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レリック・ハンター  作者: 中川あとむ
第十六話 火星の海
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16-4 海

 火星の王様から、俺たちに緊急のビデオ電話が入った。

「エレナ博士、ショウ君、大変だ。地球の彗星対策をしていた科学者が、逃げ出したらしい」


「え!? どういうことですか!?」

俺は驚いて聞いた。


「大きな鏡を宇宙空間に並べて太陽熱で溶かそうとしていたようだが、鏡の製作が間に合わないことが分かって逃げ出したそうだ。しかもマスコミにすべてばらしてしまって、地球は混乱しているようだ」


「あきれるわね、まったく」

ラムとエマが、顔を見合わせて怒っている。


 王様が続ける。

「なにやら妨害工作もあった様なんだが、詳しいことはわかっていない。それで地球の国王たちが、正式にエレナ博士に依頼してほしいと、連絡してきたのだ。制作に掛かる費用も五億ギル上乗せして、十五億ギル出すと言ってきた」


「妨害工作か……」

俺がつぶやいた。


 でも、どするか。こちらも破壊工作があったから、エレナ博士が当初考えていた方法は間に合わないはずだ。

 エレナ博士には、何か他に手があるのだろうか。


 俺はエレナ博士の方を見ると、エレナ博士は何かを考えていたようだったが、すぐに王様にニコリと返した。

「わかりました。私たちで何とかしますわ」

と、エレナ博士は眼鏡を触りながら。


 エレナ博士はそう言ったが、どうする気なんだろう?


 通話が切れると、エレナ博士がソファから立ち上がる。

「じゃあ、ショウ、ユリー、イーサン、行くわよ」


「どこに?」

俺が聞いた。


「彗星よ」

「だって、作っていた装置は破壊されたんだろ?」

「あなたも言ってたように、あのサクバス人が死ぬときに言った捨て台詞、それにイーサン・レインの父親が報道官として出てきたことを見ても、彗星にはサクバス人が関わっている可能性が高いでしょ?」

「ああ」

「ということはもしかしたら、彗星に何かしらの推進装置が取り付けてあるかもしれない」

「なるほど。もしそれをコントロールできれば、進路を変えられるか」


 ラムが落ち着かない様子で、

「私も行っていい? 自分の故郷の運命を見届けたいわ」

と、言ってきた。


「あ、わたしも」

エマも行きたいようだ。


「いいわよ」

と、エレナ博士。



 俺たちは駆逐艦ヘリオスに乗り、すぐに出発した。

 そして火星から離れると、現在のエレナ彗星の付近へワープする。


 ワープから出ると目の前にエレナ彗星が浮かんでいたが、北米大陸ぐらいの大きさなので、とても大きい。まだだいぶ離れているはずだが、大きすぎて距離感がつかめない。


 俺たちは、さっそくヘリオスにシールドを張って、エレナ彗星の周りを回った。

 シールドを張ったのは、サクバス人が関わっているとしたら、彗星に何か防御システムも付けてあるかもしれないからだ。


 俺たちは手分けしてカメラやセンサーを操作し、何か人工的な装置が付いていないか探していった。

 もちろんコンピュータにも解析させて、見逃しが無いようにする。


 そうやって、しばらく探していた時だ。光線がヘリオスのシールドに当たって、シールドが輝く。俺たちのヘリオスが攻撃されたようだ。


「どこからだ!?」

俺はレーダーを見ているユリーに聞いた。


「レーダーには何も映ってないわ。撃ってきたのも、何もない宇宙空間からよ」


「ということは、カモフラージュ装置ね?」

と、エレナ博士。


「え? サクバス人の宇宙船がいるのか?」

俺はそう聞いて、見えないとわかりながらも窓の外を探した。


「もしかしたら、その可能性もあるんじゃないかと思っていたのよ。工房で私の造っていた装置を破壊した女性は、このサクバス人があやつっていたとしたら、すべて辻褄が合うわ」


