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レリック・ハンター  作者: 中川あとむ
第十五話 夢魔
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15-2 夢

 アデル教授が運ばれた病院に着くと、ロビーで俺たちを待っていたエレナ博士と合流する。


「アデル教授の具合は?」

俺が聞いた。


「今、医者が診てるわ。こっちよ」


 俺たちはエレナ博士について、アデル教授が処置を受けている部屋の前に行く。

 部屋の入口にはまだ処置中のランプが点いているので、俺たちは廊下の椅子に座って治療が終わるのを待った。


 しばらくすると処置室から担当医が出てきて、マスクを外しながらエレナ博士の方に歩いてくる。


「どうですか? 先生?」

と、エレナ博士が心配そうに聞いた。


「打撲や擦り傷が少しあるだけで、命に別状はないですが……」


 俺たちはそれを聞いて安堵したが、医者が困った顔で続ける。

「意識が戻らないんです」


「え?」


 アデル教授は看護アンドロイドによって病室に移され、俺たちは一緒について行った。

 その部屋は個室で、他の患者はいない。


 看護アンドロイドが部屋を出ていくと、エレナ博士が処置中に外されていたアデル教授の黒縁丸メガネを掛けてあげる。

 病室の隅に椅子が重ねて積んであったので、俺たちはそれを持ってきて、アデル教授のベッドの周りに座った。

 

 ベッドで横になっているアデル教授の頭にはバンソウコウが張ってあり、手首のあたりにも包帯がまかれているぐらいで、確かにケガは大したことはなさそうだ。


 俺の反対側に座ったエレナ博士が、アデル教授に声を掛けてみる。

「アデル? 起きなさいよ」


 反応がない。

 エレナ博士が今度は体をゆすってみたが、同じだ。


「アデル? ケーキがあるわよー。あなたの好きなワインもあるわよー」

エレナ博士がアデル教授の好きな物を、と思って言ってみたようだが、やはり起きない。


 エレナ博士がため息をついた。


 今度はユリーが声を掛けてみる。

「アデル教授?」


「ショウ? 宝珠の白の癒やしを試してみて?」

エレナ博士が俺に言ってきた。


「あ、ああ」


 俺は立ち上がり、白の癒しの光をアデル教授の体全体に注いでみる。特に頭に時間を掛けた。

 でも、意識はまだ戻らない。


 それが終わると、エレナ博士がアデル教授の頭のバンソウコウと腕の包帯を外した。

 怪我は、今の宝珠の力で全て治ったようだ。


 エマが驚いている。

「これはどういう事なの?」


 ユリーが説明する。

「先日火星の遺跡から見つかった宝珠で白の宝珠は、ケガや病気をある程度治せるの。そして、前にエレナ博士が脳震盪のうしんとうを起こした時も、これで気が付いたらしいわ。ショウの持っているのは厳密にいえば『白』ではないんだけどね」


「……ということは、精神的なショックかしら」

エマが、ボソッとつぶやいた。


 そう言えば、エマは精神科医か。


「精神的なショックで起きないこともあるのか?」

俺はエマに聞いた。


「ええ、ごくたまにだけど」

「そうか。イーサン・レインに振られたことがショックだったか……」


 俺に出来ることと言ったら、宝珠の機能でなにか……。


「そう言えば、黄の宝珠の機能でなにかできないかな?」

俺がそう言うとエレナ博士が、

「何でもいいから試してみて」

と、言ってきた。


 俺は椅子に座ったまま少し身を乗り出し、アデル教授の頭に黃の宝珠の光を当ててみる。

「アデル教授。起きてくれ」


 俺はさらに右手でアデル教授の腕を軽く掴んで揺すってみる。

 

 その間にも、ユリーがエマに説明していた。

「黄の宝珠の光は暗示を掛けたり、精神に影響を与えることが出来るの」


 でも、やっぱり反応は無い。

 

 だめか。

  

 俺は黃の宝珠の光を止めて、そのまま左手で頭に触れた。


 まさか、このまま永遠に起きないんだろうか?

 アデル教授には色々と無茶もされてきたけど、助けられたこともあったな。

 それに、今はもう俺たちの仲間だ。

 

 でも意識が無いって、頭の中はどういう状況なんだ? 


