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レリック・ハンター  作者: 中川あとむ
第十七話 過去からの依頼
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17-1 ユリア・シティ

 これまでの登場人物紹介(今回主に登場する者)


<ショウ>  ……主人公。レリックハンター。火星の王様から都市建設を任された。


<ユリー>  ……本名ユリアナ。公爵令嬢だが主人公の仲間になる。


<エレナ博士>……機械・物理・化学・電子工学博士。後に主人公の本当の母とわかる。


<イーサン> ……エレナ博士が市販のアンドロイドに手を加えて作った。


<カトリーヌ>……伯爵令嬢。医学・生物学博士。ビルの一階でクリニックを開業している。


<雄太>   ……主人公の父。時空の裂け目に落ちて、一万二千年前に行き、ムーの女王と結婚して戻ってこない。


<殿下>   ……ムーの女王の弟。ムーの町から追放され、地球のある地域を旅している。

 エレナ彗星の軌道を変えてから、二週間がたった。

 イーサンにはエレナ彗星を予定より早く持って来させ、すでに火星に海を造る作業に入ってもらっている。


 そして、俺たちが建設と統治を任されたユリア・シティでは、移民希望者が住むためのマンションの建設が進んでいた。


 そこに住む予定の移民たちは、テレビ電話などを使い、こちらに向かっている船の中で必要な手続きを行っているので、彼らは火星に着き次第自分たちの家に入れるはずだ。

 一戸建てがいい人は一旦賃貸マンションに入り、後から自分で建設してもらうことになる。



 それで俺たちは今、ユリア・シティの建設状況の視察に来ていた。


 俺たちの乗ったエアカーを運転しているのは、エレナ博士が新しく作ったメイド・アンドロイドのシェリーだ。

 アーム・シティの家のエイミーは黒いミニスカートのメイド服を着ているが、シェリーはそれと色違いのピンク色のメイド服を着ている。


 容姿は少しラムに似ているかもしれない。

 エイミーは十七才ぐらいに見えるが、このシェリーはもう二才ぐらい若い感じで、声もエイミーより可愛らしい。


 俺がその助手席に座り、ユリーとカトリーヌが後部座席に座って、だんだんと出来ていく町の様子を窓から眺めている。

 カトリーヌはクリニックを開業しているが、医者を一人雇って時間を作れるようになったので、今回は一緒に来ていた。


「ユリア・シティもだいぶ出来てきたわね」

と、カトリーヌが後ろの席から。


 シェリーがエアカーを運転しながら答える。

「はい。ご覧の通り、マンションや庁舎、学校、病院、スーパーマーケット、工場などが、だいぶ出来上がってきました。移民の方々が到着する一週間前には、第一期の工事分が出来上がる予定です」


「順調だね」

俺が言った。


「はいっ。それで、移民の就労希望者とは連絡を取り合って面接も行っています。彼らは到着次第、すぐにでもこの町で働けるように手はずを整えています」

「それはよかった。シェリーは優秀だね」

「ラム様やエマ様がそのあたりを主導してやっていて、私は政府から貸し出されたアンドロイドをまとめて、お手伝いしているだけです。でも、旦那様の為でしたら私、もっと頑張りますぅ」