 そうか。あの女性が急に現れたり、忽然と消えたのは、サクバス人の技術によるものというわけだ。


 エマが嫌そうな顔をする。

「まだ、いたなんて」


「でも、見えない相手とどうやって戦うの?」

ラムが聞いてきた。


「スターダストで来ればよかったわ。あれにはサクバス人の宇宙船から移植したレーダーシステムがあるから、サクバス人が使用しているカモフラージュ装置も役に立たない。でも、今なんとかしないとね」

と、エレナ博士。


 俺は、昔の映画で見たシーンを思い出して言ってみる。

「うーん。映画の中の透明人間なら、ペンキを掛けたりするんだけどな」


「……それよ! ショウ」

「え?」


 エレナ博士が、俺の言ったことを聞いて何かひらめいたようだ。

 俺はただ思いついたことを言ったわけだが、ペンキなんて無いし、もしあったとしてもうまくいく可能性は低いように思われる。


「イーサン? 相手を引きつけてくれる? そして少しずつ彗星に近づいて」

エレナ博士が、操縦しているイーサンに指示した。


「わかりました」


 イーサンはヘリオスを適当に動かし、目的を悟られないようにサクバス人を誘い始めた。

 先ほど光線砲が発射された辺りも通ってみる。

 

 すると、また攻撃があった。

 イーサンはそこから逃げながら彗星の方へと近づいていくと、相手は追いかけてくるようで、後ろから攻撃をしてくる。

 しかし、向こうも自分の場所を悟られないように、真っ直ぐには飛んでいないようだ。


 相手は何回も撃ってくるが、ヘリオスのシールドのパワーは全然余裕があるので、このぐらいの攻撃ではびくともしない。

 でも、しばらくすると相手もこちらのシールドが破れそうにない事がわかったのか、撃ってくる回数が減ってきたようだ。


「ちゃんと、後を付いてくるでしょうか?」

と、イーサンが心配し始めた。


 そこで俺は、また思いついたことを言ってみる。

「この船のシールドを少し弱めてみないか? サクバス人に、もう何回か撃てばシールドが消滅するかもしれないと思わせるのさ」


「今日はさえてるじゃない?」

エレナ博士がそう言って、シールドの強さを調節し始める。


「いつもだろ?」


 俺はそう言ってから、しまったと思った。

 先日ロサンゼルスで、俺がイーサンに「今日はさえてるな」と言って、イーサンが返した言葉と同じことを言ってしまった。


 思った通り、イーサンがニヤニヤして俺を見てくる。


 ゴホン。


 サクバス人が再び光線砲を撃って来たが、先ほどよりシールドが弱くなっているので、光線砲が当たるとシールドが少しまたたく。

 それを見て、サクバス人の攻撃の回数が増えてきた。


「彗星の方にもっと接近して」

エレナ博士がイーサンに。


 イーサンがサクバス人から逃げるフリをしながらヘリオスを彗星に近づけると、エレナ博士が今度は俺に、

「ショウ? ミサイルで、あの彗星を少し攻撃して」

と言ってきた。


「え? ああ……」

俺にはエレナ博士の目的がわからなかったが、武器コンソールに行くと、すぐにミサイルを何発か発射した。


 でも、どうする気だ? あんなミサイルじゃ焼け石に水と言うか、大したことはできないだろうに。


 するとエレナ博士はけん引ビームを使い、ミサイルで散らばった氷の破片を集め始める。


「もう少しスピードを遅くして」

エレナ博士がイーサンに言った。


 イーサンがスピードを緩める。

 サクバス人も、まだ後ろから着いてきているようだった。


 次にエレナ博士が、けん引ビームで集めた氷のつぶを、サクバス人の船がいると思われるあたりに、けん引ビームをうまくコントロールしてまき散らす。


 すると、相手の船の輪郭が現れた。

 氷がその船のシールドに当たって、少しチリチリ光っている。


 それは直方体に見えた。大きさは、あの一人乗りのサクバス人の宇宙船を二つつなげたぐらいの大きさだ。


「どういう事だ? サクバス人の船は立方体だから、二隻いるのか、それとも他の異星人なのか?」

俺が言った。