 俺はそんなことを考えていると、急に意識が遠のいてくる。

 すると、周りの景色が変わった。


 あたりを見渡すと、左にエジプトのピラミッドがあり、その奥にはマヤのピラミッドがある。右側には日本のどこかの神社があり、その隣にはアンコールワットの遺跡だ。そして前方には、少し離れたところにギリシャの神殿があった。


 なんだここは? いろんな遺跡がごちゃまぜじゃないか。俺は夢をみているのか?


 すると、どこから現れたのかは分からないが、前にあるギリシャの神殿に白っぽい服を着た女性が入って行くのが見えた。


 俺は声を掛けてみる。

「ちょっと!?」


 声が届いているのかいないのか、その女性は無反応でそのまま歩き続けている。

 俺は後を追いかけてみた。


 ギリシャ神殿に入ったところで、その女性に追いつく。


「すいません」

俺は彼女のすぐ後ろから、再び声を掛けた。


 でも、何も反応がない。


 俺は、彼女の前にまわってみる。

 すると、その女性はアデル教授だった。


 正確に言えば、いつものアデル教授とは似ても似つかないほどの美人なので、一見しただけではアデル教授ではなさそうだが、俺はなぜか彼女に違いないという気がした。


 いつもは髪を後ろで束ねているが、ここにいるアデル教授は髪を振りほどいている。化粧もしているようだ。

 服はクリーム色のローブの様なものを着ている。普段は丸い眼鏡を掛けているが、今は眼鏡を外していた。


 でも、どことなく面影がある。


「アデル教授!?」

俺は肩に手を掛けて言ってみたが、同じだ。


 彼女は俺に気が付かずに、正面を見たまま夢遊病のように歩いている。


 あれ? ここはもしかしたらアデル教授の夢の中か?

 そんな気がしてきた。だとすれば、この遺跡も説明がつきそうだ。


 それにこの美人な容姿も、アデル教授が自分のことをこういうイメージだと思っているのかも知れない。


 彼女はそのまま歩き続け、ギリシャ神殿を出てさらにその先に歩いていく。

 俺はとりあえずその後をついていった。

 

 すると、今度はどこかの知らない町の中になる。

 でもよく見ると、この町の建物はあのエルフの星で見た建物のデザインにそっくりだ。木も周りにたくさん生えている。


 しかし、アデル教授はエルフの星には行ってないから、センテカルドの建国物語に出てきた記述から想像してるのか?

 もしそうなら、すごい想像力だ。


 俺が町の様子を見回していると、その間にも彼女はどんどん先に歩いていってしまった。

 俺はすぐに後を追いかける。


 すると今度は、辺りが突然嵐になった。

 風が強く、立っていられないほどだ。そして少し先には雷も落ちる。


 その時、彼女のすぐ横にあった太い老木が倒れてきて、彼女が下敷きになった。


「アデル教授!?」


 俺はすぐに走り寄り、宝珠の力で身体強化を自分にかけて、その大木を持ち上げて横にどけた。


 夢の中でもちゃんと宝珠の力は使えるようだ。簡単に大木が持ち上がった。

 そもそも夢の中だから、もしかしたら宝珠が無くても、なんでも出来るのかも知れない。

 

 そして俺は、彼女を抱き起す。

 ところが彼女をよく見ると、後ろに流れる髪の間からとんがっている耳が見えた。


 なんか、エルフになり切っているみたいだぞ。


 すると、

「ショウ!?」

と、どこか上の方から俺を呼ぶ声が聞こえた。


「ショウ!?」

今度はもっと大きい声だ。


 この声はユリーか?

 そう思って病室の皆のことを考えたとたん、目の前の景色がさきほどの病室の中に戻る。

 

 俺の目の前のベッドの上には、先ほどと変わらずアデル教授が横になっていた。

 俺の左手はアデル教授の頭に触れ、右手は彼女の腕の辺りを掴んだままだったが、一旦手を離す。

 

 先程のアデル教授は絶世の美女だった。

 しかし、目の前のアデル教授は化粧もしていないし、髪もボサボサだ。いつものように丸くてダサい眼鏡をしている。


 眼鏡を外した時のアデル教授をまじまじと見たことはなかったが、もしかしてこの眼鏡を外したら、先程の美しい顔が現れるのだろうか?