 おっ? シェリーは同じアンドロイドでも、エイミーと違っていい子だな。


 しばらく行くとシェリーが、ある店の前の駐車場にエアカーを停めた。


「旦那様? この建物は、今日オープンした酒の工場と直売店です。ご覧になりませんか?」


 見るとその店の後ろには、工場らしい建物が続いている。


「酒の店か?」

「私はこの店で、エレナ博士から言いつかっている用を済ませたいのですが、よろしいですか?」


 俺は酒には興味ないが、エレナ博士の用もあるなら、ついでに見てみるか。


「じゃあ、俺たちも入ってみよう」

俺たちはエアカーを降りて、店の方に向かった。


 シェリーが俺の少し斜め前を歩いて案内しながら、説明してくる。

「この会社は、アーム・シティの酒造会社と、エレナ博士の共同経営なんです」


「そうだったんだ?」


 俺たちは、その直売店に入ってみた。


 店の雰囲気は高級感もあり、奥にはおそらく試飲用と思われるバー・カウンタもある。

 店の中に陳列されている酒の値段をざっと見ると、安いものから高いものまで色々取り揃えられているようだ。


 俺たちはシェリーの後に付いて、店の中を見ながらそのバーカウンターにいる店員のところに行った。


「いらっしゃいませ」

と、店員。


「こんにちは。例のものは用意できてますか?」

シェリーが店員に聞いた。


「はい、今持ってこさせます」

と、人間の店員が言って、横にいたアンドロイドの店員に目配せする。

 そのアンドロイドの店員は奥に何かを取りに行ったようだ。


 カトリーヌがそれを待っている間に、陳列をざっと眺めている。

「まだ、ここで造ったお酒は売ってないみたいね?」

と、その店員に聞いた。


「はい、工場も今日からテスト稼働ですので、初出荷は早くて三日後になります。寝かせる必要がある酒は、もっと後になりますが」


 おや? カトリーヌはざっと見ただけで、ここで造っている酒かどうかわかったみたいだ。


「ふーん? カトリーヌは酒にも詳しいんだ? 俺は見てもさっぱりわからないよ」

俺が言った。


「私も、お酒の事はよくわからないわ」

と、ユリーも。

 

「私もエレナ博士ほどではないわよ。でも少しは知っておかないと、他の貴族や会社の社長などと食事をするときに恥をかくからね」

カトリーヌが俺たちに言ってきた。


「やっぱり、そうよねー」

「ユリーも、お酒の飲める年齢になったら、いろいろ教えるわね」

「その時はよろしくね」


 社交か。なんか面倒くさそうだな。


 横にいたシェリーが俺に、

「ちなみに、この工場で働く従業員の募集も移民船の中で終わっていますが、工場の本格稼働は移民が到着して研修が終わってからになります。それまではテスト稼働なので、現在は他の都市で作ったお酒を主に販売しているわけです」