 エレナ博士はそれには答えず、すぐにけん引ビームでその宇宙船をとらえたようだ。


 今度はエレナ博士が俺に、

「うまく捕まえられたわ。ショウ? 一緒にテレポートで乗り込むわよ」

と、言ってきた。


「わかった。じゃあみんな、行ってくるから後を頼む」


「いいわ」

ユリーが返事をして、ラムとエマもうなずいてくる。


 俺とエレナ博士は、念のために宇宙服とヘルメットを付けて、そのシールドの輪郭しか見えていない宇宙船内にテレポートした。

 ヘルメットを着けたのは、もしサクバス人でなかった場合、向こうの宇宙船に空気があるとは限らないからだ。


 テレポートで出たコックピットでは、一匹のサクバス人がいて、コントロールパネルに向かって何かを操作しているところだった。


 やはり、サクバス人だったか。


 そのサクバス人は、後ろに現れた俺たちにはまだ気が付いていない。


 すると無線機から、ユリーたちの叫び声が聞こえてきた。

「キャー、怪物よ!」


 きっといつかみたいに、幻影かホログラムをこいつに見せられているのだろう。


 俺はエレナ博士をシールドに入れてから、レイガンを構えて宇宙共通語で言う。

「おい、お前の相手はこっちだ」


 すると、サクバス人が焦って振り向いて、立ち上がった。


「どうやってここに来た? それともホログラムか?」

そう言って俺たちの方をジロジロ見た後、サクバス人は光線兵器を構えて攻撃してきた。


 もちろんそれは、俺のシールドに吸収される。


 でも、今のサクバス人の声は女性っぽかった。胸も出ているし、顔も女性のようだ。

 もちろん角は生えているし、口から牙も生えている。コウモリのような翼が肩から生えているのも前に会った男性のサクバス人と同じだ。


 俺はサクバス人をなんとか、殺さないで捕まえようと思って言ってみる。

「無駄だ、抵抗しないで武器を置け」


 すると、横にいたエレナ博士がサクバス人に、

「私のMHICの工房で作っていた装置を壊したのはあなたなんでしょ?」

と、聞いた。


「ふん。そうだとしたら?」

「あそこで作っていたのを、どうやって知ったの?」

「お前たちの暗号化技術など大したことは無い。たやすく通信を傍受できる」


 ということは、おそらく連邦会議の通信などを傍受したのだろう。


 しかしそのサクバス人は、話ながら俺たちに見られない様に、ゆっくりと手を後ろの装置の方に伸ばしていたようだ。

 俺がそれに気が付いた時には遅かった。


 目の前のサクバス人の姿が消え、俺のレイガンが、おもちゃの水鉄砲に変る。


「えっ?」

俺は構えを解いて、自分が持っている水鉄砲を見た。


 すると、隣にいたエレナ博士が俺の水鉄砲を取って、そのサクバス人がいた所に向けて撃つ。

 水がピュっと出た。


 え?


 しかし次の瞬間サクバス人の姿が再び現れて、コックピットの椅子に倒れこみ、俺の水鉄砲も元のレイガンに戻った。


 エレナ博士が俺の方を見てニヤリとする。

「幻影でやつの姿が消えて、レイガンも見た目だけが水鉄砲になっただけだから、撃てばちゃんとレイガンとして、そこにいた奴に当たったわけさ」


 そうか。なるほど。

 俺にそれを説明していると、あいつにも分かってしまうから、エレナ博士が自分で撃ったわけだ。


 俺のレイガンは麻痺モードにしてあったが、やはりサクバス人は死んでしまったようだった。


 俺がシールドを解除すると、エレナ博士が操縦席の方に行く。


 エレナ博士はちょっと嫌そうな顔をして、

「ねえ、この死骸を片付けてよ」

と、俺に言ってきた。


「えー?」

「ショウも直接触るのがいやだったら、宝珠の力で持ち上げればいいじゃない」


 そうか。その手があったな。


 俺はサクバス人の死骸を宝珠の力で持ち上げて、コックピットの後ろに在ったカプセルに入れておくことにした。

 エレナ博士が前にサクバス人の船を分析したところによると、このカプセルは精神が乗り移っている間の生命維持と、いざという時の脱出カプセルになっているらしい。

 