 俺は眼鏡を外してみたい衝動にかられた。


 するとアデル教授が、

「……ショウ?」

と、うわごとを言った。


 エレナ博士がそれを聞いて、声を掛ける。

「アデル!?」

 そして体を揺さぶったが、やはり起きない。


「ショウ? 今、意識が無かったみたいだけど」

ユリーが俺に聞いてきた。


「ああ。実は今……」

俺は今見た幻を皆に話した。

 もしかしたらアデル教授の夢の中だったんじゃないか、という仮説も言ってみる。


「アデル教授の夢の中に入った? ……でもありえないわよね?」

エマが怪訝けげんそうに言った。


「いや、ありえないことでもないかもしれない」

エレナ博士はそう言って、自分の眼鏡を触る。


「え?」

エマが驚いてエレナ博士を見た。


「ショウが持っている宝珠。黄色も入っているし、他の色もある。そういう事が起こっても不思議じゃあないわ」


「……もしそうなら。知らない町や大きな災害……心理学的に今の夢を分析すると、イーサン・レインのことで、やはりアデル教授は非常に大きな精神的ショックを受けたのね」

と、エマ。


「そうか……」

俺がぽつりと言った。


「おそらく彼に振られて、おまけに暴力を振るわれて、絶望を味わったにちがいないわ」


 エレナ博士がアデル教授を同情の目で見る。

「そうなのね……。イーサン・レインのことを、あきらめさせた方が良かったわ」


「もし、ショウが夢の中に入れるのなら、彼女を起こすことができるかもしれない」

エマが俺に言ってきた。


「どうやって?」

「夢の中で彼女を振り向かせて。そして元気づけて夢の中から連れ出してあげて」

「わかった……やってみる」


 といっても、夢の中に入るには……。とりあえず、さっきと同じ状況にしてみるか。

 左手で頭に触れて、確か右手はアデル教授の腕を掴んでいたはずだ。

 もしかしたら腕を掴む必要は無いのかも知れないが、同じ様にやってみよう。

 

 俺は先程と同じ様に触れてみた。

 

 これでさっきは頭の中はどうなっているのか考えたんだよな。

 さあ、再びアデル教授の頭の中、夢の中へ。

 

 そう思うと、意識が遠のいていく。


 すると、再びあの景色だ。やはりそうだ、幻じゃなかった。宝珠の力で、夢の中に入れたんだ。


 俺は早速アデル教授を探した。


 ギリシャの神殿を超えて、その先のエルフに町のようなところに行ってみる。

 嵐で災害が起こっているその町を探していくと、先ほどの場所にアデル教授が倒れていた。

 もちろん容姿はエルフの姿で、顔はとても美しい。


 俺はかたわらに行って、アデル教授を抱き起す。

「アデル教授!?」

揺さぶってみるが、反応はない。


 俺はとりあえず彼女を抱きかかえて嵐の外に出て、ギリシャ神殿の庭の乾いた草の上に彼女を寝かせた。


 さて、ここは夢の中だ。ということは何でもあり得るかな?

 

 俺は腕の宝珠を、アデル教授にかざしてみた。

 すると、夢の中なのに現実と同じ様に宝珠から黄色い光が出る。


「アデル教授? 俺だ。ショウだ。こっちを見て」


 すると、アデル教授の目がゆっくりと俺を見た。

「……ショウ?」


 まだ夢うつつだが、俺に気が付いたようだ。


「アデル教授!?」



「ショウ? ここでなにしてるの?」

アデル教授が、ゆっくりとした口調で聞いてきた。


「あんたは夢を見ているんだ。さあ起きて」

「夢?」

「そう。さっきあんたはイーサン・レインにひどいことをされて、ショックを受けて……」


「あー、そうだったわ。ひどいわ……」

彼女は、まだぼーっとしている。


「かわいそうに」

「……彼のことはもういい。彼のことはもう忘れるわ……」

「じゃあもう大丈夫か?」

「……」

「皆が待っているから、戻ろう」

「私を迎えに来たの?」

「そうさ。意識を失って起きないから」


「ここは私の夢って言った?」

アデル教授のしゃべり方がだんだんと、普通に戻ってきた。


「ああ」


 すると、アデル教授がニタっと笑う。

「そう? 夢なんだ……」


「え?」

なんだ? この笑いは? 何かたくらんでいるのか?