と、先程の店員とカトリーヌの会話を説明してきた。


「そういうことか」


 そんな話をしていると、先程のアンドロイドが戻って来て、人間の店員に包を渡した。


「では、これが例のものです」

店員はそう言って、その包をシェリーに渡す。


「ありがとうございます」

シェリーは店員から包を受け取って、俺たちには、

「これでエレナ博士のご用が済みました」

と、言ってきた。


「そうか。じゃあ用が済んだら、オリンポス山を見に行こうか」


「はい、旦那様」

シェリーが笑顔で返事をした。


 俺たちが店を出ると、何人かの客が入れ違いで店に入って行く。

 俺たちはそれを横目で見ながら、駐車場のエアカーの方に向かった。


「もう、お客さんが来るんだね?」

俺はシェリーに聞いた。


「今いらしているのは、この町の建設に従事している方々です。まだ早い時間ですが、今日は休日なので来ているのだと思います」


 建設作業はアンドロイドが九十パーセント以上を行っているが、現場監督などをするために人間も働いている。


「なるほど。ところで、さっき店で何を受け取ったんだ?」

「麹菌と酵母菌です」


「コウジキン、コウボキン?」

ユリーが聞いた。


 俺とユリーがピンと来ていないのを見て、カトリーヌが、

「麹菌や酵母菌は、酒をつくるときに使う菌よ」

と、説明してくれた。


 俺は不思議に思い、シェリーに聞いてみる。

「エレナ博士は、そんなものを貰ってどうするんだ?」


「エレナ博士が、ご自分でお酒を造るみたいです」

「え? まさか、密造するんじゃないだろうな?」

「酒造免許はこれから取ると言ってました。研究して、新しい味の酒を造るそうです」

「まあ、それなら大丈夫か」


 でも、とうとう自分で作ることにしたのか。



 そのあと俺たちは、再びエアカーに乗ってオリンポス山に向かった。


「旦那様? オリンポス山に、何しに行かれるんですか?」

シェリーが、運転しながら聞いてきた。


「ユリア・シティに人が住むようになると、あのあたりもハイキングに行くようになるに違いないから、その前に危険な物が無いか調べてみるつもりだよ」

「危険なもの? ですか?」

「あのあたりには『時空の裂け目』があったはずなんで、心配なんだ」

「そのことですか。私は見たことはありませんが、話は聞いています」


 しばらく道なりに進むと、辺りは少し高台になってきた。


「あっ。右手をご覧くださーい」

シェリーが示した所には、ユリア・シティが見渡せる高台に建設中の豪華で大きな建物があった。

 その前には広い庭園も造られている。


「あれって、もしかして?」

「はい。旦那様のお屋敷です。ラム様は地球のヨーロッパの宮殿をイメージしていると言ってました」


 やっぱり。しかも、どこかの夢の国の宮殿っていう感じだ。


「ちょっと立派だし、大きすぎるんじゃないか?」

「リゾート都市を目指すなら、観光客が喜びそうなランドマークが必要だということです。お嫌ですか?」

「い、いや。そんなことは無いけど」


 もしかしたら火星の王様が住んでいる王宮より美しくて、庭もこちらの方が広いかもしれない。

 いいんだろうか?


「素敵ねー。私はこういうの好きよ。ここに来るのが楽しみになりそう」

カトリーヌが少し嬉しそうに言った。


「私も気に入ったわ」

と、ユリーも。


 シェリーが説明を続ける。

「あの屋敷の方もあと一週間ほどで完成です。裏の地下にはお客様の駐車場とスターダストやヘリオスの格納庫もあります。その上はお客様用のVトール用の駐機場です。屋敷が完成したら、私はあの屋敷の管理に入ります」


 シェリーはオリンポス山へ続く道をさらに登っていき、俺たちを乗せたエアカーはその道の終点までやってきた。

 そこには駐車場が整備されている。


「ここには元々平坦な場所がありましたので、そのまま展望台として整備してあります」

シェリーはそう言いながら、その駐車場にエアカーを停めた。


「道はここまでだな? じゃあ、ここからは歩きだな」

と、俺。


 俺たちはそこでエアカーを降りて、駐車場の横にある展望台の方に歩いて行ってみる。


 ここの標高は、ユリア・シティの中心部よりも二、三百メートルぐらい高くなっている感じだ。

 確か一万二千年前のムー人の町や宮殿は、俺たちの屋敷のあたりから、このあたりにかけてあったはずだ。

 おそらくこの場所は、宮殿が建っていた場所だろう。


「ここは景色がいいわねー」

カトリーヌがそう言って、辺りを見回した。


 数百メートルほど離れた左のやや下方には俺たちの建設中の屋敷、右下に広がる平野部分にはユリア・シティの区画整理された道が広がっている。

 この都市は最大五千万人まで住めるように設計されているので、今出来ているのはまだほんの一部だ。


 ユリーが、遠くの方を指した。

「ほら。海もだいぶ出来てきたわ」


「あ。ほんとね」


 まだ遠いが、海も見えている。

 イーサンが今も彗星の氷を溶かしているので、海岸線がこの近くに来るのはもうすぐだ。


 俺はユリーたちにうなずいてから、後ろのオリンポス山の方を向く。

「それじゃあ、もう少しオリンポス山の方へ登ってみよう」


 オリンポス山は、日本の富士山のように円錐形をしている。

 現在の火星は湿度が低いから山頂に雪などはかぶっていないが、海が出来て湿度が上がってきたら、もしかしたら富士山のように雪をかぶる姿が見られるようになるかも知れない。


 俺たちはオリンポス山に向かって、なだらかな昇り斜面を歩いて行った。

 ここもオリンポス山の裾の一部だが、かなり下の方だからまだ一合目か二合目ぐらいだ。


 展望台からニ百メートルぐらい歩いたところで、俺は皆が疲れているだろうと思い、一息入れることにする。

「ちょっと休憩するか。みんな運動不足だからな」


「ふー。もうちょっと運動しないとダメね」

と、カトリーヌ。


 俺は立ち止まり、そこで後ろを振り返って見ると、シェリーがショルダーバッグを大事そうに持って来ているのに気が付いた。

「シェリー? そのバッグは?」


「先ほど貰った菌が入ってます」


「なにも持ってこなくても、エアカーに置いておけばいいのに」

俺がそう言うと、シェリーはバッグを大切そうに抱きしめる。

「なくしたら、エレナ博士にどんな目にあうか……」


「なるほど」

俺は納得してしまった。

 

