代も含めてくれ」


 俺は報酬を受け取ると、シェリーに言う。

「じゃあ、それは置いていこう」


「そうですかー? しょうがないですねー」

シェリーは酒樽を、渋々おやじの前に置く。


 その後女王の勧めで、俺たちは帰る前に一緒に食事をすることにした。


 

 食事が終わって少し休憩したあと、女王とおやじがゲートの前まで俺たちを見送ってくれる。


「じゃあ、これで帰るから」


 俺がそう言うと、おやじが何かを思い出したようだ。


「そうだった。これはムー大陸のピラミッドがあった場所の地図だ」

おやじはポケットから、折られた地図らしき紙を出して俺に渡してきた。


 俺はそれを開いて確認する。

「未来に帰ったら、破壊しにいくよ」


「ピラミッドの上から三分の二までを破壊すれば、中の機構が破壊されて、もう影響は出なくなるそうだ」

「わかった」


 女王が俺の方を見て、ニコリとほほ笑んでくる。

「今回もありがとう。達者でね。わかっていると思うけど、ゲートを開くときに、帰りたい日時を具体的に思い浮かべないと、何カ月も経った日に帰ってしまうかもしれないわ」


「わかりました」

俺は、火星を出た一時間後をイメージしてゲートを起動した。


 そして俺は、後ろにいたユリー、カトリーヌ、シェリーを振り返る。

「じゃあみんな、帰ろうか」


「うん」「はい」「はーい」


 俺たちはゲートをくぐり、無事に未来の火星に戻った。

 この物語はフィクションであり、日本のいかなる伝説や神話とは関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