「昔から、起きない女性を起こす方法は一つよ」

「な、なんだよ?」

「キスに決まってるでしょ?」

「ええ!?」

「なによ。そんなに驚かなくたっていいじゃない」

「で、でも」

「私じゃ嫌なの?」

「い、いや、そんなことは」


「じゃあ、早くキスしてよ」

そう言って彼女は目をつぶった。


「しょうがないなー」

俺は、横になって目を閉じているアデル教授にキスをした。


 彼女が目を開けたので、俺は彼女の上半身を起こして、右腕で支える。


「一度、眠りの森の美女をやってみたかったの」

とアデル教授は言って、ニコリとした。


 まったく。


 次の瞬間アデル教授は、急に真剣な表情になって俺の首に手を回してくる。


 なんか、すごい美人だとあらためて思う。

 ユリーやラム、ユウコのかわいさとは違う。カトリーヌやエマの知的な美しさとも違う。

 深みのある美しさとでも言おうか、神々しいというか。

 でも夢の中だが。


「ショウ? 好きよ。……でも、あなたには他にたくさんの彼女がいるから、私なんて入る余地もないわね?」

「え? いや、そんなことはないけどさ」

「いいの? じゃあ、今まではイーサン・レインとあなたが同じぐらいの存在だったけど、もうあなたに決めた」

と言って俺に抱きついてきた。少し泣いているみたいだ。


 彼女の気が済んで、少し顔の距離が離れたところで、俺は彼女の顔の涙を指で拭いてあげる。

「じゃあ、みんなの所に帰ろう。」


「うん」


 俺はそこで、意識が病院の中に戻った。


「ショウ? 戻ったの? さっき、あなたの宝珠から白っぽい黄色の光が出ていたわよ」

と、エレナ博士。


「そうなんだ?」


 すると目の前のアデル教授がピクっと動く。


「アデル!?」

エレナ博士が声を掛けた。


 アデル教授が、ゆっくりと目を開ける。

「あっ? エレナ。それにショウ? みんなも……」

まだ夢うつつな感じだ。


 はたして、彼女はさっきの夢の中のやり取りを覚えているのだろうか?


「夢の中で……」

アデル教授が、俺の方を見て何か言おうとする。


「なに?」

エレナ博士が聞いた。


 アデル教授が、ゆっくりと首を横に振る。


 するとアデル教授が、俺が彼女の腕を握っているのに気が付いて、俺の手を振り払ってきた。

「やっ! なに!? 私まで欲しいの!?」

そう言って、俺をにらんだ。


「な、なに言ってるんだよ!」

俺は、彼女の態度が夢の中とずいぶん違うので焦った。


 もう。なんなんだ。

 でもまあ、これでよかったのかもな。


「ショウは、意識が戻らないあなたの夢の中に入って、呼び戻したのよ」

エレナ博士が弁護してくれた。


「あっ……じゃあお礼を言わなきゃね……。そういえば、イーサン・レインは!?」

アデル教授が、言っている途中からだんだん怒りだした。


「あの後、ショウが彼に詰め寄ると、彼はレースカーで逃げ出して、あげくの果てに事故を起こしたわ」

ユリーが説明した。


「彼もこの病院に運ばれたはずよ」

エレナ博士が言った。


「軽傷みたいだったな」

俺は一応言ってみた。


「それなら、みんなで会いに行って、問いただしてみましょうよ」

と、ユリー。


「あの者には、少し灸をすえてやらねばな」

エマはお姫様モードになって、自分のバッグに手を掛けた。


 まさか、あのバック中に投げナイフを入れてあるのか?

 エマが洞窟で大蛇に投げたナイフの腕はすごかった。


 こわっ。

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