 カプセルに入れ終わると、俺はエレナ博士に聞いてみる。

「どうする? こいつをカプセルごと射出して、宇宙葬にするか?」


「そうね。そうしましょ」

そう言ってエレナ博士は、そのカプセルの内側にある装置を何か操作した。


「今のは?」

「救難信号が自動的に出ないようにしたのよ」

「なるほど」


 エレナ博士がカプセルの横にあった装置に手をかざすと、カプセルのフタが閉まり、そのまま床の下に吸い込まれる様に移動したかと思うと、すぐに宇宙船の外に射出された。

 そのカプセルはこのまま宇宙をさまようことになり、いつかは太陽などの引力に捕まり燃え尽きるのだろう。


 それが終わると、エレナ博士がすぐにコックピットに座って、何かを調べ始めた。

「わかったわ。この宇宙船の後ろに、同じ大きさの反応炉のユニットがつなげてあるのね」


「反応炉? それで二隻分の大きさに見えたのか」

「つまり私が作ろうとしていたのと、ほぼ同じものよ。それで作り出したエネルギーであの彗星をけん引して持って来たんだわ」

「じゃあこの宇宙船で、あの彗星の進路も変えられるのか?」

「ええ、そういうこと。今からやるわ」


 エレナ博士が操作を始めた。


 しばらくするとラムから通信が入る。

「彗星の方向が変わり始めたわ」


「さっき悲鳴が聞こえてきたけど、怖がり屋のユリーは大丈夫だった?」

俺が聞いた。


「もう幻影が消えたから、今は何とか大丈夫みたい」


「だ、大丈夫よ」

ユリーがそれを聞いて言ってきた。



 エレナ博士が、俺の方を見る。

「じゃあ、イーサンをここに連れてきてくれる?」


「わかった」


 俺はすぐにヘリオスにテレポートをして、イーサンをで連れてきた。


 するとエレナ博士は、イーサンにこの船の操縦法と、彗星のけん引の仕方、カモフラージュ装置の使い方などを教え始める。


 どうやらイーサンに、一人でこの船を操縦してもらうみたいだ。

 まだ時間がかかりそうなので、俺は一旦ヘリオスに戻ってきた。


 すると、ユリーがまだ震えているようだ。


 俺はヘルメットを外してユリーのところに行き、俺を見て立ち上がったユリーを抱きしめてあげる。

「大丈夫か?」


 すると、ユリーの震えがだんだん収まってきた。


 ラムとエマがうらやましそうにこちらを見ていたので、俺は二人にも手招きをする。

 すぐに二人が走り寄ってきたので、俺は三人をいっぺんに抱きしめると、三人とも幸せそうな顔になってきた。


 俺でよければ、皆をこうやって幸せにしてあげたいな、と改めて思う。


 しばらくすると、ユリーも落ち着いてきて、

「ありがと。もう大丈夫」

と言ってレーダーの前に戻り、他の二人も椅子に戻った。


 今は三人ともニコニコしている。


 そこに、エレナ博士から無線が入った。

「じゃあ、私をヘリオスに戻して」


「わかった」

俺はすぐにテレポートして、エレナ博士を連れて戻る。


「それで、やはりサクバス人だったの?」

ユリーが聞いてきた。


「そうだったよ。人間の女性に乗り移って、エレナ博士の造っていた装置を破壊したやつだった」

と、俺。


「その彼女は、ロサンゼルでこちらを見ていたのよね?」

「ああ。その理由を聞く暇はなかったけど、おそらくロサンゼルスで俺たちを見ていたのは、仲間のサクバス人をやった相手を見に来たんだと思う。イーサン・レインが入院していた病院に面会にきたのも彼女だろう。そして今回は、連邦会議の内容を盗聴してエレナ博士の造っていた装置を破壊しに来たらしい」