 今度はユリーが、ここよりもう少し上の辺りを指して、

「ねえ、確かあの辺りよね? 一万二千年前にゲートがあったのは」

と、言ってきた。


 俺もその方向を見てみる。

「そうだったな」


「ショウのお父様や、あそこで出会ったみんなは、どうしてるかしらね?」


「ああ」

俺はそう返しながら、あのムーの女王と一万二千前から帰ってこないおやじの事を考えた。


 俺たちはタイムトラベルして会ったばかりだから、今もおやじたちが生きているような気がしてしまうが、二人がいたのは一万二千年前なわけだから、実際にはもうとっくに一生を終えているわけだ。


「一万二千年前の話?」

カトリーヌが聞いてきた。


「そう」

「私も行ってみたかったわ」


 すると、シェリーが小声で、

「旦那様は一万二千年前に行かれて、悪逆非道を働いたそうですよ」

と、カトリーヌに言った。


 それを聞いたカトリーヌが、ちょっと引く。

「え?」


「シェリー。いい加減なことを言うなよ。カトリーヌが誤解するじゃないか」

俺はすぐに否定した。


 カトリーヌは、あの時母親と一緒にエジプトにいたから、詳しいことは知らない。

 ユリーの方を見ると、苦笑いしていた。


 誤解を解いてくれればいいのに。


 ユリーは俺の視線を察して、

「あっ、そうね。その情報はちょっと違うかもしれないわね」

と、フォローしてくれる。


 でも、ちょっとではなく、大きな違いだ。


 俺はこのままにしておくとまた変な話が独り歩きすると思い、シェリーとカトリーヌに言う。

「ちょっとじゃないからな。俺は、悪逆非道を働いていた女王の弟を捕まえたんだよ」


「では、そういう事にしておきます」

と、シェリー。


「なんか引っ掛かるなー。でもそんな話、いったい誰から聞いたんだ?」

「先輩アンドロイドのエイミーです」

「あいつめー。言っておくけど、本当に誤解だからな。エイミーは一万二千年前に行ってないし」

「エイミーは、イーサンから聞いたそうです」

「元凶はあいつか!?」


 まてよ、イーサンも一万二千年前に行ってないから、いったい誰から聞いたんだ?


「では、違うんですか?」

「違うに決まってるだろ?」


「そうよね。ショウがそんなことするはずないわよね?」

と、カトリーヌ。


 俺はそれにうなずきながら、シェリーに聞く。

「他に変なことを吹き込まれてないだろうな?」


「旦那様は女と見ると見境が無いので、私も注意するように言われています」

シェリーはそう言いながら、自分の体を手でかばう。


「まったく。あいつらめ」

「それも誤解ですか?」


「誤解に決まってるだろ? さあ、もうちょっとだから行くぞ」


 俺はため息をつき、頭を振って、再びオリンポス山の方に歩き始める。


 するとユリーが、

「うふふ。でも、時空の裂け目らしいものは見当たらないわね」

と、俺に言ってきた。


「ああ、そうだった。ここに来た目的はそれを見に来たんだったっけ」

俺は再び立ち止まって、辺りを見回す。


 ……無いみたいだな。


「エレナ博士が、あれは不安定なので、裂け目の出現場所や出現時間は変わるかもしれない、と言っていましたよ」

と、シェリー。


 ユリーが俺の横に来る。

「それは、かえって危険ね」


「ああ。根本的に原因を解決しないとな」


「そのためには、地球のムー大陸と一緒に沈んでいるピラミッドを破壊しないといけないそうです」

シェリーが後ろから言ってきた。


 あれは本来なら決まった二点間を結ぶゲートなわけだが、それが三つになっているから不安定なわけだ。


「そうか、そういえばそんなことを言ってたな。それなら、近いうちにまた地球に行かないとな」

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