13-1 誕生日
これまでの主な登場人物紹介(今回登場する者)
<ショウ> ……主人公。レリックハンターの小さな会社を、父親から引き継いだ。
<ユリー> ……本名ユリアナ。公爵令嬢だが主人公の仲間になる。
<エレナ博士>……機械・物理・化学・電子工学博士。主人公の実の母だとわかった。
<イーサン> ……エレナ博士が市販のアンドロイドに手を加えて作った。
<エイミー> ……エレナ製メイド・アンドロイド。家事をこなし、戦闘能力も高い。
<カトリーヌ>……クラム伯爵令嬢。医者で生物学者。現在は主人公たちと一緒に住んでいる。
<ユウコ> ……火星警察の刑事。ねずみ小僧は足を洗い、現在は主人公たちと一緒に住んでいる
<アデル教授>……アーム大学の考古学教授。現在主人公たちと住んでいる。
俺たちはいつもの様に、皆でダイニングに集まり夕食をとっていた。
ユウコが夕食を食べ終え、フォークを置く。
「ごちそうさま。ところでみんな、明日はユリーの誕生日よ」
ユウコは皆にそう言った後、俺の方を見て聞いてくる。
「知ってた?」
「え? そうなんだ」
俺はそう応えてから、失敗したと思った。
これじゃあ、知らなかったというのがバレバレだ。
怒ってるかな?
俺はすぐにユリーの様子をチラッと見る。
でもユリーは俺の視線には構わず、ユウコに笑顔を返した。
「そうなの。でも、よく知ってたわね?」
よかった。
大して気にしていないようだ。
「私は誰かと違うから、ちゃんと調べて覚えているわよ」
と言って、ユウコは俺の方をいたずらっぽく見てきた。
わっ。ほじくり返さなくたって。
皆も俺の方を見てきたので、俺は慌てて味方を探す。
誰もいないか。
そうだ。イーサンに振ってみよう。
「イーサン、そういう事はあらかじめ情報を入れてくれよ」
「そういう事は、自分で調べて覚えておくべきです」
イーサンに突き放された。
ユリーが俺を半目で見てくる。
「そうよ、薄情よねー」
俺は、エレナ博士に助けを求めようと見ると、エレナ博士は皆の向こうからアッカンベーをしてきた。
何ていう母親だ。
エレナ博士の前に座っているアデル教授は、もちろん知らん顔でお茶を飲んでいる。
どのみち、アデル教授が助けてくれるとは思っていないが。
「あっ。じゃあ、みんなで明日はどこかのレストランにでも食事に行こうか?」
俺はその場を取り繕った。
「次回はちゃんと覚えておいてね」
ユリーはそう言って、笑顔を返す。
なんか、いつもの自然な笑顔じゃないかも。
やっぱり少し怒っているみたいだ。
「あ、うん……」
するとカトリーヌが、
「ねえ、それならマジックのディナーショーに行かない? こないだ患者さんから聞いて、面白そうだから」
と、言ってきた。
「いいわねー」
と、ユリー。
「えっと、どこの店?」
俺はすぐにカトリーヌから店の情報と、皆の都合がいい時間を聞いて、携帯端末でその店に予約を入れた。
それが終わると、ユリーが俺の方をじっと見てくる。
「ねえショウ?」
「え?」
「誕生日プレゼントの代わりに、一つお願いしてもいい?」
「な、何?」
何を言ってくるんだろう? ドキドキ。
「次の事件か依頼は、私が仕切ってもいいかしら?」
「え? なんだ。そんな事でよければ、いいよ」
「じゃあ決まりね?」
ユリーがニコッとした。
でも、誕生日プレゼントは、それとは別に用意しておかないとまずいよな?