「もう死んだの?」

「ああ。できるだけ捕まえようとしたんだが、前回と同じように麻痺モードで死んでしまったよ」


「じゃあ、もうこれで地球は大丈夫なのね?」

と、エマ。


 俺はうなずいた。


「それで、この後あの彗星はどうするの?」

今度はラムが聞いてきた。


「あの彗星を、火星に持っていこうと思うわ」

と、エレナ博士。


「え? 火星に?」

俺が驚いて聞いた。


「王様の許可が必要だけど、小さく砕いて大気圏に落すと、地上に着く前に蒸発するから水蒸気になる。そしてそれが集まると雨になる。あれだけの量があれば、火星に大きな海ができるわ」

「海を造ってしまおうなんて、またすごいことを考えるなー」


「これで、乾燥肌も改善するわよ」

エレナ博士が、ラムとエマを見てニコリとした。


 二人とも小さく拍手して喜んでいる。


「まさか、そのために海を造るんじゃないだろうな?」

俺はエレナ博士を半目で見た。


 エレナ博士が舌を出す。



 そうしているうちにも彗星はどんどん地球から離れて、火星方面に進路を取った。

 すでにイーサンはエレナ博士から指示されていて、彗星を火星に持っていく操作をしているようだ。


 そして今は、イーサンの代わりに俺がヘリオスの操縦をして、しばらく彗星の後をついて行く。


 すると、レーダーを見ていたユリーが、

「別の宇宙船が接近してきたわ」

と、言ってきた。


 レーダーに映ると言うことは、サクバス人ではないかもしれない。


「なんだ?」

俺が聞くと、エレナ博士がモニターにその宇宙船を映し出す。


「横に『CNC』って書いてあるわ。地球のテレビ局の船よ」

ラムが言った。


「様子を見に来たのね?」

と、エマ。


 俺はエレナ博士の方を見る。

「火星に帰ったら、また取材に来るかもな」


「いや、もうビデオ通信が掛かって来たわ」

エレナ博士がそう言って、通話に出た。


 ラムとエマは、通信相手に見えない場所に移動する。

 おそらく、このやり取りは地球のテレビで流れるはずなので、二人は有名すぎるからだ。


「エレナ博士ですね? CNCテレビですが、取材をお願いします」


「手短にね。でも私たちの事、よくわかったわね?」

エレナ博士が相手に聞いた。


「連邦政府から、地球での混乱を収拾するために、あなた方が彗星の対処をするという発表がありましたので。それではまず、今回彗星の軌道を変えた技術の解説をお願いします」


 エレナ博士が技術的なことを答えていた。

「……ということなんだけど、簡単に言えばMHICで売っている軍艦でも使っている重力調整装置や牽引ビーム技術の応用で、それを大規模で強力にしただけよ」


 さすがエレナ博士だ。MHICの宣伝も忘れていない。


「地球で対策をしていた科学者が逃げ出したという報道があって間もないですが、ずいぶん早く到着されましたね?」

次の質問だ。


「少し前に装置が出来上がって、もしかしたら必要なくなると思いながらも、地球のために火星を早く出発してきたのよ」


 まだ、ワープのことも異星人のことも公開されていないから、うまくごまかした。

 イーサンが乗っているサクバス人の船は、カモフラージュしたままなので、そのテレビ局の宇宙船には見つかっていない。


「それで、この氷の塊はどうするつもりですか?」

「火星の方に持っていこうと思うわ。溶かせば水として利用できるしね」


 エレナ博士は、他にもいくつか質問を受けていた。


 ビデオ通信による取材が終わり、テレビ局の船が離れて行くと、エレナ博士がサクバス人の船にいるイーサンに連絡を取る。

「イーサン。私たちは火星に先に帰るから、一人であれを火星まで持ってきてね。くれぐれも注意してよ」


 確かに馬鹿でかいからな。間違って航路なんかを横切ったら大事故になるだろう。


「はい。みなさん、しばらく私がいなくても寂しがらないでください」

「はいはい」



 俺たちはイーサンに彗星を任せて、火星に戻った。



 俺たちは帰ってくるとすぐに、王様に経緯の報告や、火星に海を造ることを提案しに王宮にやってきた。

 今回は俺と、ユリーとエレナ博士の三人だ。


 そして王様に、俺がまとめてこれまでのことを報告した。

「……それで、情報部からサクバス人についてお耳に入っていると思いますが、この件もサクバス人の仕業でした。彗星についたところで攻撃を受けました」


「そうなのか。何はともあれ、よくやってくれた。地球の各国から感謝のメッセージが届いているぞ」

と、王様。


「それで、実はお願いというか、提案があるのですが」

と、エレナ博士。


「なんだね?」

「あの氷の塊を火星に運んできて、細かく砕きます。それを都市には影響が無いように、北半球に少しずつ落とすと蒸発します。すると火星に雨が降り、大きな海を作ることができますわ」


 王様が、片手を顎に当てて少し考える。

「海か……この土ばかりの火星にとっては悲願のものだな。それで、もしそれを行った場合、雨によって火星の都市に被害は出ないだろうね?」


「計算では、始めは南半球の都市部にも少し雨が降りますが、大部分は北半球に降りますわ。そして、水は土地が低い北半球に集まって、海ができた後も、雨が降るのは北半球が中心になります」


 現在火星の北半球は、土地が低いので二酸化炭素濃度が高く、誰も住んでいない。

 二酸化炭素は、海ができればかなりの量がそこに溶け込むので問題は無いはずだと、エレナ博士が説明していた。


「それで、海の大きさは?」

「計算では、このアーム・シティから五百キロほど北に海岸線ができる予定ですわ」

「うむ。まあ私はエレナ博士を信頼しておるから大丈夫だと思うが」

「影響を見ながら少しずつやりますから」

「わかった、それなら許可しよう。これは火星国民への贈り物にもなる。実は人口が少しずつ増えてきて、今の供給体制では酸素不足になる懸念もあってな。水が豊富になれば、植物も育つし、水から酸素を作ることもできる」


 王様が今度は俺を見てくる。

「実はこちらからも、提案がある」


「なんでしょう?」

俺が聞いた。


「ショウ君に、爵位と、領地をあげたいと思っている」


「え!?」

エレナ博士とユリーも驚く。


「いえ、それは……」

俺は断ろうとした。


「これはどちらかといえば、ユリアナやカトリーヌ、エマ姫たちの為だと思ってほしい」

と、王様が言ってきた。


「え? 私たちの為?」

ユリーが目をぱちくりさせている


 そうか、俺と結婚したら三人とも庶民になってしまうからな。

 でも、三人はそれを覚悟して俺について来ているとは思うけど。


 俺はユリーをチラッと見た。


 あの表情は少し迷いもあるか。

 いきなり庶民になったら、色々な特権も無くなるしな。


 でも、ユリーやエマ、カトリーヌたちの為と言われては、断れないじゃないか。

 王様もそういう事を予想して言ってきたのかも知れない。


「そうですね……」

俺はやや肯定的な返事をしておいた。まだ時間はありそうだから、ゆっくり考えよう。


「それにもう一つ理由がある。実は今、今回の彗星騒動のせいで地球からの難民が数十万人、火星に向かっていてな。今回の君たちのおかげで、そのうち何隻かは地球に戻ったらしいが、ほとんどがそのまま火星に移民を希望しておる」

「そうなんですか?」

「もともと、地球は人口過剰になっているから、今後も増えるだろう」

「なるほど」

「だが、今の火星の都市もかなり過密になって来たからな。そこで、君には新しい都市を作ってもらいたいのだ」


 そういう事か。

 今回はいろいろと驚かせられることばかりだ。


 王様が続ける。

「好きな場所に領地をあげるので、今火星に向かっている移民とともに、そこを任せたいのだ。必要な支援はもちろんするから。今の建築技術なら、彼らが到着するころには、彼らの分のマンションぐらいなら、ぎりぎりで建設できるだろう」

「そうですか……わかりました。場所については持って帰って、みんなで検討したいと思います」


 爵位は後で考えるとして、とりあえず移民のために町を作ろう。

 レリックハンターの仕事として請け負ったと思えばいい。


 そのあと俺たちは政府の役人から、都市建設や運営に関する概要のレクチャーを受けてから戻ってきた。



 俺はいつものように、夕飯のときに皆に話すことにした。

「……それで、今回の経緯の報告と海を造る提案をしに行ったら、王様が俺に爵位と領地をくれると言ってきたんだ。そして俺たちが好きな場所に新しい都市を作って、今向かっている移民を任せたいそうなんだ」