次の日の夕方、俺たちはいつもよりちょっとオシャレをして、ディナーショーに出かけた。
アデル教授ももちろん来ているが、イーサンとエイミーは留守番だ。
皆が席に着くと、誕生日コースで予約を入れておいたので、食事やショーが始まる少し前に俺たちの所に誕生ケーキが出された。
そのケーキの上に立てられた十七本のロウソクを、ユリーが吹き消す。
「誕生日おめでとー」「おめでとー」
ユリーは皆からの祝福を受けた。
「ありがとー、みんな」
花束がレストランの方で用意されていて、俺がユリーに代表で渡す。
「おめでとー」
「ありがとー」
皆からのプレゼントは、かさばるので家を出る前のプレ誕生会で予め渡してある。
その後誕生ケーキは一旦下げられた。それは、コースの最後にデザートとして出されるらしい。
そして、ディナーショーが始まった。
年老いたマジシャンが、ステージでマジックを行っている。
マジシャンは白髪が混じっていて、かなりの高齢だが、まだしっかりとした手さばきでマジックを披露していた。
アシスタントの女性はユリーと同じぐらいの歳で、赤いチャイニーズを着ている。
二人とも東洋人だ。
俺たちは、出されたフルコースの料理を食べながら、そのマジックを見ていた。
トランプのマジックから始まり、昔ながらの、物が消えるマジックもやっている。
次にマジシャンが、口の小さなビンの中に口の大きさより大きなコインを入れると、観客席からどよめきと拍手が起きた。
その次は、大きな鏡の中に助手の女の子が入るマジックだった。
これは初めて見るが、どういうトリックなのか、さっぱりわからない。
一通りのマジックが終わると、マジシャンがステージの上から、
「今日は誕生日の方がいらっしゃいます。えー、ユリー様。誕生日の思い出に、こちらに上がってマジックのお手伝いをお願いできませんか?」
と、言ってきた。
「いいわ」
ユリーが席を立ち、ステージに上がる。
マジシャンが、人が立って入れそうな大きさの縦長の箱を回転させて、観客に見せた。
そして箱のふたを開け、種も仕掛けもないところを確認してもらう。
「では、こちらにお入りください」
マジシャンがユリーに手で指し示す。
マジシャンは、ユリーが箱に入るのを手伝いながら、何か耳打ちしたようだ。
ふたを閉めると、ユリーは右手首から先だけを穴から外に出している。
そしてユリーは、その右手を振ってきた。
次にマジシャンが剣を取り出し、流れるスネアドラムの音に合わせて箱に剣を刺していく。
最後の剣を刺した時、ユリーの手が一瞬こわばって、だらっとしたまま動かなくなった。
それを見て、観客席がざわつく。
「大丈夫かしら」
「マジックよ」
隣のテーブルからそんな会話が聞こえてきた。
マジシャンは箱を一回転させ、しっかり剣が突き刺さっているのを観客に見せてから剣を抜いていく。
剣をすべて抜き終わると、マジシャンが一瞬箱の中を覗き、どうしようという表情を見せる。
そして次の瞬間、マジシャンが箱のふたを完全に開けると、ユリーが笑顔で立っていた。
観客が大きな拍手を送った。
マジシャンは手を差し伸べて、ユリーを箱の外に出すと、そのままユリーをステージから降りる階段に導きながら、
「勇気とユーモアのあるユリーさんに拍手を」
と言って、自分も拍手をして見送った。
再び観客も拍手する。
ユリーが俺たちのテーブルに戻って来た。
さっそく皆が、ユリーに興味深々に聞く。
「どうなってたの?」「よくわからなかったわ」
「とっても痛かったわ」
ユリーは真面目な顔をして言ったあと、
「ふふ」
と、笑った。
「ユリーも演技派ね」
と、エレナ博士。
その後もマジックは続き、コース料理の最後には、先ほどの誕生日ケーキがカットされて出てきた。
ケーキを食べ終わるとユリーが皆を見回す。
「今日は面白かったわ。みんなありがとう。次はだれの誕生日?」
「来月、アデル教授よ」
ユウコが答えた。
「へー、何才になるの?」
俺は聞いてから、しまったと思った。
アデル教授がジロっと睨んでくる。
「女性に歳を聞いたら、だめです」
と、カトリーヌ。
やっぱり怒られた。
ディナーショーが終わって、俺たちが帰ろうとしていると、ユウコの電話が鳴った。
「はい。え? ……わかりました」
そう言って電話を切ると、
「仕事の呼び出しだわ、もー」
と、ちょっといやそうな顔をする。
「大変ねー」
ユリーが同情した。
「でも、誕生会の途中じゃなくてよかったわ。じゃあ行ってくる」
ユウコはレストランの外でタクシーを拾って、職場の警察署に向かった。