「ふーん? それで受けたの?」

ユウコが聞いてきた。


「爵位の方は、まだ返事してない。都市を作る方は受けたよ」


 するとラムが、

「ショウ? 爵位貰っちゃえば? とすると、私たち何かな? 将来は、伯爵夫人かな?」

と、言ってきた。


 ラムは貴族に少しあこがれがあるみたいだ。ちょっと何かを想像してニコニコしている。


 他の皆は、

「ショウにまかせるわ」

と、言ってきた。


「それで、新しい都市を作るのね?」

今度はアデル教授が聞いてきた。


「どうせ作るなら、他の都市よりいいのを作りたいわね」

と、エレナ博士。


「ラムは都市計画の勉強をしてるんだよな?」

俺が聞いた。


「うん」

「じゃあ建設に関して、中心的な役割を任せてもいいか? 何かあったら俺が責任を取るから」

「いいわ」


「でも、もうすぐコンサートがあるけど大丈夫?」

ユリーが聞いた。


「他に専門家も付けてくれるんでしょ?」

ラムが俺に聞いてきた。


「ああ、政府と建設会社から人を出してもらうよ」

と、俺。


「じゃあ何とかなると思うわ」


「都市を作る場所は?」

今度はエマが聞いてきた。


「そうだな……」

俺はモニターに火星の地図を表示する。

 

 そこにエレナ博士が、将来出来るはずの海の海岸線を引いた。

「ここまで、海が来ることになるわ」


「この山はなに?」

とエマが、アーム・シティから西にある山を指す。

 

「ここはオリンポス山と言われていて、火星で一番高い山さ」

俺が答えた。


「じゃあ海と山が一望できる、このふもとのあたりなんて素敵じゃない?」


「たぶんここなら、海ができた後はときどき雨も降って緑も育つわ」

と、エレナ博士。


「そうか。そうだな。ここにするか?」

俺は皆の顔を見た。


 皆、よさそうだ。


「じゃあ、火星で唯一のリゾート都市を目指そうかしらね」

と、ラム。


「いいわねー」

「海の見えるリゾートなんて、火星では無理だと思っていたわ」

他の皆が言ってきた。


「病院も作るのよね?」

今度はカトリーヌ。


「そうだった。エマとカトリーヌでその辺りを詰めてもらってもいいか? 必要な部屋数とか、設備とか。もちろん政府と建設会社の人間がサポートするから、他の病院の図面を参考にしながら」

俺が頼んだ。二人とも医者だから、適任だろう。


「わかったわ」「やってみる」

と、エマとカトリーヌが顔を見合わせて、ニコッとする。


「都市の名前はどうするの?」

アデル教授が聞いてきた。


「ショウ・シティ? なんてどう?」

ユウコが提案してきた。


「やめてくれ。なんか、かゆくなる」

と、俺。


「ふふ、じゃあ、第一夫人の名前から取って、ユリア・シティは?」


「うん、いいわね」「ごろもいいわ」

皆がうなずいている。


 ユリア? そうかユリアナからとるのか。

 あれ? でも第一夫人って、みんなもすんなりと受け入れたということは、俺のいないところで、なんか話がまとまっているのか?




 そのあとイーサンには彗星を持ってくるスピードを速めてもらうことにして、早めに海を作る作業を始めてもらうことにした。

 海となるところに実際に水をためてみないと、地中に吸収される分などまだ不確かな部分もあるので、思ったより海岸線が遠くになってしまうかも知れないからだ。


 そして俺は王様や政府関係者と連絡を取って、都市建設の準備を始めた。

 ラムが中心になり、まずはインフラの設計から始め、ショッピングセンターや病院、工場の誘致を行い、移民用のマンション建設と公共施設の建設から開始する。


 建設資金は銀行と王家から借り、あとは土地やマンションを分譲販売して返していくことになる。


 公園や緑が多く、海や山も近くに見え、火星一の風光明媚で魅力的な都市になるはずだ。

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